表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣の棲む森にて  作者:
人狼
31/66

三日目昼

東吾は、博と梓乃を放って置くわけにも行かないので、皆と一緒にキッチンへと向かった。

邦典と章夫は来なかったが、一気に大人数が入って来たので二人は驚いたような顔をしてこちらを見る。

博は、梓乃とダイニングテーブルに向かい合って座って、何やら話を聞いていたようだった。

「…ああ。休憩にしたのか。」

博が振り返って言うのに、東吾は頷いた。

「識さんが疲れたって。あんまり感情的なのは苦手みたいだ。」

博は、ため息をついて頷いた。

「だろうな。あいつは14歳でアメリカの大学に渡ったから、最初から回りは大人だらけで落ち着いてたし、男女交際とか、そういうのも面倒がって遠ざけるヤツだったから…慣れないんだと思う。あんまり感情ってのが理解できないんだ。秩序立てて考えるのは得意なんだけどな。」

哲弥が、言った。

「へえ。そんな歳で大学って、じゃあめっちゃ頭が良いって事なのか?言ってたよな、なんか頭が良過ぎて不幸だとかなんだとか。」

博は、苦笑してからかうように言った。

「そう。君が言った事は恐らく、一言一句間違えずに覚えてるぞ?もし人外だったら、気を付けた方がいい。」

言われて、幸次は驚いた顔をした。

「え、オレは違うから大丈夫だよ!」

博は、ハッハと笑った。

「冗談だ。」と、立ち上がった。「ま、梓乃さんも落ち着きな。休憩だから部屋に帰って一人で考えて来てもいいかもしれない。これは、人狼ゲームだ。命がけのな。感情どうのじゃなく、しっかり思考を開示して、こういう事だから吊りたいって言って吊るべきなんだ。もし、本当に章夫が人外だと思うなら、傍に居ないとかそんな事じゃなく、ゲームをしている中で得た情報の中で怪しい所を皆に言って同意を得るようにしろ。でないと、自分が吊られるぞ?」

梓乃は、下を向いて聞いていたが、頷いた。

そんな梓乃に、他の村人たちは声を掛けることはなかった。

触らぬ神に祟りなしということのようだった。

梓乃は、それから誰も何も話しかけても来ないので、冷蔵庫から食べ物を探して温めて、それを持ってキッチンを出て行った。

東吾は、そんな梓乃の後ろ姿を見て、大きなため息をついたのだった。


昼の会議は、最初から何やら不穏な空気だった。

乙矢、妃織、識の三人はそもそもが敵陣営で、最初から馴れ合うことなどない間柄だったが、今日で決定的にそれを突き付けられた形なので、更にお互い話すことはおろか視線すら交わさないような様子で殺伐としている。

それに、明確に敵対陣営となった乙矢と章夫は睨み合っていて、澄香も乙矢に厳しい視線を向けていた。

哲弥は澄香を信じることにしたようで、同じように乙矢には、険しい視線を向けている。

対して章夫には、味方だと思うのか、好意的なようだった。

梓乃は占い師の誰を疑っているというのではなく、ただ章夫が怪しいと思うようで、隣の章夫をひたすらに睨んでいた。

その目には本物の憎悪のようなものが感じられて、東吾は身震いした。

可愛さ余って憎さ百倍とはこのことなのだろうと、やはり恋愛など面倒だと東吾は一層思っていた。

邦典が、言った。

「とにかく、別陣営同士だと判明したもの達同士がいがみ合うのは仕方ない。だが、村目線じゃどっちが同陣営なのか分からないので、冷静に話を聞きたいんだ。とりあえず章夫、話してくれ。」

章夫は、異様な雰囲気の中で、言った。

「だから僕目線、敵だと分かったのは乙矢だけで他は分からないよ。久隆さんは吊ったしね。澄香さんのことは、さっきも言ったように僕目線でもまだ黒はあり得るんだ。狐が入ってるレギュレーションだから、乙矢の敵が僕の敵ってこともあり得る状況なんだ。だからもし澄香さんを吊るって言うなら、飲むよ。だって明日色が分かるし、黒だったら乙矢は狐ってことになるからね。」

識が言う。

「さっきも言ったように私目線でも澄香さんが黒の可能性はあるし、妃織さん目線でもあるはずだ。なぜなら哲弥は白かもしれないが、色が見えていない村人の可能性があるからな。親しいから庇っているだけで、哲弥が白だから澄香さんも白だという論はおかしい。つまり、章夫の真が追えるなら今日澄香さんを吊っても問題ないのだが…問題は、章夫の真要素がどこまであるかだな。佐織さんは確定白で、背徳者でもない限り村人だ。澄香さんを吊ってしまって、白だった時が厄介だ。完全グレーを詰めるという手もあるが、そもそもがもうグレーには人外が残っていない可能性がある。既に囲われていてもおかしくないし、その上この数の役職騙りが出ている。私としては、乙矢と澄香さんのランでいいかと思っている。私目線必ず乙矢は人外で、もしかしたら両方が人外なのだ。その場合、私目線で確定人外である乙矢に入れると言っておく。そして、残った澄香さんを私が占う。それで次の吊り先が決まるからだ。」

