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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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麦踏は楽しい

久しぶりの投稿になってしまいました。

 秋が深まってくると、日が短くなって、僕らの活動時間も短くなる。

 農作業の時間が減るので、構わないような気もするのだが、そんなことはない。

 まだまだやらねばならないことは山積みだ。


 枯れ葉を集めるといった、今までにもしていた秋の作業は当然だけど、それ以外にも僕たちはみんな、かなり忙しい。


 女性たちは、今は布作りというか機織りに忙しい。

 春から夏にかけては、食べるための農作業が何よりも優先で、着る物にまで手を付ける余裕がなかった。

 衣類どころか布だって、買うとなればかなりの金銭を必要とするのだけど、僕らにはそんな余裕はないので、自分たちでどうにかしなければならないのだ。

 この地に暮らす者として当然だけど、女の子たちは糸を作ったり、布を織ったりという技術は学んでいる。

 孤児院でも、そういった仕事はしてきたのだ。

 ただ今まではその技術を活かしている余裕がなかったのだ。


 とは言っても、今まで全く衣食住の食住のみしか時間を使っていなかった訳ではない。

 畑仕事や、開墾といったその拡充の仕事も、天候などによって毎日出来るという事ではない。 それに毎日同じことをしていては、気分が疲れてしまう。

 そんな訳で、雨の日や、畑仕事の都合で割と時間が取られずに済むような日には、違うことをしていたのだけど、そんな時に女の子たちはせっせと糸作りという衣に関わることをしていたのだ。


 僕たちが着ている服は、布の種類としては何種類かある。

 一番多いのが、林の縁など、結構どこにでも生えているイラクサから作った糸から作った服だ。


 イラクサは、その名前の由来だと思うけど、草の幹と葉の裏に小さな棘があって、それに触れてしまうと、チクチクするだけでなく、触れた場所が痒くなってしまう。

 これは人間にだけ効果がある訳ではないらしくて、スライムや一角兎というモンスターも好んでは食べないみたいで、それでイラクサはそこら中にあるのだと思う。

 そのイラクサも、まだ小さい時には棘もその威力を発揮することなく、割と楽に採取して来ることが出来る。

 そして根本付近から切って採取しても、すぐに次の芽が出て大きくなる。


 小さいうちなら棘がその威力を発揮しないなら、スライムと一角兎の餌になってしまいそうなモノだけど良くあるのは、もしかするとその次々と芽が出て大きくなるからかな。

 それとも林の縁という主にスライムの領域と一角兎の領域のと境界線だからなのかもしれないな。 どうなんだろう。


 とにかく女の子たちは採ってきたイラクサの茎を、真ん中付近で2箇所折ると、簡単にその茎の皮を剥いた。

 そしてその剥いた皮の両面を、少し太めの木の枝を割ったり、平原狼や大猪の大きな骨を縦に割って作った道具の角を押し当てて、こそぎ落とすように滑らせていく。

 そうして残ったのがイラクサの繊維で、それを細く引き裂いて、結び繋いで撚り合わせて、イラクサから作った糸が出来るのだ。


 夏になると、もう一つの糸も作った。 葛の糸だ。


 葛という蔓草は、その根を煎じると解熱の薬にもなるし、それだけではなくそこから澱粉、つまり葛粉も採れる。

 それだけではなくて、その蔓から繊維を作ることも出来る、とても役に立つ植物だ。

 それだけどこの植物は、花が咲けば、その花も美味しかったりすることから想像出来るのだけど、一角兎やスライムにとっても大好物の植物らしくて、あまり野山で見かけることがない。

 全く見ないという訳ではないし、繁殖力も強い植物なので、きっと大きくなる前にそれらに食べられてしまうのだろう。


 だがこれだけの有用植物だ、欲しいと思うのは当たり前で、村や町の周りには勿論ある。

 頑張って栽培しているのかというと、繁殖力が高く強い植物なので、そんなこともなく、村や町を囲んだ塀の中にはかなり良く見かける植物なのだ。

 もっと具体的に言えば、塀の跡付近にはよく繁茂しているのだ。


 村や町を囲む塀は、今現在の位置に元々あった訳ではなく、暮らす人々によって徐々にその位置が外側へと広がって行った結果だ。

 より外側に新たな塀が作られると、以前からあった塀は無用の長物になるし、それを作っている石を遊ばせている必要はないから、塀自体はほとんど崩されて、それを形作っていた石は別の場所へと運ばれてしまう。

