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獣の棲む森にて  作者:
人狼
21/66

夜時間でのこと

佐織を無事に部屋へと送り届けて戻って来ると、識と乙矢、泣いて真っ青な顔をした妃織と、敏弘が座って厳しい顔をしながら話していた。

運んで行った男性達と共に、東吾が居間へと戻って行くと、敏弘が言った。

「ああ、占い先の指定をしてたんだ。」と、ホワイトボードを指した。「こうなった。」

見ると、乙矢は貞行と浩介、妃織は久隆と梓乃、識は幸次と博と書いてあった。

「あれ、番号順はやめたんだ。」

東吾が指定先から外れている。

敏弘が、渋い顔をした。

「やっぱり、適当じゃまずいと思って。相互占いと一緒に、グレーの中から占っておきたい人を加えておいて欲しいって言って、占い師自身に決めてもらったんだよ。本当に死ぬなら、悠長な事はしていられない。怪しい位置が無いから…最後に、佐織さんが怪しいかなって入れてしまったけど、ほんとに怪しいと思う位置を吊らないといけなかった。役職で回避されたけど、オレは澄香さんに入れたひと達は白いって思ったよ。ほんとに怪しい位置を、村の総意に背いて入れてるんだからね。そういう、確固たる意思の元に投票しないと、後悔することになるかもしれない。だから…もっとしっかりするよ。」

そういう敏弘の顔も、心なしか青い。

この後、まだ人狼の襲撃も残っていて、そして敏弘は共有者で、まさか本当に人狼が噛みに来るんじゃないか、そうでなくてもまたあのフードの化け物が来るんじゃないかと怯えているのではないか、と思った。

襲撃の様子は、東吾にも他の人狼にもまだ分からない。

何しろ、今夜が初めての襲撃で、誰かの一人の腕時計から入力するだけの事だとしか、聞いてはいなかったからだ。

同じように、暗い顔をした久隆が言った。

「オレも。軽く考えてた。どうせゲームだからって。でも、こうなったら吊られると決まったらあの、小瓶の中身…なんか知らんがあれを飲んだ方が楽かもしれない。少なくても、化け物に殺されることはないんだろう。オレ、そうなったら絶対すぐに飲もうと思った。あっちなら死ななかったかもしれないじゃないか。」

それには、博が言った。

「オレも…。ルールブックは隅から隅まで読んでるが、何度読み返しても勝利陣営は帰って来られると書いてあるんだよな。あれを見たら、本当に死んで無いんじゃないかって思うんだけど。」

識が、片方の眉を上げた。

「…私が見た時には、間違いなく死んでいたがね。」

博は、首を振った。

「君が間違ってるとは思ってない。だが、帰って来るんだぞ?仮死状態なんじゃないのか。ここには計器も無いし、完全に死んでるって証明ができないだろう。」

識は、軽く博を睨んだが、息をついた。

「確かにな。見ただけでは分からない事もある。その可能性はある。ただ、間違いなく死んではいたがな。」

「もしかしたら…小瓶から飲んでいたら死ななかったかも。」歩が、言った。「あんな方法を選んでしまったから、死んでしまったのかも。」

東吾は、困惑した顔をした。

何を話して合っても、答えなど分からない。

識もそれは思ったのか、皆を見て言った。

「ここで我々が何を言っていても、あちらは答えなどくれないだろう。これから起こることを、順々に対処していくよりないのだ。そうして、集めた情報に従って判断していくしかない。私達は、今籠の鳥なのだ。ここでパニックになって思考できなくなれば、人外の思うツボ。生きて帰りたければ、しっかり考察して戦うしかない。役職者は、皆気を入れて考察するようにな。村人より情報が多いのだから。」

言われて、敏弘は神妙な顔をした。

…そういえば、狩人は敏弘に話したのだろうか。

東吾は、思った。

あれから居間で議論を続けていたので、まだ言ってはいないのではないか。ということは、これから話す者達の中に、狩人が居るのではないか…。

そう思ったが、もう東吾はとても疲れてしまっていた。

もう、眠りたい。

だが、人狼の役職行使の時間は0時だ。

それまで、眠り込むわけには行かなかった。

だが、佐織の様を見た衝撃が忘れられなくて、東吾はただただ、本当に死んでいなかったらどんなにいいか、と良心の呵責に苛まれていたのだった。


部屋へと重い足取りで向かった東吾は、隣の浩介が思いの外憔悴しきっていたので、気になって最後まで寄り添って連れて戻っていた。

向こうの方の妃織も暗く落ち込んでいて、彼氏である敏弘と一緒に居たいとごねていたが、敏弘はそれではルール違反になる、と突っぱねて、一人でとぼとぼと戻って来て扉の中へと入って行ったのが見えた。

