昼の議論2
「…オレはなんだか澄香さんが信じられない。でも、今日のところはグレーからだよな?」敏弘が頷くので、仕方なく歩はため息をついて続けた。「…そうだなあ。今のところ怪しい位置がないんだ。東吾は議論に積極的に参加してるし、浩介はじっと回りを見て考えてそうだし。意見も結構しっかりしてた。哲弥も章夫もちゃんと考えてたし…澄香さんを庇っててちょっと怪しいかなって思った久隆さんは白出てるし。そういえば梓乃さんと白が出てる幸次が黙ってるよね。何を考えてるのか分からない感じで、どうしてもならこの辺りかなあ。あと、晴太も。他は意見出してるよね。」
晴太が、言った。
「オレはみんなに先に言われちゃうからな。意見が出せなくて。寡黙位置だと思って、オレも梓乃さんと歩は怪しいと思って見てたよ。全く何を考えてるのか分からないこの二人は怪しいかなあ。ちなみにオレは、澄香さんのことはまだ怪しいと思ってるよ。吊られそうだから騙ってるのかなって。だってさ、なんかおかしいじゃないか。猫又なのかそうでないかぐらい、答えられるのに。真役職にバレたらマズいって思ってるんじゃないかって勘繰るよな。」
博が、言った。
「確かに澄香さんは怪しいが、まだ役職を出していない今、本人が役職だと言うんだから今日のところは置いておくのがセオリーだろう。他に役職が出て来たら、その人と比べて決め打つなり、明日からの考察で決めて行くのが良いと思う。とにかくいくら狼だって全員を囲うのは無理なんだから、グレーの中には絶対に狼が居る。狐は囲っている可能性があるからないかもしれないが、狼は絶対に居るんだ。そこを探して吊って行くよりない。明日からの占いで、またグレー位置も狭まって来るから、今日よりはやりやすくなるだろう。ちなみにオレが怪しいと思っているのは、まあ、お前達も言うように、寡黙な位置だよな。話さないから情報も落ちないので、限りなく色が見えなくて気味が悪い感じだ。東吾、浩介、哲弥、章夫は結構話が聞けてるし、積極的だ。残しておいてもそのうちに色が見えて来るだろうと思われる。梓乃さんは、話すべきだと思う。話さないなと思っていた晴太と歩には、今話を聞いたし、それに飯時にこの二人とは結構話して考えは知ってるんだよな。」
晴太が、言った。
「ちょっと、今のじゃ意見と言えないから改めて考えを話させてくれ。」と、息をついて、自分を落ち着かせているようだった。そして、続けた。「…オレって結構人見知りなところがあって上手く会話に入れないんだよな。この機会に言うよ。会議の時の発言だけを見ると、東吾と浩介、博さん、章夫は白いなと思う。その時その時の、自分の考えをしっかり割り込んで話してくれるから、分かりやすいし人外を探してるなって思う。浩介はオレと同じような感じを受けるけど、びくびくしていて何か持ってるのか、人外なのかってちょっと怪しんでるよ。みんなが白だと言うのがまた怪しいなって。だって、この中には人外だって混じってるし、全員があれぐらいの発言で白いって言うんだよ?オレだってあんなにびくびくしないもんな。他はというと、梓乃さんは何を考えてるのか分からないから気になる。日向さんと佐織さんとは話していないし、朝の議論でも発言していなかったのでオレ視点では白いか黒いか分からないから梓乃さんと同じ。だから、この三人と歩には話して欲しいと思う。歩も、グレーの寡黙位置を上げて怪しいって言ってるだけで、自分がこれまでどう考えて来たのか話していないから。それから占い師だが、今現在は識さんが真だと思っているよ。狩人保護の方法とか、狼からしたら知られたくないだろうし、狐でもわざわざ言う必要はないのに提示してるんだし。乙矢は自分が占いたい所とかのことばっかりで、村のために考えて譲ろうって姿勢が無いから心象が悪い感じ。自分が一番って見えるし…怖いから、他を攻撃して自分を守ろうとしているようにも見える。妃織さんは論外だよ。全く関心がないみたいに見えるから。もっと真なら頑張るだろうし、早々に真を切って考えてる。」