 ただし、一番下部はそれぞれの土地の所有を明確にするために残されることが多い。

 その残された塀の下部は植物が生えにくいので、その陽当たりを利用する形でその左右から葛が蔓を伸ばすことが多いのだ。

 そして葛は有用なので、元の塀の下部に蔓を伸ばすならば、そのまま茂るに任される事となる。

 だけど村や町の一番の外郭を成している塀には、葛は茂っていない。

 好物を目の前にぶら下げて、一角兎やスライムを中に招く必要は絶対にないからね。


 僕らの城の周りの野山も、まあ当然のことなんだけど、葛がたくさん茂っている場所はなかった。

 それは予想出来ることだったので、僕たちは村や町から葛の根を運んで、城の外縁部に植えた。

 葛は強い植物だから、期待した通りに蔓を伸ばしてどんどん茂ってくれたのだけど、丘の上という陽当たり条件の良さもあってか、予想以上に良く育ち、外縁のレンガや土を固めた部分を超えてその外側にまで蔓を伸ばすという問題を引き起こしたりもした。

 スライムが登って来れないようにと作られた外縁部に、登るためのロープを垂らしているような状態では意味がないので、その部分は大急ぎで引き上げて内側に移動した。


 このように育った葛だけど、まだ根を活用出来るまで増えてはいないので、根を掘ることはしないが、蔓は活用しないと勿体ない。

 夏、少し遅めの時期になってからの作業なのだが、これには理由がある。

 葛の成長を待ってという意味も勿論あるのだけど、もう一つには川辺の葦の成長を待つ必要もあったからだ。


 イラクサを使った糸作りと違い、葛の蔓を使った糸作りは女性陣だけでなく、男性陣も加わっての作業となる。

 葛の蔓を使った糸作りは、その工程が少し面倒だからだ。 その代わり、イラクサよりも長い繊維が手に入る。


 その工程は、まず刈ってきた蔓についている葉などを落として、長い一本の蔓にする。 なるべく途中で2本に分かれたりしていない、長い蔓が素材としては適している。

 その蔓を纏めて、熱いお湯に浸ける。

 この工程は魔法が使えないと、火を焚いて水を容器で熱したりしなければならなくて面倒なのだが、僕たちの場合は湯を貯める容器を土魔法で作ることは勿論、お湯自体を魔法で作り出すことが出来るので、とても簡単に出来る。

 ただし、風呂のお湯と違って高温の湯を作るので魔力の消費は大きくて、僕らは大蟻退治の時に慣れているのだけど、他の者が熱湯作りをするとすぐに魔力が尽きる。 まあ良い訓練にはなる。

 そうして半分煮えたような感じになった蔓の束を、なるべく熱いまま用意しておいた葦で包む。

 そうして葦で包んだ蔓を1箇所にまとめて、まとめた全体にも葦を被せて保温しておく。

 こうしておくと、葦に付着している枯草菌によって、蔓が発酵する。 つまり納豆を作るのと同じことだ。

 適度に発酵した時点で、目安としては表面がヌルヌルして白っぽくなった感じになると、蔓自体が柔らかくなっている。 その蔓を川に運んで水の中で洗うというか揉みほぐしたり、不要な部分をこそげるようにしたりすれば繊維が取り出せるのだ。


 だけど発酵の状態が最適な時は短くて、発酵時間が長過ぎても短か過ぎても良質な繊維が取れない。

 発酵時間が長過ぎると、繊維が切れてしまって短い繊維しか取れなくなるし、短過ぎると今度は繊維に付着する余計な物が剥がれにくくなり、こちらも繊維の質が下がる。


 発酵が最適な時に、川に運んで一気に繊維にするのだが、雨で川が増水して濁ってしまったりすると、その作業が出来なくなり、それまでの苦労が水の泡になる。

 それだけではなく、農作業などの他の作業で重要な作業と被らないようにと日程を考えて行いはするのだが、それぞれの作業の予定が予想を外れて被ってしまい、諦めたりもあったりもする。

 糸作りは、食物の確保や水の確保に比べると、優先度は少し下になるからだ。


 秋の収穫が終わって、少しだけ農作業が暇になると、女性陣はそれまでに少しづつ作っては貯めておいたそれらの糸を使って布を作っていく。

 使っている道具はとてもまだ機織り機と呼べるような物ではなく、とても簡素な物だから、効率が悪く労働時間やその苦労に対して、織り上がる布の量というか面積はとても少ない。

