三日目夕方
識が、言った。
「…私も梓乃さんは限りなく怪しいと思う。」皆が識を見た。識は続けた。「私に占われると聞いて、占って欲しくないと言い出したことも、章夫を執拗に吊り押している事も、その後澄香さんも吊ろうとしている事もだ。猫又が二人出て来て、一人が人外だ。となると、これでラインが見えて来たな。梓乃さんと、章夫と澄香さんは、同じ陣営ではない。梓乃さんからはそれが見えていて、吊ってしまいたいと思っていると思われる。対して章夫と澄香さんは、お互いにまだ色が見えていないと言っている。章夫は、個人的なことで罵倒はしていたが梓乃さんを吊り押してはいなかった。つまり、章夫からは梓乃さんの色が見えていなかった。こういう事を考えても、梓乃さんが偽なら章夫は真だろうと思われるので、霊能ローラーはストップさせて、梓乃、東吾、乙矢、澄香のうち、誰を吊るのか決めた方がいいのではないかと私は思う。」
博が、それには反論した。
「確かに梓乃さんが偽物っぽく見えることで章夫の真が上がったとオレも思うが、梓乃さんと東吾の精査は後でいいだろう。間違ったら、誰か道連れになるんだぞ。確かにそうだと確定できる何かがあるまでは、吊るのは待つべきだと思う。なんなら妃織さんと識で二人を占ってもいいと思うが。」
識は、眉を上げて博を見た。
「わざわざ役職に出ているのに占うのか?グレー幅が広いのに?それなら私は、グレーに色をつけて行きたいと思っているがね。占い師はまだ噛まれないだろう。占いに出ている狼陣営の誰かが死なない間は、その真を追わせるために噛まないと思われる。妃織さんの哲弥の庇い方が気になっているし、その哲弥が澄香さんを庇っているのも気にはなる。後に色が見えないと悩むのなら、今のうちにこちらに色を付けておいて分かりやすくしたいと思っているがね。」
乙矢が、言った。
「章夫は人外だ!偽だぞ、オレ目線では梓乃さんは間違ったことを言ってない。確かに怪しいCOの仕方だったかもしれないが、真役職だったとしても疑われたらそうやって出るしかないじゃないか。章夫と梓乃さんが敵対しているというのなら、オレと梓乃さんは同じ目線だ。村が惑わされているんだ。」
ここで梓乃と同じサイドに入るのは、明らかにまずい行動だ。
だが、乙矢は四面楚歌の状態になりそうだったから、少しでも味方が欲しかったのだろうか。
澄香と梓乃の間に、敵対の空気が流れているので、だからこそ真だと信じているのだろうか。
それは、分からなかった。
「とにかく、どうするべきか邦典に決めてもらおう。誰が人外なのか分からないんだ。確定村人の邦典の判断しか、ここは信じられないだろう。どうする?今夜はどこを吊るんだ。」
博が言うと、邦典は自分が書いたホワイトボードを見つめた。
敏弘が襲撃されるまでは、そこに記入していたのは敏弘だった。
邦典は、その字をじっと見つめてから、言った。
「…猫又は、博が言う通り慎重に見極めなければならない。オレはどこまでも東吾が真だと思うが、絶対ではないからな。まずは、必ず敵対している二人、乙矢と澄香さんの二人から選ぼう。乙矢がまだ真かもしれないと思うなら澄香さん、乙矢が偽だと思うなら乙矢に。票は割れるだろうが…民意に委ねる。章夫は、こうなって来ると真の可能性が上がって来たので今夜は保留だ。明日からの色でまた、状況が変わるだろう。その時に決める。」
梓乃が、それでも言った。
「ローラーを止めるの?!そんなことをしたら、後々吊れなくなるのに!」
哲弥が、言った。
「だから真の可能性があるんだ。君が猫又だとCOしたことで、章夫の真が上がって来たんだよ。なんで分からないんだ、君が大した理由もなく章夫を吊り推すから、疑われた上にCOして、怪しくなってしまって君の意見は通らなくなったんだよ!自分のせいだろうが!」
それを聞いた、識がスッと眉を寄せたが、誰も気付かなかった。
ただ、東吾だけが識の動向を必死に追って合わせようとしていたので、それに気付いた。
「…なんか、今の、哲弥は章夫を吊りたかったけど余計なことをして、って怒ってるようにも聴こえたんだけど…。」
多分気のせいだが、言い方がそんな風に聴こえた。
それには、識が頷いた。
「私にもそのように。」