邦典は、顔をしかめた。

「村目線では、確かに識さんが真かもと思ってはいるが、そこまで決め打てないんだ。乙矢が真だったなら、章夫も必然的に人外になるし、見極めが難しい。」

識は、頷いた。

「だからあくまでも私目線だ。乙矢が真だと思うなら、澄香さんに入れたらいいのではないのか。昨日は霊媒を吊ったが、今日黒が出たことで完遂するのか、黒を吊るのか、黒を出した占い師を吊るのかを、村は決めなければならないのだ。君が村の代表なのだから、君が決めろ。そうでなければまた、初日のように土壇場で怪しい所を探すことになって、満足な弁明をさせてやれないまま吊ることになるぞ。」

邦典は苦悶の表情になる。

梓乃が、言った。

「だからそれは明日でいいと思う。佐織さんで一つ白、霊媒で一つ白と人外、明日から乙矢さんと澄香さんのランにしたらいいと思うわ。」

まだ霊媒ローラーを推すんだな。

東吾は、思った。

しかし、博が言った。

「この村は19人で9縄7人外だ。最初の3吊りで、余分の縄を使いきれと君は言うんだな?人外を一人吊ると、確かに1縄余裕ができるが…。」

梓乃は、頷いた。

「そうよ。狐は呪殺があり得るわ。無駄にならないと思う。一人人外が確定で落ちていることが分かるのは助かるはずよ。」

章夫が、ため息をついた。

「まあ、僕目線じゃ確かにもう一人外が落ちてるからね。僕が吊られても、だからまだ縄に余裕はあるよ。村目線でスッキリするなら、それでもいい。だから、ローラーするなら村はもうその話はしなくていい。明日からの話をしてくれ。無駄になる。」

梓乃は、驚いた顔をした。

章夫が、あっさりローラーに応じたからだ。

邦典が、言った。

「…いいのか?澄香さんの色を見たいんじゃないのか。」

章夫は、肩をすくめた。

「そりゃ僕は真霊媒だから、色が見えるし村に情報を落としたいよ。でも、霊媒結果無しで進めるからローラーを完遂するんでしょ?生き残っても、結局スケープゴート位置にされる可能性があるし、だったら吊られるよ。梓乃がこの様子だし、僕が生きてる限り殺そうとして来るだろう。もしお互い村同士だったりしたら、村に迷惑が掛かるからね。」

識が、眉を寄せた。

「ならば…君が吊られたら、私は梓乃さんを占おう。もしかしたら、あんなことを言ってそれを隠れ蓑にして、人外が真霊媒を吊り推している可能性があるしな。」

梓乃は、それを聞いて識を見た。

「え、私は占い位置じゃないわ。だって妃織さんから白が出ているもの。」

識は、梓乃を見た。

「その妃織さんと私は敵陣営なのだ。私は自分が占った所しか信じていない。君は私のグレー、乙矢のグレーでもあるしな。色などまだ分からない。」

梓乃は、むきになって言った。

「私は白だわ!他を占ってくれないと、色が分からないわ。明日以降の吊り先を決めるのに困ることになるわ!」

邦典が言った。

「君の白などまだ、妃織さん以外には見えていないんだ。村には大切なことだ。君が吊り推した章夫の色を知るためにも、君の色は村にとって重要なんだ。」

梓乃は、唇を噛んだ。

猫又をCOされたら、間髪いれずに出なければと、東吾は緊張して梓乃を見つめた。

「…私は、役職なの。だから白。」

出た…!

