帰ってみると頑張っていた
最近、更新日は不定期になってしまっているのですが、更新した時の公開時間は一定だったのに、今回忘れていてズレてしまいました。
すみません。
結局僕たちは、その後10日間大蟻退治をして、木材と食糧を買ってから、僕たちの城に戻ったのだが、長くても14日の予定は簡単にオーバーしてしまった。
来る時には3日間かけて来たのだけど、その時に道を整備したお陰で、帰りは荷物を満載した荷車を押していたのに1日も掛からずに城に戻ることが出来た。
荷物を満載した荷車だと、もし湿地になってしまっている部分の道を整備していなかったら、その湿地を大きく迂回しなければならなかった筈だから、とても1日では戻ることが出来ず、2日がかりの行程となってしまったことだろう。
「今までは湿地になっている部分が乾いていたから、あまり気にならなかったけど、こうしてみると、官僚さんの言葉に従って苦労はしたけど、道を整備したことは大きかったな」
ウィリーがすんなりと城に戻れたので、そんなことを言った。
「それに背の高い草で覆われてしまう場所も、土を固めておいたら草が生えてなくて、道を探す必要もなかった。
あれも良かったよね」
ジャンもそんなことを言う。
僕は町との間の道を整備するなんてことは、全く頭の中になかったので、うん、道の整備は重要だよな、とも思ったのだけど、考えてみると、まだ20人にもならない場所と町を繋ぐ道を整備しても、使うことがあまりないのだから意味がないと思い直した。
官僚さんだって、少しだけ整備しようと始めたら、僕たちが優秀だったから興が乗って無理をさせた、と言っていたから、最初からあれだけきちんと整備しようとは考えていなかったのだと思う。
エレナは僕たちとは別に町の孤児院の卒院生と、僕たちが大蟻退治をしている間は一緒していたのだが、彼らに責められることはなかったようだ。
エレナが自分が甘い間違ったことを話したと謝ったら、さすがに自分たちが酷く自分中心の相手を考えない幻想を抱いていたかに思い至ったみたいだ。
そこでこちらとの合流を諦めるのかと思ったら、そんな事はなく、なんとしても合流するための資金を作ることになったらしい。
そう決意したのは良いけれど、それで資金が作れる訳ではない。
彼らは、現状は卒院して、そのまま寮に入り、町の中で求められる簡単な手伝いをして金銭を得て、それを寮に入れて生活していた。
一番楽で、何も考えずに生活できる手段だ。 それで僕たちに迎え入れられるのをただ待っていたらしい。
そのままでは資金を貯めることは出来ないので、まず一番最初にしなければならないのは寮を出ることだ。
村の孤児院に付属する寮でもそうだが、寮に居る限りは稼いだ金銭は全て寮に入れる規則だからだ。
この後どうするかにエレナは自分が関わる必要はないのだが、エレナは彼らの世話をした。
寮を出た彼らは一番安い宿の大部屋にみんなで移ったが、今までやってきた町の中での仕事では、宿代と食事代だけでも苦しい。
エレナはその全員を冒険者組合に連れて行って、冒険者登録をまず最初にさせた。
とはいえ最初の木級冒険者は、一角兎を獲ることも出来ないし、彼らにはそもそも武器もないし、何の経験もない。
まずエレナは、彼らを連れて1日がかりで村近くの竹林まで行って、竹を採ってきた。
この時は使っていない僕たちの荷車を持って行き、ある程度の量を確保したみたいだ。
採ってきた竹は孤児院の敷地内の邪魔にならない場所に置かせてもらって、次の日からはその竹で槍を作り、モグラ退治の仕事を受けさせた。
モグラ退治はどこの冒険者組合にもあるけど、受け手の少ない仕事だ。
エレナはモグラ退治の仕事で、彼らに一応の日銭を稼がせ、それと共に索敵の技能を学ばせた。
それだけでなく、生活魔法も教えて練習させる。
このあたりは村の孤児院の子に練習させたのと同じメニューだ。
3日間、それを繰り返して、ある程度竹槍の扱いに慣れたところで、竹の盾も作り、スライムを討伐させた。 スライム討伐をしたことがないと、一角兎を狩って良い銅級の冒険者になれないからだ。
スライム討伐をしていると、盾を持っていても槍の腕もまだまだなので、スライムの酸で傷つく者も出てくる。 それを治してやることによって、ヒールも覚えさせた。
それをまた3日続けて、その次に、組合で銀級の自分が一緒に行動して監督することを条件に、彼らが一角兎を狩ることを許してもらって、一角兎狩りをさせた。
それも3日続けて、その実績を以て彼らを木級から銅級に昇格してもらった。
「まだ弓の扱いも教えられていなかったのだけど、10日ではこれで精一杯だった。
やっぱり私だけ町に残って、次の時まで向こうで過ごした方が良かったんじゃないかな」
「いや、十分だろ。 そもそもここまでしてやる必要もなかったと俺は思うぞ」
