四日目の朝
そうして、そのまま何の抵抗もなく眠りについた東吾は、また朝の習慣で6時前には目が覚めた。
さっさと起き上がって、トイレに向かう。
そこで顔を洗って寝癖の確認をし、バスルームを出たと同時に閂が抜けた音がした。
これもまた毎日の習慣で、自動的に扉へと向かって開くと、斜め正面の部屋の章夫と目が合う。
隣りを見ると、浩介もそろそろ疲れたような顔で出て来ていた。
思えば、浩介は頑張っていた。
初日だけでもかなり憔悴していたのだが、ここへ来て持ち直しているようだ。
こちらも慣れて来て、落ち着いて来たのだろうが、それでもゲームを続けなければならないことに疲れているようだった。
同じように廊下に出て来ているのは、哲弥、妃織、梓乃、幸次だった。
「…みんな居る。」と、階段の方を見た。「上か?」
浩介は、頷いた。
「狩人が護衛成功しているかもしれないしね。行こうか。」
東吾は頷いて、階段へと足を進めた。
すると、上から博の声がした。
「おい!上がって来い、貞行だ!」
噛みが通ったか。
東吾は、もはや何の感情も動くことなく、隣りに立つ章夫と浩介に頷きかけて、階段を足早に上がって行った。
貞行は、11号室だ。
三階の、東吾の真上の部屋だった。
そこから、識とガックリと肩を落とした邦典が出て来て、皆は二人を無言で迎えた。
邦典が口も利けないようだったので、識が言った。
「…貞行が死んでる。襲撃されたのは貞行だった。」
やっぱり貞行は白か。
皆がもはやあきらめたように頷く中、邦典は言った。
「…貞行はどこまでも村人だった。こうなってしまったからには、悠長にしていられない。もう占い師を決め打って黒を吊っていかないと、間に合わない。」
章夫が言う。
「もうここで言うけど、澄香さんは白だったよ。護衛成功も狐噛みもないし、縄は今のところヤバいと思う。もう二人も白を吊ってるからね。狐か背徳者が混じってなかった限り。」
哲弥が、後ろから言った。
「だから言ったしゃないか!澄香は白なんだよ、みんなで吊ってしまって!あいつはあんな感じだが、嘘を付くと分かるんだ。だから霊媒を騙ってる時はオレも怪しいと思ってたが、その後は嘘なんかついてなかった!黒だと言ったら章夫が怪しいと思っていたが、白だったならやっぱり章夫は真霊媒だ!乙矢を吊ろう!」
識が、言った。
「まあ、そろそろ占い師を決め打たないとまずいのは確かだ。三人の中に人外が二人。三分の二の確率で人外が吊れる。これだけ呪殺が出ないのだから、もうあきらめて狐は占い師の中だと吊るのがいいかもしれない。縄に余裕があるなら私まで吊り切っても良いから、とにかく今夜は占い師を吊り始めよう。もうそろそろ占い師が居なくても黒を詰めて行けるだろう?私を吊るのを最後にしてもらえば、今夜、明日の夜と二回占えるからな。人外が捕捉できるだろう。ちなみに私の結果は梓乃さん黒。東吾が真猫又だと私目線で確定した。」
梓乃が叫んだ。
「ウソよ!私は猫又よ、黒なんて出るはずない!」
妃織も言った。
「そうよ、私は結果が白って言ったでしょ?!」
「だったら君も偽だな。」邦典が強い口調で言った。「やっぱり識さんが真占い師だ!梓乃さんのどこが白なんだよ、章夫を感情で吊れって言って、おまけに澄香さんも吊れと言ってたんだぞ?!村人ならそんなことが言えるか?!色が見えてないんだから言えないだろうが!君は黒だ!」と、妃織を見た。「君だって梓乃さんを庇ってるがそれどころじゃないぞ!占い結果は?!真っ先に言うべきだろうが!」
妃織は、慌てて言った。
「浩介さんが白よ!だから私目線、残りは博さんと晴太さんと歩さん、それに猫又の東吾さんだって怪しいし、そこと役職の中に人外が居るのよ!貞行さんは噛まれてしまったから…グレーが狭まったわ!明日には絶対この中から黒を見付けられるわ!」
乙矢が、言った。
「どうせオレの結果なんか誰も信じないんだろう。オレはもういい、結果は言わない。みんなオレを吊ればいいさ。どうせ勝てないんだ、この村は人狼に操られてる共有者しかいないんだからな。」
もう、本当にあきらめているのか、口調はぶっきらぼうだ。
もう、今夜吊られるのは自分だろうと思っているようだった。
幸次が、言った。
