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見落としていたこと

 僕は治癒魔法が使えたことに興奮して、心臓をバクバクさせていたところに、シスターが戻って来た。

 きっとルーミエがあれからどうなったかを心配してのことだろうが、僕の方を見て、僕が興奮で心臓をバクバクさせているのには全く気づかずに言った。


 「あら、ルーミエちゃんは眠っちゃったのね。

  まあルーミエちゃんにとっては大きな出来事が重なったのだろうから、疲れちゃったのね。

  ところでこれは、ルーミエちゃんの寝床の草も晒しているの?」


 「うん、ルーミエがどうしても僕と同じにしたいってきかなくて」


 「ふふっ、それはご苦労様。

  でもそれじゃあ、もっと急がないとね。 ルーミエを起こして」


 僕がルーミエを揺すって起こしている間に、シスターはルーミエの寝床の草を纏めていた。

 「ルーミエちゃん、そろそろ洗濯物をみんなが取り込みに来るから、起きて自分の干した服を取り込んで。

  自分でできるかな」


 僕も自分の干した服をもう取り込まなければならないので、ルーミエを手伝ってやった。

 服は季節がら、もうしっかりと乾いていた。


 「ナリート君、ルーミエちゃんの寝床は私が直しておくわ。

  もうそろそろみんな戻ってくるから、あなたが女子部屋に入ると色々言われちゃうでしょ。

  今日はありがとうね」


 シスターはルーミエを連れて女子部屋に行くようだ。

 ルーミエはシスターと一緒に行ったが、手を振ってきたので、僕も振り返してやった。

 それを見て、シスターはニコッと笑顔を見せて去っていった。


 さて、僕も急がないと。

 みんなが部屋に戻ってくる前に寝床を元に戻しておいたりしないと、何をやっているんだと、言われてしまうからね。



 それから後の時間、僕には自分を見たり、見たことを考えたり試したりしている時間は、寝床に入るまでなかった。

 考えたりするだけなら、みんなが寝ている寝床の中が一番適している気がする。

 これも体力の数字が3に上がったからなのだろうか、前みたいに疲れていて、すぐに眠ってしまうということがなくなったから、起きていて考えてみてみようと思うと、寝床の中で結構長い時間、考える時間は持てるからだ。


 僕は寝床の中で、ヒールという治癒魔法が使えたことを思い出して、また少し興奮してしまった。

 自分を見てみると、確かに[治癒魔法]という項目があることが、僕は嬉しくてしょうがなかった。

 治癒魔法というものが世界にあることは知っていたけど、僕は実際には冒険者さんに足を治してもらうまで、見たこともなかった。

 僕にとっては治癒魔法なんて、話の中に出てくるだけの事柄だったのだ。

 今になって考えてみると、シスターは治癒魔法が使えるので、もしかしたら僕たちが怪我をした時とか、知られないように黙って使っていたのかもしれない。

 色々考えてみると、そんな気がする。

 だけど、そんな珍しいことを自分も出来るのだと考えると、本当に嬉しくてたまらない。


 僕は自分にどこか怪我はないかな、と思ったのだけど、どこも怪我している場所には思い至らなくて、すごく残念な気がした。

 あれ、でもこの治癒魔法が使えるということ、隠しておいた方が良いのかな。

 シスターも治癒魔法が使えることは、どうやらあまり知られないようにしている感じだ。

 たぶんきっと、威張って大っぴらに使ってみせるのは、駄目なことなのかもしれない、と僕は考えた。


 「困ったぞ、それだと、自分が怪我した時以外、練習することができない」

 僕は[槍術]の項目の数字が増えていたことを考えていたのだけど、ふと、この[槍術]とか、今回項目として増えた[敏捷][筋力]なんかは、自分で鍛えようとしたことだと思った。

 それでもしかすると、項目の中には自分で鍛えるというか練習すれば、数字が増えたり、項目が増えたりするモノがあるのかもしれないと考えた。


 もしそうだとしたら、治癒魔法の数字は是非とも増やしたいと思ったのだ。

 その為には何度も治癒魔法を使い、練習しなければいけないのではないか、と。


 僕はこの問題を寝床の中で色々と考えてみたのだけど、どうにも良い解決策は浮かんでこなかった。

 よっぽど、自分で小さな傷を作って、それに魔法をかければとも思ったのだけど、自分の意思でしたことに対して、また魔法という自分の意思で治すというのは、何となく出来ないような気がしてしまったのだ。

