情報共有ターン一回目
まだ、細かい震動は続いている。
だが、廊下は大丈夫なようだった。
「ジョン?!そちらに居ますか?!」
ジョアンが、見えない中で言う。
すると、声が返って来た。
「こちらは皆無事だ。そちらは大丈夫だったか?」
ジョアンは、ホッとしたように頷いた。
「無事です。」と、澄香と佐織を見た。「さああちらへ行こう。」
澄香と佐織は、ガクガクしている膝を何とか動かして、その後について歩いた。
すると、識と乙矢、章夫が何かを手に、5の部屋の前に立っていた。
「何かあったか。」
識が言うと、ジョアンは頷いた。
「この本が。」
ジョアンの手には、二冊の本があった。
澄香が、慌てて言った。
「あ、私も本を持っていたのに!」
ジョアンは、頷いた。
「これだ、拾って来た。」
その時、急に腕時計から博の声がした。
『探索ターン終了です。ここから、情報共有ターンに入ります。場所はそこでいいですか。』
識は、言った。
「元の場所へ戻ろう。あちら。居間の前へ。」
他の五人は頷いて、またそろそろと歩いて、フラフラしながら居間の前の廊下へとたどり着いた。
そこで、博の声が告げた。
『では、情報共有ターンに入ります。どうぞ。』
またパッと15分からデジタル表示が減って来る。
章夫が開口一番言った。
「い、今の何?!部屋全体が襲って来るみたいだった!なんか、食べられちゃいそうな…。」
「そう!」澄香も、興奮気味に言った。「なんか回りが生き物みたいだったの!めっちゃ唸るみたいな声も聴こえて…。」
識が、冷静に言った。
「分からないが、今はそんなことより手に入れた物を精査しなければ。自ずと答えが見えて来るだろう。」と、手に持った本を開いた。「…これは日記だ。スタイン・バーナーという男が綴った日記で、日付はかなり昔だ。中身はまだ読めていない。そちらはどうだ?章夫、乙矢。」
章夫が、頷いて本を差し出した。
「これも日記だった。もう書き終わったやつなんだ。そっちの日記はこれの続きってことじゃない?同じ人の日記だから。」
乙矢も、ハッとしたように自分の手を見た。
「あ、そうだ。」と、皆の前に板ような丸い物を出した。「これ。引き出しの奥にあったから、ちょうど手を入れて掴んだところであの騒ぎだろ?ゆっくり見てる暇もなかった。」
「それでもよく持って来たな。」と、じっと見つめた。「…見たところ、カーチス教授の持っている石板と似ているように思うが?」
ジョアンは、言われてハッとしてポケットからそれを引っ張り出した。
「…似ているな。」と、ジョアンは乙矢の石板に触れた。「そっくりだ。」
「何かの意味があるんだろう。」と、ジョアンの手にある本を見た。「それは?」
ジョアンは、答えた。
「これは英語の呪術書のような感じだ。それに、宗教書か…?何かの、神について書いてある本。」
佐織が、自分の本も押しやった。
「これも。読めないんだけど、英語じゃないよね。」
識は、表紙を一目見て頷いた。
「ラテン語だ。『深淵の神々』と書いてある。」と、中を開いた。「…どうも神によって呼び出し方が違うとかで、その召喚の仕方などを書いてあるようだな。」
ジョアンが、頷いた。
「どうします?ここでラテン語が分かるのは私とジョンだけですよね。英語はみんな分かるだろうし、手分けしますか。」
口調がカーチス教授らしくはないが、もはや誰もそんなことは気にならないようだ。
まるで識が先生のようなのだ。
「そうだな…本が三冊、日記が二冊。居るのは六人。一人に一冊振り分けて次のターンの間に読み、そうでないものは探索に向かうか?20分で読めるか。」
章夫が言った。
「この分厚さで20分で読破は無理だよ!そもそも僕でも無理なのに、他の三人は英語が読めないから電子辞書頼みなんだよ?」
