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獣の棲む森にて  作者:
人狼
33/66

三日目投票

「オレは真占い師だ!」乙矢は、もう何度目かの弁明で必死に言った。「久隆さんは白だったんだよ、信じてくれ!もしオレを吊っても、章夫だけは吊ってくれ。梓乃さんは間違っていない、ローラーは完遂するべきなんだ。オレから見て、章夫は多分狼陣営だ!狐陣営ならこんな強いことはしない、狼に目をつけられたら捕捉されて吊られるから。今夜はオレと章夫と澄香さんにしてくれ。無理なら、オレと章夫でも良いから!」

邦典が、顔をしかめた。

「君目線では澄香さんが黒なんだろ?だったら章夫でなく澄香さんが先なんじゃないのか?章夫が白人外かもしれないのに。狼を捕捉してるのに、なんで章夫?…まあ、結果は違うから分からないでもないけどな。」

乙矢からは、悲壮感が漂っていた。

「…久隆さんが白だったのに吊られて、章夫が残るなんておかしいと思うからだ。昨日章夫に入れてない奴らが怪しいと言っておく。」

澄香は、言った。

「私は章夫さんに入れてるわ。」澄香は哲弥を見た。「哲弥もよ。なのにあなたは黒だって言うのよ。それなのに、昨日章夫さんに入れてない人達が怪しいと言うの?おかしいわ!矛盾してる!章夫さんに入れてる私は黒なのに、入れてない人達も黒なんでしょ?あなた目線どれだけ黒が居るのよ!」

「全部が黒だなんて言ってないじゃないか!オレは知ってる、章夫と澄香さんは人外なんだよ!」

乙矢からは、必死さが伝わって来た。

どうしても信じてもらえない真占い師のそれなのか、それともどうしても信じてもらえない狐のそれなのか。

だが、狐の場合、あまり追い詰めると狐だとCOして章夫だけでも吊ってくれと言いおいて行くかもしれない。

そうなると、芋づる式にまずいことになってしまう。

東吾は、言った。

「…なんか、こんなに言うんだから、ほんとに色が見えていて困ってる真占い師にも見えて来たな。乙矢目線じゃ、占った結果で出てることを言ってるだけなんだから、弁明って言っても困るかも。」

乙矢が、驚いたように東吾を振り返る。

東吾と対抗している梓乃の意見に同調しているので、東吾が自分を庇うはずはないと思っていたようだ。

だが、東吾としてもあまり追い詰めて変なことはして欲しくなかったのだ。

「え…オレを信じてくれるのか?」

東吾は、苦笑した。

「いや、まだ信じ切れてないけど、もしかしたらって思って来たんだよ。だって、そんなに必死だから。オレ目線じゃ梓乃さんは人外なんだが、オレにはその他の色が見えてないから、梓乃さんほどハッキリ言えないだけで、これでも考えてるんだ。オレだって負けたくないからな。」

乙矢は、共有から信頼されてここまで来た、東吾に言われたことでホッとした顔をした。

東吾の心はそれで少し痛んだが、そもそも自分は人狼なんだと言い聞かせて、その心に蓋をした。

邦典が、それを聞いて顔をしかめた。

「確かにそうかもしれないな。ここまで必死なのに、誰も庇わないし…章夫を吊りたい梓乃さんだけだ。東吾が対抗している梓乃さんの意見を置いておいても、そう考えるのにやっぱり東吾に村目を感じるなあ。」

東吾は、顔をしかめた。

「確かにあれだけ梓乃さんが言うんだから章夫は真かもとも思ってたんだけど、必ずしもそうじゃないかなって。仮に章夫と梓乃さんが敵対陣営だとしても、オレと乙矢が敵対ではないかも知れないって思って来て。何しろ、この村には第三陣営まであるからな。」

識は、黙っている。

相変わらずの無表情で、何を考えているのかはその表情からは窺い知れなかった。

妃織が、言った。

「私から見たら、乙矢さんは偽占い師なの!だから、梓乃さんは私の白だけど、白人外なんじゃないかって今思ってるわ。乙矢さんが黒で、梓乃さんが狂信者!哲弥さんは白だから、澄香さんだって白のはずよ!」

そこで、識が口を開いた。

「それはおかしい。」皆が識を見る。識は続けた。「狂信者なら私に占われると聞いて顔色を変えたりしない。むしろ占わせて無駄に白を打たせることを考えるだろう。私から見たら、梓乃さんは占われたらまずい陣営、つまり黒の人狼か、占われたら溶ける狐のどちらかだ。だが、昨日妃織さんの指定先に入ったのに焦った様子もなかったところを見ると、妃織さんと梓乃さんは同陣営に見えている。となると、私の中では乙矢に味方が少ないことから乙矢が狐陣営、妃織さんが梓乃さんを囲った狼陣営に見えるのだ。そう考えると、澄香さんは白なのではないか。それとも、わざと切り合っている狼同士なのか?…分からないが、乙矢が狐なら狼らしいところに黒を打ったとも考えられる。」

