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獣の棲む森にて  作者:
人狼
19/66

夜の議論

澄香は、皆の視線に晒されてたじろいたようだったが、思い切ったように言った。

「霊媒師よ。」皆が、息を飲む。澄香は続けた。「私を吊ったらこれから吊ったグレーの色が分からなくなるわよ。」

霊媒師か…!

狼目線では、あることだった。

だが、東吾はわざと顔をしかめた。

「…霊媒師が他に居てもCOしちゃダメだぞ。」と、澄香を見た。「じゃあ明日だ。他に霊媒師が居たら君は怪しまれる筆頭だぞ?真でもイバラの道だけど、頑張ってくれ。」

まあ狼目線では限りなく真だけど。

章夫が、言った。

「なんかさあ、霊媒師って一番騙りやすい所だよね。でも噛まれない猫又に出なかっただけ、まだ村目線吊り逃れに見えないのかもしれないけど、さっき日向さんが猫又らしい所を知ってるって言ってたから、そのせいじゃないかって僕は思う。だからまだ信じられないよ。」

日向も、何度も頷いた。

「私もそう思う!狩人だったらまだ信じられたかもしれないけど…霊媒師は騙りやすいし、元々出ようと思ってたんじゃないかって。」

それに、久隆も頷いた。

「オレも。」みんなが驚いた顔で久隆を見ると、久隆は続けた。「なんかオレが庇ったとか言ってる人が居たけど、あれが性格なんじゃって思ったから言っただけなんだ。でも、COするなら別だ。吊り回避に見える。本当に役職ならもっと慎重な意見を出すか、少し寡黙気味になって吊られない程度ちょっと怪しまれてしまうぐらいがちょうどいいからな。明日、もし他に霊媒師が出て来たら、オレはそっちを真置きするね。行動が役職っぽくないのに、いきなり役職だって言われても信じられないよ。」

久隆も切って来た。

あまりに怪しまれるので、切っているようにも見える。

皆に印象付けるなら、絶好の機会だった。

澄香は、言った。

「どうしてそんなにみんな私を怪しむの?!役職だって言ってるじゃない!酷いわ、どうして分かってくれないの!私の味方なんかどこにも居ないじゃない!私は村人なのよ!」

「澄香!」

哲弥が叫んだが、澄香はまた居間を駆け出して出て行ってしまった。

哲弥は、ため息をついた。

「…ごめん、こんなに誰にも意見が通らないのは初めてなんだと思う。大体が強く出れば譲ってくれるだろ?みんな空気を読むし。強く出るだけではどうにもならないことがあるって、分かったんじゃないかな。良い機会だと思うよ。」

それにしてもあんな風に駆け出して行っては、みんな驚くし反感をかってしまうのに。

東吾は思ったが、人狼としては何も言わないのが得策だ。

なので黙っていたが、村はまた重苦しい空気になってしまったのだった。


そこから、また休憩に入って結局めぼしい吊り先は決まらなかった。

梓乃の爆弾のせいで、澄香は全く部屋から出てこなくなり、また夕御飯の後最終会議となったのだが、それでもその席に澄香は現れなかった。

だが、とりあえず今日は澄香は吊り先ではない。

なので、もう呼びに行くこともなく、議論を始めた。

今は夜の七時、あと一時間で吊り先を決めなければならない。

ここまで昼の議論から、誰も部屋に帰らないので、怪しまれることを恐れた東吾は居間に残らざるを得ず、人狼同士が話をする機会もなく、この時を迎えてしまっていた。

人狼達がいったい誰を吊ろうと考えているのか、東吾には全く分からなかったが、それは仲間達の意見を真剣に聞いて決めようと、東吾は気を入れていた。

また平行線を辿る無意味な議論が交わされる中、識が言った。

「…どうにも決まらないじゃないか。仕方がない、今日はグレーを自由投票にして票の行方を見よう。明日の色次第で、見えてくるものもあるかもしれないからな。」

佐織が、不安げに言った。

「自由投票だと、人外の票が村人に集中するんじゃない?やっぱり無理矢理にでも投票位置を決めた方がいいわ。」

敏弘が言う。

「今のままじゃ決まらないんだよ。もう、あと20分で投票だ。どこかへ入れないと、ルール違反になるって書いてたし、みんな追放になったらまずいだろうが。」言ってから、ハッとした。「…そう言えば澄香さんは?投票しなきゃ追放だけど。投票するなら部屋からしてもいいのか。」

