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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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道の整備とエレナ

 僕たちが城作りに定めた場所は、僕たちが荷車と共に移動して、大体一日くらいの所にある。

 大体というのは荷車に荷物が満載されていたり、町との間の土地の様子によるからだ。


 そんな訳で、一番最初にみんなでこの場所に来た時には、一日では着かなかった。

 荷物は満載だし、後から加わったメンバーは村の外の離れた場所を歩き慣れていなかったし、何よりもきちんとした道がある訳ではないので、ルートの選定にも時間がかかったからだ。

 その後何度か、町との間を数人で往復する必要があったので、最も都合が良いルートもしっかり判明し、そのルートがなんとなく道のようになっていた。

 ところが雨季に入り、僕たちが町に行かなかったのもあるが、雨の影響と、気候が暖かくなって植物が成長したから、その道が不明瞭になってしまっていたみたいで、初めてここを目指した官僚さんは、かなり迷ってしまったのだった。


 僕たちは官僚さんと一緒に、一度町に戻ることになったのだが、官僚さんの馬車に乗せてもらう訳にはいかない。

 せっかく町に行くのだから、戻る時には必要な物をしっかりと買って戻りたい。 そのためには荷車を運んでいかなければならないからだ。

 馬車に乗って町に向かえば、楽なことはもちろんだけど、当然速度が違うから僕たちが荷車と共に移動すると一日かかる道のりも、半日で済むのだが、そういう訳にもいかないのだ。 僕らはもう迷わないからね。


 それでもまあ、僕は町までの道のりは、僕らの歩みに合わせてゆっくり進んでくれる官僚さんの馬車と共に、のんびりととはいかなくても気楽に、歩いて行けば良いのだと思っていた。 荷車も行きは何かを積んでいる訳ではないので、動かすのに力がいる訳でもない。

 そんな風に思っていたのに、現実は甘くない。


 「えーと、これはナリート君より、ウォルフ君かウィリー君に尋ねた方が良いのかな。

  私たちは来る時は、かなりルートに迷いましたが、君たちはもう最善のルートはしっかりと把握しているのですね?」


 「はい、もう何度か町との間を往復しましたから、流石にそれは把握しています。

  その踏み跡も、荷車に積荷を満載して通ったので、半ば道がもう出来ていたのですけど、雨と周りの草が伸びて判りにくくなっていたみたいですね」


 ウィリーが官僚さんに、少しだけ来るときの苦労に同情する感じで言った。


 「そういうことでしたら、問題はありませんね。

  それでも町に戻る途中で、どんどん道を整備していきましょう。

  そうすれば私たちのように迷う事もなく、行き来が出来るようになりますからね。

  大丈夫です。 鎌やスコップといった必要な道具は私たちが用意して来ましたから。

  君たちの土地にある物を使う訳にはいかないでしょうから、ちゃんと用意しておいたのですよ」


 官僚さんたちの乗ってきた馬車の荷物の下さなかった箱の中身はそれか。



 官僚さんは草が生い茂って判りにくくなっている場所の草を、まず僕らに刈らせた。

 その幅は、僕が考えるよりも少し広くて、それだけであれっと思ったのだけど、まだあった。


 「開墾をした時と同じように、道の部分の土を柔らかくしてみてください。

  草を抜くのに楽になれば良いので、開墾した時みたいに本気にならなくて良いですよ」


 言われたとおりに僕たちは少しだけ土を柔らかくして、草を抜いた。


 「なるほど、確かに簡単に草の処理ができますね。

  これなら私たちが考えていた以上に開墾が進むはずです」


 官僚さん2人は、僕たちのした事に何だか納得している。


 「そうしたら、草を処理したところを均して、均し終えたら、軽くハーデンを掛けてください」


 「えっ、道に軽くハーデンを掛けるのですか。

  そんなことしても踏んだり、荷車で通ったりしたら、簡単に割れてしまうと思います」


 「ああ、そういうことに耐えられるような強度は求めていません。

  ハーデンをかけるのは、ただ単に草を生えにくくするためだけのことですから。

  道の往来が多ければ、草は自然と踏まれて生えなかったり、地面に貼り付いているような草だけになったりするのですが、そうでない場合生い茂って、周りと区別がつかなくなってしまいますからね。

