居間での話
居間には、お誂え向きにさっき話していた、グレー位置の梓乃、幸次、浩介、佐織、日向、邦典、歩、そして呼びに来た敏弘がソファに座って話していた。
東吾達が歩いて行くと、敏弘が振り返った。
「ああ、来た来た。何かいいメニューはあったか?」
東吾は、肩をすくめた。
「なんかパッとしない。何でもあると、これが食べたいってならないから不思議だな。新しく補充されてるって聞いたから期待してたのに。」
邦典が、笑った。
「補充されてるだけで、昨日と変わった食べ物はなかっただろ?」
そんな会話をしながら自分達もソファに座ると、あちらで章夫の隣りに寄って来た、梓乃を不機嫌に突き放す声が聴こえた。
「なんだよ、鬱陶しいって言ったじゃないか。なんで部屋に帰ってないんだよ?僕はそんなにしょっちゅうお前と一緒に居たくないんだって。」
さっき上手くやれと言われたばかりなのに。
東吾が思っていると、博が言った。
「こら、女の子に。もうちょい言葉に気を付けろ。」と、梓乃を見た。「気にするな。こいつは誰が敵なのか分からないからイライラしてるだけなんだ。」
いや、オレ達ほど敵が分かってる陣営はないけど。
東吾はそう思いながら黙ってきいていた。
すると、幸次が頷いた。
「だよなあ。章夫の気持ちも分かるよ。あんまりくっついてられたら、敵陣営が探るために側に居るんじゃないかって、落ち着かないよな。オレはいい、知り合いも居ないし。でも、哲弥がさ…さっき、廊下で会ったんだけどな。」
寡黙な幸次が話すのに、珍しくて東吾は言った。
「なんか言ってたか?」
幸次は、頷く。
「澄香さんがさ、怪しいじゃん。で、恋人同士だから、敵陣営だったら探られたくないしめんどくさいって。一緒に疑われたくもないし、庇う気にもならないんだって。そういうの、難しいのな。」
確かに疑心暗鬼になるだろう。
敏弘が、顔をしかめた。
「オレだって妃織と一緒に来たけど、あいつは全く分からない。真占い師なのかって聞いたら、そうだから同じ陣営で良かったねって笑うんだけど、それを信じていいのか難しいよ。オレの部屋に一緒に帰ったんだけど、居心地悪くて理由を付けて出て来たんだ。そりゃあいつはいいよ、分かってるんだから。オレが共有だからね。でも、オレからは分からない。何か探られるんじゃないかって、何か気持ち悪くて。何しろあんな感じで真目が薄いわけだしな。」
それはそうなるだろうな。
東吾は、人狼ゲームに恋人同士で参加するのは間違いだな、と思った。普通のゲームならいいが、こうして本当の時間軸で戦うゲームでは、長い時間疑心暗鬼になるので関係が壊れる可能性があるのだ。
章夫は、首を振った。
「僕は別に梓乃と付き合ってるわけじゃないから!ただの幼馴染で、どうしてもって言うから一緒に来ただけだからね!ゲームなんだし何を言われても信じられないんだよ。だから、僕の事を探りに来たのかって思ったら気持ち悪いじゃないか。それで村人たちに迷惑かけたら嫌だしね。だから必要以上に傍に来ないで欲しいんだ。何で言う事聞かないの?」
章夫は、プンプン怒っている。
梓乃は、困惑したように言った。
「昔から一緒に来たのに、どうしてそんな事言うの?お互いのお父さんとお母さんだって、このままずっと一緒ならって言ってたじゃない。私もそうしようと思っていたわ。」
うわ、重。
東吾は、それを聞いて思わず声が出そうになったが、心の中に留めた。
だが、章夫は顔を盛大にしかめて、言った。
「え、まじ?!無い無い、オレ他に好きな子居るから!」
それには、皆が仰天した顔をした。
梓乃も、目を見開いてみるみる涙を溜めた。
「え…どういう事…?!」
章夫は、面倒そうに言った。
「だーかーらー高校は別でしょ?梓乃は僕の高校に落ちたじゃないか。大学だって同じとこ受けたみたいだけど落ちてたし。僕は学校にたくさん女友達がいるんだ。その中にすっごくいい子が居て、大学も一緒なんだ。だから卒業式の時に入学式に一緒に行こうって誘ってみようかなって思ってる。そもそも昔から一緒なのに、そんな気になるはずないだろ?そんなつもりだったなんて、初めて聞いたよ。」
