初日の朝4
東吾は、敏弘の視線が自分を向いたので、来るな、と思った。
思った通り、敏弘は言った。
「じゃあ、さっきは最初だからあんまり意見を聞けてない東吾から。」
東吾は、頷いた。
「今の話を聞いてると、乙矢さんの白先だからあんまり疑ってなかったけど、久隆さんはやたらと澄香さんを庇うような発言をするよね。最初も相互占いの提案に真っ先に乗ったし、さっきも占い先に指定されてるから…とか、やんわりだけどさりげなく庇っているように見えた。でも、他はみんな澄香さんを庇う様子もないし…もしかしたら、だけど、占い師に狐は居なくて、狐陣営は完全潜伏なのかな?この二人が狐陣営で、久隆さんは背徳者…とか。まあ、分からないよ?狼だって全員が庇うわけもないし。久隆さんが狂信者で、狼を庇ってるのかもしれない。となると、占い師に出てるのは狼、狐、真かなとか思って見てた。ちなみに澄香さんが怪しいのは誰が真でも変わらないよ。占い師に出てる狼陣営の誰かだって、ここまで皆が怪しい目を向けてたら切るだろうしな。澄香さんの弁明も、なんか心に響かなかったし逆に焦って見えて他が分からないだけに怪しく思うなあ。」
久隆が、反論した。
「別にオレは庇ってない。みんなが澄香さんが怪しいと言うなら今夜吊ってもいいと思ってる。一応占い指定先だったから、言ってみただけだ。」
敏弘は、難しい顔をした。
「うーん、久隆さんはそう言うけど、言われてみたらそうだ。東吾はよく見てるな。だがまあ、久隆さんは白が出てるし。今夜誰に入れるかでそこは分かると思う。」と、浩介を見た。「浩介は?なんかビビリ過ぎだぞ、怪しまれるから村人ならしっかりしろ。」
浩介は、またビクとしたが、頷いた。
「分かってる。オレはこういうのが苦手なだけで…今回、思いきって参加しただけだから、みんなみたいに話せないんだ。」
東吾は、そこは同情した。頑張って参加したのに、こんな風に疑い合うんだからつらいだろう。
…早めに噛んでやった方が楽かもなあ。
東吾は、そんなことを思っていた。
敏弘は、渋い顔をして言った。
「まあ、みんな事情はあるだろうし。友達同士とか恋人同士とかね。初めて会うから性格もまだよく分かってないしなあ。浩介の気持ちは分かるけど、それでも村人なら頑張ってくれ。それで、どう思った?」
浩介は、頷いて思いきったように言った。
「章夫が言うことにすごく共感したよ。澄香さんって、遊びの人狼やってるときも、言葉がキツくてオレ、苦手でさ。そういう時は人外だったから、さっき相互占いを推した時、どうして絶対なんて言うんだろうって不思議だったんだ。そうしたら、章夫がああ言うから、確かにそうだって思って。みんながいいなら、オレも澄香さんでいいと思う。だって、他の人はどっちでもいいけどって感じだったし、みんなが心配する識さんが狐を囲ってるってことも、占ったら分かるだろ?でもオレは、そこまで識さんが怪しいとは思ってない。一番真っぽいって今でも思う。」
敏弘は、首を傾げた。
「それって、乙矢のことは?どうしてそう思うんだ?」
浩介は、答えた。
「どうしてって今の時点では勘しかないけど、識さんってすごく落ち着いてるしね。乙矢みたいに絶対ここを占うって主張がないから、狼を囲おうともしていない。最初の意見で噛まれ懸念もあった。狐なら噛まれても怖くないからないだろ?他の二人とは、そこが違う。」
浩介は、ビビリながらも結構しっかり見ている。
…だが、結論は間違ってるけどな。
東吾は思って見ていた。
だが、村人っぽいと皆思ったようで、ウンウンと頷いて聞いていた。
敏弘は、感心したような顔をした。
「思ったよりちゃんと考えてるなあ。じゃあ哲弥。」
哲弥は、言った。