  それを防ぐためだけです。 それにそうしておけば、雨が降っても染み込みにくくなって、それによっても草の繁茂が妨げられます」


 均す時に、真ん中を少し高めにと指導されたのは排水のためだと分かっていたけど、

草をあまり生えないようにするために、舗装の代わりにハーデンを使うという方法があることを僕は初めて知った。

 やっぱり魔法の使い方って色々あるのだな。


 「道を作るのに、こんなやり方があるなんて知りませんでした」

 僕は官僚さんに正直に驚いたことを告げる。


 「ナリート君を驚かせたなら、嬉しいですね。

  何しろナリート君たちには、私たちは今まで驚かせられてばかりでしたからね。

  たまには逆のことがなければ、大人の面目が立ちません。

  とは言っても、これは珍しい方法ではないのですよ。

  ただしこの方法を使える者は少ないですが。

  土魔法を使える人は、食器だとかの日常品を作る仕事についている人が多くて、他のことをしている人は少ないですからね」


 「でも、これって、僕らが使っているのなんて、ほとんど生活魔法の範囲ですよ」


 「そこがもう君たちが普通と違っているところです。

  ほとんどの人は生活魔法は、プチファイヤしか知らないですし、君たちのように全ての生活魔法を練習していたりはしないですから。

  私も残念ながら例に漏れず、土魔法は使えません。 火魔法と光魔法は使えますけどね」


 もう1人の官僚さんも続いた。

 「それに、こんなに多くの使い手がいる事もまずない。

  この方法は、普通は人一人が通れる程度のことにしか使わないんだ。

  こんなことをして魔力を消費していたら、ほとんど距離が稼げないからな。

  お前たちの歳で、これだけ高レベルになっている者が揃っていて、やっと計画出来る方法さ。

  私もこの案を聞いた時には、無理だろうと一瞬思ったが、お前たちのことを考えてみて、可能だと考え直したのだよ」


 「おいおい、計画とか言ったらダメだろ」


 最初に話していた官僚さんが同僚に慌ててそう言ったが、僕もはっきり気がついてしまった。

 僕たちのところにやって来る最初から、道を整備させるのも計画していたのだと。


 でもさすがにそんな風に魔力を大量消費しなければ出来ないような道の整備をする場所はほとんどなくて、時々、迷わないように道標になる腰くらいの高さの柱のような物をレンガで作らされることだけが多かった。


 「作った柱に、そのうちに余裕がある時で良いですから、竹を挿してもっと目立つようにしてください。

  挿した竹の先に目立たせる為の飾りを付けると、なお良いでしょうから、その飾りはこちらで用意しておきましょう」


 何だか本格的だなぁ。 僕らの城への道を領政としてそんなに重要視する必要があるとは思わないのだけど。


 この道の途中、1箇所だけかなりしっかりとした工事をさせられた。

 どういった場所かというと、ちょっとした湿地だ。

 以前、雨季の前に僕らが通った時には、そんなに水で土が柔らかくなってはいなかったので、普通に通った場所だ。

 実際は、草が生い茂っていなかったので、かえって通るのに楽だった場所だ。

 それが今は、土が水を吸って、泥沼のようになっていて簡単には通行できない。


 どうやら官僚さん2人が僕らの城に来る時にルートを見失ったのは、この湿地を迂回したからのようだ。

 官僚さんは僕たちに、乾いていた時のルートを確かめると、靴や足などが汚れるのも構わずに、馬車は置いて、その湿地を歩いて確かめに入って行った。

 確かめ終わると、2人で相談した後で言った。


 「良し、ここだけは雨季にもしっかりと道として通れるように、ちょっと大変ですが整備しましょう」


 湿地になっている所で、その中でいくらか盛り上がって乾いている部分を繋いで反対側に渡る道を作ることになったのだが、その乾いている部分を選んで繋ぐといっても、間の湿っている部分もかなりある。

