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獣の棲む森にて  作者:
人狼
11/66

初日の朝3

…そうだ、どうして気付かなかった。

東吾は、思った。

識なら占い師の内訳を知りたいと、わざとあんな風に言うのも朝飯前だろう。

そうして引っ掛かって来た乙矢にああして突っかかる事で、何が何でも識の白先を占いたいと思わせようとしているのではないのか。

…だから囲わなかったのか。

東吾は、思った。

貞行は、狼目線で白だった。

狐の可能性もないわけではないが、占い師が3人である以上、狐陣営の誰かが出ているのは間違いない。

村目線では狼と狂信者の可能性もあるのだが、狼目線では確定だった。

ならば、囲っているか占い師に出ているのかのどちらかしかないので、貞行は白なのだ。

明日になれば、生き残って白が出る貞行を見て、誰もが識の言った事が嘘ではなかったと思うだろう。

同じ意見の博もそうだ。

それを見越して、わざと反対意見を出しているのだと思われた。

だが、こうして黙って聞いている間も、久隆は相互占いを推していた。

グレーの意見は、澄香から久隆と、その後も相互占いの方向に流れようとしていた。

黙って聞いていると、一番最後、19番の歩が言った。

「…聞いているとほとんどみんなが相互占いって言ってる。反対してるのは識さんと博さんだけだ。普通に考えたらこの二人が狐陣営なのかな?って思うんだけど、違うのかな。」

そう来たか。

東吾は、内心困った。

初日囲っていないとしたら、そうなるからだ。

だが、久隆が言った。

「だが、その二人はつまりグレーを占いたいって言ってるんだぞ?博さんが識さんの白先ならそう思うが、違うだろう。むしろ、グレーに狐が居るなら相互占いを推すはずだ。でも、逆なんだ。つまり、この場合識さんだけが狐陣営の可能性があって、囲ってるから占われたくないって思ってるって考えるのが妥当だろ?だが…まあ、村の総意だから。大部分が相互占いがいいって言ってるわけだし、今日は白先を相互占いしよう。」と、乙矢を見た。「それで、乙矢は貞行を占いたいんだな?」

乙矢は、間髪入れずに頷く。

「そうしたい。一応二人指定でいいだろう?もう一人は決めてくれ。」

識は、ため息をついた。

「ならそれで。私の占い先は皆で決めて欲しい。私目線、みんながみんな怪しくなって分からないんだ。グレー占いを嫌がるのは狼だと思っているのでね。」

その通りなので、東吾も口を挟まずにいると、敏弘が言った。

「じゃあ…オレが決めよう。」と、皆を見回した。「妃織さんは、そうだなあ、番号順でいいか。東吾と乙矢の白先の久隆さん。」

番号順、と聞いて浩介は、ビクと体を震わせる。

多分素村だろうに、その反応がなにやら怪しかった。

敏弘は続けた。

「乙矢の占い指定は貞行と、浩介で。識さんは…妃織さんの白先の幸次と、澄香さんにしよう。番号の上から順に色を付けて行く感じで。」

東吾は、識に狼が振り分けられなかったのに眉を寄せた。

これでは、いつまでもグレーに狼が残ることになる。

だが、識は動じる様子もなく頷いた。

「ではそれで。」

敏弘は、それをホワイトボードに書き記して、言った。

「じゃあ、とりあえず残りのグレーから今日の吊り位置を決めて行こうか。まだこの中に狩人も霊媒も猫又も共有の片割れも居るから、気を付けて行こう。つまりは、村役職は頑張って生き残ってくれって事だな。頑張ってくれ。」と、章夫を見た。「とりあえず章夫から。役職でも占い位置でもない所の最初が君だからな。ここまでで何か分かった事はあるか?」

章夫は、頷いた。

「澄香さんが怪しいね。」皆が驚いた顔をする。章夫は続けた。「僕はさ、白っぽい久隆さんが言うから相互占いでもいいかなって、まあどっちでもいいからだけど、思って同意しただけだけど、澄香さんの言い方から焦りを感じたんだよね。どうしてもグレーを占って欲しくない、人外なんじゃってさっきの話から思ってた。狐は囲われてるのかも知れないけど、狼は囲われてたとしてもまだ3人か、占いに出てたら2人は居るわけだろ?最初から捕捉されたくないから、抵抗してるのかなって思うんだ。占い指定されてるけど、他にこれはって怪しい人が居ないから、僕としては他に指定して、今日は澄香さんかなって思うよ。」

敏弘は、顔をしかめた。

「まあ、みんな澄香さんの意見に同意する感じだったから、発端はと言えば澄香さんだけど。だったら久隆さんも怪しいってことか?」

章夫は首を振った。

「違う。久隆さんには白が出てるし、出してる乙矢さんは真っぽい迫力を感じるからね。まだ分からないけど。それに、久隆さんの場合はどっちの意見も分かるけど、って感じだった。でも澄香さんは相互占いでなきゃならないって言い方だった。別にどっちでもいいけどみんなが言う方に、っていうのが村人の感情だと思うんだけど、違うかなあ。そこまで相互占いを推すのってなんでだろう?ってね。そこは感情精査だけどね。見てたらおかしいって感じたんだもん。」