晴太はいつも人狼同士でもそんなに話さないが、話し始めたらめっちゃしゃべるな。
東吾は、そう思って聞いていた。
黙っているが、会議の発言をじっと考えて聞いていたということだ。
敏弘は、戸惑いながら言った。
「ええっと、そうだな、確かに寡黙位置が怪しいってのなら誰でも言えるしな。佐織さんは?」
佐織は、今の発言量に面食らっていたが、言った。
「そうね、ええっと、私は寡黙のつもりじゃなかったんだけど、割り込めなくて話せてなかったわ。今日は黒い所って分からないから、確かに寡黙位置を吊るっていうのが一番良いのかもしれない。潜伏臭がするってことでしょ?晴太さんの意見はしっかり聞けたから、今は怪しいとは思っていないかな。めちゃくちゃ考えて見てたってことだものね。占い師の事は前から朝から言ってるように識さんが真だと今はもっと思うわ。晴太さんも言ってたように、狩人保護の方法を提示したりしてるもの。乙矢さんも迷うところだけど…これだけ呪殺に血眼になってるんだから、真ならいつか呪殺で証明してくれるでしょう。それまでは、発言とかの精査で識さんを真で見て考察を進めようと思ってる。」
識が、眉を寄せた。
そして、言った。
「…皆が皆、私を真だと言う。」皆が驚いて識を見た。識は続けた。「これはおかしいのだ。そもそもが、人外が混じっているのに全員が私を真だと言うという事は、逆に私に占われたくない人外が、この中に混じっているのではないかと思う。なので、これから私を真だと言い出した者達の事は、その点で白いとは判断しないと私は今皆に言っておく。私から色が見えないようにしているように見えて、逆に私を疑って来る方が白いと思うことにする。」
佐織は、思わず口を押えた。
自分の発言だけを指して言っているのではないのは分かっているのだが、それでも自分の発言を聞いて識がそう不機嫌に言ったからだ。
東吾は、さっきは佐織と話している時、薄っすら微笑んでみたりしていたのに、ここでは叩くのかと驚いたが、識が言っている事は間違っていない。
識視点では、そうなるからだ。
とはいえ、識は真占い師ではないので、これは真感情を村にアピールするだけのためのものだろう。
にしても、どうしてこのタイミングで。
東吾が戸惑っていると、邦典が言った。
「ええっと、みんなオレの事を忘れてるけど、オレもグレーだから話していいか?」
皆が、ハッとしたような顔をした。
そうだ、朝から結構話してたので、忘れていたが邦典もグレー。
狼目線では共有の相方かと思ってはいたが、そうでなかったら確かにグレーなのだ。
「ああ、ごめん。ずっと一緒に話してたから、邦典も白いと思い込んでた。」
敏弘が言うのに、邦典は苦笑した。
「ま、会議中より自由時間の方が結構話したもんな。ここに居るほぼみんなと話したような気がする。でも、今話しておいた方がいいと思って。」と、識を見た。「オレは誰が真だとかの話はしないでおくよ。識さんの感情も分かるしな。ところで、今も話してたように会議の外で話してた人達はそれほど怪しんでないんだよ。だって考えもめっちゃ話しててある程度は知ってるからな。でも、それも無いのにこれだけみんな話してて、割り込んででも話そうって意欲がないグレー、梓乃さんがめっちゃ黒いと思うんだけど、どうだろう。」
言われて、梓乃は驚いた顔をした。
東吾から見たら、梓乃は恐らく話を振られるまで話さないタイプの子なのだろうと思っていたが、邦典から見たらそう見えたのかもしれない。
