僕らは蟻退治専門
レベルが上がり過ぎと言われて、僕らは何だか怒られた気持ちになった。
普通成人に達する年齢、つまり18歳でレベル5で、それに達しない人も多いのに、僕らは10歳前後でみんなその倍を超えている。
十分にレベルが高い自覚があったからだ。
でもまあ、領主様のその言葉はどちらかというと冗談で、本当に怒っていた訳ではないらしい。
「しかしまあ、お前たちが大蟻を退治したというのは、流石に言わないことにしよう。
特例で冒険者として登録出来ている子供が大蟻を巣ごと葬ったということが公になると、大人の冒険者たちは何をしていたのだということになるからな。
大蟻は一角兎と違って、討伐してもそれが何かをもたらす訳ではないから、討伐の報酬は公金から出ているから、大人の冒険者が子供の冒険者よりも役に立たず、討伐報酬を受けていたとなると問題になるからな。
ということで、公的には大蟻を巣ごと退治したのは、俺のところの者たちということにする。
冒険者だけでは対処しきれなかったので、俺の子飼いの者たちというか、領兵が出て一気に退治したということにする。
お前たちも分かったな」
僕たちが大蟻を退治したことが広がると、色々と問題になりそうなのは、何となく分かる気がする。
僕たち自身も、まさか自分たちのしたことで、大蟻を巣ごと退治できるとか思ってもいなかったし、それで騒がれたり、他の冒険者に稼ぐ種を奪った奴らと目をつけられるのも嫌だから、その方が都合が良いとも思った。
ウォルフとウィリーは見習い衛士だから、あながち嘘という訳でもないし。
僕はそう考えて、他のみんなが何かそれに関して言う前に話題を変えようとした。
「領主様、それは構わないのですけど、巣に閉じ込めて討伐した大蟻を確かめるというか、ちゃんと確認しなくても良いのですか」
「ナリート、確認するためには、大蟻の巣を今度は掘ってみなくちゃならないのだぞ。
そんな面倒なことはしない。 しても何も得られる物もないしな」
僕は前からちょっとだけ大蟻を討伐しても何も得られる物がない、というのが疑問だった。
大蟻の体は硬くて、剣や槍の攻撃をほぼ通さない。
それならばその外殻を利用して盾を作れば、とても堅固な盾が出来るのではないかと思っていたからだ。
僕はそれを領主様に聞いてみた。
「確かにハンマーで叩き潰して討伐したんじゃなければ、一見綺麗な大蟻の外殻が手に入って、それは利用できそうに思いはする。
ま、でもそれは誰でも考えそうだと思わないか。
それでもそんなことをしないのには理由があるのさ。
大蟻の外殻は生きている時には硬くて強いのだけど、死んだ後は、乾いてしまうと簡単にパリッと割れてしまって役に立たないんだ」
あ、言われてみれば確かにそうかも。
「でも領主様、掘って確かめないと、何匹退治したかも判らないですから、報酬が決まりません」
「ウィリー、心配しなくて良いぞ、お前たちへの報酬は決まっている。
今回の大蟻退治のための予算の残っている分、それを全てお前たちにやろう。
と言っても本当のことを言えば、きちんと数を数えたら、それでは全然足らない金額だろうけどな。
しかしまあ、出せる金額はそれしかないから、我慢してくれ」
まあ、それは仕方ない。
そもそも領主様が僕たちに何か大蟻を一気に退治するような方法がないかと言ってきたのは、大蟻を討伐するペースよりも大蟻が増えるペースの方が速いことが分かってきたからと、討伐に当たっている冒険者に報酬として払う予算がなくなってしまいそうだったからだ。
「それから言っておくが、その報酬は適当な時が来るまで、お前たちに金額は教えるが実際には渡さず、儂が預かっておく」
「ええっ、どうしてですか?」
僕も何でと思ったけど、エレナは即座に不満の声を上げた。
「まあ、不満の声を上げたい気持ちは分かる。
だが、それにはいくつか理由がある。
まず第一に、討伐した数からしたら全然足りない金額とはいえ、お前たちにとっては大き過ぎる金額だということだ。
お前たちの年齢の者が持つには高額過ぎて、良いことではない。
またお前たちはもう自分たちの装備などは今までで買い揃えていて、現状それ以上の装備を買う必要がないから、個人では使い道がないはずだ。
かといって、それをお前たちの孤児院に使うということも、他の孤児院との兼ね合いもあり許せない。
つまり、今の境遇のお前たちが、この大蟻の討伐で得た金銭を使っても良いと許される使い方が無い。
よって、今、お前たちに報酬を渡すことはしない」
随分と端折った領主様の言葉だけど、言わんとすることは理解出来た。
エレナをはじめとして、みんな何だかがっかりした顔をしたけど、言われてみればその通りなので納得はしたみたいだ。
でも、それだとしたら、僕たちは苦労して大蟻の討伐をしたのに、何も得られるモノがないことになる。
まあ、領主様の依頼をこなしたという実績は残って、今後も領主様に優遇してもらえるんじゃないか、という気はするけど。
「しかしそうなるとお前たちは、大蟻の巣を掃討したという名声も得られないだけでなく、金銭的対価も得られず、今回のことで得られるモノが無いことになってしまう」
