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獣の棲む森にて  作者:
人狼
40/66

五日目朝の騒動

いつものように朝は6時前に目覚めて、バスルームへ行く。

その後、扉の前でじっと閂が開くのを待った。

すると、判で付いたようにいつも通り、閂は6時にきちんと音を立てて抜けて、扉は自由になった。

落ち着いて扉を開くと、向こうで幸次が悲鳴を上げた。

「…梓乃さん!」

隣りの浩介が、遠くに見える廊下に倒れる人影を見て、身を震わせている。

「…行こう。」

東吾が言うと、浩介はびくびくしながら頷いて、階段の方へと一緒に歩いて行った。

側には、困惑した顔の哲弥も居た。

「…どういうことだ?」哲弥は、身を震わせる。「猫又だって…狼なんじゃなかったのか。」

東吾は、答えた。

「そのはずだよ。大体、猫又ならなんで外に居るんだ。出られないはずじゃないか。狼同士の諍いで殺されたのか?」

すると、上から駆け下りて来た歩が言った。

「邦典が死んでて…」と、倒れる梓乃を見て、息を詰めた。「え、なんで梓乃さんが?!」

東吾は答えた。

「部屋から出て来たらこうして外に倒れてたんだ。そっちは、邦典が襲撃されてたのか?」

歩は、怯えるように梓乃を見下ろして、頷いた。

「そうなんだ。まさか下でも誰か死んでるなんて思わなくて。っていか、じゃあ梓乃さんは猫又?だから二人死んだのか?」

すると、後ろから降りて来た、識が言った。

「違うだろう。考えろ、猫又なら夜に死ねば、つまり人狼の襲撃で死ねば必ずその襲撃した人狼を道連れにするはずだ。邦典は共有者で、唯一確定村人だった。だから梓乃は、襲撃で死んだのではない。何か別のことで死んだのだろう。そもそも、どうして外に居るのだ。村人なら夜時間に外に出ることはできなかったはずだぞ。」

確かにそうだ。

皆が納得する中、続々と生き残ったもの達が集まって来た。

生き残ったのは、東吾、浩介、哲弥、幸次、そして三階の晴太、博、識、歩の8人だった。

「…ゲームが終わっていないということは、人狼がどこかで処理されていたことになる。四人居たらもう詰みだからな。もうこうなると内訳なんか分からないが、まだ大丈夫だということだ。」

識が、幸次を睨んだ。

「…幸次を、今夜吊る。昨日占った。黒だ。」

皆が息を飲んだ。

幸次は、驚いた顔をして、慌てて首を振った。

「違う!え、識さんが人狼なのか?!そんな…信じていたのに、偽だったなんて!」

識は、顔色を変えずに言った。

「そんなことはいい。それより、どうして梓乃は死んだのだ。君は何を知っている?」

幸次は、ブンブンと首を振った。

「知らない!オレだって朝出て来たら死んでたんだ!オレは人狼じゃない!」

哲弥が、困惑した顔をした。

「でも…そうなると妃織さんが人狼か?それで、幸次を囲ってたって?でも…相互占いにも動じてなかったし…。」

識は言った。

「狼の考えることなど私には分からない。黒が出たら出たで最初なら別に構わなかったのではないか?霊媒はどうせローラーされるので結果などあまり落ちないと考えたのでは。それよりは、こんなにあっさりゲーム外で人が死ぬと、後が困るのだ。明日からこういったことを防ぐためにも、原因を知りたいだけだ。」

識は、村人の考える時間を奪おうとしている。

東吾は、咄嗟に言った。

「確かにそれで村人が死んだら、それでゲームオーバーになるかもしれないからな。オレ目線人外の梓乃さんだったから良かったが、村人だったらゲームが終わってたかも知れないんだぞ。」

言われて、皆が顔を見合わせる。

そんなことで負けたらたまらないからだ。

「…オレ、思うんだけど。」哲弥が重い口を開いた。「昨日、章夫の部屋に見張りに立ってくれてたよな?ええっと、博さん、識さん、晴太、東吾が。」

博は、頷いた。

「ああ、ギリギリまでな。梓乃さんが何をするか分からないから、9時40分までは部屋に居た。その後は東吾に任せて。」

東吾は、頷く。

「そう、オレは10分前までは居た。でも、部屋に入れなくなったら大変だから、その後は部屋に入った。だから、その後のことは分からないけど。」

哲弥は、渋い顔をした。

「じゃあ…多分、だけど、みんなが居なくなったのを確認して、章夫の部屋に行ったんじゃないかな。で、時間が来てここで追放になったんじゃ。だってそれじゃあほとんど時間はなかったはずだ。どうしても章夫の所に行きたかったんじゃ。」