 もし本当にできなかった目も当てられないからね。


 ま、そのうち何か良い案が見つかるかもしれないや、と諦めて、僕は眠りにつく前にもう一度自分を見てみて、[治癒魔法]の項目があるのに、ニマニマした。

 でも、僕は自分を見た時に、何となくまだ何かある気がしたというか、今までとは違う感じがした。


 僕はそれでもう一度じっくりと見てみようとして、その違和感の正体と、見てなかったことと、もう一つのことという3つものことに気がついてしまった。


 まず一番最初の違和感の正体なのだが、頭の中がぐるぐるしていないのだ。

 今までは頭の中が大きくグルグル回っているような感じだったのだけど、そのグルグル回っている感じが無くなったというか、グルグルが止まって、それぞれの場所に配置されたというか、整理されたというか、とにかく静かになった感じなのだ。

 ただし、自分が使えているのは相変わらず、その極一部だけという感じで、他の部分はなんて言うか、濃い霧の中に沈んでいて見えないというか、湖の底にあるような感じというか、要するに何かあるような感じはするのだけど、何だかわからないという感じなのだ。

 それでも、[知力]の数字を増やしたからだろうか、使えている極一部は、前よりも少しだけ広くなっているような気がする。


 僕に取ってはグルグルしていた時も、今の霧の中に沈んでいるように感じている時も、見えなかったり、使えなかったりすることは同じではある。

 でも、グルグルしている時は、それを気にすると、熱が出て、また寝込んでしまいそうな感じがあったから、霧の中に沈んでいる感じになって、そこに注意を向けても熱は出そうにないし、グルグルの時よりも気持ち悪くはならないから、すごく嬉しい。


 次に自分を見たのに見てなかったことは、[全体レベル]と[残ポイント]の項目の間に、大きな[次のレベルまでに必要な残り経験値]という項目が出来ていたことだ。

 こんな大きな項目をなんで見ていなかったのだろうかと思うけど、意識して見ないと、全く見えないというか、よく見るとはっきり見えるのだが、とにかく見えないのだ。


 でもこれって、すごく重要な項目のような気がする。

 僕は最初のレベルが上がった時は、スライムを1匹討伐しただけで上がったけど、2度目に上がった昨日は、上がるまでに3匹のスライムを討伐している。

 もしかすると、上がるレベルが大きい数字になると、それだけ多く倒さなければならないのかもしれない。

 そしてその目安がこれなのではないかと、項目名で思ったのだ。


 この数字が9ということは、次にレベルを上げるには、もしかするとスライムを9匹討伐しなくちゃいけないということなのかな。

 試してみないとわからないな。

 もしかすると、1匹討伐すると、数字が1減るのかな。

 僕はまたすごくワクワクし出してしまった。


 もう一つは気付くのがもっと難しかった。

 それは何かというと、僕は自分を見た時に、項目だとかをなんとなく読んで把握している感じなのだが、僕は字を習ったことが今までになくて、字の存在はもちろん知っているけど、読んだり書いたりが出来ないのだ。

 だからなのだろうか、自分を見た時には、その見た中で、項目とかを読んでいるつもりなのだが、自分でどんな字が書いてあったかを思い浮かべるとぼやけてしまうのだ。


 すごく不思議に思って、翌朝になってから地面に書いてみようと思ったのだけど、何を書いて良いのか少しも分からなかった。

 僕は自分を見た時に、何を見ているのだろうかと、すごく不思議な気がしたし、ちゃんと字を覚えないと駄目だと思った。



 それでも、今僕が一番知りたいのは、[次のレベルまでに必要な残り経験値]がスライムを討伐したら減るかどうかだ。

 すぐにでもスライムを1匹、討伐したいところなのだけど、3匹のスライムに突き刺した槍は、竹はスライムに強いと聞いていたのだけど、もうすでに尖らせた先が傷んできていて、そのまま使うには刺さらないかもしれないという心配がある。