あ、領主様も気にしてくれていたようだ。
「それではあまりに可哀想だからな、内緒で今回の本当の実績を組合には伝えて、お前たちのランクを銀級になるようにしてやろう。
鉄級の冒険者どもが駆除し切れなかった大蟻を、お前たちは巣ごと駆除したのだから十分そのランクに値するしな」
僕たちは銅級だったのを、今回の大蟻の駆除に加わるために特別に鉄級に上げてもらったばかりなのに、その上の銀級にまた上がるなんて良いのだろうか。
「冒険者組合のランクが上がるのは嬉しいけど、領主様、ランクが上がることって何か意味があるの?」
「ルーミエ、大きな意味があるんだぞ。
そうか、お前たちは今まで特例ばかりできたから、冒険者のランクなんて意識したことがないからな。 知らなくても仕方ないか。
まずそもそも、木級の冒険者というのは、モンスターの討伐は出来ない。 スライムでもダメだ。
モンスターの討伐をして良いのは、本来は銅級からで、その銅級も許されているのは一角兎と平原狼と大猪までだ。
実際問題としたら、平原狼と大猪を狩る冒険者は少なくて、銅級の冒険者の多くは一角兎までだがな。
お前たちのせいで一角兎が増えたのと、その狩りが楽に出来るようになったら、尚のことより危険がある平原狼と大猪を討伐しようとする者が減ってしまったのだがな」
あ、それもあってウォルフとウィリーは、領主様に連れられて平原狼と大猪の狩りに行かされていたのか。
「しかし、銅級と鉄級の間の差は大きくて、鉄級に上がって来る者の数は銅級に比べるとずっと少なくなる。
つまり鉄級になると許される大蟻は、一角兎は当然だが、平原狼や大猪よりもずっと強いということだな。
まず矢がほとんど効かないから、遠距離での攻撃が駄目で接近戦をしなければならないということが確実なことが大きいな。
平原狼と大猪は、きちんと考えて立ち回れば、弓矢での遠距離攻撃で倒すことが可能で、そうでなくても弱ってからのトドメだけで接近戦は済むことがほとんどだからな。 またそれが出来ないようでは立ち向かえない。
大蟻は、そうは行かず、必ず接近戦をしなければならなくて、その上普通は剣や槍での対処が難しい」
僕たちはみんな、最初の試しに大蟻の1匹と戦ってみた時のことを思い出していた。
でも、正確に目に当てれば矢も効くし、下側を攻撃すれば槍や剣も簡単に通るんだよね。
そう僕は思うのだけど、多くの冒険者はもう古くから確立しているハンマーで叩くという攻撃方法に固執している。
それが大蟻との戦い方の常識で、なかなかそれ以外のことをしようとはしないのだ。
「だからまあ、お前たちを規定の都合上鉄級にはしたが、儂は実はお前たちに大蟻と戦うことは期待していなかったんだ。
お前たちには索敵と、怪我をした者の治癒をしてもらおうと考えていたのだが、いざ蓋を開けてみたら、まさか他の冒険者よりも多く大蟻を討伐するとは思わなかった。
そしてまさか、お前たちが巣ごと大蟻を全滅させるとは、どうにかならないかと依頼はしたが、全く想像しておらんかったわ」
うん、そりゃそうだよね。 僕たちだって、大蟻の巣ごと全滅させられるなんて思ってはいなかったんだから。 ある程度数を減らせれば良いなくらいだったんだ。
「で、話がズレてしまったが、冒険者のランクが上がるということは、つまりより高額な報酬を得られる可能性がある、より強いモンスターの討伐依頼を受ける権利が与えられるということだな。
どうだ、ルーミエ、十分意味があるだろ」
領主様はルーミエにそう言ったけど、ルーミエは冒険者のランクが上がることに十分な意味を見出さなかったようだ。
そりゃそうだ。 僕らは普段は一角兎までしか狩らないから、銅級のランクで十分でそれ以上のランクなんて持っていたって意味がない。
僕らはみんなそんなものだったから「はあ」というような低調な反応だったのだけど、他の人にとっては大きな報酬らしいことは、その場に居た領主様の補佐官の人の反応で分かりはした。
「えーと、それでだ」
僕たちはもう領主様の話は終わりかと思ったのだが、続きがまだあるらしい。
「ランクが上がるということは、これは規定ではなくて慣習なのだが、上のランクの者は下のランクの者の仕事を奪ってはいけない。
ということで、お前たちはこれからは一角兎を狩るのは禁止だな」
「えっ、それは困ります。
それだったらランクは上げてもらわなくて良いです」
僕は即座に領主様に言った。
「いや、それはもう手遅れだ。
一角兎は鉄級でも対象外で、お前らは大蟻討伐の報酬で防具や武器を揃えた時に、組合の割引も使っているし、当然のこととして多くの者に大蟻の討伐に出ていることを知られている。
大蟻の討伐に出れるのは鉄級以上だということは、冒険者にとっては常識で、それを羨んだり安心したりと、人によってそれぞれだったりもするから、みんな誰が討伐に出ているかは注意してみているものなんだ。
だからもう、一角兎狩りに戻るのは無理だな」
「それじゃあ、孤児院のために狩っていた兎をどうするんですか?