識によると真占い師だろうと思われる妃織は、やる気の無さで皆から真を切られてしまっており、今現在孤立無援で心細いはずだった。

若干の同情はしたが、生き残るためには同情もしていられない。

東吾は、浩介を慰めて扉の中へと押し込み、自分も部屋へと入った。

もう、疲れ切っていてすぐにでも眠るかと思ったが、変に頭が覚醒していてベッドに横になっていても全く眠れない。

何度も寝返りを打って今夜の事を考えると、恐怖よりも生き残らねばという思いが沸き上がって来て、とてもじゃないがゆっくりできなかった。

疲れているのに休めないような状態にさらに疲れて起き上がって時計を見ると、もう0時に近くなっていた。

東吾がトイレに行っておこう、とバスルームへと入ると、鏡には思った以上に憔悴した自分の顔が映った。そこにあの、フードの化け物が映ったらと思うと落ち着かなくて、慌てて目を反らすと急いで用を済ませ、さっさとバスルームを後にした。

すると、バチン、と音がして、びくと体が震えた。

…0時になったのだ。

東吾は、昨日とは違い、落ち着いて扉を開いて外へと足を踏み出した。

章夫が、同じように斜め前の扉から出て来てこちらを見るのが見えた。

東吾は、黙って階段の方へと歩きながら、章夫と目で合図して一緒に一階へと向かった。

すると、背後に気配がして、三階から博と晴太が降りて来るのが見えた。

足を止めて二人が追い付いて来るのを待つと、博が言った。

「…とにかく居間へ。話はそれからだ。」

二人は頷いて、そうして黙って居間へと歩いた。


居間は、先ほどの騒ぎなど無かったように静かだった。

博は、ハアとため息をついてソファへと崩れるように座った。

「初日が終わった。この調子だと襲撃されたもの達も、どうなるか分からない。打ち込むのが怖くなって来たな。」

晴太が、言った。

「それでも誰かを襲撃しないとこちらの負けになる。全員追放になるからだ。何とかしないと…最短の勝ち筋を辿って犠牲を最小限にするしかない。」

章夫が、顔を歪めた。

「怖くなって来たよ。別に吊られてもいいと思ってたのに、あれを見ちゃうと。何としても生き残りたい。やっぱり霊媒師らしい所を噛もう。澄香さんか?どう見ても人外数から見て、真霊媒師だろう。」

博が、首を振った。

「確かにオレもそう思ったんだ。村目線じゃ人外に見えるかもしれないが、オレ達からすると狼でも狂信でもない。狐陣営だろう乙矢と妃織も庇う様子がない。投票はしていなかったが、澄香は役職COがなければまず、吊られてしまっていただろう。占い師に狐が出ていて、背徳だから変に庇うよりはと見ているのかもしれないが、それにしても最初から全く庇う様子もないのはおかしいだろう。久隆が狐ならと考えたが、それなら乙矢はなんだと言うことになる。だから、オレも間違いなく澄香が真霊媒だと思ったんだが…識が。違うかもしれないと。」

東吾は、驚いて言った。

「え、どういうことだ?」

博は、渋い顔で頷いた。

「投票先だ。オレ達陣営以外では、日向と佐織、梓乃が澄香に投票している。佐織は違うだろう、吊られそうになったらいくらなんでもCOする。梓乃は猫又だと章夫が聞いている。となると、やはり最初に霊媒ではと疑った、日向なんじゃないかと。真霊媒だったから、我慢できずに澄香に入れたのではないかと思われると。」

