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獣の棲む森にて  作者:
人狼
39/66

夜時間に

東吾は、9時40分になった頃、博と一緒に章夫の部屋を出て、自分の1号室へと向かった。

その後、識と晴太は、廊下へと出て、梓乃が居ないのを確認してから階段へと向かい、三階へと上がって行った。

扉は閉じていたが、東吾がドアスコープで見、博がぴったりと扉に貼りついて廊下の様子を伺い、言った。

「…やっぱり来た。」と、じっと耳を澄ませた。「…章夫の部屋へ入ったぞ。」

東吾は頷いて、扉を開いて廊下を窺った。

今、この階には生きているのは浩介、哲弥、梓乃、幸次、そして東吾の五人だ。

廊下はシンと静まり返っていて、何の音もしなかった。

「みんな追放が怖いから、もう絶対に部屋に入っているはずだ。」博は、言った。「梓乃以外はな。」

東吾はまた頷いて、識に言われた通りに部屋からドアストッパーを持って来て、それを章夫の部屋へと外から設置した。音がしないように気を遣っていたが、そもそもが防音がすごいので音など聴こえないと識は言っていた。

博は、言った。

「オレは戻る。多分、ギリギリまで出て来ないと思うが、お前は部屋に入ってドアスコープからこれを見張っててくれ。」と、腕時計を見た。「…五分前。じゃあな、また0時に。」

東吾は、黙って頷いた。

博は、それを見てから、足早に廊下を走って階段へと消えて行った。

東吾は、もう一度ドアストッパーがしっかりと掛かっているのを確認してから、自分の部屋へと入って扉を閉じた。

そして、じっと扉の丸いドアスコープから見ていると、もう残り一分あるかないかという時間になって、やっと章夫の扉のノブが、カタリと動いた。

…出て来る…!

だが、部屋へ帰しはしない。

東吾は、思いながらそれを見つめた。

ドアノブは、最初何度も普通に動いていたが、段々に激しく回って壊れるのではないかと思うほどだ。

それなのに、こちらには何の音も聴こえない。

部屋の中はとても静かで、目の前で起こっていることなのに現実味が全くなかった。

…多分、中で喚いてるんだろうな。

東吾は、暗い笑みを浮かべた。章夫を殺して、いいようにしようとした報いを受けるといい。

しばらくそれを眺めていると、急にバチン、という音がして、閂が嵌まった音がした。

急いで腕時計を見ると、デジタル表示は10:00となっている。

その途端に、激しく動いていたドアノブが、ピタリと止まって全く動かなくなった。

…死んだか。

東吾は思ったが、今は確認する術もない。

なので、フンと鼻を鳴らしてから、人狼の行動時間になるのを待った。

これが妨害行為にならない事を、祈っていた。


0時なった時、また東吾の部屋の閂はバチンという音を立てて抜けた。

東吾は、急いで部屋を出て章夫の部屋の前の、ドアストッパーを外した。

そして、自分の部屋のクローゼットの中へとそれを放り込むと、また廊下へと戻って章夫の部屋の前まで行くと、階段から博と晴太が走ってやって来た。

「…やったか。」

東吾は、頷いた。

「しばらくノブが動いてるのが見えてたけど、10時になった途端にピタリと止まったよ。でも、ほんとギリギリの時間で。もう1分なかったんじゃないかな。ドアが開いてても、多分間に合わなかったと思うけど。」

博が、言った。

「多分そうだろうなと識も言ってたんだ。恐らく、時間が充分あるのに出られなかったんだったらオレ達の妨害行為とみなされる可能性があるが、普通に考えて自分の部屋まで行き着けないという時間だったら大丈夫じゃないかって。オレ達が出たのが10時直前だったから、多分間に合わないだろうということに賭けたんだ。梓乃って女は絶対時間の事なんか忘れてここに居るだろうってね。多分、オレ達は大丈夫だ。」