 かといって、溶かされて傷んだ部分を切って、もう一度残りの部分の先を尖らせたのでは槍が短くなってしまう。

 それだと怖いので、僕は焦らずに、槍をまた新調してから、この実験をしようと決心した。

 自分でもすごく慎重だと思うけど、数字が減るかどうかを確かめたい気持ちの強さよりも、あの痛みをまた味わいたくはないという気持ちの方が強いのだ。


 僕はまた、竹を切る為に、割ると鋭くなる硬い石を探す。

 以前は実際に割って確かめないと、どの石が適しているか分からなかったし、割り方が悪くて、良い石を駄目にしたのだけど、今では手に持つとなんとなく分かるようになったので、石を簡単に探せるからなと思いながら石を探したのだが、僕はまた奇妙なことに気がついた。

 前は手に持ってみないと、その石のことが分からなかったのだけど、今回は石に手を近づけると、ある程度まで近づくとその石のことが分かるのだ。

 それだけじゃない。

 持たなくても分かると思ったら、石にわざわざ手を近づけなくても、足でも膝でも、どこでも体の近くに石があれば、意識するとその石のことが分かるのだ。


 もう画期的に素早く良い石を探せるようになった。

 意識して石のあるところを歩くと、都合の良い石をそれだけで見つけることが出来るからである。


 何だか凄いと自分でも思ったのだけど、今はそれよりも竹の槍を新調することの方が先決問題である。

 僕は今回は、この前作った槍よりも、少しだけ長い槍を作ろうと考えた。

 槍の長さが長くなるだけ、きちんと狙ったところに先を突き刺すのは難しくなるし、力も必要になる。

 だけど長さが長くなれば、失敗してスライムに飛びかかられた時にほんの少しだけ距離が伸びるだけで、躱すことが出来る可能性が高くなると思ったからだ。

 そして僕は前より、長さが長くなって重くなっても、[筋力]なんて項目も増えたから大丈夫な気がするのだ。


 「でも作って練習してからだな。

  練習してみて上手くいかないと思ったら、前の長さに直せば良いのだから。

  短いのを長くは出来ないけど、長いのを短くするのは簡単だから」

 僕は槍の長さを変えることを、自分にそう弁解した。


 石のことが持たなくても分かるようになっただけではなかった。

 竹を切ったりするのも、ずっと早く出来るようになった。

 前の槍を作った時は、まだほんの少し前のことだけど、竹を切るのに子どもが石で切るのだから、2日掛かった、それから枝を落としたり長さを合わしたりにまた2日、先を尖らせるのに1日の合わせて5日かかった。

 今回は2度目の製作で初回の経験があるからかもしれないけど、今日の1日、正確には柴刈り後の残り時間だけで、枝を落とすところまで出来てしまった。

 もしかすると[石工][木工]という項目のせいかも知れないと思うと何だか嬉しかった。


 その次の日にはまた発見があった。

 石を探した時みたいに、今度は落ちた枝を意識してみたら、草に隠れて見えない枝も、自分の近くにあると、なんとなくその存在が分かることに気がついたのだ。

 柴刈りにかかる時間が、また減って、自分のことに使える時間が増えた。


 使える時間が増えたせいもあるのだろうけど、2本目の槍は今度は2日で出来上がってしまった。

 ちょっとそれで僕は自戒していたのに、少し調子にのってしまったのかも知れない。


 僕は槍が出来上がった次の日は、流石に長さが今までと違う竹の槍で、即座にスライム討伐をする気にはならず。

 以前よりも時間のある、柴刈り後の自由に出来る時間を、新しい槍を使う訓練をした。

 正直なんの問題もなく、短い時と同じに使えている気がして、たった1日の練習でスライム討伐をしても大丈夫だと思ってしまった。

 それで次の日から、[次のレベルまでに必要な残り経験値]がスライムを討伐したら減るかどうかを確かめるために、スライム討伐をしてみることにした。

 ただし、確認の為でもあるのだから、この前の時に1日で2匹討伐するという考えなしの暴挙をしてしまったことを思い出し、1日に討伐するスライムの数は1匹だけにしようと考えた。


