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獣の棲む森にて  作者:
人狼
37/66

狐の意見

邦典が、身を乗り出した。

「君は狐なのか?じゃあ、真占い師は?」

乙矢は、首を振った。

「それはオレ目線では分からない。ただ、初日からの動きを見ても識さんだろうと当たりは付けていた。だから妃織さんは、狼陣営だろうな。だからなんとか真を落とそうとはしたが、識さんはどこまでも真だ。妃織さんのやる気の無さは、仲間からの指示待ちをしているように見えた。狂信者かもしれない。だが、分からない。まだ、識さんから黒が梓乃さんにしか出ていないだろう。だからとりあえず、それらしい所に黒を打ってみた。それが澄香さんだ。白黒は分からないが、それでも章夫は偽だと知っている。なぜなら久隆さんは、黒ではなかった。久隆さんはオレの相方、背徳者だったからだ。」

章夫が、眉を寄せる。

識が、これまであれほどやる気が無さげだったのに、途端に目に精気が宿って言った。

「ほう。では、君目線ではまだ黒は吊れていないと?」

乙矢は、頷いた。

「恐らくはな。でも分からない。澄香さんが黒だったかもしれないからな。何しろ、章夫は昨日澄香さんに入れてないんだ。オレに入れている。なので、村としては久隆さんで一人、澄香さんで一人人外が吊れている可能性がある。オレは最初、梓乃さんが真猫又で章夫を吊ろうとしているのだと思っていたが、識さんから黒が出たし、話を聞いているとどうやら私怨のようだったから、もしかしたら人狼の内輪揉めじゃないかって思った。だから章夫の色を知っていて、吊れとわめいているのではないかとな。ならばそれを利用させてもらおうと思っていた。だが、もう終わりだ。オレが吊られたら妖狐陣営は終わり。だったら村に情報を残そうと思ったんだよ。オレを陥れた、人狼どもだけは許せないからな。村人は人数が多いし、助かって帰るなら村人達がいい。東吾を見ていて、そう思った。」

東吾は、あちこちから必要以上に信頼されて、戸惑った。

そうした方が自分のためになると、行動しただけだった。

なのに、こうして皆に信頼されて、気がつくと人狼に危ない橋を渡らせることになってしまった。

「…君は狐なんだな?」

邦典が言う。

乙矢は、頷いた。

「そうだ。なんなら今夜識さんに占ってもらってもいい。オレは溶ける。その方が分かりやすいかもしれないな。」

しかし、識は言った。

「私はグレーに色をつけたい。君が狐だと分かっているのなら、いつでも吊れる。グレーを狭めて行かないと、私は遅かれ早かれ噛まれる。村には情報が要るのだ。まあ、妃織さんが生きている限りこの様子だと噛めないかもしれないが、もうそろそろ占い師に出ている狼は用済みになるだろう。諸とも処分して、グレー精査させようと考えるかもしれないしな。」

妃織が、言った。

「そんなの、信じられないわ!私に占わせて。もしかしたら狼が狐を騙ってるのかも知れないわ。残りの狼を生き残らせるために、村に誤情報を落として行こうとしてるのかも。狐なら私が呪殺できるわ!」

識が、言った。

「そんなことを言って大丈夫なのか?狐は噛めないぞ。呪殺を装うこともできない。乙矢が生き残ったら、君の偽が確定するのだぞ。」と、乙矢を見た。「とはいえ、狐に後を託して死のうとしている背徳者の可能性もある。私が占っても白しか出ないし、私のグレーの中に運良く残っている、狐を占わせるのを遅らせようと思っている可能性もあるがな。」

だが、恐らく本当のことだろう。

東吾は、思った。狼目線では、そう分かる。

だが、村目線では分からないのだ。

乙矢がこう言うからには、乙矢は狐陣営なのだろう。

だから妃織が真占い師で、妃織のグレーには今、もう歩以外狼しか居ない。

歩は確かに寡黙だが、乙矢を全く庇う様子もなく、最初から識を真だと言っていた。二日目夜に歩が識の占い指定先に入っても、乙矢も歩も慌てる様子もなかった。

ということは、潜伏している狐は居ない。

乙矢は、そんな識の言葉にも取り乱す様子もなく、答えた。

「そう思うなら思ってたらいいさ。だが、オレはもう嘘は言わない。自分が思っていることを言っている。だから梓乃さんに黒が出たからと章夫の真を信じるな。あの二人は個人的にやり合ってるんだ。オレには分かる。」

