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獣の棲む森にて  作者:
人狼
10/66

初日の朝2

どことなく変な空気のまま、居間へと入ってあの、丸く並べてある椅子へと番号順に座ると、博が言った。

「ホワイトボード、持って来とくか?」

久隆が、頷いた。

「ああ、覚えられないしな。どうせ占い師だって一人じゃないんだろうし、そこに書いてくれたらありがたい。」

博が取りに行ったので、東吾も立ち上がってそれを手伝ってホワイトボードを暖炉の前へと引きずって来た。

そこでふと、見ると、暖炉の上に何かの小瓶が置いてある。

昨日は見ていない、金属のゴブレットのような装飾のある物で、蓋がしてあって中は見えなかった。

「…あれ。」東吾は、それを指差した。「昨日、これあった?」

皆、怪訝な顔をする。

識が、答えた。

「無かった。」確信のある口調だ。「暖炉の上には金時計だけだった。」

ということは、他の誰かがここに居て、これを置いて行ったということだ。

「…誰か居るのか。」哲弥が言う。「としたら四階から上だよな。」

佐織が言った。

「あの、冷蔵庫の中も。」皆が佐織を見る。「増えてたの、食べ物が。パンとかも補充されていたわ。」

つまり、そうやって運営は皆を部屋に閉じ込めている間に、いろいろ準備を進めているのだろう。

博が言う。

「何のためにその瓶がそこにあるのか分からないが、余計な事はしない方がいい。ルールにあっただろう、備品を故意に壊したりしたら追放だって。落として割ったりしたら大変だ。ほっとけ。」

東吾は、仕方なく頷いた。

気になるが、特に飾りという他に意味のある物のようにも見えない。

とにかくは、ゲームを進めて勝つよりないのだ。

敏弘が、いきなり言った。

「あの、オレ共有なんだ。相方は潜伏で話はついてる。オレが話を進めるよ。」

やはりリアル人狼なので勝手にどこかで話し合ったのだ。

博は、椅子に座って頷いた。

「そうしてくれ。じゃあ、君がホワイトボードにいろいろ書いてくれ。」

敏弘は頷いて、ホワイトボードの横に歩いて来た。

そして、皆の視線を受けて、咳払いをすると、ペンを手に緊張気味に言った。

「その、役職を出そうと思うんだ。霊媒は明日でいいよ、狩人の守り先が面倒だし。占い師、出て来て。」

すると、三人の手が上がった。

「はい。」妃織が緊張気味に言う。「白先は幸次さん。」

乙矢が、言った。

「オレが占い師。白先は久隆さん。」

敏弘はせっせとそれをホワイトボードに書いて行く。

もう一人、それは昨夜博が言った通り、識だった。

「私が占い師だ。白先は11番貞行。」

え、囲うんじゃなかったのか。

東吾は、戸惑った。

博からは、識は誰かを囲うと聞いていたのだ。

だが、貞行は人狼ではない。

どういう事だろうと思ったが、言うわけにはいかないので黙っていた。

敏弘は、それもホワイトボードに書き記して、言った。

「…じゃあ、これで出揃ったな。もうないな?後から言っても真を切るぞ。」

誰も、何も言わない。

敏弘は、ふうとため息をついた。

「ふーん、じゃあ広いグレーから吊ることになるよな。役職を避けて投票しなきゃならないから、潜伏役職達は頑張ってくれよ。」

澄香が言った。

「あの、最初にやったゲームで。」皆が澄香を見る。澄香は続けた。「初日に囲ってたじゃない。今日の指定先は、お互いの白先も入れてもらう?そしたら早く終わるかもでしょ。」

早くゲームを終わらせたいらしい。

それは皆同じだったが、東吾はふと、思った。

もしかしたらこの流れになるのを考えて、識は初日に囲わなかったのか。

だが、識は言った。

「私は反対だ。」皆が穏やかだがハッキリとした言葉にハッとしてそちらを見ると、識は続けた。「狐だって馬鹿じゃない。あのゲームのことは記憶に新しい。初日に囲って呪殺の未来は想定しているはずだ。私が思うに、狐が占い師を騙っているのではないか。そうなると、お互いの白先では呪殺は起こらないと考える。占い師同士の相互占いでない限り、無理なのではないかな。今はグレーに少しでも色をつけて、四人居る狼を、飼うにしろ何にしろ、見つけて行く方が良いと思う。私だっていつまで噛まれずに残るか分からないのだ。」

グレーは狼だらけだ。

どう考えても、グレーとなると誰かが捕捉されてしまう恐れがあった。

…ほんとに狂信者なのか?