 その間の湿っている部分に盛り土をして、繋いでいった。


 やり方はこうだ。

 まず道幅の両側となる部分の盛り土をする。 その外側の部分にハーデンを掛ける。

 このハーデンは崩れるのを防ぐためと、外側から水分が中に入って来るのを防ぐためだ。

 そうしてその間に周りの湿っている泥を詰め込む。


 「はい、そうしたら詰め込んだ泥の水分を意識して、そこから絞り出すようにイメージして、ドロップウォーターで水を集めてください」


 官僚さんの言葉に従って、僕らはその作業をしたのだけど、なんで官僚さんはこんなことを思いついたのか。


 「思ったとおり、泥の水分が抜けて、土が締まりましたね。

  さあ、もっと泥を重ねて、同じことをしますよ」


 官僚さんは、大蟻の巣にお湯を注ぎ込んだ時に、僕たちが周りに降って溜まった雨水を集めていたのを見たことを思い出して、出来るのではと考えたらしい。

 出来たことで、離れた場所から乾いた土を運ばずに済んで、この工事に掛かる時間は大幅に短縮出来たから良かったのだけど、水を含んだ土は重いし、魔力は使うしで、とても疲れる作業だった。

 結局この湿地を突破するのに丸々2日かかり、町に着くのに3日も掛かってしまった。

 そして、ヘトヘトだ。


 「ナリート、ルーミエ、ウォルフ、ウィリー、エレナ、そしてジャンだったな。

  随分戻って来るのが遅かったじゃないか。

  まあ、大蟻の退治は明日以降の話として、まずは美味いものでも食え。 どうせ開拓地では、まともな物なんて食ってないのだろ。

  お前たちが来たら、歓迎して少し美味いものを腹一杯食わせてやれ、と命じておいたからな。 すぐに用意は出来るはずだ」


 僕たちが領主館に着くと、領主様が自ら出て来て出迎えてくれた。

 一人ひとりの名前を呼んでくれて、あまり領主様との直接の接点がないジャンは、自分の名前もしっかりと呼ばれたことを喜んでいたけど、それよりも僕らは言いたいことがあった。

 ルーミエが、それを全く躊躇わずに領主様に言った。


 「領主様、美味しいご飯は食べたいけれど、それよりも今はとにかくどっかで休ませて」


 僕たちはみんな、その言葉に一斉に頷いた。

 領主様は、改めて僕らの様子を観て、それから一緒に来た官僚さんの方に顔を向けた。


 「いえ、道の整備をしながら来たのですが、一部湿地になっているところがありまして、そこを不便がないように道を通すのに、土魔法と水魔法まで、まあ限界まで使わせることになってしまいまして」


 「なんだ遅くなったのは、そんなことをしていたのか。

  そこまできちんとした整備をする予定ではなかっただろう?」


 「いえ、始めてみたら、この子たちは能力が高いので、これなら出来るかなと、ちょっと頑張りました」


 「それでここに来るまでに疲れ切って、この有様か」


 僕らはもう床に座り込んでいたのだった。

 予定は変更されて、僕らは簡単な食事を取って、その間に用意されたベッドにそのまま倒れ込んだのだった。


 僕たちは、前日はかなり早い時間にベッドに倒れ込んだのだと思うけど、しっかりと朝まで眠った。

 朝起きた時に、僕は少し大きな部屋に6人揃って寝ていたことに気がついた。

 もう僕は食事をした後は、案内されて言われるままに、示されたベッドに倒れ込んだだけで、周りのことなんて全く気にする余裕がなかったのだ。

 起きた時に、汚れた服そのままにベッドに寝ていて、さすがにちょっとびっくりしたし、ベッドのシーツなんかも汚れてしまっていて、申し訳ない気分になった。

 僕が目が覚めて、まだぼんやりとそんなことを考えていたのだけど、エレナは目覚めた途端に大声をあげた。


 「私、汚いままだよ。 ベッドが汚れてるよ」


 エレナの焦った大声で、他のみんなも全員目が覚めただけでなく、外の人にもその声が聞こえたみたいだった。

 ドアを開けてメイドさんが入ってきて言った。


 「気にしなくて大丈夫よ。 そんなの洗えば済むことだから。

  あなたたちも、お風呂が用意してあるから、行って体を綺麗にして来ると良いわ。

  あなたたちは場所は分かるわよね」


 体を綺麗にした後、出された朝食を食べていると領主様がやって来た。


 「予定は一日ずらして、今日一日はゆっくり休め。

  今日こそは、少し美味いものを食えよ。

  晩飯は俺も一緒に食おう。

  お前たちをクタクタになるまで働かせた2人は、俺が怒っておいてやったからな」



 領主様と一緒の夕食が終わり、もう後は明日からの大蟻退治に向けて、もう一晩しっかりと寝て英気を養うのみという時になって、急にエレナがみんなに相談がある、と言い出した。