ジョアンが、え、という顔をした。
「確か皆大学を出ていたのではなかったか?英語は習うと聞いていたが。」
章夫以外の三人が顔をしかめる。
確かにそうだが、無理なものは無理だ。
識が、ため息をついた。
「…ならば私と章夫が読もう。ジョアン…いや教授、君は他の三人と手分けして部屋の探索を進めてくれないか。急いでも章夫が一冊、私が四冊で時間が掛かる。」と、腕時計を見た。「…後9分。とにかく今から読む。章夫も、ざっと見て重要そうなところだけ頭に入れて読み飛ばすんだ。このラテン語のやつはいい、後で必要が出て来たらその項目だけ読むことにするから。」
章夫は、頷いて急いで本を開いて懐中電灯で照らした。
ジョアンは言った。
「では、どこの部屋を見て回りますか。今行ったのは5、6、10ですよね。」
識は日記を開きながら言った。
「6は書庫だったので、後で行こうと放置している。私としては、居間と食堂を先に調べておいて欲しい。その後、時間があれば他のどの部屋でもいいから少しでも調べて何か持ち帰ってくれ。」
「分かりました。」
ジョアンはまるで、仕事の指示でも受けているようにそう答えた。
そして、時計を見てから床に放置されている、ラテン語の本を手に取った。
「後5分。私は少しでもこれを読んでおくから、君達は二人ずつどう分かれるのか考えておいてくれ。」
そして、視線を本へと落とした。
放置された乙矢と佐織、澄香の三人は、顔を見合わせた。
「…じゃあ、オレ達は役に立たないし、どう分かれるか決めよう。」
「女ばっかりじゃ心許ないわ。」澄香が言った。「分けるなら男女になるようにして欲しい。」
佐織も頷く。
「三人でも怖かったんだもの。澄香さんはジョアンさんと行く?私は乙矢さんと行くわ。」
澄香は、頷いた。
「澄香でいいよ。私も佐織って呼ぶから。うん、ありがとう。ジョアンさんは言葉が分かるから助かるわ。」
乙矢は、顔をしかめた。
「わからなくてすまなかったな。で、どっちにする?食堂か居間か。」
澄香が、迷うように言った。
「そうね…佐織が決めていいよ。私はどっちでもいい。」
佐織は、首を傾げてから、言った。
「…じゃあ、居間に。」
乙矢は頷いた。
「決まりだな。オレと佐織さんは居間、澄香さんとジョアンさんは食堂だ。」
するとそこで、ずっと続いていた震動音がピタリと止んだ。
「…あれ。」
章夫が顔を上げると、腕時計から博の声がした。
『情報共有ターン終了です。これより探索ターンを開始します。お手洗いは大丈夫ですか?』
みんな、それどころではない。
なので、首を振った。
「大丈夫です。」
誰も答えないので、乙矢が答える。
すると、博が言った。
『では、探索ターンを始めていいですか?』
「待て。」識が言った。「SAN値はどうなってる?」
言われてみたらそうだ。
博が答えた。
『現在のSAN値、識67、章夫57、乙矢64、佐織66、澄香59、ライアン・カーチス54です。』
…減っている。
それはそうだろう、急に部屋が揺れて唸り声が聴こえて来たのだ。
「まだ大丈夫だ。」識は言った。「落ち着け。始まったらまたSAN値が下がるぞ。発狂されたら戦力が減る。とにかく落ち着け、本当に死ぬことはないのだ。」
分かっているが、この不安はなんだろう。
皆が思ったが、識でもSAN値が1減っているのだ。
心に言い聞かせてていても生体反応だけは逃れられないのだから、ここは必死に自分と戦うよりなかった。
『じゃあ始めます。探索ターン二回目です。どうぞ。』
腕時計に、20分からの時間表示が出る。
全員が、自分のするべきことを頭に、探索ターン二回目に入った。




