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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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モグラ狩り

 ウォルフとウィリーは卒院し、領主様の館で衛士として働くことになったのだが、僕も自分では予期していなかったのだが、町の学校を卒業ということになってしまった。

 町の学校で教えられることはない、という判断が教師からなされて、大きく飛び越しての卒業となった。

 元々、入学した時から学校で教える多くの割合を占めている読み書きと計算は、もう町の学校以上のレベルで出来ていて、授業を受けること自体が免除になっていたし、それによって空いた時間を学校にある本を読んでの時間に当てたので、それ以外の学校で教わる地理・歴史などといった知識ももう十分に身につけてしまっていた。


 まあ、その点に関してはルーミエも僕とそうは変わらない状況にあるのだけど、フランソワちゃんが卒業するまでにはまだ1年あるので、ルーミエはそれに付き添う形となった。

 来年フランソワちゃんが卒業する時には、ルーミエも一緒に飛び級で卒業になるだろう。


 学校が卒業となったことで、僕がフランソワちゃんと町に行くことはお終いになるのかなと考えたのだが、そういう事にははならず、相変わらず僕も週3日フランソワちゃんとルーミエと一緒に村から町に通っている。

 町に通って来て何をしているかというと、領主様の直属の政務官見習いとして働くことにいつの間にかなってしまっていた。

 政務官見習いというと聞こえは良いのだけど、実際のところは領主様が治める領内から上がってくる様々なことの数字の計算係だ。

 まあ領政と言うととても凄いことのような気がするけど、実際のところは予算だとか経費だとか、数字が飛び交うことが主な仕事な訳で、僕の計算能力の高さを知った領主様の側近の1人が、スカウトして来たらしい。

 いや、どうやらその人が学校側に働きかけて、僕を卒業させたらしい。


 という訳で、僕は週に3日領主館で働くことになったのだが、色々な数字の計算が求められるのなんて、忙しい時期と暇な時期に大きな差があって、忙しい時は孤児院に帰ることも出来ない程忙しくて、暇な時は何もこれといってすることのない日が続いたりもする。

 それでも僕の計算能力で忙しい時は以前よりもずっと楽になったらしいのだが、僕には良く分からない。

 そして忙しい時の負担が軽減化したからか、暇な時には僕は領主様にくっ付いて歩くようになった。

 領主様が僕を可愛がって、側に置いてくれたのである。


 僕とウォルフとウィリーが領主館にいることが多くなったこともあり、ルーミエ、フランソワちゃん、マーガレットも領主館に来ることが多くなった。

 フランソワちゃんも、学校で読み書き・計算を教わるだけでなく、学校がない日は孤児院で逆に教える側に回ったりする日々を送るうちに、読み書き・計算は学校で教わるレベルはマスターしてしまい、ルーミエと共にそれらの授業は免除されたこともある。


 「だって、学校で教わる内容よりも、孤児院でナリートやルーミエがみんなに教えていることの方が、難しいことを教えているじゃない。

  そこは私が教える担当じゃないけど、教えている私が、読み書き・計算がみんなより解らないのでは示しがつかないもの、それは少しは頑張って覚えるわよ」


 フランソワちゃんは最初の印象とはちょっと違っていて、実際はかなりの努力家だったようだ。

 それに焦ったのがマーガレットで、仲が良くなったルーミエとフランソワちゃんまでが読み書きと計算の授業が免除になったのに自分だけがそうはならず、取り残されたような気分になったらしくて、今は2人に教わって懸命に追いつこうとしているようだ。

 もうすぐマーガレットも2人に追いついて、読み書きと計算の学校の授業は免除してもらえるようになるかもしれない。 それをマーガレットも目指している訳だが。



 ウォルフとウィリーの代わりに狩りに行くようになったのが、新たに年長組になった子たちから選ばれたのには理由がある。

 ぶっちゃけてしまうと、年長組の中から狩りに行くことに積極的になる者がいなかったからだ。


 年長組は、スライムに襲われた時の当事者であって、その時に勇気を出してスライムに立ち向かったのが、ジャン、ウィリー、ウォルフの3人だ。

 そしてその3人はその時に他の者に先駆けてレベルが上がり、僕と共に狩りに行くようになったのだが、襲われて逃げただけの者は、中にはもちろんスライムの酸を浴びて怪我をした者もいたけど、その怪我も3人から比べると大したことはなかったのだけど、怪我をしないで逃げることが出来た者と共に、強く怖さばかりが心に刻み込まれてしまった様なのだ。


 騒ぎの後、みんなで川に行くようになり、スライムの罠をみんなで作って、レベルが上がり、また罠に餌を仕掛ける為に危険なく近くでスライムを見ることが出来るようになっても、その恐怖心は消えないようだった。

 だからスライムよりも手強い一角兎を狩ることに自分も加わるというのは考えられないらしい。


 ということで、新たに狩りに加わったのは、新しく年長組に入って来た子の中から選ばれたのだけど、もちろんそのまますぐに冒険者になれる訳もない。

 ウォルフとウィリーたちが卒院し、新しい年長組が入ってきた時に、スライムの罠は一度全部作り直した。 新たに入って来た子たちにも経験値が入ってレベルが上がるようにする為だ。

