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真夏の雪 (月星雪✻③✻)  作者: YUQARI
第一章 回想
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狐丸の憂鬱

 ミーンミンミンミン。

 ミーンミンミンミンミ──ン。

 ジュワジュワジュワジュワ──……。



『ああ"ー! あ"つ"い"ぃいぃぃー……。すごく暑い、そしてうるさいぃー……』


 ミンミンとセミがうるさい。

 もう、本当に、うるさい!

 ほんっっっとに鬱陶しいほどに、うるさい!!


 セミの鳴き声にイライラしている上に、僕はめちゃくちゃ怒っていた。

 だって、澄真(すみざね)が、……澄真(すみざね)が……っ!


 あぁ、思い出しても腹が立つ!


 ガリガリ……と地面を引っ掻いた。

 地面どころか、傍にあったでっかい石ころも、僕の鋭い爪にかかればスパッと切れた。


『グルルルルル……』


 唸っても、石に八つ当たりしても、気は晴れない。

 余計にイライラして、今度は前足を振りかぶった!



 しゅっ……!




 手から鋭い空気の塊が離れ、ひゅんひゅんと唸りながら飛んでいく……!




 ──バリバリバリ……ドドドドド……!



 近くに生えていた、大きな梶の木が真っ二つに裂け、地面に倒れた。

 モウモウと土煙が上がる。

『うわっ! ゴホゴホゴホ……』

 ペッペッと唾を吐く。




 イライラの原因……それは昨日の夕方に起こった。


 その日僕は久々に、澄真(すみざね)の家に僕は行った。

 すっごくいい事思いついて!

 この夏の暑さを吹き飛ばすような、とっても画期的な策だったんだよ?


 でもそれには、どう考えても澄真(すみざね)の力が必要で、……。


 本当なら、僕だけで出来たら良かったんだろうけど、僕……まだ力加減が上手くなくって……。



 ……あ、言い忘れていたけど、僕は白狐なんだ。妖怪の。

 妖怪って言うと、人は嫌がるものなんだけど、澄真(すみざね)は、ちょっと違った。

 澄真(すみざね)は、陰陽師をやっていて、僕のことをそんなには怖がらない。




 ──人っていうものはね、自分と()()()()には、敏感なものなのですよ。




 頭の中で、声がした。

 ……誰が、そう言ったんだっけ?

 ずっと……、ずっと前に、誰かがそう言われたような気がする。黒狐寺(こくこじ)にいる九尾の瑠璃(るり)姫さま……?


 ううん。……違うような気がする。


 瑠璃姫さまも、色々なことを教えてくれるけれど、そんな事は言わなかったような気がする。


 でも人は自分と違うと、ひどく怖くなるのは確かだ。だって人間は、僕たちを妖怪と知ると、それだけで祓おうとするから。僕たちの言い分なんて、聞いてくれない。


 妖怪は、そこに()()だけで、排除対象。

 ()()()()()()()()を、人間はすぐ排除しようとする。


 けれど、澄真(すみざね)は違う。


 確かに僕は、澄真(すみざね)に攻撃された。痛い思いもたくさんした。だけどそれは、仕事だったから仕方がなかったんだ。

 澄真(すみざね)は陰陽師だもの。


 だけど僕が悪い妖怪じゃないって事が分かると、傷の手当てをしてくれた。色んなことを教えてくれたり、たまに、……本当にごくたまになんだけれど、一緒に遊んでくれたりもする。


 だから僕は、澄真(すみざね)の事が嫌いじゃない。



 ……でも、最近僕は思うんだ。


 澄真(すみざね)が僕を怖がらないのも、優しくしてくれるのも、どれもこれもみんな、澄真(すみざね)が陰陽師だからじゃないのかなって……。



 少し前に、僕は帝の子どもを助けたことがあって、陰陽師である澄真(すみざね)は、白狐の僕を《祓うな》と命じられた。


 その時、澄真(すみざね)がどう思ったのか、今どう思っているのかは知らない。でも、このとき命じられた澄真(すみざね)は、僕がびっくりするほど忠実に、その命令を遂行している。


  人の世の中で、この《帝》って言う人は絶対的な存在で、だからこそ澄真(すみざね)は、僕を大事にしてくれるのだろう。




 ──……その事実が、時々ひどく悲しくなる時がある。




 僕は妖怪として生まれたけれど、そんなに日がたっていない。

 人の住む町の決まり事なんて、さっぱり分からなくて、常識ハズレなのだそうだ。


 力加減がおかしくて、嫌なことがあってちょっと暴れたり、うかれて踊ってたりすると、人の造ったものなんか直ぐに壊れてしまう。

 そもそも人が作るものって、貧弱だからいけないんだよ! もっと頑丈に作れば、僕が暴れても踊っても、壊れないはずなんだから……!


 だいたい、なんであんなに脆いの? 爪が当たっただけで、スッパリ切れちゃうんだよ?


 石より硬い物で作ったら、多少はもつと思うんだ。

 そう、前に聞いた《鉄鉱石》とか……!?



『……』

 でも現実は、そうはいかない。


 現に鉄鉱石なんか、海の向こうの物だしね。京の都では手に入らないし。しかもそんなモノで家を作ったら、夏場凄く暑そうだ。


 ……、正直これ以上暑くなるのは、お断りだ。だから材木で造った建物で、正解なのかもしれない。


 けれどそんなだから脆い。人間たちの作った物は、凄く脆いから、つい壊してしまう。

 そうすると、この澄真(すみざね)が青い顔してやって来て、僕を怒るんだ……。




 ──《山で静かにしてろっ!》って。




 怒られると、やっぱり怖い。


 《祓うな》って命令されたかも知れないけれど、程度ってものがある。そこんところは、ちゃんと覚えたよ? 妖怪仲間に教えてもらったからね。

 ……だから、僕があんまり勝手なことをするのなら、澄真(すみざね)は迷わず僕を祓うかも知れないんだ……。


 そう思うと、凄く悲しくなる。

 だって、澄真(すみざね)はやっぱり、僕より仲間の()()の方が大切だって事なんだから……。




 ──人間は非力なのですよ……!




