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獣の棲む森にて  作者:
人狼
15/66

居間での話2

識が、言った。

「ところで敏弘、私は思うのだが、狩人に君にだけ正体を明かしておくように言ってはどうだ?把握しておけば、間違って吊ることもないだろうし、村は安心だろう。守り先も知らせてもらえるし、護衛成功が出た時には守り先を皆に正体を明かさず知らせることができる。情報が多く村に落とせるだろう。」

敏弘は、思ってもいなかったようで、目を丸くした。

「え、狩人を?」

邦典が、手を打った。

「そうだよ!共有だけが知ってたら、護衛先もみんなに知られずに教えてもらえるじゃないか!それで行こう!」

博も、頷く。

「それは良い案だな。狩人が潜伏しやすくなるし、逆に人狼はやりにくくなるだろう。狐噛みなのか護衛成功なのか考える時に楽になる。会議で言ってみたらどうだ?こっそり教えてくれって。」

東吾は、リアル人狼だとそれができるのかと唇を噛んだ。

それにしても識は、どうして敵に塩を送るようなことを。

敏弘は、頷いた。

「言ってみるよ。狩人保護になるし、黒を打たれたら偽が透けるしな。」

「もし敏弘が噛まれた時のために、相方にも教えておかなきゃならないよ。」章夫が言う。「でないと混乱するかもしれないからさ。相方が確かに相方だと分かるために、情報は共有しておく方がいいよ。騙られたら大変だからね。」

識は、言った。

「だが、一確するとは限らない。そういう時は、相互護衛を推奨するよ。両方噛めなくなるから、狼には不利だしね。誰か騙ってくれた方がこちらとしては有利かな。」

そんなことまで。

東吾は、本当に大丈夫なのかと心配になったが、浩介がただ、黙ってそんな皆の様子を見ているのに気付いて、ハッとして行った。

「…そう言えば浩介?なんか意見はあるか?」

浩介は、話を振られてビクッとしたが、皆の視線が自分に集中したので、おずおずと答えた。

「…みんなよく意見が伸びるよね。オレ…何も思いつかないのに。識さんはやっぱり凄いよ。狩人の事を共有に知らせるなんて、思いもつかなかったから。そうだよね、リアルな時間軸でゲームしてるから、それができるんだ。ルール違反でもないし。」

東吾は、頷いた。

「だな。オレも識さんは真占い師じゃないかって思う。こんなことを思い付いて、村に知らせるんだからね。他からこんな意見は出てないもんなあ。」

邦典が、苦笑した。

「というか、思い付かないんだと思うけどね。普通の人狼ゲームで狩人と共有が隠れて話し合いなんてできないし、できないもんだと思っちゃって。でも、良い案だよな。猫又はどうする?」

それには、東吾が急いで言った。

「いや、猫又は潜伏だよ!」思わず力が入ってしまって、皆が驚いた顔をする。東吾は、つい勢いがついてしまった、と慌ててトーンダウンして、続けた。「その…狼が知らずに噛めばそれで一狼落ちるだろ?その狼から他の狼も分かるかもしれないし。」

敏弘が、怪訝な顔をしながら言う。

「でも、間違って吊ったら村人が道連れになるかもなのに?」

東吾は、首を振った。

「だから猫又は、しっかり発言して怪しまれない位置に入って白くなって噛まれるのを待つんだ。黙って寡黙に潜伏したら、吊り位置にされて村のためにならないのは知ってると思うよ。大丈夫だ。」

自分が猫又COするつもりなので、少し猫又に言及しておくべきだと思ったのだが、思ったより力が入ってしまって逆に怪しいかもしれない。

東吾は後悔したが、口から出てしまったのだから仕方がない。

敏弘が黙ると、識が言った。

「ならばそれで。確かにその通りだし、黙っている猫又なんて居ないだろう。吊り位置に入ってしまったら最悪出て来るだろうし、知らなくても問題はない。どこに狼が居るか分からないんだ、この話はここまでにしよう。」

