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獣の棲む森にて  作者:
人狼
42/66

五日目投票

それから、皆ろくに口を開かなくなった。

哲弥と浩介は黙り込んで考え込んでいるし、幸次と歩はキッチンへ向かって戻って来ない。

そんなことをしたら、二人で何か話し合っている人狼同士に見えるのだが、二人にはそれが分かる精神状態ではないらしい。

識はソファに移動していて、博と晴太もそこに座っていた。

東吾は、同じ陣営ではないことになっているので、もしかしてのためにも、そちらに合流はしなかった。

まさかと思うが、票が割れて博や晴太に何かあったら、何がなんでも自分だけは生き残らねばならないからだ。

「なあ」哲弥が、小声で言った。「東吾はどう思う?」

東吾は、同じように小さな声で答えた。

「オレは幸次と歩が怪しいと思ってる。なんでキッチンなんかに行くんだよ。後ろめたいことがないなら、ここでみんなの前で話せば良いじゃないか。もう、幸次に入れようと決めてるよ。」

浩介も、頷いた。

「オレもそう思った。」

だが、哲弥が言った。

「でも…あれだけ言うならって、思えて来て。オレ達は白だよ。浩介だって怪しいところは無いし、少なくとも妃織さんの結果はそこは間違ってない。だから、怪しいところは結局、幸次と歩、博さんと晴太と識さんってことになるだろう?だったら、後三縄なんだから今日は識さんを吊って、明日からどっちか決めうちしたら良いんじゃないかって思ってな。こうして見ても、三狼なんて居なさそうだろ?とりあえず明日が来るんじゃないか。」

確かにこの状況はそう見える。

二つの陣営と、間に挟まる自分達三人。

そんな感じなのだ。

「…別にいいけど。本当に信じていいんだな?明日が来ないと全員終わりなんだぞ。オレから見たら、人狼側の戦略でここに残ってる狼が、二人のうちどちらかってこともあり得るんだからな。」

それがオレなんだけどね。

東吾は思っていたが、二人は慌てて言った。

「違う!狼じゃない。こんなことを言い出したら疑われるのは分かってるけど、違うんだ。」

「少なくともオレは違うよ!哲弥がそんなこと言うのがおかしい!」

東吾は、ため息をついた。

「みんなそう言うんだ。だから信じられない。」と、時計を見た。「…もうすぐ10分前だ。もうそろそろ投票先を決めておかないと。オレは、どう転んでも識さんは無いと今の意見を聞いても思ったよ。だってそうだろう?もしこの中に人狼が居たら、どっちかと繋がって三人なんだぞ?識さんが真だった時、識さんを吊った時点で、今夜の襲撃が通ったらゲームセットなんだからな。しっかり考えないと。」

本当は、狂信者でもなのだが、それを言ってしまってその考えが歩や幸次に聞こえたら、あの二人はそれに気付いて博や晴太を吊ると言い出すだろう。

なので、黙っていた。

だが、その瞬間、キッチンから幸次と歩が飛び出して来て、叫んだ。

「分かった!識さんがどうして吊りを飲むのかだ!多分、識さんは白人外、狂信者なんだ!だから識さんを吊っても多分狼側は構わない考えなんだ!吊るなら博さんか晴太だ!」

窓際のソファに居た、識、博、晴太がこちらを振り返る。

バレた…!!