孤児院の食事にまた肉がほとんど無くなっちゃう」
エレナも僕と同じことを心配したみたいだ。 ジャンもルーミエも頷いている。
「新たに冒険者になったのが居るだろ。
自分たちで狩らなければ良いだけで、指導するのは別に禁じられてはいない。
人数が足りないだろうから、急いでもう少し増やした方が良いだろうけどな」
どうやら領主様は、僕たちではなく他の子に孤児院で必要とする兎は狩らせようと考えているみたいだ。
その為の指導をしろと言っているみたいだ。
「そうすると、僕たちはウォルフとウィリーが領主様とやっていたように、平原狼と大猪を狩ることになるのですか?」
ジャンが領主様に質問した。
「そうだな、それらも狩ってもらおうとは思っている。
大蟻を狩ることが出来るお前たちなら、平原狼と大猪も大丈夫だろう。
ウォルフとウィリーは、両方とも狩る経験は何度もしているから、2人が加われば後の4人に経験がなくても後れを取ることはないだろう。
しかし、本命は平原狼と大猪ではない。
お前たちには今後、この儂の領内に発生するだろう大蟻を、率先して討伐してもらう」
ええっ、何でそうなった?
領主様と部屋にいた補佐官さんの説明によると、元々は僕たちがスライムを罠で常時かなりの数を討伐していることが問題になったらしい。
スライムの数が減って、生息域が狭くなって、それに呼応して一角兎が生息域を広げ数が増えた。
ここまでは僕らも前から実際に気付くというか感じていたところだ。
そして最近、その一角兎を獲物とするモンスターも、一角兎の数が増えるのに従って増えたことも知った。
その中の一つが今回大問題を引き起こした大蟻だ。
この事態をこの地域を管理する領主様たちの立場で考えると、スライムの数が減ることは良いことらしい。
まず第一に増え過ぎた時に、スライム討伐を冒険者に頼む必要がなくなり、それに掛かる費用がなくなる。
それ以上に、耕作地を広げるのに一番問題になるのはスライムなので、スライムの数が減れば領内の耕作地を増やすのが簡単になる。
これはもう僕らの村では始まっている。
そして一角兎が増えるということは、冒険者が楽に生活出来ることになり、住民が安く肉を入手出来ることとなる。
ここまでは良いことなのだが、悪いこととして平原狼や大猪が増えるという問題があり、その最たるモノが大蟻という訳だ。
大蟻の討伐の危険はもちろんだけど、掛かる費用の負担もスライムとは比べられない大きな負担となってしまう。
「もっと大蟻の巣が小さいうちに対処できれば良かったのだが、今回は完全に後手に回ってしまった。
あれだけの大きさになっていると、もうすでに幾つか巣分かれしている可能性がとても高いんだ。
その一つ一つの対処に今回のように冒険者を集めていたら、とてもではないが財政が破綻する、というよりもう今現在金がない。
そこで今回、現実的には単独で大蟻の巣を掃討したお前たちに、今後大蟻が発見されたら、即座に今回のように巣ごとの掃討を依頼することに決めた訳だ。
どうやら巣を掃討するのは危険ではないようだしな。
といって、その掃討の仕方を知ったからといって、他の者が簡単に出来るわけでもない。
儂にだって出来ん。
お前らみたいに生活魔法を全部しっかりと練習している冒険者なんて他には見たことないからな。
その上全員治癒魔法も使うのだから、安心してもいられるということだ。
良い考えだろ」
良い考えというか、僕たちは領主様にこき使われるということだな、これは。
「あ、それから俺の領内には、お前たちの村以外にあと3つ村があることは知っているな。
その村にも孤児院はあって、お前たちの所や、この町のと同様の問題を抱えている。
そこでこの町の孤児院に対処したみたいに、他の村の孤児院にも同様に対処してもらいたい。
この件はもうお前たちのところのシスター、カトリーヌにも話してある。
そっちも頼むぞ」




