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獣の棲む森にて  作者:
TRPG
53/66

探索ターン・三回目

識は、他の誰にも目をくれること無く廊下の奥へと足を進めた。

ジョアンが急いでついて来て、奥の6の扉の前に立った。

「閉じてるな。」識は言った。「確か、開けっぱなしにしておいたはずだ。」

ジョアンは、頷く。

「恐らく勝手に閉じるのでしょう。」

識は、頷いてドアノブに手をかけると、扉を開いて中へと入った。

相変わらず暗く、懐中電灯無しでは何も見えない。

識は、ため息をついた。

「ジョアン、懐中電灯を頼む。」

ジョアンは、頷いて懐中電灯で中を照らした。

奥へと足を進めると、そこには本を読むためのテーブルと椅子があって、そのテーブルの上にはランプが置いてあった。

「…油が残っている。」識は、ポケットからライターを出した。「良かった、火が必要になるかもと思って持って来ていたんだ。」

「ジョンの持ち物は何です?」

識は、ランプに火をつけながら、答えた。

「ラバー手袋のパックとライターの二つだけ。なので懐中電灯がない。もしもの時は、ライターで灯りの代わりをさせようと思ってな。」

そこそこ大きなそのランプのお陰で、ぼんやりとだが周囲を見渡すことができた。

分かっていたが、かなりの数の本だ。

識は、それを見回してため息をついた。

「君に来てもらって良かったな。多言語の本がひしめき合っている。章夫では確かにこれは無理だ。」

ジョアンは頷いて、辺りを見回した。

「どこから調べます?指示をお願いします。」

識は、入り口脇の壁を指した。

「君はそちらから。私は奥から見ていく。邪神のことを扱っているものは、持ってきてこのテーブルに積み上げてくれ。そこから、めぼしい物を選んで持ち出そう。読めるものは読む。」

「分かりました。」

もはや仕事のようだ。

とてもゲームをしている雰囲気ではなかったが、二人は真剣に手分けして、背表紙を読みに掛かったのだった。


一方、章夫は会ったばかりのマシューと一緒に1の部屋の鍵を開けた。

ドキドキとしたが、開いたそこは何やらおかしな魔方陣が床に書かれてある、ガランとした場所だった。

『この魔方陣、踏まない方が良さそうですね。』章夫は言った。『サミュエルさんの二の舞になりそう。』

マシューは、案外に落ち着いた様子で答えた。

『別に踏んでも大丈夫だと思うぞ?』と、平気でズカズカと奥へと進んだ。『こういった物は、いろいろな手順を踏んでその上で発動するものだ。私達は何もしていないし、そもそもが正面に見える祭壇のようなものにある蝋燭の灯りもついていない。問題ないだろう。』

どうしてそんなに大胆なんだよ。

章夫は思ったが、反論しても無駄な気がして黙っていた。

マシューは、キョロキョロと回りを見回していたが、調べられるものと言えば目の前の祭壇のような物しかない。

章夫も、観念して魔法陣の上をそろそろと歩き、祭壇へと歩み寄った。

マシューは、祭壇の上の物をいちいち手に取って見た。

『ほほう、上手くできている。歳月を感じさせる燭台に、何やらわけの分からない言語で書かれた書。恐らくこれは、何かの呪文だろうが、こんな文字は見たことが無いから読むことができないな。』

章夫も、それを横から見た。

どう見ても古びていておどろおどろしく見えるのだが、マシューはそういったものを研究していたからなのか、全く平気な様子だ。

埃は積もっていなかったが、これによって何が出て来るのかと想像すると、身の毛がよだった。

章夫が、早くここから出たい、と思いながらふと、祭壇に掛けられてある布の下に視線がいって、そこに白い紙のような物があるのが見えた。

『…あれ。』と、そこへ手を突っ込んだ。『何かありますよ。』

引っ張り出してみると、それは書き殴ったような字の英語の文章と、その上には見たことがあるあの、丸い石板が乗っていた。

『この石板、教授が持っていたのと同じ物じゃないですか。』章夫は言った。『それから、これ…。』

マシューは、そのメモに懐中電灯の明かりを当てて、読んだ。

『…これは、サミュエルの文字。』章夫が仰天していると、マシューは言った。『どうやら、ここから出るにはこの祭壇で、この空間を作っている神を呼び出すしかないと思ったようだ。ここに魔法陣を見つけたので、書庫で同じ魔法陣が書いてある呪術書の召喚の術を調べて、その通りに実行する、と書いてある。石板は二つ見つからなかったらしい。自分の持っていた物をここへ持ち込んでいたらあの扉を開けたのに、ということらしい。』