いやだから、そんなに強く突き放したらまずいって。
東吾は焦った。
同じ気持ちなのか、皆がオロオロとしている。
特に日向と佐織は、気遣うように梓乃をチラチラ見ていた。
「酷い…!私だって同じ学校に行きたかったのに、行けなかったんだもの…!」
梓乃は、ボロボロと涙を流して言うと、サッと立ち上がって駆け出して行った。
章夫は、それを冷ややかな目で見送って、言った。
「そういう問題じゃないっての。昔から僕に頼りっぱなしで面倒だったんだから。親がうるさいから面倒見てたけど。」
博が、諭すように言った。
「だとしても、一緒に来たんだから今ここで突き放さなくても良かったんじゃないか?まだまだ数日一緒なんだ、面倒な事になるかもしれないじゃないか。」
章夫は、博を軽く睨んで言った。
「あのさ、ほんと鬱陶しいんだよ、梓乃のこと。悪く思われていいよ、この歳になるまで、隣りに住んでるからって事あるごとに親同士が家族ぐるみで出掛けるし、付き合わされてほんとに面倒だったんだ。高校で他に彼女ができた時だって、母さんが良い顔しなくてめんどくさくなって別れたし。今回だって、僕は一人で行くって言ってるのに母さんが梓乃に話してさあ。勝手に申し込んでたんだよね。回りから固めて行かれそうで、ほんとに迷惑してるんだ。」
佐織と日向は、何も知らないうちは章夫を酷い男だと眉を寄せて見ていたのだが、これを聞いて少し、同情するような様子になった。
隣同士だからと、ずっと一緒に行動させられた挙句、親までそれに加担して来たとなるとそれは面倒かもしれない。
というか、多分みんなそんな事は嫌だろう。
敏弘は、同情したように章夫を見た。
「事情を聞いたら異常だな。章夫の気持ちは分かったよ。でも、ゲーム以外のことでごたごたしないで欲しいんだ。それでなくてもいろいろあるし、梓乃さんがめんどくさい行動でもしたらこっちが困るんだ。すまないが、ちょっと気を付けてくれ。」
章夫は、ブスッとした表情で頷いた。
「それは迷惑かけたくないから。もう何も言わないけど、まだ付きまとうならごめんだけど言わせてもらうよ。ほんとに鬱陶しいから。」
確かに気持ちは分かるが、梓乃が暴走したらめんどくさい。とはいえ、東吾はもしもの時は梓乃と対抗するので、梓乃が精神的に不安定で感情的になってくれたらそっちの方が助かると言ったら助かる。
もちろん、本当に梓乃が猫又ならの話だが。
邦典が言った。
「ところで、日向さんと佐織さんはだんまりだったけど、どう思った?君達もグレーだよね。澄香さんのことだけど。」
佐織は、うーんと首を傾げた。
「そうね、澄香さんってちょっと話した程度だったんだけど、ほんとに哲弥さんが言っていた通り、普段からあんな感じなの。朝早めに居間へ来て、キッチンに食べ物見に行った時にも、何のパンが好きかって話になって。私達の大学の購買で、流行ってるパンがあったから、これが旬なのよって教えてあげたら、それは大学の中だけで、外ではこっちよってめっちゃ言われて。別にどっちもおいしい、でいいと思うんだけど、旬はこっち!って押しが強かったの。結局私達が折れたんだけど…こんな所で喧嘩したくないし。だから、性格だから怪しいって言い切れないのは確か。」
めっちゃ些細なことでも突っかかる感じなんだな。
東吾が思っていると、日向は、頷いた。
「そうなのよね。でもなあ…吊ってもいいと思うの。まだ初日だし、間違えても大丈夫でしょ?明日になったら霊媒が出て来て色が分かるわ。だから、いいと思うのよね。残しておいても、多分明日以降悩むでしょ?識さんが居るのになんだけど、まだ占い師の誰が真なのか分かってないわ。だから、みんなで占って結果が出る頃にはゲームが終わってそうで。」
博が、言った。
「まあその通りだけど、出来るだけ白は吊らない方向で行きたいじゃないか。霊媒だって複数出て来たら色が完全に分からないしな。霊媒をローラーすることもできなくなるから、黒いところを吊りたいわけだ。もっとしっかり考えないといけないと思う。」