こうなると、やはり乙矢が吊られるのだろうか。

東吾が黙って聞いていると、貞行が言った。

「ラインは見えて来たが、入り乱れて分からなくなってるよな。狼だって狐だって、生き残るために自分を守ろうと仲間を切ってるかもしれないし。」

識は、頷いた。

「分からないな。ハッキリしているのは、色で示している乙矢と澄香さん、乙矢と章夫の対抗軸と、あからさまに対抗している猫又の二人と、占い師三人だ。全てに関わっているのが乙矢で、私から見たら白人外と黒人外の争いと、村役職で絡まり合ってるのだろうが、乙矢だけは私目線必ず人外なので、乙矢が投票先に指定されている限りそちらへ入れる。村から見たら、誰を信じるかではないか?」と、チラと暖炉の上の金時計を見た。「…そろそろ投票時間だぞ。長く同じことばかり話して来たが、心を決めて行くよりない。邦典、投票先は乙矢と澄香さんで変更はないな?」

邦典は、思わず時計を見た。

そして、いつの間にかそんな時間になっている、と、慌てて言った。

「…迷うところだが、乙矢、澄香さん、章夫の三人から入れてくれ。いきなりでややこしいことになっているが、章夫の話は昨日イヤほど聞いたし大丈夫だろう。それで頼む。」

章夫を加えるのか。

東吾は、緊張した。

夕方の会議で話したのは、乙矢と澄香だけだった。

この二人の話に終始して、章夫の話は聞けていない。

だが、確かに昨日の霊媒の投票で、章夫はたくさん話していた。それで、なんとか生き残ったのだ。

章夫を見ると、覚悟はしていたのか特に焦った様子はない。

そこに、いつもの声がしてモニターが青く点灯した。

『投票5分前です。』

今夜も、カウントダウンが始まる。

東吾は、緊張気味に腕時計のカバーを開いた。


1(東吾)→4(澄香)

2(浩介)→4(澄香)

3(哲弥)→12(乙矢)

4(澄香)→12(乙矢)

6(妃織)→12(乙矢)

8(章夫)→12(乙矢)

9(梓乃)→8(章夫)

10(幸次)→4(澄香)

11(貞行)→4(澄香)

12(乙矢)→8(章夫)

15(邦典)→4(澄香)

16(晴太)→4(澄香)

17(博)→12(乙矢)

18(識)→12(乙矢)

19(歩)→4(澄香)

いつものように投票を終えた後、投票先が表示された。

皆が見上げる中、乙矢は必死の形相で額から汗を吹き出しながら凝視している。

恐らく票を数えているのだろうが、パッと見たところ、澄香と乙矢にたくさんの票が入っているようだった。

…乙矢か…?いや、僅かに澄香さんか?!

東吾が思っていると、声が告げた。

『No.4は、追放されます。』

「そんな!ウソよ!」

澄香が、立ち上がる。

いつものようにフードの一団が入って来て、澄香に寄って行くのが見えた。

澄香は、必死に飛び退いて暖炉の方へと走った。

「やめて!分かってるわよ、飲むわよ!」と、暖炉の上にまた、きちんと置かれてあった小瓶を引っ付かんで、蓋を取った。

そして、震える手でそれを持ち上げながら、皆を見回した。

「…後悔するわよ。私は白なんだから!」

澄香はそう言い置くと、思い切ったようにそれをグイと飲み干した。

かと思うと、またその場にグニャリと倒れた。

もはやフードの一団には気に止める事もなく、哲弥が駆け寄った。

「澄香!」

澄香は、手に小瓶を握りしめたまま、口から液体を滴らせて目を見開いたまま、絶命していた。

フードの一団は、そのままスーッとまた消えて行き、声が告げた。

『No.4は追放されました。夜時間に備えてください。』

東吾は、もはや儀式のように識が倒れた澄香に寄って行くのを見ていた。

邦典も、疲れ切った顔でそれに続く。

ふと見ると、確かに開いていた居間の扉が、しっかり閉じているのに気付いた。

そういえば、これまでもそうだった。

確かに扉が開いてフードの一団は入って来るのだが、いつの間にかその扉は閉じている。

音もなく、気が付いたら閉じているのだ。

…そもそも、本当に扉は開いていたのだろうか。

東吾は、思った。

開いたように見えていたが、もしかしたら閉じていたのかもしれない。

パニックになって、その瞬間はハッキリ覚えていないのだ。

「…死んでいる。」識の声に、東吾はハッと我に返った。「いつものように、確かに死んでいるように見えるが、今回はあからさまに澄香さんは液体を飲みきっていないな。口に入れただけでこの反応だとしたら、かなりの劇薬だぞ。触らない方がいい。」

そんなに強い薬なのか。

東吾は、身震いした。

だが、触れなければ部屋へ運ぶ事もできない。

「…ここに置いておくのか?」

東吾が言うと、識はため息をついた。

「恐らく夜時間に誰かが、運び去るだろうしな。申し訳ないが、皆の安全のために触れるなと言っておく。」

哲弥が、言った。

「…オレが一人で運ぶ。」と、澄香を抱き上げた。「せめてな。守ってやることができなかったんだから。」

哲弥が歩き出すと、識はもう何も言わなかった。

哲弥は、そのまま一人で澄香を二階の部屋へと運んで行ったのだった。

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