「分からないぞ。まだ章夫が真と確定した訳じゃない。もしかしたら澄香さんが黒で、久隆さんが白だったかもしれないんだ。なんで村は章夫を信じてるんだ?どっちも考えておかないといけないじゃないか。」と、乙矢を見た。「乙矢、結果は落としてくれ。でないともし君が真だった時、村は勝てないんだ。君が真なら勝って戻って来られるようにするから。」
乙矢は、じっと黙ってしばらく幸次の顔を見ていたが、ため息をついた。
「…歩が白。」
幸次は、ほっとしたように頷いた。
「分かった。君が村人なら必ず勝つから。」
乙矢は、頷いて踵を返した。
「少しでも勝とうと思うなら、章夫は吊ってくれ。梓乃さんのことは占ってないから分からないが、章夫を吊れとしつこく言うから白だとオレは思ってる。章夫はオレを陥れるために騙った人狼じゃないかと思ってる。狂信者かもしれないが…分からない。とにかく人外だ。オレは今日の会議には出ない。投票だけ部屋でする。どうせオレが吊られるんだろう。皆に迷惑は掛けない。あの小瓶は部屋に持って行っておくよ。」
そうして、階段を降りて行った。
邦典が、それを見送ってため息をついた。
「…まだあいつと決めたわけでもないのに。」
だが、博が首を振った。
「今日は占い師の決め打ちだろう。識が言ったように三分の二、ここまで来たらやるより無い。狼は吊れないぞ。真が噛まれる。狩人が生き残っていたら一日猶予があるが…乙矢は、人外なら恐らく狐だ。一番吊るのにいいポジションだ。」
邦典は、博を軽く睨んだ。
「どうして真じゃないんだ?」
博は、怯まず答えた。
「章夫を信じているからな。というのも、一番信じている識から、章夫を執拗に吊りたがる梓乃さんに黒が出た。そして、乙矢には敵が多い。となると、章夫は真、乙矢は味方が少ない狐にしか見えないんだ。そもそも、久隆を吊った時に乙矢の真は切った。となると、残った章夫が真だと信じるしかないじゃないか。」
邦典は、むっつりと考える顔をした。
村の意思で久隆を吊ったのだ。決め打ちのつもりで、と言ったのは自分だった。
だが、どちらが真だったのか、今でも分からない。ローラーするなら、昨日が良かったのかもしれないが、澄香を吊ったのだから今さらだった。
それも、村の意思だった。
「乙矢さんが真だと思うわ!」梓乃が言った。「今日分かった。識さんはきっと狼よ!妃織さんがどっちなのか分からないけど、乙矢さんの章夫に対する姿勢は真だと思うから、狐なんじゃないかな。乙矢さんを吊るべきじゃないわ。だから、章夫を吊ろうってあれだけ言ったのに!残っているから人外がほんとに落ちてるのか分からないから、こんなに悩むんじゃないの!」
邦典は、梓乃を睨んだ。
「君は黙ってろ!大体、君の吊り押し方は怪し過ぎるんだ!そもそもが、澄香さんを怪しいと黒塗りしたのも君だった。章夫と澄香さんを確信を持って吊れと言えるのは、どう考えても色が見えてる狼にしか見えないんだよ!もう君の話は聞きたくない!そうだ、やっぱり君は黒だ!そうとしか思えない。今日は、乙矢と妃織さんのランにする!もう、章夫はあの日決め打ったんだ、どこまでも怪しい梓乃さんを黒置きして、章夫は真と置く!」
梓乃が、ショックを受けた顔をした。
言っていることは間違っていないのに、あまりにもおかしな方向から吊り押すから色が見えている人外だと思われて、疑われてしまっているのだ。
東吾は、落ち着いて理論的に行かないとどんどん怪しくなってしまうのだな、とつくづく思っていた。
識が、自分が真置きされようとしているのに、それこそがっかりしたような顔をして、足を部屋の方へと向けた。
「では、それで。私は自分の真さえ信じてもらえたら、村が滅びる事は無いのでどっちでもいい。では、部屋へ帰って準備をして来る。議論はするのだろう?」
邦典は、識の反応に少し驚いたようだったが、頷いた。
「ああ、今日は吊り対象の一人が出ないと言っているから8時でいい。一階の居間で。」
識は頷くと、さっさと自分の18号室へと入って行ってしまった。
梓乃は章夫を睨んでいたが、章夫は全く意に介さない様子で東吾を見た。
「東吾、浩介、一緒に戻ろう。占い師の決め打ちだね、今夜は。」
東吾は、梓乃の強烈な視線に薄ら寒い物を感じながら、章夫の気持ちが少し分かる気がした。
この異様な執着は、確かに面倒なものだった。
だが、それをさらりと無視する章夫の真似をして、浩介と章夫と共に東吾は二階へと戻って行ったのだった。