妃織が、それでもしつこく言った。

「だから!私に占わせて。呪殺を出して私の真を証明するから!」

「好きにしたらいいだろう。」識は、面倒そうに言った。「君の偽が確定するだけだからな。私としてもその方が都合がいい。私目線、それで乙矢が落ちたら背徳者だと分かる。偽が呪殺などできるはずはないからな。噛んだのだと分かる。章夫の真贋もそれでつくだろう。黒でも打つつもりだろうが、吊れたとしても章夫が生きている限り色が落ちるぞ。どちらでもいいがな。」

邦典が、困惑した顔で東吾を見た。

恐らく、意見を待っているのだろう。

だが、ここまで自分を信じているだろう人に囲まれて、東吾は突き放す意見は出せなかった。

「…乙矢が、嘘を言っているように見えない。」東吾は、言った。「識さんの意見は分かる。でも、乙矢は命を懸けて話してくれてるんだと思うから。狐なら村のためにも追放しなきゃならないけど…それでも、最後なんだと思うと、信じてやりたい気持ちだよ。」

乙矢は、ホッとした顔をした。

「東吾が信じてくれるなら、オレはいいよ。」

その言葉が、さらに東吾の心をえぐるとも知らずに、乙矢はやりきったようにそう言った。

東吾は、狼達が今の言葉をどう思って聞いたのかと、気になって仕方がなかった。

何しろ、それは章夫を切り捨てる意見だったからだ。

章夫は、言った。

「乙矢が狐だというのが本当だったとしても、言ってることが全て本当の事だと思わない方がいいと思うよ。」章夫は、フンと鼻を鳴らして言った。「村のためとか言ってるけど、僕は真なんだ。だから、僕から見たらそこは絶対嘘をついてるからね。死ぬ前に、自分の事を良く見せようと思ってるんじゃないかな。久隆さんの事は、初日知らずに囲っちゃってた狼なんだと思う。吊ってもらえてホッとしたんじゃないの?背徳者は、どっかで噛まれてると僕は思うね。誰も庇わないし。村を混乱させてるんだよ?こんな土壇場に降りて来て。ほら、時計を見てよ。もう10分前なんだよ。」

言われて見ると、金時計は確かにもう、20時に近くなって来ていた。

「…だったら真霊媒は誰だと聞きたいところだが、もう10分前だ。」邦典が言った。「恐らくは初日に澄香さんが騙っていた時に投票していた、日向さん辺りだと乙矢は言うんだろうな。乙矢の意見は、確かに聞いた。このままでは生殺しになるし、今夜は君を吊るよ、乙矢。章夫のことは、明日ちゃんとまた今の話を考慮に入れて考える。だが、本当のことだとしたら、感謝するよ。ありがとう。」

乙矢は、頷いた。

「狼には負けないでくれ。本当にオレは、自分を窮地に陥れた狼が憎いんだ。」と、また小瓶を手にした。「じゃあな、先に逝く。」

まだ投票の画面が出ていない。

「待て、それじゃあルール違反に…、」

邦典と東吾が、慌てて止めようとしたが、乙矢は瓶の蓋を取って、それを飲み干した。

「乙矢!」

東吾が叫ぶ。

だが、乙矢はそのまま床へとグニャリと崩れ落ちた。

「え…」章夫が、言った。「待ってくれ、まだ投票してないのに、先に飲んだらどうなるんだ?」

そこで、パッと画面が点灯した。

『ただいま、投票5分前です。』そして、デジタル表示が、また5分から減って行く中、声は別の事を言った。『No.12は、ルール違反により追放されました。』

「ええ?!」

皆が叫ぶ。

つまり、今の乙矢はカウントされない。

つまりは、今夜は別の誰かに投票しなければならないのだ。

「待って!じゃあ誰を吊るの?!章夫さん?!」

妃織が叫んでいる。

東吾もパニックになって、思わず識の方を見た。

識は、他にも自分を見る視線に顔をしかめた。

「…霊媒か、乙矢とラン予定だった妃織さんかどちらかだろう。」

「章夫よ!」梓乃が叫ぶ。「章夫を吊るのよ!乙矢さんが命を懸けて知らせてくれたのに!」

東吾は、腕時計のカバーを開いて、躊躇した。

章夫は吊れない…梓乃が言うから、尚更に。

「とにかく、考えて今識さんが言った二人から投票するんだ!しっかり考えろ、真目の無い方を確実に吊るんだ!」

章夫…。

東吾は、迷った。

自分さえ生き残れば、章夫は後で助かるのだ。

だが、仲間を売るなんてことはできない。自分には、梓乃が言うからとても入れられなかったと言い訳ができる…。

『投票してください。』

声が、無情に告げた。

皆、一斉に腕時計に向かい合った。

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