表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣の棲む森にて  作者:
人狼
2/66

バスの中

待っている間、回りを観察していると、隣りの人と楽しげに小声で話す人もいるし、一人で黙って待つ人もいた。

やはり、数人で参加した人もいるし、東吾のように一人の人も居るようだ。

隣りに座っている、同じぐらいの歳の、つまりは二十代後半らしい歳の男が話し掛けて来た。

「一人で参加?」

東吾は、頷いた。

「投稿を見て思わずDM送ってしまって。」

相手は、笑って頷いた。

「オレも。中谷浩介だ。あ、でもここじゃあ浩介でいいよ。」

東吾は、答えた。

「オレは田島東吾。」見ると、浩介の名札には2と記されてあった。「あれ、じゃあ次か。オレは1だから。」

浩介は笑った。

「だな。瞬発力の差かな。どうせ年末年始は暇だし、行ってみてもいいかって、軽い気持ちだったんだよ。次からは十三万なんだろ?とてもじゃないが参加できなさそうだし、今回がチャンスだと思って。定員オーバーだったら仕方ないってくらいだったのに、返事が来た時には驚いたよ。」

東吾も、頷く。

「オレも。まさか一番速かったなんて思いもしなかったよ。」

そこへ、何やらこの駅にはそぐわない黒塗りの車が来たかと思うと、そこから二人が降りて来た。

一人は落ち着いた感じの男で恐らく年上だがいまいち歳がわからない感じ、一人は自分達より絶対に落ち着いていて年上の印象だ。

何事かと思っていたのだが、そんな二人はこちらへと歩いて来て、まさかと思っていると、バスの入り口外で、同じようにあの、東吾が説明を受けた男に、同じように話しかけられて、名札と腕時計を渡されていた。

「え、あれも参加者なんだ。」

隣りの、浩介が驚いたように言った。

見るからに高級そうな車から降りて来たのが、東吾にも意外だったので同じように思った。

そんなこちらの思惑にも気付かず、その二人はバスへと乗り込んで来て、皆の視線に晒されて、会釈をして座席へと収まった。

それを見てから、最初に話しかけて来た男が、言った。

「それでは、出発致します。」

その言葉と一緒に、運転手が何かを操作してバスの扉は閉じ、ゆっくりとバスは動き出した。

いよいよか…!

また不安と期待が入り混じった気持ちになりながら、東吾が前に立っている男を見つめていると、男は愛想よく言った。

「それでは、この度はこのリアル人狼クラブの主催する体験ツアーにご参加いただきまして、ありがとうございます。私は、ゲームの会場となりますお屋敷までご案内いたします、竹内と申します。これから、皆様19名を森の中の洋館へとお連れ致します。よろしくお願い致します。」

そこで、習慣というのは大したもので、東吾は何の疑問もわかずに手を叩いた。

皆が、ハッとしたように慌ててあちこちでぱらぱらと拍手をしている。

東吾は、その反応に気が付いた。

そうだ、会社でこういう事があったら真っ先に拍手を誘導するために手を叩く役をしているから。

東吾は、どこに居ても思わず空気を読もうとしてしまう、自分に少し恥ずかしかった。

竹内は、頭を下げてから、続けた。

「では、しおりをお配りしますので、ご覧になってください。こちらで到着してからの事をご説明しておきます。」と、前の座席から冊子を渡した。後ろへとその冊子が回って行くのを見つめてから、竹内は続けた。「まず、到着してすぐに皆様のお部屋へと一度入って頂きます。お部屋番号は、お渡しした名札に書いてある番号がそのまま一人一人のお部屋の番号となります。1番から10番までは二階、11番から19番までは三階に部屋があります。全て同じ造りのお部屋ですので、どこへ入ったからと良いとかはありません。番号通りのお部屋へとお入りください。」

皆が、黙って聞いている。

竹内は、続けた。

「それから、一階の居間へと集まって頂きまして、運営の方からゲームの詳しい説明がございます。私はお屋敷に到着するまでしかご一緒できませんが、ゲームが終わり次第このバスでお迎えに上がりますのでご安心くださいね。」と、冊子をめくった。「えーっと、生活面の事など、時間の事に関しての説明などがありますが、そちらは各々見ておいていただきまして、食事ですが、キッチンの方に全てご準備させて頂いております。毎日新しい物が補充されますので、仮に食べ尽くしてしまっても問題ありません。好きなだけお召し上がりください。それから、必ずルールブックに書かれてあるルールには従ってください。19人の大人が好き勝手に動いてしまうと、ゲームが進まなくなってしまうかもしれません。あくまでも、このクラブの目的はリアル人狼ゲームを楽しむことです。スリルのあるゲームを、みんなで楽しみましょう。」

どうやら、しおりを飛ばしながら読んでいるだけのようだったが、それでも説明は必要だ。

皆が黙っていると、竹内は言った。

「では、残りは各自見ておいてもらう事にしまして、さっそく役職の配布を始めます。」

皆が、驚いた顔をする。

え、もう?!