その通りだよ。でも、実際はここじゃなくて部屋の中だけどね。

東吾は、そう思っていた。

識がぐっと眉を寄せて、梓乃腕を、とても丁寧とは言えない様子で掴むと、腕の時計のカバーを開いた。

するとそこには、ルール違反により追放しました、と表示が出ていた。

「…そうか、ルール違反だ。」晴太が、言った。「哲弥が言うように、間に合わなかったんだよ!」

幸次が、怯えたようにそれを見ている。

識が、幸次を睨むように見た。

「…君は知っていたんじゃないのか。夜時間には部屋を出て来たはずだな?ここに転がっていたんだ、人狼同士で仲間を失ったと梓乃の軽率な行動を罵ったりしていたのでは?」

幸次は、震えながら首を振った。

「だから!本当にオレは人狼じゃないんだ!今夜は占い師のローラー完遂するべきだ!妃織さんが真占い師だったんだよ、オレには分かる!」

村にはその選択肢がある。

だが、東吾は完遂などさせるつもりはなかった。

「もう詰みだよ、幸次。こうなって来ると、もう識を信じるしかない。章夫を残しておいたら、こんなことにはならなかったかもしれないのに。執拗に章夫を吊ろうとしたから、結果的に人狼は詰みだ。オレから見たら、妃織さん、梓乃さん、君が人狼。後一人は誰だ?」

残りは歩、哲弥、浩介だ。

識のグレーはこの三人だからだ。

「…縄はまだある。」識は言った。「後三縄。この様子だと狂信者はどこかで落ちている。それとも妃織さんが狂信者でこの中に二人。まだ白を吊っても間に合うはずだ。もう狼は勝てない。投降するしかないぞ。」

浩介が身を震わせた。

浩介目線だと、妃織が狂信者だとしたら、自分が白なら他の二人が狼なのだ。

それは、哲弥目線でも歩目線でもそうだった。

「…寡黙位置ばっかだ。」と、苦々しい顔で言う。「性格なんじゃなくて、始めから潜伏しようと黙ってたんじゃないのか。」

浩介は、言った。

「本当に村人なんだよ!哲弥もそうなら、狂信者はどこかで落ちてるんだ!幸次を吊ったらゲームは終わる!終わらなかったら、哲弥か歩が人狼なんじゃないか!」

みんな村人なんだよ。

東吾は思ったが、もうどうでも良かった。

とにかく今夜幸次を吊れさえしたら、人狼は勝つ。

たった一人の村人が、狼と票を合わせてくれさえすれば。

歩が、じっと黙っているのが気に掛かる。

だが、人狼達は勝ち急いでいた。


朝の会議は、結局行われなかった。

皆部屋に籠ってしまい、誰も出て来なかったからだ。

だが、東吾はもう勝てるのだと思い込んでいた。

村人達が、今さら識を偽おきできるとは思っていなかったからだ。

だが、もう日も暮れようとしている頃、部屋に歩が訪ねて来た。

「東吾。ちょっと投票前の会議をしないか。」

東吾は、歩を見た。

「確かに何も話さないのはまずいとオレも思ってた。でも、大丈夫なのか?ここまで人数が一気に減ってしまって、しかも居なくなった者達の色がほとんど分からない状態で話し合うことなんかあるか。」

歩は、険しい顔をした。

「…識さんだよ。」東吾が驚いた顔をすると、歩は続けた。「占い師のローラーを完遂する縄余裕はあるはずだ。ここまで、あまりにもみんなが識さんを真置きし過ぎていたんだ。オレは、絶対に識さんを吊っておくべきだと思っている。それで、誰の目線でも人外が二人落ちて、霊媒で少なくとも一人落ちているのが分かっているから、合計三人。狐だったはずの乙矢が死んでも今日は背徳者らしい死体は出なかった。梓乃さんは背徳者ではないだろう。乙矢を信じるなら久隆さんが背徳者だが、信じていないとしても梓乃さんと乙矢には強いラインはなかった。乙矢も最期には君を信じて梓乃さんを偽だと言っていたしな。どちらにしろ乙矢は狐陣営でまた一人。それで四人だ。君目線では梓乃さんも人外だから五人落ちている事になるだろう?という事は、後は最大で人外は二人。残りの吊り縄は三本。今夜識さんを吊っても、まだ間に合うはずだ。」

東吾は、そんな風に考えていたのか、と険しい顔をした。

東吾は何も返さないので、歩は言った。

「他の識さんのグレーにはもう話した。東吾は、識さんと博さん、晴太を下に連れて来てくれないか。話さなければならないんだ。」

東吾は、拒否する選択肢はないので、黙って頷いた。

歩はそれに頷き返すと、意を決したように東吾の部屋を出て行ったのだった。

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