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獣の棲む森にて  作者:
人狼
13/66

キッチンにて

当然と言えば当然なのだが、まだ11時前の今、誰もキッチンには居なかった。

どうやら昨日部屋に入る前に、欲張ってたくさん持って帰った人ばかりのようで、この時間はキッチンに用はないらしい。

それでも居間にまだ浩介や、久隆も残っていたのが見えたので、東吾は閉じた扉を気にしながら小声で言った。

「…何か話があるのか?」

博が言った。

「ああ、オレはあり得ないほど耳が良いから、警戒しなくていいぞ。誰か来たら教える。ここの防音が完璧なのは確かめて知ってる。聴こえるのはオレぐらいのもんだよ。」と、識を見た。「それで?何か分かったか。」

識は、頷いた。

「恐らく乙矢が狐だ。妃織が真占い師。」

意外なことに、皆が目を丸くした。

晴太が言った。

「え、逆なんじゃないか?乙矢ってめちゃ頑張ってたけどな。」

識は、首を振った。

「狐狐と言うのは、自分が狐ではないというアピールに聴こえるのだ。ああして始めから皆に印象付けて、非狐だと思わせたいのだと私は思う。対して妃織さんのあの無関心さは、自分が吊り位置にも何も入らないと知っていて、どこを占わさせられても真結果しか出ないという余裕からだと思われる。普通、占い師を騙っていたらそれなりの心的圧力があって、澄香さんのように感情的になってしまうもの。妃織さんの落ち着きようは、真だからと考えると合点が行く。皆に真ではないとあれだけ言われているのに、あれだけ落ち着いていられるんだぞ?私が知る女子は、大概同じシチュエーションに陥ると嘘を暴かれまいと感情的になる。彼女にはそれがない。なのでそう判断した。まあ、まだ状況証拠だけで分からないがね。」

言われてみたらそうだ。

狼目線で白の澄香も、白なのに疑われて感情的になって、ああして疑われる結果になっている。

まして嘘を見破られそうだと思ったら、何かしら言わずにはおけないだろう。

妃織のあの落ち着きっぷりは、確かに真と言われたらそうなのだ。

「じゃあ…どうしたらいい?」東吾は、言った。「妃織さんの占い位置に入らないように弁護するべきか?」

博は、首を振った。

「あまりあからさまだと逆に疑われるぞ。村の意見に合わせて行くのが一番だ。とりあえず、意見は二つに分けよう。」と、識を見た。「オレはさっきもやっていたように、識と意見を合わせて行く。今日のところはな。お前たちは乙矢の肩を持つようなことをちょっと言う程度で、まだ分からないで通せ。あんまり真っ二つだとおかしいし、章夫は別の意見を言ってもいいがな。一人でも生き残ればいいんだからな。お前は上手くやれるみたいだ。」

章夫は、フフと笑った。

「澄香さんの黒塗り、上手くやったでしょ?僕、こういうの得意なんだ。梓乃は絶対僕の言うことを聞くし、上手くやるよ。」

言われて、ハッとした。

そう言えば、梓乃が居ない。

東吾は、言った。

「あれ、絶対ついて来る梓乃さんは?」

章夫は、肩をすくめた。

「あんまりくっついてたら鬱陶しいから吊るよって言って、先に部屋に帰らせたよ。何でも言うこと聞くって言ったでしょ?」

まるで奴隷だな。

東吾が思っていると、博が言った。

「後々面倒なことになりそうだし、あんまり無碍に扱うなよ。ちょっとは優しくして、確実に最終日に備えないと。何があるか分からないからな。」

章夫は、首を振った。

「あいつの扱いは僕が一番知ってるから。面倒なのは、猫又ってことかな。鬱陶しくなっても噛めないんだよ。吊るしかない。」

識は、言った。

「いよいよとなったら私が黒を打つ。本当に猫又ならそう明かすだろうが、そうなった時誰か対抗してくれないか。」

章夫が顔をしかめた。

「僕は霊媒に出るから無理だよね。誰にする?」

東吾は、思いきって言った。

「じゃあ、オレが出る。」東吾は胸を張った。「できたらそれまでに白が欲しいけどね。」

識は、頷いた。

「善処する。村次第だな。私は自分から指定先を決めるつもりはないから、君が指定先に入ったら率先して占おう。」

章夫は、頷いて言った。

「ねえ、今夜どこ噛むとか言いたいことある?別に後でもいいけど、今言えそうなら言っておいた方がいいんじゃないかな。」

識は、眉を上げた。

「君達は狼なのに私の指示に従うのか?」

確かにそうだが、一番頼りになりそうだからと東吾は思っていた。章夫が、顔をしかめた。

「だって、占い師に出てるんだからゲームメイクしたいんでしょ?こっちは三人潜伏させてもらってるし、ある程度なら聞くよ。もちろん、明日の霊媒結果とかもこうしたらいいってあったら言って。あなたが真を取るのが先決だからね。」

