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獣の棲む森にて  作者:
人狼
41/66

抵抗

東吾は、慌てて識の部屋へと向かった。

識は、三階の18号室に居るはずだった。

急いでそこへ向かって、ここではノックも声掛けも意味がないのを知っていたので、いきなり扉を開くと、中では晴太と博、それに識が居てこちらを睨むように振り返った。

そして、入って来たのが東吾だと知ると、表情を弛めた。

「なんだ、東吾か。どうした?」

晴太が呑気に言うのに、東吾は慌てて三人に近付いて行きながら、言った。

「のんびりしている暇はない。歩が、訪ねて来たんだ。みんなを呼んで来てくれって。識さんを、ローラー完遂して今日吊るべきだと言い出した。」

識は、それを聞いてフッと口元を弛めた。

「そうか、なかなか骨があるヤツじゃないか。」

東吾は、何を笑っているんだと少し怒って言った。

「笑いごとじゃないぞ!識さんが吊られてしまうかもしれないのに!」

識は、ため息をついた。

「別にそれでもいい。私だったら問題ないのだ。君達は絶対に私に入れないだろうし、あちらが結託したとしても最悪同票にしか持って行けないだろう。そうなった時、私と幸次の二人が吊られる。そうなったら、残るのは誰だ。」

東吾は、戸惑って言った。

「え…オレと晴太と博さんと、浩介、哲弥、歩。」言ってから、ハッとした。「あ!」

晴太が、言った。

「そうか、もうその時点で終わるんだ!人狼と村人が同数になる!」

識が、頷いた。

「そう、君達さえ残ったら別にいいのだ。数時間延びるだけで、結局人狼が勝つことになる。仮に私だけが吊られたとする。それでも、夜君達が誰かを襲撃したら、その時点で終わりだ。君達三人が残ることが重要で、私吊りでも別にいいのだよ。まあいい、別に私を吊ってみるか。どうやって殺しているのかと気になっていてね。体験してみても良いかと思っていたところだ。どうせ勝ったら戻って来るのだろう。」

そんな簡単に。

東吾は思ったが、識は真面目にそう思っているらしい。

博が、ため息をついた。

「ま、そういうことだ。とりあえず、歩がそう言うのなら会議でもしよう。今夜は識か幸次か、まあ両方でも片方でもいいから、吊れたらもう勝ちだ。負ける未来などないんだよ。村人には気の毒だがな。」

どうしてこんなことになったんだろう。

東吾は、思っていた。

結局は、真占い師の妃織があまりにも最初無気力で、グレーの精査ができていなかった。そのせいで、黒を見ることができなかった。一人でも黒を補足できていたなら、村はもっと占い師からのラインを見ることができたのではないだろうか。