「浩介の意見は驚いたよ。言われてみたらそうだよな。ここを占いたいって主張が強いと、なんか仲間を囲いたいのかって思えるし、それに相互占いって博さんや識さんが言うように、グレーを守る占いだ。呪殺を出したいから必死なのかって、なんか真っぽいとか思ってたけど、今のでフラットになったなあ。相変わらず妃織さんがハッキリしないけどね。」
敏弘は、促した。
「それで、澄香さんの事は?多分、君が一番分かっていると思うんだけど。みんなが言うように黒いと思う?」
哲弥は、ハアとため息をついた。
「こいつはいっつもこんな感じなんだ。興奮するとね。自分の意見を通したいタイプだから、反論されるとむきになるから感情的に言うんだよ。だから、みんなが思ってるほど怪しいとは思ってない。見慣れてるからそう思うだけだろうけど、それで皆が怪しむんなら仕方がないかな。オレは村の意見に従うつもりだ。オレからだと知り過ぎてるから濁るだろうしな。」
いつもあんな感じなのか。
そう思うと、東吾はやっぱり彼女とか面倒だなあと思った。そう思うからこそ、特に合コンなどにも参加せず、会社の事務の女子とも当たり障りなく、誘われても乗らずに生きて来たので、こんな風に感じるならそれが正解だな、と自分で勝手に納得していた。
案の定、澄香が隣りで怒って言った。
「ちょっと!いつもこんな感じってどういうことよ!あなたが間違ってる時だけじゃない!」
「ほら、それだって。」哲弥は、顔をしかめて言った。「オレはいいよ、我慢してたしな。機嫌悪くなったらめんどくさいから。でも、みんながみんなオレと同じだと思わない方がいいって。オレが間違ってるとはオレだって思ってないし、澄香だって自分が間違ってると思ってないわけだろ?でも、オレが折れてるから分からないだけだと思う。こういうゲームは、自分が合ってるかどうか分からないんだから、自分の思いこみを押し付けたら駄目だ。オレはお前の彼氏だし少しは寛容なつもりだけど、他はお前のことなんて全然知らないし好きでもないんだぞ?そうそう折れてなんかくれないんだよ。」
澄香は、少し驚いたような顔をした。
何に驚いたのか分からなかったが、どうやら哲弥の言葉の何かが刺さったらしい。
むっつりと黙ったのに、敏弘が言った。
「で、怪しいと言われてるから澄香さんも考えを話してくれないか。しっかり話したら、皆の印象を覆せるかもしれないし。だが、哲弥も言ったように感情的になっちゃ駄目だと思う。内容よりも、その焦ってるように見える様子が怪しくなるんだよね。オレ達は普段の澄香さんとか知らないしな。落ち着いて話して欲しい。」
澄香は、フルフルと震えていた。
怖がっているというより、哲弥に言われた言葉の中の、何かがショックでまだ復活していない感じだった。
…相手が折れてくれてるのに気付いていなかったのかな。
東吾は思ったが、じっと澄香が話し始めるのを待った。
だが、澄香はいきなり立ち上がった。
「…ごめんなさい。私、今は感情的になってしまっていて、多分きちんと話せない。少し時間を置いて、発言させてくれない?」
敏弘は、いきなり話の腰を折られた気持ちになって顔をしかめたが、言われてみたらもう長い時間話をしている。
なので、言った。
「…そうだな。そろそろ休憩を入れてもいい頃だ。」と、皆を見回した。「ここで休憩にしよう。昼ご飯を済ませて、13時にここにまた集まってくれないか。澄香さんも、それまでに落ち着いて話すことを考えて来てくれ。」
澄香は頷いて、哲弥の方を見ずにサッと居間を横切って扉の方へと速足に歩いて出て行った。
それを見送りながら、東吾は余計に怪しいのに、と思っていた。