東吾が思っていると、機械的な声が告げた。

『投票、5分前です。』

内心悲壮な気持ちでいる東吾とは裏腹に、識の口元が、薄っすらと笑っているように見えた。


識が、こちらへと歩いて来ながら言った。

「つまり、君は博か晴太から吊り先を上げて、君との対抗にしたいというわけだな?君からしたらどちらかが白かもしれないのに?」

顔に出さないようにと気遣っているようだったが、口調にその、ウキウキとした感じが出てしまっている。

狼にとってつらいことのはずなのに、識には面白いと感じるのだろう。

そんな狂信者など、こちらにとってはつらい事この上ない。

そもそも、もう終えて別の遊びをするのではなかったか。

東吾は思ったが、どちらにしろ自分達には幸次以外に吊り先はない。

そして、博と晴太が投票対象になれば、最悪同票で幸次と共に人狼が減ってしまう。今夜終わるという未来が消える。

そんなことをしても遅延となるので、できたらもう、今夜は幸次に吊られて欲しかった。

だが、あまりにも識が楽しそうに言うので、さすがの幸次も迷うような顔をした。

識が、やはり人狼なのではとひよったのだろう。

識にしたら、人狼に難しい事を突きつけて来るのが嬉しくて、ああして態度に出てしまっているのだろうが、見ている方からしたら怖い。

何を考えているのか、分からないからだ。

「…それは…っ!!」

時間がどんどんと進んでいる。

東吾が、言った。

「…もう時間がない。オレは、もう決めてる!今さらどっちが黒だとか言われても、議論に積極的だった二人を吊り縄に掛けるなんてできない!」

東吾は、腕時計のカバーを開いた。

幸次が、慌てて叫んだ。

「待ってくれ!…晴太!村にあんまり意見を落としてない、晴太の方がより黒だ!晴太にしてくれ!」

哲弥と浩介が、困惑した顔を見合わせていた。

今さらそんなことを言っても、こんな土壇場で覆るはずなどないのだ。

東吾はそう信じて、テンキーを見つめた。

『投票してください。』

全員が、一斉に入力を始める。

東吾は、迷いなく10番、幸次に入れた。

『投票が終わりました。』

1(東吾)→10(幸次)

2(浩介)→10(幸次)

3(哲弥)→10(幸次)

10(幸次)→16(晴太)

16(晴太)→10(幸次)

17(博)→10(幸次)

18(識)→16(晴太)

19(歩)→16(晴太)

げ…!!

東吾は、結果を見上げて思った。

識は、晴太が吊られかねない票を投じているのだ。

だが、哲弥と浩介が幸次に入れてくれたお蔭で、最悪の事態は回避された。

『№10は、追放されます。』

お決まりの、フードの化け物たちが入って来る。

幸次は、悲鳴を上げながら暖炉へと走って、半泣きになりながら識に言った。

「なんでだよ!なんで自分の白の晴太に入れてるんだよ!」

識は、フンともう興味も無いような顔をした。

「君が私をあまりに疑うからではないか。だったら一縄ぐらい、追い詰められた狼のために使ってやってもいいかと思ったのだ。これぐらいのスリルが無いと面白くないのだろう?だが、他の信頼を勝ち得るような動きを、君はあまりにしなさ過ぎたのだ。黙っていて勝てるのなら、みんなそうする。残念だったな。」

フードの化け物達が幸次に迫った。幸次は、必死に暖炉の上の小瓶を引っ掴んだ。

「くそ…!!なんでオレが死ななきゃならないんだ…!」

もう涙を流していたが、化け物達に怯えて、それ以上近づけさせないためにも、幸次は必死に小瓶を持ち上げた。

「オレは村人なのに…!!」

そうして、瓶の中身を飲み干した。

そして、その場にぐにゃりと倒れて、フードの化け物はスッと消えて行った。

『№10は追放されました。』

そこで、パッと画面が消えた。

いつもなら、夜時間に備えろとあの後言うはずだった。

それが無い上、投票の画面がさっさと消えて、どうしたのだろうと思っていると、パッと真っ赤な画面が出た。

そして、声が告げた。

『狩人はもう生存していません。人狼陣営の勝利です。』

真っ赤な画面の中央には、人狼勝利、と大きく文字が書かれてあった。

「え…」浩介が、識を見た。「ええ?!という事は、識さんが人狼?!」

だとしたら、めちゃくちゃハイリスクな投票だ。

きっと、浩介はそう思っていただろう。

識は、首を振った。

「私は狂信者だ。」と、博と晴太を見た。「この二人と、そっちの東吾と章夫が仲間の人狼だった。」

哲弥と浩介が、目を丸くした。

「ええ?!東吾、人狼?!」

東吾は、バツが悪そうな顔をした。

「そうだ。梓乃さんが真猫又だったんだと思うよ。すまない、どうしても勝たないとと思って。」

歩が、苦々しい顔をしていたが、ハアと諦めたように言った。

「…どっちにしろ、東吾にはたどり着けなかった。東吾だけは、真だと思っていたからな。負けだ。完敗だ。」と、画面を見上げた。「じゃあ、オレ達はどうなるんだろうな?」

すると、う、と幸次が呻いた。

皆が、驚いてそちらを見る中、幸次は、フラフラとしながら床から起き上がって来た。

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