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獣の棲む森にて  作者:
人狼
34/66

三日目の夜時間

もう、皆慣れたものだった。

哲弥は戻って来なかったが、邦典は淡々と結局三人とも残った占い師達の、占い先を指定して解散した。

もう考えていたのか、妃織には浩介と貞行、乙矢には歩と幸次、識には梓乃と哲弥が振り分けられた。

梓乃は役職に出ていたが、識がどうしても色を知っておかねば思考が進まないと言って、加えた先だった。

どうせ黒を出して、完全に東吾とラインを繋ぐつもりなのだろう。

ありがたかったが、感情的には淡々としていた。

東吾は、鈍感になっている自分に気付いたが、どうなっても生き残らなければ意味がない。

東吾もまた他の皆と共に淡々と、キッチンから食べ物とペットボトルの飲料を手にして、部屋へと帰った。


部屋へ帰ると、昨日思った通りに先にシャワーを浴びて、明日に備えた。

そして、寝るためのジャージに着替えると、ベッドに転がって考える。

明日は、どう転んでも黒は出ない。

指定先に狼が居ないからだ。

だが、誰かが無理に黒を打ってくる可能性はある。

乙矢か、識だ。

疲れていたが目が冴えていて、全く眠くはなかった。

…今夜、梓乃を噛んだ方がいいのか。

東吾は、眉を寄せた。

そうしたら、自分と梓乃が死に、東吾ではなく梓乃方が自殺を謀ったと見られるのではないだろうか。

梓乃が吊られたら、面倒なことになる。

吊られる前に噛むべきなのだ。

そんなことを考えていると、あれだけ目が冴えていたのに、いつの間にかうつらうつらとして来て、気が付くと意識を失っていた。


バチン、という音がする。

ハッと目を開いた東吾は、そこで初めて自分が気を失うように寝ていたのを知った。

そして、急いで廊下へと出ると、章夫が普通に言った。

「もうさ、疲れて来ちゃった。どうせ防音だよ、ビクビクするのはやめよう。」

東吾は、困ったように声を落として言った。

「言わないだけで博さんみたいに耳が良い人が居るかもだろうが。さ、行こう。」

まだ不貞腐れている章夫を引っ張って、東吾は急いで階段へと向かった。

階段では、博が晴太と共に降りて来るところだった。

「なんだ?何か機嫌悪いな章夫。」

声が大きい。

東吾と晴太が驚いていると、章夫が言った。

「疲れちゃってさあ。誰にも聴こえないんだからビクビクするのはもうやめ。なのに、東吾は博さんみたいに耳が良い人が居るかもってこそこそするから。」

博は、ハハと笑った。

「ああ、居ない居ない、オレみたいなのは。もう一人居るが…そいつは今日はここに来てないよ。これはな、ええっと、薬品の副作用でな。」

階段を降りながら、章夫は首を傾げた。

「え、薬?何かの病気?」

遠慮のない章夫にハラハラしながらついて行くと、博は特に気を悪くしたようでもなく答えた。

「まあ、病気って言えばそうなんだが。細胞がちょっと他とは変わっててな。それで医療関係で働いてるってのもある。他じゃ働けなくてなあ。」

晴太が、同情気味に言った。

「ふーん、細胞か。いろんな病気があるんだな。」

博は、頷いて廊下を居間へと歩いた。

「そうだな。まあもう慣れたし、この方が便利な時もある。治せるけど治してないって感じだな。」と、居間の扉を開いた。「さあ、さっさと決めよう。」

居間は、相変わらずシンと静まり返っていた。

ソファへと急ぎ足で寄って行った章夫は、どっかりと座った。

「で?明日はまあ、多分だけど乙矢か僕だよね。明後日まで人狼がこのまま吊られず踏ん張ったら、村は詰みだろ?」

博も、その後を追ってソファへと座ると、頷いた。

「その通りだ。危機感がない、と識はやる気が失くなって来てて、なだめるのに苦労してるんだぞ。もう、識目線での人狼位置は決めてあるみたいだが、このままなら全員に黒打ちしない間に終わるとがっかりしているようだ。あまりにも一方的過ぎてな。」