東吾は、にわかに胸がドキドキしてくるのを感じた。

言うべきか。でもまだ猫又だと言っていない…。

すると、東吾の隣で硬い表情をしていた、浩介が言った。

「おかしいよ!」東吾がびっくりして振り返ると、浩介は続けた。「役職って邦典が知らないってことは狩人じゃないでしょ?だとしたら、残りは猫又だ!オレは知ってるぞ、君は猫又じゃない!」

浩介には、話しているからか。

東吾は、思った。

浩介は、知っているから黙っていられなかったのだ。

こんな風に言ったら、浩介が猫又に見えるかもしれないが、浩介はただ、東吾を庇おうとしている、村人だった。

「あなたが猫又だとでも言うの?だったら狼だわ、だって私が猫又だもの!章夫には最初に話したわね?」

章夫は、怪訝な顔をした。

「え?何の話だ?お前に役職を聞かれたから、答えないって言ったのは覚えてるけど。お前が猫又?そんなこと初めて聞いた。知ってたら最初から僕はお前と敵対なんかしないじゃないか。」

梓乃は、また驚いた顔をした。

というか、どうして章夫が自分を庇うと思ったのだろう。

東吾は、頃合いだと言った。

「…もういいよ、浩介。噛まれたらって思って黙ってたけど、オレが猫又なんだ。浩介は知ってるからオレが潜伏したいって意思を汲んで、こうして言ってくれてたんだよ。」と、邦典を見て、さも残念そうに言った。「ごめん、誰にも知られたくなかったから、黙ってた。狼が噛んでくれたら狼が一落ちると思って。狐と間違えられたらいけないし、浩介には打ち明けたけど。というか、気取られて誤魔化し切れなかったんだ けどね。」

邦典は、苦笑した。

「いいよ、知ってた。だから信用してるって言ってたんだ。章夫も気取ってたんじゃないか?」

章夫は、頷いた。

「なんかそれっぽい意見だったからさあ。だから黙ってたんだけど。」

何やら場違いなほのぼのという雰囲気を切り裂いて、哲弥が、言った。

「ちょっと待て。ってことは、梓乃さんは偽者か?」

そういうことになる。

もちろん、東吾はただ伏線を張っていた人狼に過ぎないのだが。

梓乃は、叫んだ。

「待って!違うわ、何を言ってるのか分からない!私よ、私が猫又なの!その人はきっと狼よ!」

だが、疑われてからCOした梓乃は、数日前から匂わせていた東吾と比べて、黒く見えるのは仕方が無かった。

博が、言った。

「一応、二人出ている以上どっちかが偽で、どっちかが真だ。普通ならローラーするべきなんだが、猫又は特殊な役職だからそれができない。どうする?放置か。いずれ決め打ちだぞ。」

晴太が言った。

「そんなの、分かり切ってるじゃないか。」と、梓乃を指差した。「梓乃さんは章夫を吊ろうとした。あからさまに。しかも、関係は最悪だが章夫は梓乃さんを吊りたいと言ったことが無いので、梓乃さんから一方的にな。だからこの二人は敵対陣営で、梓乃さんから一方的に敵対陣営だと知っていると言うことになる。同じように、澄香さんとも敵対だと梓乃さんは知っているようだった。なぜなら吊りたいと前も言っていたからだ。こちらも敵対陣営なのだろう。となると、梓乃さんの色は重要だ。みんなは、梓乃さんは色が見えてる猫又だと思うか?それとも狼だと?」

猫又から見た世界はなんだろう。

猫又は猫又でしかなく、その死によってしか能力を発揮できない役職だ。

つまり、梓乃から見ていろいろな色が透けているのはおかしいのだ。村と同じ視点でしかないからだ。

梓乃は、慌てて言った。

「私を吊ったら誰が犠牲になるのか分からないのよ?!村人だったら縄が無くなる!吊るなら東吾さんにして!」

東吾は、首を振った。

「オレは真猫又だから吊られるわけにはいかない。ルールブックで見たが、猫又が吊られたら次の日の朝ランダムに誰か道連れになる。狼に襲撃されたら狼を道連れにするが…だが、もうそれは望めないけどな。」

邦典が、言った。

「オレは、ポッと今思い付いたようにCOした梓乃さんより、最初から必死に猫又を隠そうとしてた…結果的にそれでオレとかにバレてるんだけど、東吾の方が真に見える。議論にも積極的に参加していたし、狼から見たら鬱陶しい存在に見えるんじゃないかって思う行動だってしてた。そうして、噛ませて狼を連れて行こうって気概を感じていたんだ。梓乃さんは黙ってるだけだし、章夫を吊りたい理由が章夫の黒目じゃなくて感情とローラーを完遂したいって意見だけだし、信じられないんだよ。これまでの行動が、とてもじゃないが村のための行動に見えないからな。だから、猫又候補を吊るなら梓乃さんだ。」

梓乃は、首を振った。

「どうしてそうなるの?!駄目よ、誰か死ぬのよ?私は真猫又だわ!」

どんどんと沼にはまって行く感じがした。

感情的に言えば言うほど村からはますます黒く見えて来る。

東吾は、本当に最初から猫又を騙る伏線を張っておいて良かった、と思った。

普通に出て来て、簡単に信じてもらえたとは思えないからだ。

村の空気が、乙矢と澄香、章夫から反れて、変わって来ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