東吾は、怪訝な顔をした。もしかしたら、博は騙されているのでは。

そう考えると、梓乃の猫又も怪しくなって来た。

だが、乙矢が言った。

「そう言う事から怪しい。オレは白先占いでいい。オレ目線、識さんが人外確定で、その識さんが言う事は聞けない。オレは今夜、識さんの白先を占いたい。」

識は、乙矢を見た。

「別にいいが、もしかして狼に噛ませようとしてないか?後で呪殺が出たら、どのみち偽が透けるぞ。それに、背徳者がまだ居るだろう今、それが襲撃だとバレる。君は本当に真占い師だと皆に思わせようと思っているのか?指定先は二人が原則だ。そんな風に公言するのは村利がない。騙るにしても、そんなにお粗末だと私もやる気が起きないのだが。」

乙矢は、見るからに怒ったように真っ赤になった。

だが、怒鳴ったりしては皆の心象が悪くなると思ったのか、唸るように声を抑えて、言った。

「…オレが真占い師だ。君が何と言おうと、オレは貞行を占う。」

貞行が、ハイハイ、と手を振った。

「そんなにオレを占いたいなら占えばいいさ。どうせ白しか出ないしオレは溶けない。噛みもしないだろう。今なら背徳者が死なないから、それが呪殺を装おう噛みだって透ける。逆に噛めないだろうよ。」

乙矢が、眉を寄せた。

最初から不穏な空気が流れたが、占い師達はお互いに絶対人外なのだと分かっているのだからこうなるだろう。

敏弘は、言った。

「妃織さんは?何か君だけだんまりだけど、どこか占いたい所ある?」

妃織は、急に話を振られてビクと肩を震わせたが、言った。

「私から見たら人外同士で何かやってるなあってぐらいで。どうでもいいなって見てたわ。私は相互占いでもグレーからでもどっちでもいいわ。村人達が決めてくれたらと思ってる。まだ始まったばかりで、怪しい人とか全く分からないもの。だから、グレーの人にしっかり話して欲しいかな。まだまだ時間はあるし、一人一人話しても大丈夫じゃない?」

敏弘は、頷いた。

「そうだなあ、番号順に行くか。」と、東吾を見た。「じゃあ東吾から。」

東吾は、番号が早いから不利だなと思いながら、自分を村人だと思い込んで話そうと口を開いた。

「…占い師は、今誰が真なのか全く分からない。識さんが考え方がハッキリしているので信じたくなるが、乙矢の言い方も呪殺を出したい真占い師にも見えなくはないしな。妃織さんが浮いてる感じだけど、やる気がないようにも見えるんだよなあ。村人任せにしても、真占い師なら自分の意見をしっかり持って欲しいと思うよ。性格の違いかもしれないし、今のところほんとに分からないんだ。様子見かな。グレーはオレには話が聞けてないし今言える事はない。後でみんなの話が終わってから考えるよ。」

敏弘は、頷く。

「次は浩介。」

浩介は、おずおずと口を開く。まださっきの玄関扉の事件から、復活しきれていないようだった。

「オレは…分からない。識さんを信じたいよ。頼りになりそうだし、めっちゃ考えてそうだから。味方なら心強いし、識さんが真だと思いたいって感じかな。乙矢は攻撃的だから、なんか他を追い落としたい人外に感じた。怖いなあって。」

感情で判断するんだな。

東吾は、思った。恐らく論理的に考える事もできるはずなのに、恐怖のあまり誰か強い者にすがりたい気持ちになっているのだろう。

識なら助けてくれそうに感じるのだろう。

だが、その選択は間違っていた。

「じゃあ、妃織さんは?」

浩介は、顔をしかめた。

「妃織さんは東吾も言ったようになんかやる気が無さげに見えるんだ。真ならもっと村人を守ろうって頑張って欲しいし、頑張るはずだよ。最初から村人任せっておかしいかな。」