敏弘は、黙ったまま頷く。

やり過ぎたか、と思ったが、意外にも邦典が庇うように言った。

「まあ、東吾が言うことは間違ってないと思うよ。それより、オレはちょっと部屋に帰って考えをまとめて来る。昼の会議で発言しなきゃならないし。」

それを聞いて、敏弘は頷いた。

「ああ。オレもどう進めるか考えて来ようかな。みんなはどうする?」

博が、言った。

「オレも部屋に戻る。いろいろ話して頭が疲れた。識は?」

識は、立ち上がった。

「私も戻る。敏弘に話したかったことは話したしな。」

狩人のことを言っているのだろう。

東吾も、バツが悪いので立ち上がった。

「オレも。なんか朝からいろいろ疲れたよ。」

結局全員が戻ると言い出して、皆でぞろぞろと階段を上がって行ったのだった。


疲れ切って1号室の前へと歩くと、浩介が走ってついて来た。

そして、皆が扉へと入って行くのを廊下の向こうに見て、小声で言った。

「…東吾、猫又?」

東吾は、驚いたように浩介を見た。

怪しんでいる感じではない。

ただ、案じて聞いている感じだった。

「え…いや、オレじゃない。」

東吾が咄嗟にそう言うと、狼狽えているのが分かったのか、浩介は何度も頷いた。

「安心して。オレはほんとに村人だから。東吾、ほんとに積極的に話に参加してたもんね。頑張ってるなあって思ってたけど、だからなんだな。」

東吾は、COしなければならないのはそうなので、仕方なく頷いた。

「信じるよ。でも、誰にも言わないでくれ。誰が人狼なのか分からないだろ?オレは噛まれなければ意味がないんだ。邪魔に思われて噛んでくれたらって思ってるし、目立ったら黒出しして来るかもしれない。だから知られたくないんだ。」

浩介は、何度も頷いた。

「分かってる。安心してくれていいよ。でも、猫又の話題はもう出さない方がいい。敏弘は分かってなかったみたいだけど、識さんは気づいたんじゃないかな。だから話を終わらせたんだと思うよ。オレはそういうの、気取りやすいからね。人の顔色ばっか見て来たし。」

確かに浩介はそんな感じだろうな。

だが、間違っている。東吾がこんな感じなのは、人狼だからなのだ。

「じゃあ、またね。」浩介は、扉を開いた。「気をつけてね。」

そして、部屋の中へと入って行った。

怪しまれたかと思っていたが、案外にあれくらいやった方が村人には分かりやすいのかもしれない。

東吾は、ホッとして部屋へと入って行った。


しばらくして、いきなり扉が開いたかと思うと、章夫が飛び込んで来て、また扉を閉じた。

何事かと目を丸くしていると、章夫は言った。

「ここ、ほんとに防音凄いね。めっちゃノックしてるのに全く返事がないからさあ。もう飛び込むしかないって思って。」

ノックしてたのか。

全く聴こえなかったので、目を丸くしたまま東吾は言った。

「ごめん、聴こえなくて。どうしたんだ?」

章夫は、答えた。

「人に見咎められないようにってさ。識さんから言われて来たんだよ。ところで東吾、上手くやったよね。僕、主演男優賞あげたくなっちゃった。共有は君を猫又だろうって思ってる。敏弘が分かってないみたいだったから、一緒に帰って行く邦典にさりげなく、東吾は猫又かなあって耳打ちしたんだ。そしたら、邦典は頷いて、誰にも言うなよ、オレもそう思った、って。敏弘に話しておくって言ってたから、敏弘は今頃君を猫又だって思ってるんじゃないかな。」