エレナは僕たちが戻る時に自分は残ろうかと本気で悩んだようで、戻って来てからもそう迷いの言葉を口にした。 次の時というのは、僕らの城からまた誰かが町に買い出しに行き時までということだろう。
それをウォルフが、「そこまでする必要はない」と切り捨てたが、僕も同感だ。
それにしても、町の孤児院を卒院した人たちは、いくらかは以前僕が作ったスライムの罠で[全体レベル]が上がっていたといっても、たぶんレベル3だったのではないかと思う。
それが10日間のエレナの懸命な詰め込み教育のお陰で色々とやらされて、きっとレベルも上がっただろうけど、すごく大変だっただろうと思う。
でもまあ、一角兎が獲れるようになれば、冒険者としては一応一人前扱いになるし、他の仕事をしていたよりは実入りが良く、装備も整えられるし、きちんと目的を持って節約すれば金も貯まるはずだ。
もうあとは彼ら次第だし、弓だってその必要は教えたのだろうから、やる気があれば自分たちでどうにか出来るはずだ。
僕たちが予定の最大の14日間を超えて、16日間も不在にしてから戻った城は、当然ながら季節も変化して、多くの野菜が収穫されるようになってきていた。
それは当然の事なのだけど、僕らが不在でも残ったメンバーによって多くのことがなされていた。
「私たちは町の子たちと同じ立場なのに、同じ村の孤児院出身だから、最初からこの城の一員になっているからね。
みんなが居なくても頑張らないと申し訳ないから」
マイアはウォルフとウィリーの同期では唯一の女性だ。 そのせいもあってか、村の寮から参加したメンバーの中ではリーダーのような感じになっている。
そのマイアが少し照れ臭そうな顔をしてそう言って、自分たちが居ない間にしたことの確認をして欲しいと僕らに頼んできた。
僕たちがびっくりしたことに、木材を調達して来たらすぐに作るはずだった、もう一軒の家の土台部分は、もうしっかりと出来上がっていて、すぐに柱を立てられる状態だ。
それだけじゃない。
屋根にする竹も、もうしっかりと半分に割って、節を綺麗になくしてある。
それに外壁や内部の壁にする、竹を薄く割いて編んだ枠も全て用意されていた。
もう本当に柱と梁を残すのみというところまで準備が整っていた。
「どうだ? ナリート、問題ないか?
今までの2軒やトイレを作った時と同じように、ちゃんと垂直と水平はしっかりと測ったし、土台を作る前は掘って地面と叩いて硬くしてから作ったから大丈夫だと思うけど」
「うん、何の問題もない。 柱をすぐにでも立てられるよ」
ちょっと心配そうに聞いてきた言葉に、僕は完璧だと答えた。
彼らがこの期間にした事はまだまだある。 畑の開墾もまた新たにされていたし、何よりも驚いたのは、レンガの壁で作られた小屋がもう一つ出来上がっていたのだ。
「こっちは実は自信がないんだ。
前に建てたのは、ここに来た一番最初だったし、それから俺たちもいくらか成長してレンガ作りやハーデンは使えるようになったけど、お前たちのレベルとは違うからなぁ。
土台だけくらいなら大丈夫だろうけど、壁全部が自分たちの作ったレンガだと脆いんじゃないかと心配なんだ」
ロベルトがそんなことを言った。
「大丈夫だ。 しっかり出来ているぜ」
ウォルフはそう言って、ロベルトを安心させていたけど、さっきウィリーとあちこち触ってみては何かしてたよね。 あれって、もしかしてハーデンを掛け直していたような。 まあ、黙っておこう。
「エレナ、それでさっき話していたことだけど、町の子たちは結局どうなったの?」
マイアがエレナにそう尋ねた。
「うん、今は寮を出て、冒険者をして冬を越えるための資金を貯めようとしている。
10日間、私が狩りの仕方とか教えて来たのだけど、何とかなるか、ちょっと心配なんだ」
マイアはそれに何て答えようかと考えているようだったが、それに構わずにロベルトが口を挟んだ。
「そうなのか。
それじゃあエレナ、俺たちにも今度は弓を教えてくれ。
ウォルフに教わると、威張られそうだからな。
槍はジャンに教わったから良かったけど、問題は剣だな。
まあ今のところ剣を使おうとする奴はいないけど。
どうであれ、町の奴らに負けている訳にはいかないからな、俺たちは」
「そうだね、町の子たちが来た時に、私たちが彼らよりも色々劣っていたら、馬鹿にされちゃうものね。
私たちが甘やかされていたと思われないように頑張らないと」
あっ、マイアもロベルトの言葉に乗っかって、エレナに掛ける言葉に迷ったのを誤魔化したと僕は思った。
さて季節は夏に向かっていて、雨季が終わったためか急に暑くなってきたのだけど、僕には大急ぎでやりたいことがまだあった。
その一つが、この城にした丘の外縁部を強化することだ。
「ああ、そうだった。
他のことが忙しくて忘れていたけど、それをやらないと何時スライムや一角兎がこの丘の上に登ってきてもおかしくないからな」
そう、この世界では自分たちの住む住宅地だけでなく、畑などの農地も、スライムや一角兎などのモンスターの害から逃れるために、石垣で囲って守らなければならない。