 でも、狩りに加わる子2人には、それだけではなく竹槍を自分で作らせて、それを使う訓練をウォルフの指導でして、スライムの討伐もさせた。

 別にスライムの討伐をわざわざしなくても、スライムの罠で入る経験値でレベル2にはすぐに、そしてレベル3にはそんなに待たずになれるので、わざわざスライムの討伐を竹槍で危険を冒してする必要はない気もするのだけど、特例として年少でも冒険者として登録してもらうために領主様に見てもらう時に、「スライム討伐者」という[称号]がないのは駄目だろうと考えたからだ。

 それに魔物を討伐する方法を覚えるだけでなく、その怖さも覚えないといけないとも思うからだ。


 それから2人には弓の練習もしてもらった。

 こっちはエレナが弓を作るところから2人に教えた。


 2人は槍と弓を使って戦うことをまず覚えてもらう。

 2人は抜けたウォルフとウィリーのように、[職業]が何かの武器の上達を促すだろうということはない本当の村人だったから、その2つのレベルを努力で上げてもらいたい。

 ちゃんと練習すれば、誰でもそのレベルが上がることは、自分で試してみて分かっているし、領主様というすごい例もあるのだから。


 そうして、狩りの主目的の一角兎も一緒に狩りに行くまでに、少し時間はかかったけど漕ぎ着けた。

 僕たちは2匹でいる兎を狙った。

 1匹はエレナの矢でほぼ確実に仕留められるが、もう1匹はきっと駄目だろう。

 仕留め損なった1匹が向かって来るのを僕が防御して押さえ込み、新人に止めを刺させて効率良く新人のレベル上げもする。

 僕だけではなく、ジャンも今回は盾役だ。 あまり考えられないけど、エレナが仕留め損なう可能性を考えてのことだ。

 効率良くとは言っても、盾を使った兎狩りでは盾を使っている方にも経験値は入るので、レベル2の兎だとその経験値は半々になって、止めを刺した新人には 1 の経験値しか入らない。

 これではスライムを討伐させたのと同じことなのだけど、こっちの方が安全だし、肉などの他の物が得られるので、この方法で新人のレベル上げをしたのだ。

 それでも目標のレベル5になるにはレベル3からだとしても 36 の経験値が必要なので、2人をレベル5にするまでには少し時間が掛かった。


 ようやく領主様に一筆書いてもらって、新人にも組合から登録証を出してもらうとエレナが言った。

 「何だか木の登録証は懐かしいわね。

  私たちも、それを得たのも銅の登録証に代わったのも、ほんの少しだけ前のことというだけだけど、何だか懐かしいわ」


 登録証をもらって大喜びしている2人を見ていると、僕も何だかそんな気持ちになった。


 「お前たちも先輩冒険者だな」

 「何言ってんだ、こいつらより後に冒険者になった者は他にももういるじゃないか」


 組合のロビーにいた他の冒険者の人がそんなことを僕らに話しかけて来た。

 きっと彼らも僕たちが登録した時のことを懐かしく思い出していたのだと思う。

 ジャンが言った。


 「ほら、お前たち2人、先輩冒険者のみなさんに挨拶しろ」

 「「よ、よろしくお願いします」」



 僕たちは今まで冒険者組合に所属して冒険者証をもらっていたが、冒険者になったからといって組合に張り出されている依頼を受けるということはなかった。

 専ら自分たちの都合で狩っていた一角兎の自分たちでは不必要な部分や、消費しきれない分を引き取ってもらったり、冒険者としての割引を利用しているだけだった。

 しかし、新人が2人入った今は、孤児院の食卓が肉不足にならない範囲でだけど、組合に張り出された依頼も受けることにした。

 一つには最近、僕たちが依頼を受けることが最適な依頼が、組合に度々張り出されるからでもある。


 その依頼というのは、モグラ退治である。

 村では、フランソワちゃんの頑張りで、雑草や落ち葉と排泄物を混ぜた堆肥を畑に入れるようになって、排泄物をそのまま肥料として入れていた時と比べると、寄生虫の問題を克服出来ただけでなく、収穫量も増えた。

 土の中の有機物が増えたからだろうが、土に住むミミズも増えたことも、収穫量を増やしているのかもしれない。

 しかし、ミミズが増えるとそれを主な食料としている生物も増えることになる。 そうモグラだ。

 モグラはミミズを食べるだけなら良いのだが、穴を掘り、畑を荒らしてしまうのだ。

 その害が無視できないものとなり、モグラ退治となるのだが、モグラの退治はなかなか難しい。

 そして自分たちでの退治を諦めた人が、冒険者組合にモグラ退治の依頼を出すのだ。


 何故冒険者にモグラ退治の依頼が出されるかというと、冒険者はその仕事柄、その多くが索敵の[項目]を持っていて、そのレベルも上がっている。

 そういう冒険者は地中のどこにモグラが存在しているかを察知することが出来て、モグラ退治に大いに役立つのである。

 その能力を当てにして、モグラに困って自分ではどうしようもなくなった農民は、冒険者組合に依頼を出すという訳だ。


 とは言っても、モグラ退治の依頼は冒険者に人気がない。

 まず第一に、単なる農民の依頼であるから当然なのだが、依頼料が安い。

 それに魔物でもないモグラを狩っても、経験値が入らない。

 冒険者は経験値が僕の様に見えている訳ではないので、なんとなく経験的にそう思い込んでいるみたいだけど、実際には川の魚と同じように、モグラを狩ることでも経験値は入っている。 ただその値が小さいだけだ。