サミュエルは、ここで邪神を呼ぼうとしたのか。

というか、呼んだのだろう。それで、死んだのだと思われた。

何しろ、腕が暖炉の中にあったのだ。

生きているとは思えなかった。

『呼び出したから死んだんですかね…?だとしたら、腕以外はどこへ行ったんでしょう。』

マシューは、首を振った。

『それは私が知る事ではないな。だが、この様子だと神とやらを呼び出したようだから、餌になったのかどこかに飾られているのか…どちらにしろ、良い結果ではあるまいな。』と、後ろの扉の方を見た。『これを持って帰って次の情報共有の時に皆に見せよう。まだ時間はあるようだから、ついでに隣りの部屋でも見ておくか。』

章夫が頷いて、廊下へ出ようと急いで足を向けると、悲鳴が聴こえて来た。

「きゃーーー!!」

澄香?佐織か?

章夫が、びっくりして目を丸くしていると、マシューがどこにそんな素早さがというほど速く、廊下へと飛び出した。

『行くぞ!』

そうして、章夫はすぐに靄の中へと入ってしまって見えなくなる、マシューの背を追って必死に走って行った。


その少し前、乙矢、佐織、澄香の三人は、最初の宣言通り、9の部屋の前に立った。

二人の女子にせっつかれて、乙矢がそっとその扉を開くと、ちょっと開いただけなのに、中からはムワッと耐え難いほど生臭い空気が漂って来た。

「う…!!」

思わず、乙矢は扉を閉じた。

背筋にビリビリと感じた事の無い緊張感が走り、生理的に受け付けないのがこれほど顕著に体に現れるのは初めてだった。

「なに…?今の臭い…!」

澄香が、鼻を抑えているが、その手が小刻みに震えていた。

乙矢は、二人を振り返って言った。

「なんか、ここはまずい気がする。」と、冷や汗まで流れて来そうなのに、何とか堪えた。「隣りにしよう、8。マジでまずい気がするんだ。後で、みんなで来よう。もしくは、平気そうな人に頼むか。」

佐織と澄香の二人は、激しく頷いた。

「そうしよう!私達じゃ手に負えないかもしれないもの。8にしましょう、8に!SAN値が減って発狂したら大変だし。」

乙矢は頷いて、まだ強烈なショックから抜け切れていなかったが、何とか隣りの部屋へと足を進めた。

何も調べていないなどと言ったら、識に何を言われるか分からないのだから、少しでもマシな部屋を調べて、そこで結果を出して行かないと。

乙矢は、焦っていた。

隣りの8の部屋の前へと進むと、まず扉を少しだけ開いて、空気の臭いを確かめた。

こちらは、少しかび臭いような気もするが、まともな感じがする。

なので、そっと扉を開くと、中へと懐中電灯を向けて、照らしてみた。

すると、その部屋はスッキリとしていて、他の部屋のように廃れた様子はなかった。

「あれ…?ここはまともだぞ。」

乙矢が言うと、澄香と佐織も、中を覗いて来て、ホッとした顔をした。

「ここなら調べられそう。」と、乙矢について、部屋の中へと足を踏み入れた。「でも、何もないね。他の部屋は壁紙とかにも凝ってるのに、ここの壁紙は真っ白だし。」

乙矢は、女子二人がそろそろと入り口付近で居るので、それじゃあ進まないだろうと前へと進んで行った。

だが、本当に何もない。

椅子やテーブルすらなかった。

「何のための部屋なんだろう。」乙矢は、言いながら懐中電灯をあちこちに振って、部屋の真ん中まで歩いた。「あれ?」

何か、床に書いてある。

それを懐中電灯で照らすと、これまで見たことが無い書体で、『average』と、書いてあった。

そしてその下に、1から9までの数字が書いた、タイルが並んでいた。

澄香と佐織が、合流して来て言った。

「なに?数字?」

澄香が言う。

「これ、average(アベレージ)って平均よね?何の平均なんだろうね。」

佐織がそう言った時、上からガラガラと何かの音がしたと思うと、ガツンと何かが落ちて来て、床が激しく震えた。

「きゃーーー!!」

佐織と、澄香は叫んだ。

乙矢は、その瞬間にパアッと回りが青白く明るくなったのに茫然としていた。

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