いくら動揺していても、ここで少しでも話しておかないと、後からだったら仲間と話し合って来るんじゃないかと思われてしまう。
まあ、澄香が怪しまれれば怪しまれるほど縄が狼から遠ざかるので、有難いと言えば有難かった。
哲弥が、ため息をついて立ち尽くしている。
東吾は、それに気付いて話しかけた。
「哲弥?なんだよ、追わないのか?なんか泣きそうな顔してたけどな。」
哲弥は、肩をすくめた。
「いいよ、思い通りにならなかったらいつもそうだから。多分なー、オレが悪い。いつも折れちゃってさ。これに参加するのも、ほんとは気が進まなくてね。だって、母さんにもう帰るって言っちゃってたしさあ。めっちゃ文句言われるから、今回はやめとこうって言ったのに、あんな感じでごり押しして来たから。結局折れちゃって今ここに居る。やっぱり、駄目なものは駄目なんだって言わなきゃな。だから今、疑われることになってるんだし。多分、みんなが自分の言う事を聞いてくれないのがショックだったと思うんだ。何しろ、あいつには兄ちゃんが居るんだが、兄ちゃんもオレみたいに言うこと聞くタイプだったしね。みんな自分の言う事を聞いてくれるって思っちゃったんじゃないかな。で、そうでないってやっと知ったのかもしれない。」
東吾は、驚いた顔をした。
「え、今までの彼氏もみんな哲弥みたいな感じだったってことか?」
哲弥は、苦笑した。
「いや、オレが初めての彼氏。」東吾が驚いていると、哲弥は続けた。「あいつの兄ちゃんと同じ職場でさ。知り合ったんだ。でも、潮時かなあ。」
東吾は、慌てて言った。
「ちょっとちょっと、これまで上手くやってたんだから。オレ達にとっては確かにタイプじゃないかもしれないけど、簡単に決めちゃ駄目だぞ?ゲームだから誰でも冷静にはなれないだろうし。それより、本当のところどう思う?澄香さんは黒か。」
哲弥は、大きなため息をついた。
「どうかなあ。でも…このまま残しても黒くなるだけだと思うし、出来たら吊った方が良いんじゃないかって思い始めてる。居たらずっと黒位置だって言われるだろうし、これだけみんなに怪しいと言われてたら占い位置でもないだろう。吊り先に困ってるんだし、怪しい位置は吊りたいだろうからな。」
追放が、いったいどんな感じなのかまだ分からないのに。
東吾は、内心思っていた。もし、実際に死ぬ…ということは無くても何某かあるとしたら、そんなに簡単に彼女を差し出しても良いのだろうか。
だが、人狼からしたらそれは助かるので、哲弥がそう思うならそうして欲しかった。
東吾は、ポンと肩に手を置いた。
「ま、後で落ち着いてたら話を聞いてやって来たらどうだ?彼女なんだし。みんなそれで、哲弥まで黒くはみないと思うよ。」
哲弥は苦笑して頷いて、そうして居間を出て行った。
章夫が、言った。
「東吾ー、暇?ねえ昼ご飯何食べる?まだ早いけどキッチンに見に行こうかって博さんと言っててね。識さんが食べ物にうるさいから、先にとっておきたいんだって。」
博と識と章夫…。
何か、話があるんだろうか。
晴太が、言った。
「お、オレもちょっと小腹が空いて来たんだよなあ。だったら一緒に行くかな。」
晴太も、何か話がある気付いたのだろう。
それを、じっと聞いている浩介が居て、東吾は不自然かと浩介を見た。
「浩介も腹減ってるか?」
浩介は、首を振った。
「ううん、オレはさっきパンとお茶を上で食べてるからね。今はまだお腹空いてないよ。ちょっとホワイトボードを見て考えとくよ。」
東吾は、ホッとしながら頷いた。
「そうか。じゃあ見て来るよ。」
浩介は、頷いてソファに座って、じっとホワイトボードに見入っていた。
それを後目に、東吾、晴太、章夫、博、識の五人は、キッチンへと向かったのだった。