 その上、狩ったモグラは、一角兎のように肉として売れる訳でもない。

 それならば、最近竹の盾を使うという狩り方が一般化して、以前よりも比較的安全に狩れる様になった一角兎を狩る方が良い、と考える冒険者がほとんどなのは仕方ないだろう。


 組合では、モグラ退治の依頼を受けることは組合への貢献度が高いと評価する、といった優遇策を講じたり、個別に受けることを頼んだりもしたのだが、やはりこの依頼を受ける冒険者が増えないのは仕方ないと考えているようだ。 ま、そうだよね。

 僕たちは、そのモグラ退治の依頼をなるべく受けることにしているのだ。


 なんで僕たちがモグラ退治の依頼を受けることにしているかには、いくつかの理由がある。

 まず第一にフランソワちゃんが頑張って広げた農法を、モグラなんかに邪魔されたくないという気持ちがある。

 でもそんなことよりも、モグラ退治の依頼を引き受けるのは、大きな目的がある。

 僕以外のメンバーの索敵能力の強化のための練習だ。


 ウォルフとウィリーが卒院で抜けたことで、僕たちの狩りは大きな戦力ダウンになってしまって、人を増やすことになったのだが、もう一つのことに僕は気付かざるえなかった。

 それは僕自身も将来的にはと言うか、すぐに卒院の日を迎えることになるということだ。

 今現在、狩りから僕が抜けると、狩りが成り立たない。

 それは何故かというと、狙う一角兎を発見したり、どの集団を狙うかなどを決めたりするのは僕だけだからだ。

 それは僕が自分の能力である[空間認識]と[索敵]で誰よりも速く、広範囲を、詳しく認識できるからである。


 [空間認識]というのは、僕だけの特別なのか、珍しい[項目]なのか、今のところ僕は自分以外でその[項目]を持っている人を見たことがない。

 レベルが上がっている今は、その気になれば地上なら自分を中心にして半径50m位を感じようと意識すれば、対象に考えたものを感知することが出来る。 地中などとなると、そこまで広範囲には分からないけど。

 [索敵]は僕の場合、使えている自覚はあるのだけど、僕の場合は[空間認識]の陰に隠れてしまっていて良く分からないのだが、こっちは多くの人が持っている項目で、外で魔物を警戒する必要がある人は、必ずと言って良い程持っている[項目]だ。


 今現在、索敵というか、スライムや一角兎を発見するのが素早いのは、僕を除けばルーミエが一番だ。

 だが以前はウォルフとウィリーの方が早かった。 そしてジャンも早くてルーミエと大差はない。


 「ナリートは別格だけど、どうしてルーミエも素早く見つけるの?」

 エレナがそんなふうに聞いてきた。


 「それはルーミエやジャンだけじゃなく、僕も同じだけど、前はもっとスライムを見つけることに必死だったからな。

  エレナが外に出だした時は、もう罠があって、スライムが少なくなっていたし、経験値も最初はスライムの罠で得ることが出来た。

  僕たちより上の男の子は、スライムがまだ多い時に柴刈りに林に入っていたから、スライムの気配にいつも気を配っていたんだ。

  僕は単独だったから余計に気を配る必要が常にあったんだ。

  僕とルーミエは、経験値を得るのに、最初の頃は今年の新人にもやってもらった槍でスライムを突くしか方法がなかったから、その為にも都合の良いスライムを見つける必要があった。

  つまり僕も含めて、常に訓練していたんだよ。

  エレナはそういう経験がないだろ。

  だから安全なモグラ退治で、その練習をしようという訳さ」


 「それでモグラ退治の依頼を受けたの?」


 「うん、それが一番大きな理由かな。

  モグラは地面の中だから、目に見えないから索敵が難しいから、良い訓練になるはずさ。

  ちなみに今回のこの畑には、11匹のモグラがいるから、その場所を見つけ出して刺してくれ」


 「ナリート、11匹いるの? 僕には7匹しか感じられないけど」


 「うんジャン、大きいのが7匹と、子どもなのかな、小さいのが4匹いるんだ」


 エレナや新人2人は最初は全く土の中のモグラ気配を感じることが出来なかったが、回数を重ねると、ちゃんと気配を感じ取れるようになった。

 すると村の外では、今までよりずっと多くの一角兎やスライムの気配を感じ取れる様になった。

 うん、訓練は成功だね。


 そして僕らは組合にちょっとだけ貢献することが出来た。

 組合でも、モグラ退治なら依頼を僕らに出しても危険がないので、都合も良かったのだろうと思う。


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