わざと切っている狼同士のように見えなくもない。
哲弥は、え、と思わず口を押さえた。
「待ってくれ、そんなつもりじゃ…ただ、なんだってそんなにローラーを推すんだって。自分に理由があるのを理解できないのかって思っただけで。」
確かにそうなのだろうが、言い方は重要だ。
本当に言葉は、考えて使わないと回りがどう受けとるのか分からない。
安易に感情にあかせて放ってしまっては、ここでは文字通り命取りになるのだ。
妃織が、東吾を睨んだ。
「だから哲弥さんは白よ!確かに澄香さんの色は識さんが言うように私には分からないけど、哲弥さんは白なの!みんな神経質になり過ぎだわ、私の結果が出てるのに!」
さも自分が真だからその白先を疑うなんてと、憤っているように見える。
だが、その疑いが自分にまで波及するのを恐れている人狼にも見えた。
「…段々仲間が透けて見えて来たな。」ずっと黙っていた、貞行が言った。「こうして流れを見ていたら、なんか分けられて来たように感じる。妃織さんは初日から昨日もだが、なんかやる気もないような様子で、相互占いも気にしてなかったし、人外だとしても囲ってないなあと思っていた。オレは自分が囲われていないことを知っていたし、それでも相互占いよりグレーを占いたいと言う識さんは限りなく真に見えていた。乙矢は空回りしている真か、真を取ろうと必死な人外かのどちらかだと感じていた。今日になって、急に必死になって哲弥を庇う妃織さんは、やっと指定先に入った仲間を囲った狼にも見える。となると、初日の囲いは発生していないか、それとも占われても大丈夫な白人外だったとも思える。つまり妃織さんと哲弥が同陣営、澄香さんはまだ分からない。梓乃さんはヘマをして切られようとしている仲間かもしれないな。乙矢は庇う人が居ないので、相変わらず真か、もしくは相方の背徳者を失った狐なのか。識さんは皆が信用しているのでよく分からないが、今のところ狼要素も狐要素もない唯一の占い師だ。だからやはり、真なのではと考えている。どことも繋がらないからだ。章夫のことも真だろうと言うだけで断言はしないし、理由もなくここは黒だと断言しない。絶対ここを吊れと推さないことから、本当に色が見えていない村人に見えるんだ。全部邦典に決めさせるだろう。他の人外候補と、そこが違う。」
ずっと黙って潜伏臭がしないでもない貞行だったが、ここへ来てきちんと自分なりに見ていること、考えていることを主張して来た。
幸次が、言った。
「君の主張は確かに的を射ているが、オレは白人外じゃない。話の流れから狂信者だと思われているのだろうが、もしそうならオレは囲われてるのに霊媒に出てるよ。狼の妃織さんの結果を補佐しないといけないだろう。黙って潜伏してるだけの狂信者なんか、狼の役に立たないじゃないか。」
貞行は、答えた。
「霊媒はローラーされる可能性があるからな。だったら潜伏して白くなり、最後に狼以外の所へ票を投じる方が余程狼利があるじゃないか。それだけで決められない。もちろん、ただの村人かもとも思ってるよ。」
幸次はホッと胸を撫で下ろしたようだったが、それでも疑いを向けられた事実は村の記憶に残るのだ。
落ち着かないのは確かだろう。
「…今夜は乙矢か澄香さんだと邦典が決めた。」識が言った。「貞行の意見は意見として皆の心に留め置いて、とりあえずこの二人の意見を聞こう。その上で投票しないことには、皆が納得しないだろう。明日からは、占い指定先もグレーだけでなく既に白が出ているもの達にも及ぶ。心して意見を聞いて、よく考えて投票するようにな。」
識は、余計なことは言わない。
東吾は、識の姿勢に感心していた。
皆の意見を外から誘導し、そうと思われないようにここぞと言う時に皆が受け入れやすい言葉で、上手く狼以外の所へと疑いを向けるのだ。
敵でなくて良かった、と、つくづく東吾は思っていた。
博が最初の夜時間に言っていたが、ここまでとは思っていなかった。
敵だったら、簡単に捕捉されて狼はなす術もなかっただろう。
占い師ででもあったらもうお手上げだ。
狐らしい所も、あっさり初日に捕捉していたのだ。
外が暗くなって来て、また夜になって行く。
東吾は、乙矢と澄香の命を懸けた弁明を、じっと聞いていた。