 その1日目、僕はどうなるだろうかと朝からワクワクしていた。

 スライムを1匹討伐すれば、数字が1減るのだろうか。

 スライムを討伐した後で、自分を見てみるのが楽しみで仕方なかった。

 もう僕の頭の中では、スライムは簡単に討伐できるモノということになっていた。


 それでも柴刈り中に油断することだけは、前に物凄く懲りているので、一応あたりに気をつけて、大急ぎで枝を拾った。

 拾い終わり、よし、スライムを1匹討伐するぞと思ったのだが、そんな時に限ってなかなか都合の良いスライムを見つけることが出来なかった。

 都合の良いスライムを見つけて、そのスライムを討伐することは、自分が思っていた通り、その時はなんの問題もなく、簡単に討伐することが出来た。

 それで、早く結果を見る為に大急ぎで帰ったのだけど、都合の良いスライムを見つけるのに手間取って時間を食ってしまったこともあり、自分のことを見てみる時間をなかなか見つけることができず、結局夜、寝床に入ってからしか時間を取れなかった。


 夜、寝床の中で、僕は周りの友達がみんな眠ってしまうのを待っていた。

 もし、僕が思っていた通りだとしたら、きっと僕は大興奮してしまうから、それを変な目で見られるのが嫌だったからだ。

 そうしてジリジリとした時間を過ごし、やっとみんなが眠っているのを確信すると、すぐに僕は自分を見てみた。

 見てみる項目は決まっている、もちろん[次のレベルまでに必要な残り経験値]の項目だ、僕はそれだけが見たかった。

 そしてそこに僕が見たのは思った通りの「8」という数字だった。

 やっぱり1減っている。

 僕はもちろん大興奮だった。

 やっぱりみんなが眠ってしまうまで待っていて大正解だった、と自分を褒めたい気分だった。


 2日目、3日目とスライムを討伐する。

 順調に[次のレベルまでに必要な残り経験値]は1づつ減っていくが、槍には問題が出た。

 やはりスライムを3匹討伐すると、槍がもう使うのを躊躇うほど先が痛んでしまうのだ。

 僕は迷った、先を切って尖らすだけにしようか、前より長いから、少し切って尖らしても、最初の槍よりは長いから、と。

 でも長さが違って感覚が狂うと危ないかも知れない、なんて考えて、いや実際は3日連続でスライム討伐をしたから、神経が少し疲れていたからかも知れない。

 それでもそのおかげで僕はまた2日かけて、今度は同じ長さの3本目の槍を作った。


 その翌日、僕はまたスライム討伐を同じようにしようとした。

 孤立して1匹だけのスライムにそっと近づき、核を目掛けて竹の槍を刺す。

 いつもと同じようにしたつもりなのに、その日は槍がスライムに刺さらなかった。


 槍がスライムに刺さると思った瞬間、変な抵抗感があり、その抵抗感があるうちに、スライムが槍先をグニュっと避けて、次の瞬間飛びかかって来た。

 僕は思いっきり横に転がって、スライムを躱したつもりだったのだけど、右肘をスライムに掠られたようで、鋭い痛みが襲ってきた。

 でもそれに構っている暇はない、素早く立ち上がって走って逃げる。

 スライムが追ってきているのが分かるけど、スライムよりは僕の方が速い。

 少し距離をとって僕はスライムに対峙した。


 このまま走って逃げれば逃げることは出来るのだけど、なんとなくやられっぱなしで逃げるのが嫌だった。

 後になって考えると、思っていなかったことが起こって、頭が混乱していたから、そんな行動をとったのだと思う。

 本当に逃げるのが正解だったと思うのだが、何故かその時はリーダーに殴られたのを我慢してた気持ちとかまで溢れてきて、絶対にやられっぱなしになるものか、と思ってしまったんだ。


 僕とスライムはジリジリと距離を縮めていく、スライムも怒っているのか逃げる気はないみたいだ。

 スライムが飛びかかってこようとした瞬間に、いや僕がそう思っただけかも知れないけど、僕は今度は全身で力一杯槍をスライムに突き刺した。

 今度もいくらか抵抗を感じたけど、力一杯だったからか、今度は刺さって、ちゃんと狙い通り核を槍は貫いた。

 スライムは水みたいになって消滅した。


 僕はその場にへたりこんで、少しの間そのまま動くことも出来なかった。


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