朝の会議2
澄香がグレーに戻ったところで、識が言った。
「…で、提案があるのだが。」皆が識を見る。識は続けた。「グレーは引き続き占うが、まずは霊媒師だ。今現在章夫と久隆が出ているが、この二人について、皆をどう思う。」
邦典が、言った。
「霊媒師?そうだな、どちらかが真だろうが、まだ分からない。章夫はグレーだったし、久隆さんは乙矢の白。同じ結果を出しているし、比べようがないな。」
識は、少しイラッとしたように眉を寄せたが、続けた。
「そうではない。日向さんが噛まれた意味を考えたことがあるか。狼は恐らく、昨日はどこかに潜む霊媒を噛もうと思ったはずだ。澄香さんが出て居たが、狼目線で背徳者か何かだと思ったのか、それとも居ても吊られると思ったのか、噛んでは来なかった。だが、日向さんを噛んだ。どうしてだと思う。」
邦典は、顔をしかめて敏弘を見る。敏弘は、困惑した顔をした。
「え…いや、護衛が入ってなさそうなところを適当に噛んだのか?」
それには、哲弥が言った。
「そうだ!投票だよ、昨日の投票先!オレ、あの後結果をじっと見ていたが、澄香に入れてた人が何人か居たんだ。澄香は結果的に霊媒を騙ってたんだから、偽だと知っている真霊媒はそれを見過ごせなかったはずなんだ。グレー吊りだと分かっていても、入れて来るような人は、真霊能ぐらいだと思ったんじゃないか。」
邦典が、急いで言った。
「敏弘、お前投票先メモってたよな?昨日澄香さんに入れたのは誰だ?」
1(東吾)→14(佐織)
2(浩介)→14(佐織)
3(哲弥)→14(佐織)
4(澄香)→8(章夫)
5(敏弘)→14(佐織)
6(妃織)→14(佐織)
7(久隆)→14(佐織)
8(章夫)→4(澄香)
9(梓乃)→4(澄香)
10(幸次)→14(佐織)
11(貞行)→14(佐織)
12(乙矢)→14(佐織)
13(日向)→4(澄香)
14(佐織)→4(澄香)
15(邦典)→14(佐織)
16(晴太)→4(澄香)
17(博)→4(澄香)
18(識)→14(佐織)
19(歩)→14(佐織)
東吾は、そのメモをホワイトボードに貼った敏弘の脇から、覗き込むように見た。
澄香に入れているのは、章夫、梓乃、日向、佐織、晴太、博の六人だ。
東吾目線では、仲間が章夫、晴太、博で、違う所に投票しておこうという意識からそうしたのだろうと思われた。
だが、それを見た幸次が言った。
「…章夫は分かる。霊媒だから対抗だと思ったから入れたんだろう。他の人達は?」
博が、答えた。
「昨日は佐織さんがどうしても黒いと思えなかったし、他の人達が黒には見えなくて、投票先に困ったんだ。それで、どう見ても吊り回避にしか見えない澄香さんに投票した。」
晴太も、頷いた。
「オレもそうだ。ほんとにみんな白くて、もしかしたら二人ぐらい囲われてて後は占い師に出てて、ほとんどグレーに居ないんじゃないかって思ったぐらいだ。」
梓乃も、言った。
「私は始めから怪しいって思っていたわ。だから投票した。」
敏弘が、うーんと唸った。
「こうなってみると、日向さんってそんな強い意見を持っている方でもないのに、澄香さんに入れてるよね。だから、真霊媒かもしれないって思って噛んだんだろうか。」
識が、頷いた。
「私は、そう思った。昨日の投票の直後、この中では潜伏臭がする日向さんか、澄香さんのCOに意見していた章夫辺りが真だと思ったのではないかと。」
邦典が、言った。
「あれ。」と、投票先を指した。「久隆さん、澄香さんに入れてないよね。偽だと分かってるのにどうして?」
それを追わせたかったのか。
東吾は、合点が行った。なので、言った。
「ほんとだ。これだと久隆さん目線、偽が出てるのに白の佐織さんに入れたって事になるよな。」
久隆は、反論した。
「オレはどうせみんなグレーだから、オレが一人澄香さんに入れたりしたら、目だって噛まれると思ったんだ。だから皆が直前に怪しんでいた佐織さんに入れた。別に、他意はない。むしろ章夫と日向さんは、不用心じゃないか?現にそれで日向さんが噛まれているんだぞ。」