何しろ、梓乃が猫又だと章夫に言っている事実を、皆は知らないのだ。
日向が、言った。
「確かに…ずっと黙ってるし、雑談とかも全くしてないからほんとに色がついてないものね。他はある程度分かるの、だって佐織だって話を聞いてるし考え方が村っぽいなって思ってるのに、梓乃さんだけが全く見えてないもの。」
東吾は、それには少し顔をしかめた。
もし、梓乃が吊られたら誰かが一緒に消えて梓乃の真が透ける。
そうなると、自分が猫又だと思っている村人が多いのに、今度は怪しまれて吊られることになる。
特に、浩介には騙る事になってしまったので、そんな事は言ってないととぼけることもできない。
梓乃の事は、今日は吊ってもらいたくなかった。
章夫が、こちらの懸念を気取ったのかため息をついて言いたくなさそうに言った。
「…梓乃は、いつもこんな感じ。」と、梓乃を小突いた。「しっかりしなよ、話さなきゃ。黙ってたら吊られるんだよ?それじゃあ村のためにならないだろ?」
梓乃は、章夫に言われてグッと唇を引き結ぶと、意を決したように、言った。
「…私は、絶対に澄香さんが怪しいと思う!役職をCOするならその役職も言うべきだと思うわ。もし対抗が居ても、今日は出なかったらいいと思うの。私から見たら、澄香さんは追い詰められてCOして、ついでに役職をあぶり出そうとする人外に見える!しっかり役職を言ってもらって、その上で真役職が居たら黙って潜伏して噛まれないようにするの。本当は澄香さんを吊りたいぐらいだわ。」
思ったより、強い言葉を使う。
東吾が驚いていると、他の皆もびっくりしていた。
敏弘が、虚を突かれて茫然としていたが、何とか言った。
「え…まあ、そう言えばそうなんだけど。じゃあ梓乃さんは、澄香さんの役職を聞いて他にCOしたい人が居たら、黙って潜伏していろってことだね?」
梓乃は、力のある視線で、じっと敏弘を見つめて頷いた。
「ええ。そうしたら、他に真役職が居た時、守る事ができるわ。白人外だったら噛まれてくれるかもしれない。だから、そうしたらいいと思う。もちろん、明日他に同じ役職の人が出て来たら、私は澄香さんを吊る事を提案するつもりよ。」
ここへ来てからずっと黙っていたし、章夫の後ろでじっと黙っているだけの梓乃だったので、まさかこんなにハッキリと話すとは思っていもいなかった。
だが、梓乃は本来こんなにハッキリ話すのだ。
章夫をチラと見たら、何やら少し、驚いているような様子だったので、どうやら章夫も梓乃のこの様子は予想もしていなかったのだろう。
梓乃はというと、何やら腹をくくったように見えた。
敏弘は、そう言われるとそう思うタチのようで、皆を見回した。
「ええっと…どう思う?今の梓乃さんの提案だけど。」
東吾は、言った。
「対抗を出さないのなら言っても良いんじゃないか?確かにいい考えだと思う。対抗が誰なのか分からないから、もし人外なら何を騙ったらいいのか迷うだろうし。役職が出て居たら、勝てそうな所を選んでCOするだろ?今なら誰なのか分からないから、選ぶこともできないだろう。」
博も、頷いた。
「いい案だと思う。噛まれたとしても、その役職が欠けがある可能性があるって村は知るわけだしな。もちろん、白人外だったら分からないから噛まれる可能性もあるので、噛まれたからって真置きはしないけどね。」
敏弘は、頷いて邦典を見た。
「邦典はどう思う?君が怪しんでた梓乃さんからの提案だけど。」
邦典は、肩をすくめた。
「いや、黙ってるから怪しいと思っただけで。今のを聞いたらちょっと村かなと思ってるし、確かに良い案かな。」
敏弘は、もう一度頷いて澄香を見た。
「じゃあ澄香さん、役職は何?」
皆の視線が澄香に向いた。
澄香は、ゴクリと唾を飲み込んだ。