日向が、驚いた顔をした。
「え、霊媒をローラーするの?」
佐織が、何を今さら、と日向を見た。
「今さら何を言ってるのよ。霊媒が二人以上出たら大概ローラーじゃないの。でも、確かにそうよね。今日黒が吊れてないと、霊媒師も決め打ちしないといけなくなるから、できたら黒でないと。霊媒師を真贋を付けるのって難しいしなあ。」
日向は、黙り込んだ。
霊媒はローラーが基本なのに、おかしな反応だった。
邦典が、言った。
「もう、今日霊媒を出しても良いけどな。それで、グレーも狭まるし。その上で霊媒から吊るかグレーを吊るかで判断ってのもいいかもしれない。占い師に三人出てるから霊媒師は少ないんじゃないかと思うけど。一確はあんまり望めないだろうし。」
敏弘は、頷いた。
「そうかなあ。澄香さんを怪しいって言うなら、潜伏させておいての方がいいとは思うけどなあ。澄香さんで黒が吊れていたら、多分狼だって数が減るから霊媒に出るのに躊躇うと思うんだよね。ま、狂信者がグレーに残ってるんなら分からないけど。なるべく霊媒を一確させたいしなあ。」
識が、言った。
「霊媒はまだ出さない方が良いんじゃないか。とにかく今日、黒が吊れるように努力しよう。そうしたら、霊媒が一確する可能性があるんだし。もっとしっかりグレーを精査するんだ。確かに今の怪しい位置は澄香さんが筆頭だと思うが、他の話もよく聞いておかないと。狼に利用されてる村人の可能性もあるわけだしな。」
言われて、敏弘は渋い顔をした。
「まあ、確かにな。澄香さんを庇ってたのは…久隆さんぐらいだったし、他の狼に見捨てられてる可能性もあるけど、狼が初日から切るのも危ない気がする。しっかり考えるよ。」
識は、頷いた。
「まあ、口ではどうとでも言えるからな。投票が肝心だ。澄香さんを攻撃していても、入れないやつが居たら注意しておいた方がいい。全ては投票が物語るのだ。初日の今夜は特にな。」
佐織が、少し遠慮がちに識に話し掛けた。
「その…私は識さんが真かなって思ってるわ。だから怪しいと思う所を吊ってもいいと思ってるけど、どこが怪しいと思う?」
識はチラと佐織を見た。
佐織は、途端に赤い顔をして、下を向いた。
…確かに識さんは、近寄りがたいけど綺麗な顔してるもんなあ。
東吾は、思って見ていた。
識は、それに気付いているのかいないのか、フッと微笑むと、言った。
「まだ澄香さん以外は分かっていないのだ。逆に君はどこが怪しいと思う?」
話し返されて、佐織は赤い顔をしながら言った。
「あの、私もまだ…。でも、しっかり発言している東吾さんや章夫さん、それに博さんは白く見えたわ。乙矢さんはとても一生懸命だけど、なんだか真を取りたい人外なのかなと思えたり。でも、興味も無さげに識さんと乙矢さんの言い合いを見ているだけの、妃織さんは仲間が居るから余裕の人外なのかなとも思うし…。」
敏弘が、顔をしかめる。
そう見えると言えばそうだからだ。
識は、微笑んだ。
「ほう。言われてみたらそうだな。だとしたら、仲間は多そうだから人狼か。となると乙矢が狐か背徳者…背徳者ではないな。相互占いを執拗に押すのは、占われても良い場所に白を出しているということだし、ならば乙矢は狐。」
佐織は、褒められた気持ちになってますます顔を赤くした。
敏弘は、ハアとため息をついた。
「ほんとにそんな感じだな。妃織は怪しいんだよ。部屋に帰ってからも、占い先どうする?とか聞いて来てさあ…まだ分からない、村と話し合って決めるって返したけど、囲いたいのかな。狩人はどこだと思う?とか、ほんとに知ってても話したくない感じで。」
まあ、真占い師でもそれは話題にするだろうけどな。
東吾は思いながら聞いていた。
まさに疑心暗鬼になっているからこそ、何もかもが怪しく感じるのだろう。
それにしても識は滅多に笑わないのに、佐織さんには微笑み掛けた…?
東吾は、訳が分からなかった。