表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣の棲む森にて  作者:
人狼
4/66

運営の説明

竹内が、まだ階段を降りきれていないのに、言った。

「これで全員ですね?では、ご案内します。」と、早口で言った。「ここは玄関ホールです。あちらの扉が物置、その隣りがお手洗いです。その向こうが今は誰も居ませんが使用人部屋で、今回は使いませんので鍵がかかっています。皆さんにはこちら、居間の方へご案内します。」

矢継ぎ早にそう説明して質問の暇も与えず、竹内は歩き出した。

玄関から階段を向いて左側に、廊下があって、一同はそちらへ向かって案内されて行った。

電気があるので明るい廊下の突き当たりに、両開きの大きな扉があった。

それを開くと、中はそれは広い、正面に暖炉のある居間らしき部屋だった。

入って左側には大きな窓が幾つもあり、長いカーテンが掛けられてあって、横に束ねられてあった。

窓際にはソファが並んでいて、この人数でも余裕で座れそうだ。

暖炉の前にはアンティークな仕様の椅子が、丸く並べて置いてあり、暖炉の上には洋館には似つかわしく無い、巨大モニターが吊り下がっていた。

竹内は、入って右側の扉を指して言った。

「そちらがお手洗いです。その隣りの扉がキッチンへの入り口になっています。中にあるものは何でも食べて大丈夫です。翌日にはまた補充されます。」と、窓を指した。「あの窓は厚さ十センチのアクリル板になっていて、開きません。なぜなら、ここは山奥なので獣も居ます。窓を割って入って来れないようになっているんです。皆さんは、外に出られる時にはくれぐれもお気をつけて。熊も出ますので、中に居れば問題ありませんが、外は非常に危険です。熊でもあのアクリルを破ることはできませんので、ご安心ください。」

熊が出るのか。

東吾は、絶対に外には出ないでおこうと決めた。

こんなところで熊に襲われたらたまらないからだ。

次に、竹内はモニターを指した。

「そちらのモニターは、ゲームの際に使用します。それでは運営から説明がありますので、皆さんはご自分の番号の椅子に座って、それをお待ちください。私はこれで失礼します。」

「え…、」

運営って、誰が。

東吾は質問しようとしたが、竹内は早く帰りたいようでさっさと踵を返してそこを出て行った。

皆が呆然としていると、窓の外を乗って来たマイクロバスが、向こうに見える森へと向けて発進して行くのが見えた。

…これからまたあの山道を戻るんだもんなあ。

東吾は、それはそれで同情した。

今はまだ明るいが、森の中は暗いし、直に日が落ちて来る。

せめて最後の廃道っぽい所だけでも抜けていないと、暗くなったらさすがにきついだろう。

「とにかく、座ろうか。」博が、声を掛けた。「ここへ案内する役目だったんだろう。あの道は暗くなったら大変だろ?ちょっと慌て過ぎかと思うが、運営が説明してくるって言うんだし、座って待とう。」

言われて、皆は仕方なく言われた通りに、丸く並べてある椅子の方へと移動した。

その椅子の背には、番号が振ってあって、目の前の椅子は「13」と書いてあり、そこから左へ「14」、「15」と進んでいた。

恐らく自分は「1」なので、暖炉の前辺りまで行かないと椅子が無さそうだ。

東吾は、急いで椅子の背を準備に見ながら、そちらへと足を進めた。

浩介が、その東吾について来て、言った。

「隣りだよね。」と、思った通り暖炉に背を向ける形になる場所に、自分の椅子を見つけた。「あ、ここだ。東吾はこれ。」

東吾は、言われて番号を確認して、そこへと座った。

「ここだとモニターが見えないね。振り返らないといけない。」

浩介に言われて、確かにそうだなあと、モニターを振り返ると、その真っ暗だったモニターが、パッと青い画面になって点灯した。

「え、着いた!」

東吾が言う。

ざわざわと皆が自分の椅子へと座りながら、隣りの人と言葉を交わそうとしている最中だったのだが、東吾の声に全員がモニターへと視線が釘付けになった。

そこには、何も映っていなかったが、ただ青い画面だけがついて、皆を見下ろしていた。

何事かと固唾を飲んで見守っていると、機械的な声…どうも、入力したら勝手に声を話すソフトでも使っているような声が、言った。

『皆様、ようこそお越しくださいました。こちらは、リアル人狼クラブの運営でございます。この度は、リアル人狼会にご参加くださいましてありがとうございます。早速ですが、しおりに詳しい事は書いてありますが、館内のご案内を致します。』