東吾は、ほっとした。

ちょっとくさい演技かなと思ったのだが、やはりあれくらいがいいのだ。

「良かった。やり過ぎかなって逆に怪しまれたかと思ってたんだ。敏弘が変な顔してるし。」

章夫は、笑った。

「敏弘はちょっと鈍いところがあるよね。でもさあ…気付いた?役職同士ってわかりやすいよね。今夜は噛み放題だなって識さんも苦笑してたよ。まあ、うまく利用させてもらうけどね。」

東吾は、え、と首を振った。

「何か分かったか?」

章夫は、呆れたように言った。

「あのさあ、しっかりしてよ。まあ、演技が良かったからいいけど、共有の相方と霊媒らしい所が分かったんだよ。まだ分からないけど、今夜噛んでみる価値はありそうだ。」

東吾は、びっくりして言った。

「え!あの一回話しただけで?!誰だ?!」

章夫は、まあまあとなだめるように言った。

「まあ落ち着いて。まだ確定した訳じゃないけど、共有の相方は邦典っぽい。あの二人は知らない同士なのにゲームが始まってからやたらと仲が良さそうだからな。で、霊媒は、多分日向さん。ローラー掛かるって聞いて顔色が変わったでしょ?」

言われてみたらそうだった。

だが、それだけではまだ分からない。

「…安直過ぎないか。」東吾は、自分も騙る予定なので、言った。「オレだって猫又じゃないのに、浩介だってさっき勝手に思い込んでたんだ。騙るつもりの人外、まあつまりは狐陣営かもしれないだろ?ほら、狐が占いで、背徳者が霊媒って感じで。」

章夫は、思っていたことなのか、頷いた。

「それはそうだよ、ローラーされるなら騙っても吊られるわけだからね。でも、今の所日向さんってだけ。他に分からないんだから、背徳者だろうと噛んでおくのも有りだろ?共有だってまだハッキリしない。ただ、あの二人のウマがあっただけなのかもしれないからね。初日なんてそんなものだよ、そこから探して行くのさ。村人は人外を、人外は村役職をね。」

東吾は、村役職と聞いてハッとした。

そういえば、狩人のこと…。

「…そうだ、狩人のこと。なんで敵に塩を送るようなことを言ったんだ?困るんじゃないのか。」

章夫は、フフと笑った。

「なんだよ、東吾、分からないの?今言ったところじゃないか。村役職を探すんだよ。そのためには、知っている人が多ければ多いほどバレる率が高くなる。今のままだと狩人自身しか役職を知らないから、狩人がボロを出すのを待つしかない。でも、共有二人と狩人の三人が知れば、その言動から透けて見えて来るんだ。識さんはそれを期待してるんだよ。狩人の位置は、早めに知っておきたいからね。」

そんな風に考えたのか。

一見、村のためのような意見なのに、狼利になるように考えてあの意見を出したのだ。

東吾は、これは敵わない、と思わず両手を上げた。

「もうお手上げだ。オレはみんなの言う通りにしておく方がいいらしい。何も分かってなかったよ。」

章夫は声を立てて笑った。

「それを伝えに来たんだ。分かってなさそうだったからね。でも、識さんも東吾のことは褒めてたよ?今から伏線を張ってくれていたらありがたい、って。思ったよりやるな、もう囲う必要もないだろうってさ。その分僕達を囲えるからね。」

そんなことまで。

東吾は、思ってもいなかったことだったので、褒められたと聞いてもあまり嬉しくなかった。

なので、渋い顔をして言った。

「あれは偶然だし。オレはそこまで考えてたわけじゃなくて、猫又を騙るんだし相手が出て来るまでは真には隠れてて欲しかったなって。それだけなんだ。ほんと、これからは気を付けるよ。」

章夫は、困ったように笑うと言った。

「まあ、だからって発言を控えたりしないでね?せっかくあんな風に言ったのに意味がなくなるからさ。とにかく、頑張ろう。一人じゃないんだし、きっと大丈夫だよ。」

そう、人狼は一人じゃない。

東吾は、自分を奮い立たせて頷いて、また外を気にしながら出て行く章夫を見送ったのだった。

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