 そう言えば、その()()()()()()()()()()()は、そんな事も言っていたような気がする。

 確かに陰陽師ではない、いわゆる()()()()()()()()()()は、ひどく弱い。

 例えば疫病を司る妖怪がいたとして、そいつが人に向かってひと吹きするだけで、その人間たちは死んでしまう。


 でも、澄真(すみざね)は、非力なんかじゃない。


 多分僕のことも、すごく簡単に祓ってしまえるくらいの、すっごい力を持ってる。

 あからさまに力を見せないから、分からないだけで、まだ何か隠しているんじゃないかと僕は思ってるんだ。

 だから、簡単には手が出せない。


 (あやかし)が視えない弱い人たちを、陰陽師である澄真(すみざね)たちが護ってる。悪いことをする妖怪とそれを祓う陰陽師。

 どうあがいても妖怪の僕と、陰陽師の澄真(すみざね)は、()()()




『敵かぁ……』

 僕は溜め息をつきながら、呟いてみる。


 澄真(すみざね)の仕事は、面倒くさい。

 例えばさっきも言ったけど、僕が京の都で暴れたら澄真(すみざね)は血相抱えて飛んでくる。

 で、万一僕が何かを壊しでもしたら、澄真(すみざね)は後片付けをしてくれて、それから《ちょーしょ(調書)》ってヤツを書く。

 それが澄真(すみざね)の仕事だ。


 そしてそのちょーしょ(調書)ってヤツを出す相手が、澄真(すみざね)の上司の吉昌(よしまさ)っていう陰陽師だ。


 この陰陽師がまた曲者で、何をされたのか妖怪にひどい恨みを持っている。片っ端から妖怪を根絶やしにしようと企んでいるみたいなんだ。

 力がある上に、頭がいい。妖怪にとっては、迷惑この上ない存在。


 けれど、澄真(すみざね)にとっては、大切な()()なんだ。


 僕には、仲間がいない。


 だから僕は、澄真(すみざね)吉昌(よしまさ)……それから、同じ陰陽師仲間の蒼人(あおと)が羨ましい。


 いくら僕が羨ましいと思っても、仲間(なかま)なんて、そう簡単に手に入るものじゃない。




『陰陽師なのに、妖怪が()()なんて、笑えるだろ……?』

 僕はそう呟いて、ふふふと笑う。


 僕は、澄真(すみざね)の仲間にはなれない。

 だけど変に力を使って、《やっぱり狐丸はいらない奴!》なんて思われたくもない。


 だから今回も、力加減が上手くできない僕よりも、細かい力配分が出来る澄真(すみざね)に頼んだ方がいいと思って、会いに来たんだ。


 だけど──。



「ねぇ、澄真(すみざね)。暑いから風式神(ふうしきしん)出してくれないかなぁ? ほら。風の力でピューっとすると涼しくなると思うんだよね。ほら、護符で、ぺぺぺ〜っと!」

 とびっきりの笑顔で言ってみた。


 ……そしたらさ、澄真(すみざね)、なんて言ったと思う?

 しばらく僕のこと、じーっと見てさ、ふぅ……って溜め息まで吐いて、


「……暑いと思うから暑いのだ。気にしなければ、さほど暑くはないぞ……?」


 ……とか言うんだ。

 ひどいよね?


 僕が暑さに弱いって、澄真(すみざね)は、知ってるんだよ!?

 もう、毎日死にそうなほど、暑いんだ。


 暑さが弱点だってことを澄真(すみざね)は、()()()知ってるはずなんだ!


 だって僕、澄真(すみざね)妖怪紋(ようかいもん)っていうのを、見せちゃったんだもん。

 澄真(すみざね)の家に泊まった時だって、《あついのは苦手》だからって、ちゃんと言ったんだよ?


 だから絶対、知らないわけがない!



 そりゃ、妖怪紋を見せた時は、僕もバカなことをしたと思うよ?

 でもあの時は、仕方なかったんだ。


 陰陽師は、僕たちの敵だとずっと言われてきた。だから初めて澄真(すみざね)に会った時も、僕は必死で逃げた。

 自分がやってない罪をきせられて、ムッとなって陰陽師ともやり合った。

 それなのに、何故だか従う羽目になっちゃって、面白くなかった……。

 だから……ちょっとムカッときて、見せちゃった。



 妖怪紋──。

 それは妖怪の体には、必ず刻みつけられている、弱点を表す紋の事。


 妖怪の()()を表しているから、それをそのまんま晒すということは、弱点を知られるということにもなり、とっても危険なんだ。

 だから、普段は見えないように隠しておく。


 紋を見せるという事は、《服従》の意思表示でもある。

 もしくは《お前なんか、弱点知られても勝てるもんね!》という意思表示になる。

 たいていは、ケンカ相手に使うんだ。


 だからこそ僕は、澄真(すみざね)に見せた。見せてしまった。


 服従の意思なんかじゃない。

 お前なんかに負けるか! という意思表示だった。

 要は、澄真(すみざね)をバカにしたんだ……。



 ……あの時、僕は本気でそう思っていた。



 僕はぼんやりと空を見る。


 空は信じられないほど真っ青で、木々の濃い緑色が、良く映えていた。

 すごく色がハッキリしている。


 季節はすっかり夏だ。



『あ〜ぁ』

 僕は溜め息をつく。


 耳をつくセミの声が、何だか僕の悲鳴のようにも聞こえた。

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