「それは結果論だ。」識が言った。「君は、霊媒らしい動きではないと私は思うんだ。本当に霊媒師なら、昨日からそれらしい動きはどこかに出ているはずだが、君にはそんなものは無かったのではないかと思う。最後に、投票もだ。複数入っていたら狼は迷うから、そんなにうまく真霊能を噛めたとは思っていないし、日向さんが霊媒を騙ろうとしていた人外かもしれないとも思っているが、君に比べたらよっぽど霊媒師だ。つまり、私は久隆が怪しいと思っているのだがな。」
敏弘は、え、という顔をした。
「今日は霊媒を吊るのか?」
識は、首を傾げた。
「どちらでも良い。村にどうするかは任せるが、しかし後縄は8縄で佐織さんと日向さんが白人外でなかったと仮定して人外はまだ狼四人、狂信者一人、狐一人、背徳者一人の七人居る。そして、そのうち三人、もしくは四人が役職に出ている。占い師に二人、霊媒師は最悪両方偽の可能性まであるからな。占い師は決め打ちだろうからまだ吊れないだろうが、霊媒師は吊るべきだ。二分の一で当たる確率がある。もしくは、どちらも人外の可能性まである。今は黒が出ていない以上、囲いも考えてグレーに何人の人外が残っているのか分からない。ならば、二分の一で確実に人外を吊っておくのが得策ではないか?」
久隆が、言った。
「おかしな理論だ。だったら占い師から吊る方が良いじゃないか。三分の二の確率で人外に当たるんだぞ?霊媒二人で色を見て、黒が確定する可能性だってあるんだ。」
章夫が割り込んだ。
「占い師は狐を呪殺するかも知れないんだぞ。そうなったら確定するからそれからでも良いじゃないか。僕はできたら決め打って欲しいけど、それでも村のためなら人外ごとローラーされても仕方ないって思ってるよ。占い師は今日じゃない。いくら識さんが真目が高くても、他に真占い師が居るかも知れないんだからな。まだ二日目なのに、占い師決め打ちなんかできない。」
敏弘が割り込んだ。
「占い師はまだ吊れない。」敏弘は、言った。「確かに囲いも発生していてもおかしくない。昨日、今日で連続で囲われてたら、占い師の中の人外と合わせてかなりの数がグレーから逃れてる可能性がある。だったらもう一日待ったら黒が出るかも知れないし、今日は一人、もしくは二人とも人外の可能性がある霊媒を縄に掛けるのが確かに良いかも知れない。」
しかし、乙矢が言った。
「今日グレーを吊ってグレー幅を狭めてくれたら、占い先に黒が当たる可能性が高まるんだぞ。霊媒が居ないと、その黒を証明する術がなくなるじゃないか。オレ目線で人外の識さんが勧める事を、やろうとは言いづらい。オレ目線じゃ少なくとも識さんは昨日囲っていなかった。案外に囲いは少なくてグレーにたくさん黒が残ってるんじゃないのか。」
それには、晴太がふと、言った。
「…それって、識さんが黒、狼だということ?」乙矢がそれを聞いて怯むと、晴太は続けた。「乙矢が真占い師だとしても、どっちが狼でどっちが狐とか分からないはずだよな。昨日は背徳で貞行が囲われてるみたいな事を言って相互占いを推してたけど、今日の目線は識さん狼?ちょっと乙矢の思考の流れが聞きたいな。」
言われてみたらそうだ。
乙矢の言い方だと、既に識が狼陣営だと知っているように聴こえる。
乙矢は、慌てたように言った。
「そんな風に聴こえたなら謝る。今日、貞行で白が出て呪殺できていなかったから、狐はないってことだろ?だから、今朝考えが変わったんだ。オレ目線では識さんは人外だから、狐でないなら狼だ。だからそう言った。貞行は黒でもないから囲いもない。そう思って言ったんだ。別に霊媒吊りからでもいいが、それなら白が出てる久隆さんより、オレ目線人狼かもしれない章夫を吊る事を推すけどな。」
邦典が、怪訝な顔をした。
「でも…まだ識さん本人を占ったわけじゃないよな。」皆が邦典を見る。邦典は続けた。「乙矢目線で昨日あれだけ識さんが狐陣営、背徳者だと思っていたのに、白が出たら覆るのか?逆に思わないのか?じゃあ識さんが狐で貞行が背徳者だって。そこですぐに黒だってなるのはなぜだ?」
東吾は、どんどんと追い詰められる乙矢を見つめた。
乙矢は、どうしたら疑いが晴れるのかと必死に考えているようだった。
