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獣の棲む森にて  作者:
人狼
22/66

二日目の朝

そのまま、四人はむっつりと黙って階段を上がり、二階の廊下で会釈をしてお互いに挨拶をし、それぞれの部屋へと戻って行った。

こうして、襲撃をしたからとその相手がどうなるのか分からない。

日向は、13番なので三階の部屋だった。

狩人が誰なのかまだ分からないが、きっとあの後敏弘に自分の正体を告げているだろう。

いったい誰を守ったのかは分からないが、それが日向でない事は確かだ。グレーの中で、役職持ちだと気取った人が、いったい何人居るだろうか。

ここで守られていたら、あっぱれだと褒めてやりたい、と東吾は思ったが、次に浮かんだのは、いや、ここで護衛成功されたら後々が面倒だ、と、命が懸かっているので、思った。

どうせ命を懸けるなら、意味のある所で懸けたい。

東吾は、自分の意識が驚くほど変わっていくのを感じた。


そのまま、自分でも驚いたのだがすぐに眠りについてしまい、朝になって、いつものようにバチンと閂が抜ける音でハッと目覚めた。

その時やっと、自分がぐっすりと眠っていた事実を知った。

…昨日は風呂にも入ってない。

東吾は思ったが、今はそれどころではない。

急いで廊下へと出ると、目の前の7号室の扉が開いて、久隆が出て来ているのが見えた。

…狐じゃなかった?それとも背徳か…それとも占われていないか。

東吾の頭の中では、そんな事が駆け巡った。

久隆は、妃織の占い指定先に入っていたからだ。

隣りの扉から、浩介が出て来て言った。

「東吾…みんな出て来てるね。」

言われて見ると、廊下には1番から10番までの全員が出て来て、顔を見合わせている状態だった。

「…護衛成功とか?」

東吾が言うと、敏弘が言った。

「まだ分からない。」と、足を階段へと向けた。「三階へ行こう。」

全員が頷いて、階段を上がり始めた。

すると、上から声がした。

「おい!来てるか、早く来てくれ!」

邦典の声だ。

敏弘が、その声に慌てて駆け出して階段を一段飛ばしで上がっていくのを、東吾も必死に追った。

三階では、二階と同じような形になった扉の前で、皆が顔を見合わせていた。

昨日吊られた佐織も、襲撃を入力した日向もこの階に居るはずだった。

11番から19番までの9人が居るはずのここでは、佐織が出て来ないとなると、8人居るはずが5人ほどしか見えない。

どうやら、どこかの部屋の前に集まっているようだった。

「…どうした?そこは何番だ?」

敏弘が言うと、邦典が深刻な顔をして、言った。

「13番。日向さんの部屋だよ。みんな出て来たのに出て来ないから、外から叫んだけど全く応答がない。今識さんと貞行と晴太に見て来てもらってるんだ。」

東吾の心臓が、ドクドクと激しく鳴った。

昨日自分が入力したことで、日向が死んだのか。

そして、入力した自分も、他の人狼も誰も死んでいないことから、日向は猫又では無かったことが分かった。

なら、日向は何だったのだろうか。

本当に真霊媒だったのか、それとも素村なのか、何も分からない。

そのまま、皆と一緒に沈黙して待っていると、中から晴太が疲れた顔で出て来て、言った。

「…みんな、来てくれ。死んでる。」

「ひっ!」

女子かと思ったが、その声の主は浩介だった。

東吾は、浩介の肩に手を置いてなだめるようにしてから、皆と一緒に日向の部屋の中へと入って行った。


中では、日向が特に暴れた様子もなく、本当にただ眠っているかのように、静かに横たわっていた。

佐織のように、恐怖に目を見開いているということはない。

ただ眠っているだけだと言われたら、そうなのだろうと思われるほど、穏やかな様子だった。

「…ほんとに死んでる?」

章夫が思わず言うと、識が頷く。

「心肺停止状態。外傷はない。原因は分からない。」

敏弘が、眉を寄せた。

「つまり、襲撃されても死ぬんだな。」

識は頷いたが、何やら気になるのか怪訝な視線を日向に向けている。

気になった東吾は、言った。

「なんだよ、何かおかしな点が?」

識は、こちらを向いた。

「…おかしいのだ。」皆が何の事だとイライラした顔をすると、識は続けた。「昨夜の佐織さんなら分かる。直前まで生きていたのを見ているから、あの状態なのだ。だが、日向さんはいつ死んだ?」