博が、顔をしかめた。

「ルールブックには投票しないと、としか書いてなかった。場所はどこでもいいんじゃないか。」

哲弥が、立ち上がった。

「とにかくあいつに投票しなきゃ追放になるぞって言って来る!人外だったらいいが、もし真役職だったらまずいことになる。」

敏弘は、頷いた。

「頼む。ほんとに…気が揉めるな。」

哲弥は、駆け出して行く。

識が、佐織をチラと見た。

「…ところで、だが、君は投票先を皆で揃えたいようだったな。それはなぜだ?」

佐織は、いきなり振られて驚いた顔をしたが、答えた。

「え…あの、今言ったように人外の票が村人に集まるかもしれないから…。」

だが、識は顔をしかめた。

「人外だって、話し合う暇などなかったはずだ。昼の議論からこっち、ずっと全員で居間に居て、夕食も皆で一斉にキッチンへ向かった。仮にその中で話そうとしても、誰かに見咎められる率が高いし、私が見ている限り、誰もおかしな行動はしていなかった。こそこそ話す奴らが居たら、糾弾しようと思っていたが、そんな素振りもない。こんな中だと人外の票も仲間以外の村人に分散される形になるだろう。なんと言っても今は、人外より村人の数が圧倒的に多い。話し合っていればこの限りではないが、一斉投票である以上、なので人外の票が一人の村人に集中する率は低いと思われる。ゆえに君が言っている理由は理由として成り立たない。他には?」

何やら不穏な様子だ。

識の目は、落ち着いているが少しの綻びも見落とさないという意思が感じられた。

…佐織さんを、スケープゴート位置にするのか。

東吾は、にわかに緊張した。

ここで佐織が何かおかしな事を言ってくれたら、それだけで投票先に困っている村人の票は一気に佐織に入るだろう。

佐織はと言うと、どうして識がそんなことを言い出したのか分からないまま、狼狽えた視線をあちこち動かした。

村人達は、そんな佐織をじっと観察している。

…同じ事をされたら、泣きたくなるかもしれないなあ。

東吾は佐織に同情しながら、事態を見守る。

佐織は、震える声で言った。

「あの、別におかしな事を言ったとは思っていなくて…ただ、深く考えずに意見を出しただけなの。」

久隆が言った。

「深く考えずに、真だと思っているって言ってた識さんの意見に反論したのか?それはおかしくないか。投票先を絞るのは、確かに重要だが初日にどこも怪しくないなら、自由投票でもいいと思う。ラインが見えるだろうし、明日から人外を探すのに有利だ。言葉では何とでも言えるけど、投票は重要だからな。それとも君には、見られたくないラインでもあるのか?」

久隆が責めている。

誰も責めなければ、自分が発言しようと思っていた東吾は驚いた。

佐織が白だと知っている東吾目線、久隆も人外で、スケープゴート位置を見付けたと急いで畳みかけているようにも見えた。

章夫が、言った。

「でもさ、軽く思ったんだと思うよ。そこまで言うほどのこと?確かにこんな状態で自由投票に反対するのって、どこかに票を集めたい人外に見えなくもないけど…。」

章夫は別の方向へ行くのか。

東吾が思っていると、博も言った。

「確かにな。話し合えなかった人外が、どこかに決めて欲しいから言ったとも考えられなくもないが、それだけで決めるのはおかしいかもな。」

そこへ、いつの間にか戻って来た哲弥が言った。

「え、自由投票に反対してるのか?」

敏弘が、頷く。

「佐織さんが。でもどうだろう、うーん、吊り先が決まらない村人にも、仲間に吊り先を決めて欲しい人外にも見えるような気がするし…他に、自由投票に反対の人って居る?」

皆が、顔を見合わせる。

こんな状態で反対ですと言える人も居ないかもしれない。居たら逆に白いだろう。

邦典が、言った。

「とにかくもう時間だよ。あともう少しで5分前。」と、哲弥を見た。「澄香さんはどうだった?」

哲弥は、言った。

「ベッドに突っ伏してて話もくそもなかったが、とりあえず投票しないと追放になるぞ!って言って来た。腕輪で番号入れて、0を三回。ルールブックに書いてある通りにしろって…、」

そこまで言った時、目を赤くした澄香がむっつりと居間に入って来た。

ハッとして皆が振り返ると、乱暴に音を立てて椅子へと座った。

「投票でしょ?ここでやらないと何があるか分からないから。」

ホッとしたような哲弥が頷くと、急にモニターの明かりがついた。

『投票、5分前です。』

また、あの機械的な声だ。

皆が、一気に緊張してモニターを見上げる。

東吾からは、後ろになるので振り返ってモニターを見ると、そこには5分から秒単位で減って行く、時計の表示が映し出されていた。

空調が温風を放っている音だけが、静まり返った居間に聴こえて来ていた。

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