東吾は、頷いた。

念のためドアノブを回してみると、簡単に開いた。

章夫は狼なので、夜時間には部屋の扉も開くようだ。

東吾がおそるおそる扉を開くと、その真ん前で、梓乃が目を見開いたままおかしな方向へ手足を投げ出して倒れて絶命していた。

…どうやって殺したんだろう。

東吾は、思った。また、あのフードの化け物がやって来たのだろうか。

だが、梓乃が最期の瞬間に何を見たのかは、梓乃以外には誰にも分からなかった。

「…部屋の前にでも転がしとくか。いつまでも章夫の側じゃあ章夫も可哀そうだしな。」

晴太が、ぼそりと言う。

博と東吾は顔を見合わせて、頷き合って手足を掴むと、廊下を引きずって行って9号室の前に転がしておいた。

そして、ハッとした。

他の部屋のドアスコープ…。

だが、近付いて見ると、それには黒い小さなシャッターのような物が降りていて、中から外を見ることはできないようだった。

「…そうか、スコープはこうなるんだ。」

東吾が言うと、博は苦笑した。

「今頃気付いたのか?そうだよ、人狼以外の部屋のスコープは、10時になるとシャッターが降りて見えないようだ。確かに見えたらゲームにならないよな。」

これまでそれに気付かなかったのが浅はかだった。

東吾は恥ずかしくなったが、もはや音を立てるのにも気を遣わなくなってしまっていたので、そのまま博と晴太と共に、居間へと普通に降りて行ったのだった。


居間へと入って、すぐに言った。

「邦典を噛もう。」博と晴太が驚いていると、東吾は続けた。「狩人は貞行だった。邦典が言ってた。どこを噛んでも必ず噛める。乙矢が狐だと言っていたのが嘘ではないと思うし、これで明日はRPPだ。梓乃は自爆したし、邦典は襲撃で居なくなる。明日の村人の残りは浩介、歩、幸次、哲弥の四人だ。識さん合わせて四人の狼陣営だから、村人を一人でも取り込めたら勝てる。明日の噛みも、必ず通るから。」

博は、それを黙って聞いていたが、頷いた。

「その通りだ。貞行が狩人だという確かな情報を掴んで来てくれて助かった。明日は、識が幸次に黒を打つと言っていた。必ず幸次を吊って、勝って年を越そう。」

言われて、東吾は目を丸くした。そうだ…0時を過ぎた。今は大晦日…。

「…忘れてた。」東吾は、言った。「大晦日なんだな。なんか、年を越すような気がしないよ。いつもの年末とは、全く違う。確かに、刺激のある経験だった。でも…章夫は、必ず戻って来るんだろうか。」

博は、苦笑した。

「そう信じてやって来たからな。きっと大丈夫だ。だが、他の村人たちのことまでは分からない。騙しちまって悪いが、オレ達だって命が懸かってたからな。ここで踏ん張って、せめてオレ達は勝って帰ろう。識は、なんか怒っちまって早く終わらせるってそればっかだけどな。」

乙矢の狐COで、ちょっとやる気になってくれてたのに。

東吾は、思った。ちょっと仲良くできるかなと思っていたのだ。識にも、人間的な感情があるんだなと、章夫と梓乃のことに怒る識を見て、思っていた。

それが、さっさとゲームを終えてしまいたいという事は、識にとってはこんなものはつまらない遊びだったのだろう。

「…友達になれるかなって思ってたんだけど。識さんは早く帰りたいんだな。」

それを聞いた博は、片方の眉を上げた。

「友達?識と?いや…別に識は早く帰りたいんじゃなくて、さっさとこのゲームを終わらせてもっとおもしろい何かをしたいってだけだと思うぞ。東吾は識と同い年だし、友達にもなれると思うぞ。ただ、あいつちょっと変わってるだろ?あんな感じで。でも、ちゃんと友達意識はあったんだ。章夫の事で本気で怒ってただろ?友達だと思っているからだと思うぞ。普段はあんな風じゃないからな。ゲームが早く終わったら、期間いっぱいまでなんか他の事して遊べるかもしれないぞ?そういう事なんじゃないかと思うんだが。」

東吾は、え、と顔を上げた。

「識さんは、別の何かで遊びたいと思ってるってことか?」

あの識が。

東吾は目を丸くしていると、晴太が言った。

「いや、識さんはあんまり世間の流行りとか知らないと言っていて、たまたま居間でオレと二人になった時、クトゥルフ神話の事とか聞いて来てたな。オレ、クトゥルフも結構リモートでやるから、話が弾んだんだ。教えて欲しいとかオレに言ったのに、識さんはルルブを丸暗記して来てて。話が合わないといけないと思ったと言ってたけど、あの分厚いヤツをだぞ?結構こっちに気を遣ってくれてるんだなって思ったよ。」

ルルブを丸暗記?!

しかも、会話のために。

そう思うと、識はあれで友達が欲しいと思っているのかもしれない、と東吾は少し明るい気持ちになった。

こんな時なのに…というか、こんな時だからこそ、明るい気持ちになりたいものなのだ。

博が、笑った。

「もう、こんな暗いばっかのゲームはうんざりだ。さっさと終わらせようや。明日の夜の襲撃で、全ては終わる。年越し襲撃だなあ。」

言われて、東吾は苦笑した。それで、村人を襲撃して消してしまうのに。

今夜の襲撃先は博が腕時計に入力して、そうして三人は、自分に部屋へと帰って行った。

帰りに、階段脇の部屋の前に梓乃がまだ転がっているのが見えたが、東吾は振り返ることもなく、さっさと自分の部屋へと入ったのだった。

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