それをここでは、丘の上という立地の利点を考えて、その上部外縁に石垣を積むのではなく、もっと簡単な土木工事で代替する計画が最初からあったのだ。
難しい土木工事の計画ではない。
ただ単に、外縁部を整形して、上部が少し外側に張り出す形にして、その周りをハーデンで固めてしまうというだけだ。
まあ実際には、その周りに生えている草木をどけたり、土を形作ったり、岩の部分は削るなり、泥を貼り付けて形作るとか、工夫も必要だ。
高さが大きく違う部分は、レンガを積んで、高さを合わせる必要も出て来るだろう。
でもそれらの作業の一つ一つは、今までもずっと畑の開墾、家の基礎作りなどの作業で使い続けた、土魔法を使う作業なので、もうみんな出来る作業だ。
たいへんなのは、そんなに広くないこの城作りの丘の上とはいえ、その外縁部全部となると、かなりの作業量になってしまうことである。
僕たちは他にしなければならない作業がある者以外は、この夏場はずっとその作業に掛かりきりになってしまった。
僕らがこの作業を焦って急いで進めたのには訳がある。
実は僕らが本体の方から引いてきた水は使い切れず、一部は丘の上から下に流しているのだ。
今までこの城にした丘は、上には小さな泉しかなく、そこで湧く水は浅い沼を作っていたが、その周りから流れ出ることはなかった。
しかし僕たちは、その浅い沼は邪魔だから、沼を作らないように水の流れを作った。
そればかりか水の量が足りないので、元の方の丘の泉から水を引いた。
将来的には米作りの水田を作りたいという計画もあるので、その水場から畑を横切る形で用水路を作って、畑の水やりが楽にはなったのだが、その末端は今までにはなかったのだが、丘の上から下に水を流さねばならないことになった。
その流れた水がいくらか溜まる池が、丘の下に出来たのだが、当然といえば当然なのだけど、スライムか集まるようになってしまったのだ。
スライムを減らすためと、経験値稼ぎを兼ねて、そちらにもスライムの罠は作ったのだけど、集まっているスライムが丘の上を目指して登って来る可能性も大きいし、スライムに追い払われた形になった一角兎が上を目指す可能性もある。
そこで大急ぎで、丘の上の外縁部の工事をしなければならなくなったのだ。
「水を流した先にスライムが集まってしまうのは、当然のことだったんだけど、僕ら誰も考えてなかったよね。
でもまあ、最初から計画していて手付かずになっていた工事の計画が、それによって進んだと考えると悪いことばかりじゃないよ。
経験値が得られる罠も作ったから、後から加わったみんなももっとレベルが上がってくるだろうし」
丘の上の外縁部の工事は、それから丸々2ヶ月かかってしまった。
とはいっても、下から見れば崖の一番上が背の高さ位、何だかのっぺりとした感じになっているに過ぎない。
でも、たったそれだけのことだけど、上に行くに従って外側に迫り出した構造になっているから、スライムも一角兎もそこを越えることが出来ない。
きっと人間も、越えようとしてもなかなか超えられないんじゃないかな。
ただし、この工事をしていたのは、主に男たちだ。
女性たちが何をしていたかというと、収穫なんかは当然なのだけど、それ以外にも重要なことをしていた。
それは糸作りだ。
衣類まで買う余裕のない僕たちは、流石に最初の当座に必要な布は購入してきたのだけど、自分たちで布を作らなければならない。
今現在の僕たちが作れる糸は、身の回りに存在している物から自分たちが作り出せる物しかない。
具体的に作れるのは、蔦の繊維を使った糸と、麻とは違うのだが、僕は便宜的に麻と呼んでいる草の皮の繊維を使った糸の2種類だ。
どちらも糸を作るにはかなりの手間がかかる。
蔦の繊維は、蔦を切って来て、周りの部分をこそげおとし、中の部分を水に浸けておいて柔らかくし、それを叩いて、繊維となる部分を取り出す。
麻は逆に皮の部分から繊維を取るので、まず皮を途中で切れたりしないように丁寧に縦に剥いで、それを水に浸けて柔らかくして、一番外側の部分を除いたりしてから、こちらも叩いたりして長い繊維を取り出していく。
そこからは細い繊維を何本か一緒に縒ったりして、一本の糸にしていく。
糸にしても終わりではなく、その糸を使って布を織らねばならない。
とにかく根気のいる作業が連続するのだ。
草や木の皮などを使って、その糸に色を付ける事はもちろん出来るのだけど、今はそんなことをしている余裕はない。
素材そのままの色の布が作られている。
機織りの技術は、孤児院でも教えられて行われていたので、女の子たちは慣れている。
というより、まだ分業があまりされていないこの世界では、それらが出来ることは普通だったりするのだ。
衣食住を、独立してなんとか満たすのは、やはりやってみるとなかなかたいへんなことだ。