占い師という役職は、ただ占うだけではダメなのだ。

しっかり自分の占い先をどこにするか決めるためにも、考えて議論に参加していなければならない。

他の占い師との、ラインの事も村に考察を落としておかねばならない…。

東吾は、つくづく人狼で良かった、と思っていた。

仲間が居て、毎日顔を合わせて話し合うことができる。仲間の補助もあって、生き残る道を探すことができる…。

東吾は、思いながら皆と共に一階へと降りて行ったのだった。


居間へと入って行くと、夕闇が迫って来る庭が見える中で、歩、浩介、幸次、哲弥の四人が座って待っていた。

空になった椅子が多く、それが何やら侘しい感じがする。

もうほとんど勝ちが決まってしまったと人狼は思っていたが、まだ何を言い出すか分からない。

とはいえ、猫又COの東吾を吊る選択肢は今夜は絶対ないし、博も晴太もしっかり発言していて、怪しい動きもなく他の占い師から黒も打たれていない。

吊られるとしたら、識しか上がらない状況は変わらなかった。

ここで、博や晴太、東吾を怪しみ出して吊りたいと言い出したら、それこそ人狼が生き残ろうと画策しているように見えて、逆に吊られてしまうだろう。

村は、どこまでも詰み盤面だった。

入って来た四人が椅子へと座ると、歩が言った。

「ここでオレ達が話し合ったんだが。」と、幸次達を見る。三人は頷く。歩は続けた。「識さんをローラー完遂で吊っておきたいと思っていて。東吾にはもう話したな?」

東吾は、頷いた。

「聞いた。三人にも話しておいたよ。」

識が、言った。

「村がそう決めたのなら、それでいいと思う。」その答えに、全員が驚いた顔をした。識は続けた。「村目線でスッキリしないからだろう?私はそれでもいい。できたら明日の結果は残しておきたいと思ったが、君達四人の中の二人の人狼を間違えずに吊ってくれるのなら問題ない。ただ、妃織さんが狂信者だった時はまずい事になるぞ。幸次と合わせてまだ最大三人の人狼が居るからな。私目線では、妃織さん、梓乃さん、幸次が狼陣営だ。だが、占ったのは梓乃さんと幸次の二人だけなので、妃織さんの色までは分からないからな。もし狂信者だったら、私を吊った時点で縄が足りなくなる。それは分かっているのだな?」

言われて、浩介が不安な顔をした。

幸次が、言った。

「オレは人狼じゃない!識さんの結果は信じていない、妃織さんのグレーからオレは明日から吊りたいと思っている。博さんと晴太、それに歩だけど、歩はオレの話を聞いてちゃんと識さんまで吊ろうと言ってくれたから、きっと白だ。だから、識さんが囲っていると思ってる、博さんと晴太を明日は吊りたいんだ!」

博が、眉を寄せた。

「…ちょっと待て、そうなって来るとオレ達から見ると、囲われてないのは自分が知ってるから、やっぱり君は黒だ。そして、君達の色が全く見えないと思っていたが、ここへ来て分かった。歩と君にラインがあるな?オレ達目線では、君達二人が人狼に見える。哲弥は、これまでの行動から見ても白いが、君達は目立った動きをしていないからな。これを見越していたんじゃないのか。後三縄は、君達二人と、それで終わらなかったら浩介に使いたいと思う。識を吊ったら縄が足りなくなるかもしれない。人狼の言うことを聞くわけにはいかない。」

哲弥が、困惑した顔をして、歩を見上げた。

「そうだ…そうなんだよな。識さんが真だったら、ここで縄を使ってしまって三狼残ってたら終わりだ。歩は、どうして間に合うと思うんだ?三狼居ないって知ってるのか?妃織さんの色が分かってる…?」

歩は、キッと哲弥を睨んだ。

「どうしてそうなるんだよ!逆にどうして識さんが白だって思うんだ?!お前も色が見えてるんじゃないのか。」

哲弥が怯むと、浩介が言った。

「そうだよ!おかしいと思ったんだ。だって識さんが怪しいなら、黒いところを吊って、最終日じゃないのか?今吊って後で分かっても遅いじゃないか。みんなで決めてここまで来たのに、今更撤回なんか難しい。オレ達の中に人狼が居るはずだろ?オレは違うけど、急にそんなことを言い出して幸次を庇うなんて、なんか怪しい!幸次目線の黒の位置を吊りたいって、危ないのに余裕もない今そんなこと言うのは黒い!」

そうなるよな。

東吾は、思って見ていた。

これまで寡黙でいて、いきなりここへ来て村と違う意見を出して、それを通そうとしても、なかなか通るものではない。

こんな、人狼だと疑われるような局面で、これまでの流れを撤回して新しい流れに乗せるなど、難しいのだ。

識が、言った。

「まあ、これまでほとんど村に意見を落としていないんだ。投票まであと二時間、話を聞こう。」と、歩と幸次を見た。「それで?私の白先である博と晴太の、黒要素を話してもらおうか。」