 「私だけ、大蟻退治から外れても良いかな。 別のことをしたいの」


 「別のことって何をするの?」


 僕たちはみんな、エレナが何をしようと思っているのかは分かっていたけど、ルーミエはそうエレナに聞いた。

 ルーミエ以外はエレナを除くと男だから、直球で尋ねにくいだろうと考えて自分がと思ったみたいだ。


 「うん、私が変に希望を持たせてしまった町の卒院生たちと、ちゃんと話して来ようと思うの」


 うん、そうだよね。 エレナが僕らから離れて1人で別のことをしたいと言うなら、それしか考えられない。


 「でもさ、エレナ。

  大蟻退治は報奨金はみんなで城作りに使うのだから良いのだけど、それだけじゃなくてたくさんの経験値が入るじゃん。

  僕もエレナも、みんなより遅れてレベルが上がって、やっと大体追いついたのに、ここで大蟻の退治に参加しないと、また差がついちゃうよ」


 「ジャン、それは私は構わないわ。

  別に私はみんなと同じくらいのレベルじゃなきゃ嫌だとは思わないもの。

  それよりも私がきちんと話さないで、変な期待をもたせてしまったことを、しっかり謝って、その上であの子たちがこれからどうするかを、一緒に考えてないといけないと思うの。

  それが今、私が一番しなければいけないことだと思う」


 「お前が、全て自分が悪かったと思うことはないと思うぞ。

  そんな甘い話ある訳ないのだから、そんなことは奴らだって分かっていて当然だ。

  その責任までお前が感じる必要はない」


 ウィリーがそう言ったけど、その意見に僕も賛成だ。

 自分が努力しないで、他の者の努力によって利益を得ようなんてのは、甘いだけじゃなくて狡い考えだからね。


 「でも、そんな甘い夢を私が見せてしまった部分はやっぱり大きいと思う。

  だから私も一緒にこれからを考えたいと思う。

  それで確認なんだけど、もしこの冬を越せるだけの蓄えを自分で持てたら、その努力を認めて、私たちの城の住人として受け入れる。

  この条件で構わないのよね。

  最初の話と違うと言って、私のことを怒って別の道を進む人がほとんどだと思うけど、それでも受け入れられる条件はきちんと教えてあげたいから」


 「ナリート、この条件で良いんじゃないか。

  将来的にはお前も住人を増やすことを考えていると思うし、今のところ予定より畑は上手くいっている。

  その上、この大蟻退治で少しは資金に余裕も出来るはずだから」


 ウォルフがエレナの提案内容で受け入れても良いのではないかと、僕に言ってきた。

 ウィリー、ジャン、そしてルーミエも、それで良いのではないかという顔をして、僕を見つめている。

 いや、何も、僕が全て決めようとしている訳じゃないからね、みんながそれで良いと思うなら僕だってそれに従うよ。


 「うん、みんながそれで良いと思うなら、それで良いと思うよ。

  エレナが変に責められたら嫌だけど、そしたら受け入れないだけだし」


 自分の甘さや狡さを省みないで、エレナを責めるような奴は僕は受け入れたくないので、そこだけ付け加えた。


 「ありがとう、みんな。 今度はちゃんとそう伝えるよ。

  でも私は、自分が責められるのは覚悟しているんだ」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >あなたたちも、お風呂が用意してあるから 領主クラスなら水槽でなく、風呂を知ってたのか
[一言] 道を柔らかくしたあとに石を混ぜたりとかしないのかな?馬車とか荷車とか重いものが通る道なら、砂利道みたいに硬い道が必要になりそうな? あ、でこぼこしたら駄目だからかな?
[一言] 児童労働、なにそれ?な世界で領主様はお優しい。でもしっかりナリート達を正しく利用しています。よき領主の元で学べるナリート達は本当に運がいいですね。 エレナの責任感の強さが伝わってきました。で…
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