画面には、この洋館らしい見取り図が現れた。

『只今は、一階の居間にお集りいただいております。隣りのキッチンには、多くの食材がありますので、調理をなさっても良し、その他出来上がっている物を食べて頂いても良し、お好きなようにしてくださって結構です。二階、三階は居室となっており、それぞれの番号のお部屋を専用とさせて頂いております。三階より上には入れないようになっておりますので、足を踏み入れないようにしてください。』

やっぱりまだ上にも部屋はあるんだな。

東吾は、それを聞いて思っていた。

画面は切り替わった。

そこには、しおりにあったタイムスケジュールが書いてあった。

『次に、一日のスケジュールをご案内します。しおりにも書いてありました通り、お部屋は夜10時には施錠され、村役職行使の時間となります。そして、0時になりましたら人狼の部屋の鍵が解錠され、人狼だけが居室の外へと出て話し合うことができます。午前4時にまた人狼の部屋が施錠されますので、それまでに話し合いを終えて役職行使を終えてください。午前6時に全ての部屋の鍵が解錠され、自由時間となります。どう過ごされても結構ですが、夜8時になりましたらこちらの椅子へと座って頂きまして、その日追放する相手を選んで投票していただくことになります。そうして、また夜10時にお部屋へ入って頂くという形になっております。』

本当にリアルな時間軸で人狼ゲームをやるんだ。

東吾は、退屈かもしれないな、と思っていた。

数分で終わるはずの話し合いの時間が、一日みっちりあるのだ。

だが、それだけボロも出るかもしれないので、気を付けなければならないな、とも思っていた。

浩介は、最初に話したからか東吾にいろいろ話しかけてくれるのだが、如何せん別陣営だ。

村人とは限らない。もしかしたら狐かもしれないし、確かに狂信者の可能性もあるが、狂信者は狂人とは違い、人狼を知っているはずで、この浩介の性格では東吾が人狼だと知ったら絶対に嬉々として自分が狂信者だと言って来ただろう。

なので、仲間ではない事だけは確かなのだ。

そんなことを考えていると、画面がまた変わった。

『次に、ゲームのご説明を致します。こちらには19人の参加者居て、村人6、人狼4、狂信者1、占い師1、霊媒師1、狩人1、共有者2、猫又1、妖狐1、背徳者1の役職が振り分けられております。初日の人狼の襲撃無し、占い師には白先のお告げありです。その際、妖狐は白先として知らされることはありません。人狼の襲撃が無いので狩人の初日護衛もありません。連続護衛が無いので、毎日同じ人を守ることはできません。』

役職の一覧が書いてある画面が、また切り替わった。そこには、各役職が並んで書いてあり、説明が書いてあった。

『次の項目です。まずは村人について。村人は、何の能力も持たないので能力者たちが出す結果を見て推理して、人狼と狐を排除してください。10時に部屋へ入ってから、6時に解錠されるまで部屋で推理する時間となります。』

素村は退屈かなあ。

東吾は思って聞いていた。

『次に、人狼のご説明を致します。人狼は、夜12時に部屋を出て話し合いをすることができます。朝の4時までに襲撃先を決めて、誰か一人の腕時計から襲撃先の番号を入力し、0を三回押してください。それで、襲撃先が決定されます。4時になるとまた部屋が施錠されますので、お部屋へ入ってください。人狼は、残っている村人の数と同数になり、尚且つ妖狐が居なければ勝利となります。』

うんうん、と皆が頷いている。

声は、続けた。

『次に、狂信者のご説明を致します。狂信者は、村人と同じく10時に部屋へと入ってから、次の日の朝6時まで出ることはできません。ただ、人狼が誰かを知っています。人狼からは、狂信者が誰なのか分かっていません。占い結果では白が出ますが人狼陣営となるので、人狼を補佐して勝利に貢献するのが役目となります。』