 僕は来年には、もっときちんとした機織り機を作ろうと決心した。 今は作りたくてもその材料となる木材がなくて作ることが出来ない。


 ということで、女性たちが主に機織りに励んでいる時間、男性陣は丘の本体の方の森に行って、樹を伐る作業を主に行っている。

 木の種類によって、作業の内容も違ってくるから、最初はどこにどんな木があるかの調査から始まったのだが、人の手がほとんど入ることのない場所だったからか、かなり色んな種類の木があることが分かった。


 秋から冬の時期に伐ると、その切り株から春になれば新たな芽を出す種類の木は、そのほとんどは腰の位置で伐ることにした。

 本来は今後の作業も考えて、場所を区切って、10年か20年毎に一区画のその木を伐りたいのだけど、今はまだそこまでは考えずに、育ち過ぎて他を圧迫している木などを主に伐っていく。

 将来的にはこの木を使って、木炭を作るつもりだ。


 建物を作るのに都合の良い常緑の針葉樹は、腰の位置ではなく、もっと地面に近い位置で伐る。

 こちらも今は問題のある木を選んで伐っているのだが、こちらの木は時々、その根本に小さな子供の木が生えていたりするので、伐り倒す時にはそれを傷つけないように気をつけての作業となる。


 こちらの木は、伐り倒すだけでなく、伐らない木も作業をする。

 何をするかというと枝打ちだ。


 枝打ちは、家などの建材にする時に都合の良い、真っ直ぐで節の少ない木を得る為だけではない。

 下の方の枝を減らすことで、森の中が明るくなって、背の低い灌木や草が生えて森を豊かにする。

 それからその枝は城に持ち帰ると、女性陣によって丁寧に皮が削られる。 トイレに投入するのに欠かせないのだ。

 その芯は勿論普段の煮炊きなどに使われる。


 伐り倒した木は、そのまま春まで放置する。

 春になると、伐り倒した木も、それまでに蓄えた養分を使って芽吹くことが多いのだが、流石に芽吹いてもそれが大きくなることはなく、すぐに枯れてしまう。

 そうしたら、本格的に木材として加工することになる。

 とは言っても、建材として使うには、川に持って行って、しばらく水に浸けたりとまだまだ大変な作業をしなければならないのだけど。


 伐るだけだと、森の木はすぐに減っていくだけになってしまうと思うので、木を増やすための作業もする。

 木が少なくて不便を感じる土地柄なのだから、植林は誰かが手がけていても良い仕事だと思うのだけど、あまり植林をしているという話は聞いたことがない。

 きっと植えた苗がスライムや一角兎の食害を免れて、それに耐えられるまでの大きさに育つことが少ないからじゃないかと思う。

 スライムの数を減らすことに成功している僕たちは、一角兎を近づけないことだけを考えれば良いのだから、どうにかなるのではないかと思って、僕は畑の一角を木の苗を育てる場にしている。


