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獣の棲む森にて  作者:
人狼
20/66

投票

機械的な声が言った。

『投票、3分前です。投票はルールブックの通り、投票したい人の番号をテンキーで打ち込んで0を3回押してください。1分以内に投票しない場合、追放となります。』

やはり一斉投票、しかも1分で結果が出る。

もう、投票先を決めておかなければならない。

東吾は、識に合わせて佐織に入れることにした。

佐織の番号は、14…。

過ぎて行く時が、永遠にも思えた。腕時計を開いて画面を見る。隣に小さなテンキーがある。

緊張で手が震えて来て、その小さなボタンを押し間違えないか不安になって来た。

ふと顔を上げると、皆緊張気味に腕時計を見つめて、投票の瞬間を待っている。

そんな中、画面の時計は0:00となり、機械的な声が告げた。

『投票してください。』

東吾は、必死に小さなテンキーを押した。

いつもなら簡単にできることなのに、緊張から手が震えてしまって上手く打てない。

『もう一度投票してください』

腕時計から、声が流れる。

どうやら、変なキーを押してしまったようだった。

東吾が焦っていると、回りから同じような声が何度も聴こえて来た。みんなも、慌てているんだろうなとそれで知った。

何度目かでやっと『投票を受け付けました』という声が流れた時には、ホッとした。

そうして皆を見ると、皆が必死に腕時計を取っ組み合い、やっとの事で打ち終わっているのがあちこち見えていた。

『投票が終わりました。結果を表示します。』

モニターから声が流れる。

すると、真っ青だった画面に、パッと次々に表示が現れた。

1(東吾)→14(佐織)

2(浩介)→14(佐織)

3(哲弥)→14(佐織)

4(澄香)→8(章夫)

5(敏弘)→14(佐織)

6(妃織)→14(佐織)

7(久隆)→14(佐織)

8(章夫)→4(澄香)

9(梓乃)→4(澄香)

10(幸次)→14(佐織)

11(貞行)→14(佐織)

12(乙矢)→14(佐織)

13(日向)→4(澄香)

14(佐織)→4(澄香)

15(邦典)→14(佐織)

16(晴太)→4(澄香)

17(博)→4(澄香)

18(識)→14(佐織)

19(歩)→14(佐織)

あれ…?思ったより澄香さんに入れている人が多い。

東吾は、驚いた。グレーだと言われているのに、恐らくどこにも怪しい人が居なくて、迷った末にそちらを選んだ人も居たのだろう。

自分の票ぐらいでは、吊られないと思った可能性もあった。

すると、画面に大きく『14』と表示された。

『№14は、追放されます。』

佐織は、がっくりと下を向いた。

そういえば、追放ってどうなるんだろう。

と思っていると、居間の扉がパッと開いて、フード付きのマントをつけた一団が、ゆらりと入って来た。

しかも、それらは床から30センチぐらい浮いている。

「ひ!」

全員が悲鳴を上げて逃れようと椅子から立ち上がろうとすると、モニターから声が言った。

『追放です。14以外の人たちは、椅子から動かないでください。動くとランダムに一緒に追放されてしまう恐れがあります。』

その声を聞いて、皆がピタリと止まった。

東吾も、震えながら椅子の上で縮こまっていると、そのどう見ても西洋の幽霊にしか見えない一団が、ゆらりと佐織の回りを囲んでいた。

…なんだあれ…!どうなってるんだ、幽霊…?!でも実体があるように見えるし、でも浮いてる…!!

しかも、深く被ったフードの中は全く見えない。

真っ暗で、しかし何かが存在しているような気がした。

東吾の隣りでは、浩介がブルブル震えて椅子の座面の横を握り締め、ぎゅっと目を閉じていた。

東吾は、目を閉じたら尚更怖いのにと思いながら、そのフードの一段が何をするのかと必死に目を開いて見ていた。

その雰囲気に不似合いな、機械的な女声が続けた。

『追放が決まった人は、暖炉の上のゴブレットの液体を飲み干してください。』

暖炉の上…?