敏弘は、頷いた。

「じゃあ、次は哲弥。」

哲弥は、言った。浩介の次のせいか、格段に落ち着いて見える。

「オレは概ね東吾に同意だ。できたら呪殺で真贋をハッキリさせたいけど、識さんが言う通り占い師の中に狐が居るような気がするんだよね。何しろ、前のゲームで初日呪殺で崩れたしさ。みんなが白先の相互占いを推して来るのは想定してると思うんだよなあ。だから、意見が合う識さんが真かなって感じる。でも、乙矢も呪殺を出したい占い師に見える。どっちか分からないけど、この二人の内に真が居るんじゃないかって、やる気の問題で思うかな。東吾は意見が合うので白っぽい、浩介はヒビリ過ぎてて逆に怪しいって感想。以上だよ。」

敏弘は、頷いて澄香を見た。

「澄香さん?」

澄香は、答えた。

「私は絶対相互占いをした方がいいって思う!あのゲームは記憶に新しいし、逆にそんなことはしないだろうって考えるんじゃないかって。初日に囲えたら大きいわ。絶対グレー吊りの流れになるもの。狂信者も居るし、狼を知ってるのよ?占い師に人狼が出て居なくても、狂信者だって人狼を囲えるわ。そうしたら、グレーの中に人外は少ないってことになるでしょう。狐も狼も囲われてたら、面倒よ。先に確定白を作る作業をしておいた方が、後々一気に詰まる可能性もあるでしょ?」

それには、博が割り込んだ。

「だが、確定白を作るってことは明日も使うことになるぞ。この村は8縄7人外なんだ。間違えられるのはたったの一回、狐呪殺で背徳者と一気に減ったらそれも失くなる。真占い師が確定しても、その日に噛まれていたらその先がない。せっかく作った白先だって噛まれる可能性がある。本当にそれでいいのか?」

澄香は、顔をしかめた。

どうやら噛まれる事は想定していなかったらしい。

「確かに…そうだけど。」

博が、言った。

「まだ順番でないが先に言わせてもらおう。オレの意見は、グレーを占って欲しい。そこで白だろうが黒だろうが、とりあえず色を付けておいてくれたら、その占い師が噛まれても結果は残る。そこを信じる事ができるから、呪殺が起こって真が確定してから一気に盤面が詰まって来るんだ。確かに相互占いであの時みたいに呪殺が起こればすぐに真占い師を確定できるが、確定してから生き残れるのは一日だ。狩人は連続護衛できないしな。つまり、明後日の結果までしか見る事ができないんだ。それじゃあ、そこから先は運ゲーだぞ。残りの占い師を吊って、そこから悩むことになる。リスクがあると思うがな。」

囲われてもいない博が言う言葉には説得力があった。

だが、東吾からするとなぜそんなことを言うのかと憤りしかなかった。

グレーを占うと、かなりの確率で黒が出る。

狐だって、適当に黒を出してそれが当たるかもしれない。

なので、できたらグレー占いは避けたいのが狼の考えだった。

久隆が、言った。

「次はオレだから話すが、まあ確かに博の言う事も一利ある。だが、澄香さんの言う事も分かる。村としても、できたら狐は早く処理したいし狼だってそうだろう。だから、確実に初日の白先が全部白だと知っておきたいのも分かるんだ。真占い師が確定するのも大きいしね。後の二人が偽だとわかるから、とりあえず7人の内4人は確実に消せる。占い師が確定しているということは、呪殺が起こったということで、狐と背徳者の二人も消えているということだからな。」

それには、敏弘が言う。

「待て、占い師に狐陣営が居たら、3人だぞ?後の4人の黒を探す作業になる…まあ、真占い師が生きてる内にどこかに結果を残したら、白圧迫で消せるかもだが。」

久隆は、頷いた。

「だろ?あのゲームを思い出せ。どちらにしろ真占い師が確定するのは村に有利だ。」

それも避けたい。

東吾は、苦悩した。狐がどう動いているのか狼目線分からない。だが、見た所乙矢が相互占いを推しているのに抵抗したのは識だけで、狼目線で識は狂信者だ。

それを怪しいと疑って占いたがる乙矢は真に見えるし、無関心な妃織は限りなく自分が占われないことを知っている狐に見えた。

東吾は、ハッとした。

そうだ、識がああ言う事で占い師の内訳が狼目線で透けて見える。

もしかしたら、わざと…?

東吾は、知った事実に茫然とした。

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