 苗を得る方法は、今のところは落ちていた木ノ実を蒔いてみたり、伐った時に見つけた小さな木の中で、近過ぎる場所に別のがあったりしたのを掘って持ち帰ったりした物だ。

 今はその二つの方法だけだけど、時期が良くなったら、枝の挿木や取り木などの方法も色々な木で試してみたいと思う。



 そんなことをしていると、シスターが前にちょっと言っていたフランソワちゃんが本当にやって来た。

 町に定期的に売買に行っている者たちと一緒にやって来たのだ。


 「フランソワちゃん、良いの? 御者さんだけ帰しちゃって」


 「うん。 私、少なくともしばらくはここで暮らすつもりだから」


 ルーミエが少し心配そうに聞いたけど、フランソワちゃんは全く気にしていない感じだ。

 まあ、あの馬車によくこれだけの荷物を積んで来れたな、という荷物を持ってやって来たのだから、そのつもりだよね。


 「でも、思っていたよりもずっと快適にここまで来ることが出来たわ。

  町からここまで、すごく良い道が出来ているのね」


 「最初は大変だったんだよ。

  こんな良い道を作るつもりは私たちはなかったんだけど、ここを見に来た領主様のところの人と町に戻る時に、私たちは死ぬほど働かされたんだから。

  その後は、誰かが町に行き来する度に、直したり、もっと良くしようとしたりしているから」


 「そうなんだ。 平な走りやすい道がずっと続いているから、御者さんもとても驚いていたよ」


 僕も会話に加わった。

 「町との間で、荷物の行き来があるから、凸凹がある道だと荷車が大変だからね。

  僕らは馬まではいないから、自分たちで荷車を引いて行かないといけないから。

  でも、ここにしばらくいるなんて、村長さん、良く許してくれたね」


 「うん、そこはね。 まあちょっと強引だったけどなんとか。

  でも、ちゃんと許してもらっているから」


 この話はフランソワちゃんはあまり触れられたくないみたいで、ちょっと強引に終わらせようとしているみたいだから、まあ、良いか。

 

 フランソワちゃんは、僕とルーミエとジャンの暮らす家の一室を自分の部屋にしたのだけど、元はエレナの部屋だから僕たちと部屋の大きさは変わらない。 荷物の多いフランソワちゃんにはちょっと狭いみたいだけど、まあ仕方ない。

 僕らの村の子たちは、フランソワちゃんは僕らの孤児院に入り浸っていたから当然良く知っているし、町の孤児院の子たちともマーガレットを通して交流があったため、フランソワちゃんは僕らの城に来たと思ったら、あっという間に馴染んでしまった。


 一番最初に会った時のフランソワちゃんは、単に村長の娘だというだけでなく、自分の[職業]が貴族だと信じていたからか、何だか上から目線で威張っているような印象だった。

 今では自分の[職業]が本当は農民だったことを知ったからか、学校時代から僕たちや孤児院のみんなと多く接したからか、僕らが始めた新しい農法を領主様に命令されて全部の村に広める活動をして、何だか農業の神様まではいかないけど名人とか達人とかそんな感じに多くの人に思われて、[称号]には新農法の指導者なんてのもあるくらいだから、多くのところでフランソワ様と呼ばれているのだけど、ここでは普通に誰からもフランソワちゃんと呼ばれていて、最初の頃のような雰囲気は全くない。

 それでも村の孤児院では、僕とルーミエと共に教える側だったからなのか、それともやっぱり村長の娘だからなのか、ちょっとだけ一目置かれているような感じだ。


 そのフランソワちゃんは城のあれこれに興味津々で、何にでも興味を示して、自分が知らないこと見たことないことを見つけては、みんなに質問している。

 フランソワちゃんて、こんなに好奇心旺盛なキャラだっけ?

 中でもやっぱり一番興味を示すのは、畑などのことだ。


 「ねえナリート、どうして春麦の芽が、一定の間隔で整然と出ているの?」


 「そりゃ、そうなるように、きちんと計画的に種を蒔いたからだよ」


 「どうしてそんな面倒なことをするの? 普通は適当に種をばら蒔くだけだよね」


 「普通にばら蒔くと、どうしてもたくさん芽が出るところと、少ししか芽が出ないところが出来ちゃう。

  そうすると、大きくなった時、混み過ぎていたり、スカスカだったりするところが出てくる。

  スカスカだともったいないし、混み過ぎていると大きく育たないし、適当に植っていると雑草とりなどの手入れがしにくいじゃん。

  一定の間隔でちゃんと植っていると、陽当たりもみんな同じになって、出来た麦の大きさもそうじゃない時よりも揃うし、手入れもしやすい」


 「手入れがしやすいって、畑の中が歩き易いってことよね。 あまり気を付けずに踏みつけることがないって。

  それなのに、今なんで出てきてあまりまだ大きくもなっていない芽をみんなで踏んでいるの?」


 そう、今僕たちはみんなで楽しく麦踏みをしている。

 普段の畑は、踏みつけると土が固くなってしまうので、作物が植えられている部分を踏むことはご法度だ。 無闇に踏めば当然誰かしらに怒られることになる。

 麦踏みは、公然とその一種のタブーを全員で破るので、なんとなく気分がハイになって楽しくなる。


 「うん、麦はね、こうして踏むと、上に伸びるのを抑えられて、これからの寒さでやられにくくなるし、根がより強く伸びるんだ。

  今はいじめているみたいだけど、大きくなる時には、これをすることでより丈夫な良い株になるんだよ」


 フランソワちゃんは考え込む顔をして、独り言をぶつぶつ言っている。

 「そうだとしたら、種蒔きはもうどこも終わってしまっているだろうから、間に合わないけど、この麦踏みは広めた方が良いわよね」


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