無意識にそちらへ視線を向けると、そこには朝、気が付いた、あの細かい細工が施された金属の小瓶があった。

「む、無理よ!」佐織が叫んだ。「私は村人なの!飲んだらどうなるの?!」

だが、選択権は無いようで、そのフードの一団…よく見ると五体は居る…が、佐織の両腕を掴んでグイグイと引っ張った。

佐織は、堪らずそれらの手を振り払うと、ふらりと椅子から離れて、それらに囲まれて暖炉の前へと追いやられた。

足がもつれて倒れたが、それでもそれをじっと見下ろしているように浮いているだけで、早くしろと圧を掛けているように見えた。

佐織は、床の絨毯の上に座り込んだまま、泣きながら必死に首を振った。

「無理よ!やめて、飲みたくないわ!」

すると、意外にも機械的な声は言った。

『では、ゴブレットによる追放は拒否されますか?』

え、と皆がモニターを見上げると、佐織は必死に頷いた。

「飲みたくない!だから嫌よ!」

すると、声は答えた。

『では、追放者の選択により、直接的な追放となります。』

「え…直接的って…」

敏弘の声が、震えて言う。

東吾も、自分の真後ろで起こっている事に、思わず振り返ってじっと見ると、フードの一団が、一斉に佐織に覆い被さるようになると、佐織の姿が見えなくなった。

「きゃああああ!!助け…、う…!!ぐううう…!!うぐう…!!」

博が、堪らず立ち上がった。

「やめろ!」

『動かないでください。』声が言う。『追放になります。』

博は、仕方なくストンと椅子へと座った。

その間、じたばたと足を動かしていた佐織の動きがぱったりと無くなり、フードの五人は佐織から離れた。

床には、目を見開いたまま口をぽかんと開いて、佐織が倒れているのが見えた。

『№14は、追放されました。では、夜時間に備えてください。』

「佐織!」

日向が、必死に呼ぶ。

だが、フードの一団が傍に浮いているので、近付いて行くことができないようだった。

東吾も愕然としていると、そのフードの一団は、突然にスーッと掻き消すように消滅して行った。

「きゃああああ!!」

女子の誰かの悲鳴が聴こえる。

それが誰かなど、考えられないほど東吾は戦慄していた。

浩介に至っては、隣りで涙を流してその様子を見ている。

シンと静まり返った中、識が立ち上がって、倒れている佐織へと歩み寄って行った。

その顔は、落ち着いて見えたが強張っているようにも見えた。

それを見て、日向が弾かれたように椅子から転がり落ちて、走って佐織の側へと近寄った。

「佐織…!!」

振り返ると、佐織は全く動く様子はなく、目はまるでガラス玉のようで何も映していないようだった。

本当に死ぬのか…?!

東吾は、体が震えて来るのを感じた。

つまり、一人一人消えていくという事になる。

識が、慣れた手つきで佐織を診て、ため息をつくと、首を振った。

「…死んでいる。どうやったのか知らないがな。」

「そんな…!!佐織…!!」

日向が、泣き叫んで佐織の胸へと突っ伏した。

博が、黙って寄って行って開いたままの佐織の目を閉じてやると、神妙に言った。

「…これが追放か。死因は?まさかあんな化け物に殺されたとか言うんじゃないだろうな。」

博が言うのに、識は答えた。

「分からない。ここには医療器具も持って来ていないしな。見た所、何らかの方法で心肺機能が停止した。見た所外傷はないので、首を絞められたという事もないようだ。何をしたのか、全く分からない。」

皆、青い顔をしている。

哲弥が、言った。

「…つまり、追放って死ぬのか…?本当に?どこか別の部屋へ行くのでもなく?そんなことが、本当にあるって言うのか?」

識が、チラと哲弥を見て言った。

「今見たではないか。これが現実だ。私だって目の前で見るまでは、こんなことが許されるとは思ってもいなかった。というより、あの非現実的な物体はなんだ。あんなものが…宙に浮いて、物理的に存在して移動しているのを見た。気配もあった…何かのからくりがあるのかと、じっと観察したが分からなかった。」

浩介が、叫んだ。

「お化けだよ!幽霊だ!あんなものが、あんなものが命を奪いに来るんだ…!!」

敏弘が、憔悴しきった顔で言う。

「…そうだ。あんなものが現実にあるなんて、信じられない。どうしてあんなことが…でも、何かからくりはあるはずだ!」

「だが、佐織さんは死んだ。」博が、厳しい顔をして言った。「あの化け物が何かのからくりだったとしても、佐織さんが死んだ事実は消えない。もう、いいだろう。佐織さんを部屋へ運んで寝かせてやろう。オレ達は…間違ってなかったらいいがな。」

実際の命のやり取りだとしたら、一票がずしんと重い。

ここから逃げたい。

東吾は、心底思った。逃げて、もうこの際熊には出逢わないと願って何時間でも走って街へと逃れたい。

だが、それは無理な相談だった。

ゲームを放棄したら、追放だからだ。

ここへ来てしまった限り、ゲームを続けるしかない。あの、おかしなフードの化け物に追って来られて殺されるぐらいなら、ゲームで勝って生き残る道を探った方がいいからだ。

まだ何が起こったのかもはっきりとは認識していないようなふわふわとした心地で、頭が何やらはっきりしない。

あまりにも非現実的な事が起こったので、感情がついて行っていないのか、はたまた精神が衝撃を受けておかしなことになってしまっているのか分からなかったが、足元すらおぼつかないような気がして来た。

東吾は、フラフラと蛇行しながら最早物のように動かない佐織の重さを、ずっしりと感じながら数人の男性達と一緒に、三階までトボトボと歩いたのだった。

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