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獣の棲む森にて  作者:
人狼
3/66

森の中の屋敷

「東吾、おいってば。」

東吾は、ハッとした。

最初は話していたものの、初めて会ったばかりでそうそう会話も続かなくて、東吾はいつしか寝てしまっていたようだ。

気が付くとバスは、ものすごく細い山道を、ガンガンと進んでいて右へ左へ揺れていた。

隣りを見ると、浩介が青い顔をしていた。

「さっきからこんな道に入って。廃道みたいなんだよ、一応舗装された跡はあるけど草だらけでガードレールもなくて。みんな、黙り込んじゃって。」

東吾は、確かにこのバスギリギリの幅しかない道を、ふらふらと揺れながら進むのに不安になった。

窓の外を、せり出した枝がこすって行って音がする。

傷だらけになっていそうな感じだった。

「めっちゃ山奥なんだな。洋館もボロボロだったりして。」

東吾が言うと、浩介は頷く。

「クトゥルフの世界みたいだ。クトゥルフは知ってる?」

東吾は頷いた。

「知ってる。でもやめてくれよ、そんな風に考えたら怖いだろうが。」

山奥のボロボロの洋館なんて、考えただけでも恐ろしい。

浩介は言った。

「だってさ、話がうますぎるだろ。スリルがあるとか書いてたじゃないか。一人で寝るのが怖かったら部屋へ行ってもいいか?」

東吾は、顔をしかめた。

「別に構わないけど。でもルールブックは見たか?違う所で寝ていいのかよ。」

確か、ちらりと見た感じ、時間通りに部屋に入って寝ろと書いてあったような気がするのだ。

浩介は、首を振った。

「見てない。っていうか、そうなのかな。そんなルールまで決めてあった?」

東吾は、ポケットからしおりを引っ張り出した。

「ええっと…ほら、ここ。夜10時、各自の部屋に入って村役職行使。鍵がかかって外には出られなくなる。多分ダメだろ。まあ、また説明があるだろうけど。」

浩介は、怯えたように身震いした。

「…嫌だなあ。綺麗な洋館だと思ってたのにさあ。」

というか、まだボロボロとは決まってないけど。

東吾は思ったが、何も言わなかった。

皆の不安を感じ取ったのか、竹内が運転席の横の補助席から振り返った。

「もう到着しますよ。ここは道が悪くてすみません。」

悪いというレベルではないけど。

思いながら黙り込んでいると、不意に目の前が、パッと開けた。

かと思うと、広い、森の中にぽっかりと木の無い見通せる場所へと出て、遠く正面には大きな洋館が姿を現した。

「あ!」

浩介は、思わず声を上げた。

その洋館は、どっしりとした存在感があるのに真新しく見えた。

外壁などを綺麗に手入れしてあるのは、それで分かった。

窓は磨かれてあるのか日の光を反射していて、例の神話の世界など露ほども感じ取れない立派な様子だ。

近付くにつれて、そこがまるで高級ホテルのように見えて来るから不思議だった。

「わあ…!素敵!」

後ろから、女子の声がする。

確かにその洋館は、こんな山奥にあるのがもったいないほど美しい建物だった。

竹内が、言った。

「運営のご家族の持ち物で、普段は別荘として使われているそうで、今回無償で使わせてもらえることになったんです。中もそれは綺麗ですよ。」

東吾は、思わず窓の数を数えた。

…五階建てだ。

使うのは三階までのようだが、実際は五階建てのようだった。

これだけ大きければ、ホテルとしても使えそうだが場所が場所なので、本当に別荘なのだろうが、こんな物を持っている運営の家族とはどんな人なんだろう。

東吾は、思った。

バスは問題なく玄関前に止まり、プーという聞きなれた音がして扉が開かれた。

「到着しました。では、前から順に荷物を持って降りてください。お部屋にご案内致します。」

一番前の席の浩介と東吾は、網棚から荷物を取って言われるままにバスを降りた。

木の香りがする。

大自然のただ中なので、空気が半端なくいい。

後ろから次々に皆が降りてきて、中には大きなスーツケースを引きずっている人も居た。

確かに9日滞在となると、海外旅行並みの装備でもおかしくはない。

ボストンバッグ一つの東吾は、何やら肩身が狭かった。

竹内は、そんなことは気にせずさっさと大きな扉を開いて中へと歩き出した。

「ついて来てください。二階、三階ですので階段を上がります。」

そろそろと遠慮がちに足を進めて中へと入ると、玄関ホールは絨毯が敷き詰められてあり、天井からはこれ見よがしに大きなシャンデリアが吊り下がっていた。

正面にはお姫様でも降りて来そうな広くて大きな階段があって、そこを竹内が迷いなく上がって行く。

回りをよく見る暇もなく堪能する暇もなく、皆は竹内の後を必死に荷物を引きずって追って行った。

階段は踊り場を過ぎて左へと折れ、さらに上がると長い廊下があった。目の前に「3」のプレートがついた扉があって、両脇に離れて同じ扉が続く。

竹内がそこで立ち止まって、言った。

「あちらの端から1、こちらの端が6です。1の向かい側に7、2の向かい側に8、飛ばして5の向かい側に9、6の向かい側に10です。入って荷物を置いたら、先ほどの玄関ホールへ降りてきてください。館内のご案内を致します。」