確かに、その三人は澄香に入れている。

グレー吊りの流れで、真かもしれない以上、入れたら怪しまれるかもしれない強い票だ。

それを、それほど強い性格ではなさそうな日向がしている事実に、識はそうではないかと考えたのだ。

「だったら…澄香さんは何?」

東吾が言うのに、博は顔をしかめた。

「分からない。でも、識が言うには仮に澄香が真霊媒で、日向が背徳か狐だったとしても、戦う相手は澄香の方がやりやすいだろうと。ここで澄香を噛めば、狼でも狂信でも無いことが村に透ける。噛んだ事で、怪しかったが真だったかも知れないと皆に思わせてしまうので、どちらにしろ噛むべきではないと。噛むなら、日向の方にした方が、明日のCO数が減るのではないかと言うんだ。仮に狐で噛めなくても、それが狐だと我々には透ける。狩人の護衛が入りそうにない位置だからな。なので、日向を噛んだ方がいいとオレも思う。」

そう、真だとしても澄香を噛むのは得策ではない。

東吾は、段々頭がハッキリして来て、思った。

さっきまで何やらぼうっとしてハッキリしなかった頭が、急にしっかりして来てそう思った。

まるで靄が晴れるようだった。

晴太が言った。

「じゃあ、日向にしよう。誰にも占い指定されていないし、とりあえず噛んでおいて後は明日だ。騙りが減れば章夫が戦う相手が減ってやりやすい。澄香相手なら、章夫は勝てる。決めうちに持って行こう。ローラーする縄は無いと。」

章夫は、頷いた。

「明日白を出すよ。そうしたら、皆縄に余裕が無くなったと簡単にはローラーに持ち込めないだろうし。問題は、明日からだ…識さんは、博さんを占うんだね?」

博は、頷く。

「識にはどちらにしろ呪殺は出せないからな。乙矢が久隆を囲っていたとしても、まだ幸次のこともな。それを自分の白にしたくないんだ。吊れなくなるからな。見極めてから、黒を打って吊らせる事を考えているらしい。今はまだ早いと。」

東吾は、頷いた。

「グレーが狭まって来るしオレ達には厳しいな。オレと章夫はいいが、まだグレーに残る晴太にはきつくなって来る。」

博は、苦笑した。

「オレだって安穏としていられないぞ?識はまだ真置きされているわけではないからな。誰かに占われる可能性が無くなったわけじゃない。みんなそうだ。気を引き締めて行こう。」

東吾は、ふと思った。

「そういえば…日向が猫又って事はないな?なんか議論の時に澄香に突っ掛かっててたから、猫又にも見えなくも無いと思ったんだが。梓乃があんな感じだから、信じていいのかまだ疑問で。」

章夫は、肩をすくめた。

「まあ、村目線じゃあの言い方だと日向が猫又に見えたかもしれないけど、あれは多分、昼間に東吾の様子を見てるから、言ったんだと思うよ。仮に日向が霊媒だとして、東吾が猫又と思っていたら、澄香さんの役職COは果てしなく怪しいはずなんだ。だって後は狩人しかないからね。あの発言は、まだ役職名公開前だったでしょ?背徳や狐だとしても、自分が騙る予定の役職だから牽制したとも考えられる。日向の行動は、猫又ではないと思うよ。」

東吾は頷いたが、じっと時計を見つめた。それでも猫又だったとしたら、仲間が一人犠牲になるかもしれない…。

それでも、噛まない選択肢はなかった。日向霊媒に賭けて、章夫のためにも噛むしかないのだ。

だったら…。

「…オレが打ち込む。」皆が何やら東吾に覚悟を感じて驚いた顔をすると、東吾は言った。「多分違うだろうけど、もしものことがある。勝てば帰って来られるだろ?みんなのために、オレは猫又として死ぬしかないんだ。オレが打ち込めば、恐らくオレが死ぬ。そうしたら、猫又噛みで日向が狼で死んだと思わせられるかも知れないじゃないか。」

皆が、息を飲んだ。

東吾は、村のために猫又として死ぬ事を決心したのか。

章夫が、さすがに困惑した顔をした。

「待ってよ、そんなのまずいよ。もしかしてそうしなければならない時は来るかもだけど、今じゃない。多分日向は猫又じゃないだろうけど、東吾が死ぬことないじゃないか。」

東吾は、首を振った。

「それぐらい覚悟しなきゃ。みんなで生きて帰るんだ。オレは猫又を騙ることにしたし、みんなそう思ってる。だから、それを利用しないと。これからも、猫又らしい所はオレが噛む。識さんにも、そう伝えてくれ。」

そう、生きて帰らないと。

東吾は、カバーを開いて番号を打ち込んだ。

そんな東吾を、皆が黙って見守ったのだった。

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