識は、頷いた。

「ならば、私が指示させてもらえたらありがたい。思う通りにやってみたいと思っていたので。」と、皆に異論はないかと視線を移してから、また章夫に戻して、言った。「今日の吊りは澄香でいいだろう。明日、白が出るので君は黒を打って欲しい。東吾が上手くさっき久隆の発言を拾ってくれていたので、そこから久隆の黒も追えるように持って行けそうだ。そうなったら乙矢の白先なので乙矢の偽も村は追い始めるだろう。妃織が相互占いしていたら、そっちも偽を疑われ始めるだろうし良い傾向だ。霊媒結果に白黒が出たらどっちが真だとまた議論を始めるので、議論時間を潰すこともできる。霊能ローラーにする余裕が村目線ではないが、黒結果を出してる章夫目線ではひと縄余裕があるから率先してローラーを推してみたら良いかと思う。それで真だと思われて一日延びたら次の日に私がどこかに黒を打つ。そうしたら、そっちか君かで迷うだろう。先々を考えて、行動して行こう。ちなみに今夜の噛みは、私は特に指示はしないな。霊媒らしいところを噛んで、章夫一確したら楽でいいんだが。」

博は、言った。

「霊媒らしい場所は分からないか?」

識は、息をついた。

「分からない。午後からの議論で皆の話を聞いて、透けて来たらまた教えるが、午前中の議論では目立った動きはなかったな。気になる発言もないし、もっと皆に話をさせろ。発言を促されないと黙っている、梓乃、幸次、貞行、日向、佐織、邦典、歩のうちのどれかなんだろうが、あからさまに潜伏臭がするのは…日向、佐織、邦典の三人か…?というのも、この三人は他のゲームでは結構発言していたのに、今回はあまり声を聞くことが無かったからだ。梓乃、幸次、貞行の三人は、元々寡黙傾向で現時点では透けて見えないのだ。」

章夫は、言った。

「梓乃は猫又だよ。だから霊媒じゃない。」

識は、また眉を上げた。

「それは確かか?」

章夫は、驚いた顔をした。

どうやら、疑っていなかったらしい。

「だって…本人がそう言ってたんだよ。あいつはオレに嘘なんかつかないから。」

識は、真顔で言った。

「君達のことは君達にしか分からないだろうが、君のその梓乃に対する信頼はどこから来ているのだろうな。本当に猫又なら良いが、違ったら後で困るぞ。何事も頭から信用しないことだ。一応、疑ってかかるのだ。こちらは狼なのだぞ?慎重にしていて間違いはない。」

章夫は、言われて不貞腐れた顔をしたが、確かに頭から信じてしまっても良いとは限らない。

なので、渋々頷いた。

「分かったよ。」

博が、そこで冷蔵庫へと歩いた。

「そろそろ居間に人が増えて来たぞ。ここに誰か来ない間に、何か食べ物を選ぶんだ。集まって何をしているんだと勘繰られることになるぞ。」

何も聴こえない。

東吾も晴太も章夫も驚く中、識も冷蔵庫に歩み寄った。

「そうか。じゃあ何でもいい。とにかくまともな食べ物を選んでおいてくれないか。」

博は、顔をしかめた。

「あのなあ、お前の親父と一緒じゃねぇか。オレはそこまで毎回面倒見切れねぇぞ。要と一緒にすんな。」

識は、眉を寄せた。

「私の世話係だと来たのではないのか。だったら私は、そっちの栄養ゼリーでいい。」

言うが早いか、識は側の棚を開いてそれを引っ張り出した。

博は、大慌てで首を振った。

「こら!分かったって、手間の掛かるやつだな。せっかくジョンが引退して穏やかにしてたのによー。お前が来てまた同じだよ。」

識は、フンと鼻を鳴らした。

「だから私はゼリーでいいと言うのに。君たちがしっかり食えとか言うのではないのか。」

「食って頭をハッキリさせてくれなきゃ困るんだっての!全く…。」

何か知らないが、家族ぐるみで何かあるのだろうか。

東吾がそう思いながら冷蔵庫の中を確認していると、いきなりキッチンの扉が開いた。

驚いて振り返ると、敏弘が顔を覗かせた。

「あれ、もう昼食?何人か集まって話してるけど、どうかなと思って。」

東吾は、首を振った。

「いや、いいものを先に確保しとこうって思って。集まってるのか?」

敏弘は、苦笑した。

「部屋で朝飯のパン食べて来たとかで、何人かな。別に強制じゃないし、ゆっくりしてくれていいけど。まあ、気が向いたら来てくれ。」

敏弘は、そう言って特に怪しむ様子もなく、扉を閉めた。

あまりに長く籠っていてもおかしいと思われるので、東吾は仕方なく足を居間への扉へと向けたのだった。

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