竹内に追い立てられるように、11からの人達は三階へとそのまままた廊下を左に折れて上がって行った。

東吾が、何やら急がねばならないような気持ちになりながら端の部屋へと足を向けると、浩介が言った。

「なんかさあ、めっちゃ綺麗な中身なのに、感動してる暇もないな。なんだってあの竹内さんは急いでるんだろう。」

東吾は、チラを浩介を見て歩き出しながら、言った。

「そりゃ、何か時間が決まってるんじゃないか。竹内さんはここに居るわけじゃないみたいだし、ここからまた二時間かけて帰るんだろ?今、もう三時過ぎてるし、あの道は暗くなる前に帰りたいじゃないか。この時期はもう、四時過ぎたら暗くなって来るのに。」

浩介は、それに思い当たらなかったらしく、ああ!と目を丸くした。

「そうか!そうだよな、あんな道を暗くなってからなんてオレも怖くて無理だ。急ごう。」

浩介は、3号室の隣りの扉へと入って行く。

東吾は、奥の扉へと急ぎ足で向かって、その重そうな扉を開いた。


扉は、思ったより重くなくすんなりと開いた。

中は、相変わらず絨毯敷きで広々としていて、正面にある三つの窓からの光が入ってとても明るい。

入ってすぐ左にはクローゼットがあって、反対側の扉を開くとバスルームで、トイレと洗面所が一緒についているタイプの物だった。

奥へと進むと、左側の壁に沿うようにして机があって、その前に鏡がついていた。反対側の壁には、大きな天蓋付きのベッドがあり、どうやらキングサイズだ。

めっちゃデカい!

東吾は、内心思っていた。

こんなデカいベッドで独りきりとか、寒いんじゃないだろうか。

そう思うほど、一人には大きすぎるほどのベッドだった。

クローゼットを開いてとりあえずボストンバッグを放り込むと、スリッパが並んで置いてあった。

足が蒸れそうだし履き替えたいところだったが、まだ挨拶も済んでいないので寛ぐのは早過ぎるかと、それはやめにした。

上着を脱いでハンガーへと掛けると、運営の説明がいつ終わるのかも分からないので、バスルームでサッサと用を足して手を洗った。脇に掛けてあった真っ新なタオルで手を拭いて、至れり尽くせりだなあと思いながら、スマホだけをポケットに滑り込ませ、階下へと急いで向かった。

廊下へ出ると、数人が歩いて階下へと向かうところだった。

胸に名札があるので、名前が分かる。

東吾は、一応挨拶ぐらいはしておこう、と、目があった男女の、男の方へと声を掛けた。

「あ、オレは1番の東吾です。哲弥さん?」

相手は、頷いた。

「あ、よろしくお願いします。そうです、哲弥です。こっちは彼女の澄香(すみか)。一緒に申し込んだから、番号が並んだみたいで。」

東吾は、頷いた。

「オレは一人で申し込んだんで。」

二人と一緒に階段を降り始める。哲弥が、言った。

「え、でも隣りの人と仲が良かったよね。一緒に来たんだと思ってた。」

東吾は、首を振った。

「隣り合わせたから話してただけで。向こうも一人で来たみたいだし、ちょっと最初心細かったから話し相手してもらってた。」

二人は、笑った。

「そうだよね。一人って、勇気あるなあ。私、哲弥に無理言って一緒に来てもらったんです。」

澄香が言う。哲弥は、渋い顔をした。

「そうなんだよね。クリスマスも何もしなくていいから、これに一緒に行こうって。正月実家に帰るつもりだったから、母さんに文句言われた。」

東吾は、苦笑した。確かに自分も喪中でなかったら帰ると言っていただろうし、いきなり変更したら散々文句を言われただろう。

すると、三階から最後にバスに乗り込んで来た、あの高級そうな車から降りて来た二人が、降りて来るのが見えた。

16(ひろ)17(しき)とそれぞれ書いてあった。

16?…同じ陣営。

東吾は、博という男の顔を見た。

相手は、三十代ぐらいの年上の感じで、とても落ち着いた様子だ。

もう一人の識は、きりりとした凛々しい顔立ちで肌を見ても若そうなのだが、落ち着いて見えて年上にも思えた。

「ええっと、東吾です、よろしく。」

東吾が思わず話し掛けると、博が笑って答えた。

「ああ、よろしく。オレは博。こっちは識。従兄弟同士で参加したんだ。オレの会社が今日午前中あったから、会社の車で送ってもらってギリギリ間に合ったよ。まさかこんな山奥だとは思わなかったけどな。」

博は、結構フレンドリーだ。

対して識は、あまり表情を変えない男だった。

「自己紹介は後の方がいい。あの竹内は急いでいただろう。日が暮れたらまずいんじゃないか、あの道だし。」

やっぱりそう思うよな。

東吾は思って、頷いた。

「オレもそう思う。早く降りよう。」

そうして哲弥と澄香も共に、五人は急いで階段を降りた。

玄関ホールには、もう皆がこちらを見上げて待っていた。

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