邦典が、首を傾げて言った。

「どうだろう。人狼が襲撃先を入力してすぐぐらいか?それとも、人狼が部屋に入る期限の四時頃か。」

識は、日向に歩み寄った。

「四時だとしても今、六時過ぎ。二時間経っているから、この空調の利いた部屋に放って置かれてこれはおかしいのだ。死後、にわかに遺体は変化を始める。その変化が、全く起こっていないのだ。私にはまるで、今死んだかのように見える。」

博が、眉を寄せて言った。

「それは…六時に死んだということか?」

識は、首を振った。

「分からない。体は冷えている。六時に死んだのなら、まだ温かいはずなのだ。すっかり冷えているのに、状態は死んだ直後。こんなことがあり得るのかと思っているのだ。」

邦典が、怪訝な顔をしながらも、言った。

「じゃあ…佐織さんの遺体の様子を見てくるか…?」

識は、頷いた。

「その方がいいだろうな。もしあちらもこんな様子なら、恐らく一見死んでいる日向さんは、私が知らない何かで仮死状態というのかなんなのか分からないが、蘇生可能なのかもしれない。もちろん、佐織さんもな。」

…勝利陣営は帰って来られる。

もしかしたら、そうなのか?

東吾が思って皆を見ると、皆同じように思っているのか、少しの希望が瞳に宿ったのが見えた。

「…佐織さんの部屋は隣だ。」敏弘が、言った。「行こう。」

そうして、ぞろぞろと階段を挟んで隣の佐織の部屋へと向かうと、敏弘が扉を開いた。

さすがに昨夜のことが脳裏をよぎって皆、躊躇ったが、識が躊躇いなく入って行くので思いきってぞろぞろと中へと入ると、中はガランとしていて、佐織の体はそこにはなかった。

「え…?!居ない?!」

敏弘が言う。

識は、ぐっと眉を寄せた。

「…片付けられてある。」と、側のクローゼットを開いた。「荷物もない。」

「いったい、どこへ連れていかれたの?!」澄香が、たまらず声を上げた。「どういうこと?!」

哲弥が、澄香の肩に手を置いた。

「落ち着け。普通に考えて運営側がどこかへ連れ去ったんだろう。もしかしたら…佐織さんは生きているのか?」

識は、首を振った。

「分からない。どちらにしろ、日向さんを定期的に観察することにする。どうやら遺体は、皆が部屋に籠っている時間に運び出されて、恐らくは四階五階辺りに連れて行かれるのだろう。それまでは様子を見られるはずだ。私も気になるし、見に来ることにする。」

博は、頷いた。

「そうしてくれ。少しでも希望が欲しい…昨日から、人が死ぬのを見てばかりで滅入って来たからな。」

全員が同じ気持ちだろう。

邦典が、言った。

「…とにかく、議論だ。」全員が、ハッとしたように顔を上げた。「それぞれ、役職は結果を持っているだろう。とにかく、一度部屋へ帰って準備をして、7時に一階に集まろう。それでいいな?敏弘。」

敏弘は、茫然と空のベッドを見ていたが、頷いた。

「ああ。そうしよう。とにかく、議論をして人外を吊っていかないと。これが本当に死んでいないとしても、勝たないとそのまま死ぬのかもしれないじゃないか。気を入れて議論しよう。」

全員が、肩を落としてトボトボと歩き出した。

東吾は、その背を追いながら、何としても勝たなければと、決意を新たにしていた。

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