東吾も、同じようにびっくりした。

着いてから、カードを配られるのだとばかり思って居たのだ。

だが、竹内は何かのタブレットのような物を手に、言った。

「皆様にお配りしている腕時計は、GPS機能だけではなく、ゲームに必要な機能も兼ね備えている優れものなのです。まず、カバーを開いて液晶画面をご覧ください。」

東吾は、言われるままに金属のカバーとカパと開いた。

そこには、液晶画面に時計と、隣りに小さなテンキーが並んであった。

竹内は、タブレットの画面を何やらタッチしている。そして、言った。

「これから、そこにそれぞれの役職が表示されます。最初に役職の説明をします。今回は19人狐、猫又入りのレギュレーションとなっております。村人6、人狼4、狂信者1、占い師1、霊媒師1、狩人1、共有者2、妖狐1、背徳者1、猫又1です。初日の人狼の襲撃無し、狩人の連続護衛無し、占い師には初日のお告げ先ありです。初日のお告げが狐に当たることはありません。ゲームの前に、もう一度運営から役職についての説明がありますのでご安心ください。では、役職を配って行きます。隣りのかたに見えないようにして、液晶画面をご覧ください。」

東吾は、慌てて手で画面を包むようにして隠した。

すると、その画面には、『人狼 仲間8 16 17』と表示されていた。

わわ、覚えなきゃ。

東吾は、急いで心の中でその番号を唱えた。8、16、17…。それにしても、人狼かよ。

出来たら村人かなんかでおっとり楽しみたかったというのもある。

だが、この村には人狼が四人も居るし、当たる確率も高かったから仕方が無かった。

それにしてもこんなに大人数での人狼は初めてだ。

しばらくすると表示も消え、東吾は落ち着いてカバーを閉じた。

ふと、気が付くと、隣りの浩介がこちらをチラチラ見ている。

どうやら、こちらを人狼かと疑っているわけではなく、単に興味があるようで、話したくてうずうずしている感じだった。

…話好きなんだな。

東吾は、思った。

なので、声を出さずにがっかりした顔をわざと作って、「村人」と口の動きだけで言って肩を竦めた。

浩介はクスッと笑うと、同じように肩を竦めて、「オレも」と口を動かした。

竹内が言った。

「役職の確認は終わりましたか?夜の行動など、役職ごとに違うのでしっかり覚えてくださいね。」と、しおりを掲げて振った。「ここに、参加者の皆様の名簿もあります。役職ごとの動きなどの説明も書いてありますので、到着までの間しっかり確認しておいてください。どちらにしろ、屋敷で運営からの説明はありますが、細かいルールなどの説明は省かれますのでこれを参考になさってくださいね。」

と、しおりを胸ポケットに仕舞った。

これは終わりか、と思いながらしおりを閉じたが、東吾の頭にはひたすら8、16、17が回っていた。仲間を把握していないと、面倒な事になるからだ。

これで終わりかと思いきや、竹内はまだ続けた。

「続きまして、今回の特別企画をお話しましょう。まず、勝利陣営にはサプライズプレゼントと告知されていました。そちらのご説明に移ります。」

お、と東吾は顔を上げた。隣りの浩介も、東吾に話し掛けようとしていたが、慌てて竹内を見る。

竹内は、皆が自分を見たのを確認してから、言った。

「今回の勝利陣営には、現金百万円が贈呈されます!」

東吾は、目を丸くした。

百万円…ってことは、山分け?

皆がざわざわと声を上げた。

「陣営勝利ってことは、狐とかならラッキー?」

どこかから、女性の声がする。

竹内は頷いた。

「そうですね。村人陣営の方々は勝利しても人数が多いので損かもしれませんが、その分味方も多いですし。狐なら背徳者と二人きりなので、取り分は多いですね。でも、村人でも最終日まで生き残って村に貢献したら取り分を多くするなど、皆様の間で考えておいたら頑張って生き残ろうと考えると思うので良いのではないでしょうか。たまに、先に吊られたら楽だとか、噛まれてラッキーな気持ちでゲームに積極的でないかたもいらっしゃるかと思うので。」

確かにそうかもなあ。

東吾は、自分も面白くなかったらそうしようと思っていたクチだ。

運営側としては、一生懸命ゲームをして欲しいと思っているのだろうと思われた。

…確かにテンションが上がるな。

東吾は、思った。

自分は人狼なので、仲間は四人。狂信者も入れたら五人なので、村人よりは取り分が多い。

…頑張るか。

東吾は、思った。

竹内は、皆の反応を見回してから、言った。

「では、私からは以上です。後は屋敷に着いてからになりますので、皆様は後二時間ほど、ご歓談ください。」

二時間?!

皆、驚いた顔をした。

車で二時間って、結構な山奥ではないだろうか。

そう思った時にはもう、気が付くと窓の外の景色は鬱蒼と繁った森ばかりで、そのまま全員がバスに揺られて運ばれて行くよりなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