狂信者は知ってるけど夜出て来れないのか。

東吾は、思って聞いていた。ということは、誰が狂信者なのか知らないが、そちらから話しかけてくれるのを待つしかないのかもしれない。

『次に、占い師です。占い師は、夜10時に部屋へと入った後、11時までに腕時計に占いたい人の番号を入力し、0を三回押してください。その相手の結果が人狼か人狼でないか液晶画面に1分間表示されます。その間にご確認ください。11時を過ぎると占うことができませんのでお気を付けください。また霊媒師も、10時に液晶画面にその夜追放されたかたの結果が人狼か人狼でないかが、10分間表示されます。その間にご確認ください。』

と、画面が次の役職一覧に変わった。

『次、狩人のかたも、夜10時から11時の間に、守りたい相手の番号を入力して0を三回押してください。11時を過ぎますと、役職行使ができなくなりますのでお気を付けください。共有者は、お互いに白だと知っている二人で、役職行使はありません。村人と同じタイムスケジュールで過ごしてください。猫又は、村役職ですが役職行使はありません。村の会議で追放されるとランダムで一人、道連れにされます。また、夜に襲撃されると、人狼を一人道連れにすることができます。』

知っている通りの役職ばかりだ。

東吾は、ホッとしていた。変わった役職が混じっていたら、途端に面倒になるのが人狼ゲームだからだ。

声は、淡々と続けた。

『最後に、妖狐陣営のご説明を致します。妖狐は、役職行使はありませんが、人狼に襲撃されても次の日無事でいることができます。ただ、占い師に占われると次の日消えることになります。背徳者は、妖狐が誰か知っている妖狐陣営ですが、占われたら白と出ます。妖狐を補佐して生き残る手助けをするのが役目となります。つまり、守り切れなかった時、妖狐の後を追って追放となります。人狼陣営、村人陣営の勝利条件が揃った時に、妖狐が生き残っていれば妖狐の勝利となります。』

狐は占わないと確実に処理できているか分かりづらいんだよなあ。

東吾は、思って聞いていた。最初はひたすら妖狐を探して目を光らせておくことにしよう。

画面が、また次の項目へと変わった。

どうやら、腕時計の説明のようだった。

『腕時計の説明を致します。これは、皆様の位置を知るためでもありますが、ゲームをする上でも重要な役割を果たします。夜8時の投票時、この腕時計から一分以内に投票する番号を入力し、0を三回押してください。投票が間に合わない、もしくは故意に投票をしないという行為はルール違反とみなされて、追放となりますのでご注意ください。それから、完全防水となっておりますので、このゲームが終わるまでは装着したままでお願い致します。ゲームが終わりましたら、自動的に腕から外れるようになっております。』

外すのなんか無理だしなあ。

東吾が思って見ていると、男の声がした。

「追放になったら部屋に閉じこもってなきゃいけないんですか?」

驚いて声の方を見ると、11貞行(さだゆき)と書いた名札を胸に付けた20代半ばぐらいの歳の若い男だった。

機械的な声は、意外なことにそれに答えた。

『追放になったかたは、一定の時間が過ぎましたら専用のお部屋にご案内致します。』

ということは、三階より上に連れて行かれるのかな。

東吾が思っていたら、浩介が言った。

「ふーん、退屈だよなあ。早くに吊られないようにしないと。」

東吾は、横から言った。

「襲撃は避けられないけどなあ。」

自分は人狼だから襲撃はされないけど。

東吾が思いながら言うと、浩介は苦笑した。

「だよなあ。」

声は、続けた。

『では、これでご説明は以上です。本日は投票もありませんので、夜10時までご自由にお過ごしください。改めまして、この度はこのリアル人狼ゲームにご参加いただきまして、ありがとうございます。皆様に最高のスリルを楽しんで頂けますよう、運営は総力を挙げて努めさせていただきます。よろしくお願い致します。』

そして、パッと真っ青な画面に変わったかと思うと、そのまま電源が切れて真っ暗になった。

暖炉の上に金時計は、金色の振り子をクルクルと回して時刻がもう、夕方四時になっているのを示していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