やはり自分が狐だから、占い師に狐が出ているという意見は無意識に避けたのだろうか。
それとも、真占い師で把握漏れしたのだろうか。
分からないが、久隆の真贋が分からない今、どうにも考えようがなかった。
待てよ、久隆…。
「…ちょっと待て。」東吾は、言った。「なあ、もしかしたら、だけど、乙矢は狐陣営で久隆さんを囲ってるんじゃないか?」
敏弘が、眉を寄せた。
「だからそれはないって。昨日相互占いをめっちゃ推してたのは乙矢じゃないか。」
東吾は、首を振った。
「でも、結果的に久隆さんは妃織さんに占われていないからまだ乙矢以外は色を付けてない。今日霊媒に出て来たからこれからも占われる事はない。占われても構わない方の白人外だってことも考えられる。乙矢は現に霊媒ローラーよりグレー詰めを推している。久隆さんを庇っているようにも見える。つまり、乙矢は狐か人狼で、初日に背徳者か狂信者を囲っていて霊媒に騙りに出る久隆さんの準備をしたんじゃ。現に今日は、霊媒なら章夫を吊ると言った。」
乙矢目線では当然の意見なのだろうが、そこを使わせてもらうことにした。
真占い師でも狐でも、乙矢には真目を下げておいてもらわなければならないからだ。
乙矢は、言った。
「そんなのこじつけだ!東吾が狼なのか?!オレに言い当てられて焦ってるんじゃないのか。」
東吾は、わざと落ち着いた風を装って言った。
「別にそう思うならそれでもいいよ。今夜占ったらいいじゃないか。でも、君目線、人外は狼だけなのか?なんでオレが狼だと思うんだ?背徳者でも狐でもないんだな。」
乙矢は、言葉に詰まった。
役職にこれだけ出ていてたった二人の狐陣営だと思うのはおかしいのかも知れない。現に東吾は狼だし、狐なら黙っている方が得策だろう。
そう、妃織のように。
識が言った。
「待て。」皆が識を見る。識は続けた。「乙矢の味方が少な過ぎる。私目線では確かに人外だが、皆で寄って集って攻撃している。もしかしたら、乙矢は狐陣営か?村人に混じって狼が乙矢を吊るし上げているように見えてならないのだ。ということは、妃織さんが狼陣営か?」
急に水を向けられて、妃織はびっくりした顔をした。
これまで、これだけ占い師の間で諍いが起こっているのに、我関せずで聞いていたのだ。
その様には、余裕すら見えた。
「え…私目線では二人とも偽だから、偽同士で戦ってくれたら良いって思って…。」
「占い師の真贋に関わることだぞ。」邦典が、険しい顔をして諌めた。「どっちが狼でどっちが狐だろうとか、内訳を考えることで囲いがあるかとか、次の占い先とか考えることもあるだろう。どうしてそんなに人任せなんだ。真占い師の行動じゃない。君だけ全く意見を落としていないじゃないか。」
責めるような口調に、妃織は狼狽えて助けを求めて敏弘を見る。
だが、敏弘は黙って妃織を睨んでいるだけだった。
自分が疑われているのだとやっと分かったらしい妃織は、慌てて言った。
「違うの、占い先は指定してもらえるし、私が決める事じゃないと思って。どっちがどっちなんてどうでもいいと思ったのよ、だってどっちも偽なんだもの!私は村の意思に従って占って結果を出すだけでいいと思って…私から見たら、他の結果なんかみんな偽なんだもの!」
「それでも、きちんと考えていたら、特に昨日久隆さんを占っていたら君目線でも意見は出せたはずだ。」邦典は敏弘を見たが、黙っている。邦典は、険しい顔で続けた。「もういい、オレが共有の相方だよ。黒でも打ってくれたらと思ったが、もういい。オレは黙ってられない性格だし、透けて来るだろうし。敏弘はこうなって来ると進めづらいだろうから、オレが進める。今日は霊媒師から吊る。占い師の真贋は、明日でいい。」
識が、言った。
「占い師から吊らないのなら、呪殺を狙って占い師同士の相互占いを推奨する。」皆が黙ると、識は続けた。「この出方、昨日からの流れから、間違いなく占い師の中に狐が居る。私は乙矢を占いたいと強く言っておく。」
グレーが狭まらない…。
東吾は、どうしたものかと思った。
その提案は、まだ早いのではないか。
邦典は、どう判断するのだろうか…。