東吾は、それを見て気の毒になった。

真霊媒を最初の襲撃で失い、全く色が見えていない村人にとって、博と晴太の黒要素など、出せるはずもないのだ。

知っているのは自分の白と、黒を打った占い師の真贋だけ。

それで、どうやってここへ来て博と晴太を黒塗りできると言うのだろう。

それでも、負けずに幸次が言った。

「博さんは最初から識さんと一緒に行動してて、意見も同じだった!同じ陣営だから囲ってもらって、一緒に強い意見を出して、村を動かしていたんだ!」

それには、哲弥が言った。

「オレも初日から識さんが真だと公言してたけど…?」

どうして博だけ、と言いたいのだろう。

「君は妃織さんの白じゃないか!浩介もだ。だから、君達は問題ない。」

浩介が、言った。

「でも、歩は完全グレーだよね?博さんと晴太と、歩の違いは?」

幸次は、それにも答えた。

「だからこうしてオレの話を聞いて識さんを吊ろうと言ってくれたじゃないか!狼だったらオレを庇わずに黙っていたら良かったんだ!」

哲弥と浩介は、顔を見合わせる。

完全に蚊帳の外になっている、東吾が言った。

「…でもそれって、どこまでも幸次目線でしかないんだよな。」皆が東吾を見る。東吾は続けた。「オレは真猫又だから分かるけど、梓乃さんは間違いなく人外だった。識さんはそこに黒を打った。梓乃さんの暴挙は皆が見ていて知ってるだろう?ずっと章夫を吊れと言っておいて、吊れたら同じ陣営だったんじゃないの?とか言い放ったんだ。章夫から引き離そうとする識さんにも逆らったら吊るとか言って。あんな暴言、村人だったら放つかな。オレさあ、梓乃さんは狂って来てたんじゃないかって思うんだ。だって、狼って連日誰かを襲撃操作するわけだろ?それで、次の日に間違いなくその先が死んでるのを見つけるわけだ。普通の人だったら、もたないよね。ルール違反の件にしても、もう時間がほとんどないのに章夫の部屋に行ったり。結局時間が守れなくて、死んだわけだ。もうおかしくなって来ててあんな風なら分かるなって。まあ、だからオレは、梓乃さんは狼だろうし、識さんは真だと思ってるし、幸次は狼だと思うよ。その幸次を庇う歩はきっと仲間なんだなってね。」

歩が、首を振った。

「違う!君が間違ったらダメだろ!確かに君が言うように、オレ達だって梓乃さんは黒だったと思う。だけど、考えてもみろ。もし狂って来てたなら、狼たちだって面倒になってたはずだ。さっさと殺して、識さんの白証明に使おうとしたんだ!だから黒を打ったのに、あいつは勝手に死んだだろう!」

哲弥が言う。

「え、となるとどうなる?幸次目線、識さん、梓乃さん、博さん、晴太が黒としたら、章夫は?章夫も黒?だって、章夫は久隆さんに黒を出してたし、章夫が真なら数が多過ぎるよな。この中の誰かが狂信者ってことか?」

幸次は、頷いた。

「そうだよ!多分そうだ!そうとしか思えない!きっと乙矢さんは全く嘘を言ってなかったんだよ、久隆さんは白で、背徳者だったんだ!」

東吾は、ため息をついた。

「だったらこれまでの議論の積み重ねはどうなるんだよ?曲がりなりにもコツコツ話し合って協力し合ってやって来れたのは、博さんや識さんが意見を出してくれたらだぞ。確かに梓乃さんは狂ってたとオレも思うけど、だからって切るか?仲間が少ないのに、残して置いた方が勝利に速く近付くだろうし、狂った人に黒なんか打って刺激したら、何が起こるか分からないじゃないか。昨夜のアレみたいにさ。狼の名前を叫び出したりしたらどうするんだよ。幸次の言ってることは、自分に都合がいいようにこじつけてるようにしか聴こえないよ!」

幸次は、何度も首を振った。

「どうして分かってくれないんだ!オレは村人なんだよ、識さんが狼なんだ!」

皆が、黙り込む。

幸次のゼイゼイと息を上げる音だけが聴こえていた。

「…そんなに言うなら、私を吊ればいい。」識は、この上なく落ち着いて言った。「狼が三匹残っていないことに賭けてな。君は村人12人の命を背負ってその発言をしているのだろうし。私は私の白の博と晴太、それに猫又の東吾を信じているし、後の判断は任せよう。狼が三匹残っていなければいいな。でなければ、今夜は二度と目覚めない眠りにつくことになる。」

さすがの幸次も、一瞬怯んだ。

だが、頷いた。

「…なんと言おうと君は偽だ!だから君に投票する!」

時間は、刻一刻と投票に近付いていた。

ゲームの終わりも、もうすぐ目の前だった。

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