言われてみたらそうなのだ。

澄香の性格かもしれないが、自分の意見を強く言って村を自分が思う通りにしたい、という感じに聴こえる言い方だったのだ。

人狼ゲームが好きだと言っていたので、恐らく強めに言う癖がついているのかも知れなかった。

だが、これはリアルな時間でやる人狼で、ゆっくり意見を擦り合わせる作業が可能だ。

時間制限のある普通のゲームとは、そこが違った。

あまり強く言い過ぎると、逆に疑われることになるようだった。

皆の視線が、あからさまに章夫の意見を肯定するような色に変わったからだ。

東吾は、気を付けないといけない、とそれを見て思っていた。

「そんなのこじつけだわ!みんなが同意していることを最初に提唱したからって、疑われるのはおかしい。私に黒塗りしようとしてる、章夫くんが怪しいと私は思うわ!」

見るからに憤った感じの言い方に、皆の眉がますます寄った。

…感情的になるのはまずい。

東吾は、他人事なのにそう思った。

隣りの哲弥が言う。

「澄香、落ち着け。村人なら感情的になるんじゃない。自分が怪しいって言ってるようなもんだぞ。」

澄香は、ハッとした顔をした。

皆の視線が、何やら訝しげに自分を見ていることに気づいたのだ。

「え、違うから違うって言っただけよ。だから今夜占ってくれたらいいじゃない!指定先なんだから!他にグレーがたくさん居るのに、わざわざ指定先の私を黒塗りしてくるのがおかしい!私からは、章夫くんが他の人狼を庇おうとしている狼に見えるわ!」

確かにそうなんだけど、言い方って大切だなあ。

東吾は、思った。澄香は必死なのだろうが、村人からしたら焦っているように見えるのだ。

久隆が、顔をしかめた。

「うーん、どうなんだろう。」皆が、久隆を見る。久隆は続けた。「ほら、相互占いだけどね。識さんは恐らく、グレー占いを推奨していたから、今夜は妃織さんの白先ではなくもう一人の指定先の、グレーの澄香さんを占うだろう。明日の結果を待ってもいいと思うけど。」

ん?なんかさっきから澄香さんを庇う感じだな。

東吾が思っていると、乙矢が言った。

「ダメだ。怪しいなら吊らないと、オレが真占い師なのに識さんの結果は信じられない。オレは識さんは背徳者だと思ってるが、もし人狼か狂信者だったら仲間を知ってるんだから白を出すんだぞ。村目線、全員が白を出さないと確定しないだろうが。明日以降のためにも、怪しい所は吊るんだ。その上でのグレー占いだろう?そもそも、指定されていてもどっちを占うかなんて占い師次第なんだぞ。」

あ、これやっぱり乙矢が真だな。

東吾は、思った。

自分の結果に絶対的に自信を持っている。

識は特に動じることなくそれを聞いているが、妃織は特に興味も無さげだった。

村目線では、恐らく乙矢が今、筆頭で真に見えて、識は次ぐらい、妃織は限りなく偽ではないだろうか。

これで妃織が真なら、もう少し頑張らないとまずいはずだ。

それとも真だからこその余裕なんだろうか。

いくらなんでもおかしいかもしれない。

東吾が悩んでいると、識が言った。

「…私から見て確定人外の乙矢が言うのになんだが、それには同意だな。」皆が識を見る。識は続けた。「怪しい所は吊るべきだ。久隆さんは私の占い先がグレーと決めているようだが、私は村の総意を違えるつもりはなかった。相互占いと決めたなら、それに従うかと思っていた。皆が澄香さんを怪しいと言うなら吊る。そして他から占うのが普通だろう。ちなみに今の意見で村がグレーを占っても良いという考えだと知ったので、私は必ずしも相互占いをするとは限らないと言っておこう。」

同じ意見なのに、識の話し方には説得力がある。

その落ち着いた声音に、東吾は舌を巻いた。

同い年とは思えない貫禄と威厳があって、その証拠に皆が皆識のことは識さん、と敬称を付けて呼ぶ。

年上の久隆でもそうだった。

乙矢は、苦々しい顔をしたが、それで黙った。

敏弘がため息をついた。

「まあ…どうしたもんだろうな。」と、困ったように皆を見回した。「じゃあ、グレーの指定先は一旦フラットで。吊り先を決めてから、もう一度指定し直そう。」

振り出しに戻ったなあ。

東吾は、何を話せば村に怪しまれないだろうと、考えに沈みながら敏弘の次の言葉を待った。

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