晴太が、言った。

「確かに明日はオレ達の誰も占い位置に指定されてないから、真占い師からの黒は出ないかもしれないけど、明後日には決め打ちだろ?章夫が吊られる未來も見えて来るし、そんなに圧勝でもないと思うけどな。」

東吾も、頷く。

「だよな。最後にはオレと梓乃さんの決め打ちがあるだろう?梓乃さんが吊られたら、狼を持って行かれるかもしれないのに。それでももうやる気がないのか?」

博は、頷いた。

「だから明日は梓乃さんに黒を打つそうだ。」皆が驚いていると、博は続けた。「それで村が梓乃さんを吊るのなら、それはそれでおもしろいってさ。章夫には、澄香さん白を出せと言ってたよ。完全に乙矢と対立体勢でって。明日はそれで乙矢と章夫の信用勝負だろうが、明後日の事だ。乙矢を吊ったから、バランスで章夫ってことになる可能性もあるからと。とりあえずまた明後日も黒打ちするらしいが、妃織さんもいくらなんでも明後日には黒を見つけるだろうから、その妃織さんが打って来たオレ達の中の黒と、識の黒の対決になりそうだな。」

晴太は、険しい顔をした。

「オレか博さんだな。とはいえ、やっぱり妃織さんが真だと思うか?」

博は、また頷いた。

「それしかないだろう。澄香さんが白なのはオレ達には明確だ。偽装の結果ならあそこまで引っ張って吊ろうとはしない。乙矢は恐らく狐だろう。久隆さんが背徳で、やっぱり日向さんが霊媒だったんじゃって考えてるんだが…まだそこは分からない。ただ、乙矢のことは何としても吊らないと、噛めないからな。妃織さんに呪殺されたら識の偽が透けて一気に不利になる。噛み合わせる必要が出て来るから、面倒なんだよ。」

東吾は、息をついた。

「明日は何としても乙矢さんを吊ろう。それで、今夜は誰を噛むんだ?」

博は、顔をしかめた。

「識は最初自分を噛めと言って来たんだが、早く終わらせたいから残れと言ったのだ。貞行か浩介にしようと思ってるんだが…浩介ならおもしろいとか言って。なぜなら、妃織さんの占い指定先だからな。呪殺を疑われるんじゃないかって。」

「え、またややこしいことになるんじゃないのか?」

東吾が言うと、章夫も頷いた。

「そうだよ!識さんにはおもしろくなくても何としても生き残ってくれないと!貞行さんにしよう。何か寡黙なのに誰もあの人を疑わないし、そりゃ識さんの白だし、乙矢も白出してるから分かるけど、邦典だってそこに言及しないだろ?黒塗りできないんだから、噛んで処理しなきゃ!」

晴太も、同意した。

「そうだよ、貞行さんがいい。何かめちゃ考えてるみたいだし、邦典の様子を見てると狩人なんじゃないかって思えて来て。寡黙なのに全く疑わないからな。」

博は、苦笑した。

「確かにな。識も言っていた。恐らく幸次か貞行が狩人だろうって。でも、まだ占ってないし幸次は黒塗りさせてもらうって。それぐらいのギャンブルはしたいってさ。」

どこまでもおもしろくしたいのだろう。

まだ狼を一人も吊れていない村がおもしろくなくて仕方ないのだと思われた。

「…困った人だな、識さんは。こっちだって必死なのに。死ぬんだよ?僕、覚悟してるのに。識さんは楽しむこと優先なのかよ。」

確かに同感だが、これまで識には助けられて来たのだ。

だからこそ犠牲を出さずに勝てそうなのは確かだった。

東吾は、言った。

「とにかく、今夜は貞行さんを噛もう。頭の良い人の考え方なんか分からないけど、終わるまでは頑張ってもらわないと。」

晴太が、頷いて腕時計を開いた。

「じゃあ打ち込むよ。」

晴太もまた慣れて来て鈍感になっているのか、粛々と番号を打ち込んで、襲撃先を確定させた。

これでまた村人が、二度と目覚めないかも知れないのに特に感慨はなかった。

そのまま、明日はまたどうなるのだろうと考えながら、狼達は部屋へと戻って行った。

決して良くはない東吾の耳に、なぜか死んで行った佐織や日向の悲鳴が聴こえたような気がした。

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