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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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称号を見るということ

 シスターのレベルだけなら、領主様は見習いシスターから正式なシスターになった時のことを聞いて知っていた可能性はあるけど、僕とルーミエの[全体レベル]もしっかりと言い当てているから、領主様が見えるというのは確かなことだろう。


 「領主様、凄い。

  領主様ってレベルが36なんですね。 そんな数字初めて見ました」


 「これは驚いた。

  ルーミエは儂のレベルが見えるのか。

  普通は下のレベルの者は、上のレベルの者は見えないのだが。

  ということは、ナリート、お前も儂のことが見えているのか?」


 「いえ、僕には全く見えません。

  ルーミエは特別で、レベルに関係無く、誰でも見えるんです。

  レベルが1になっていない、つまり7歳以下の子でも見えるんです」


 「でも、あたしは[全体レベル]と[体力]と[健康]の項目しか見れないよ。

  ナリートみたいに全部見える訳じゃない」


 「ほほう。 ルーミエはその3項目はレベルに関係なく見えて、ナリートは自分以下のレベルだと全ての項目が見えるのか」


 「いえ、全ての項目なのかどうかは分かりません。

  ただ、ルーミエよりは見える項目が多いというだけで。

  そもそもどれだけが全てなのか僕には分かりませんから、見えない項目もあるかもしれませんし。

  領主様、先ほど『普通は』と言われていましたが、ルーミエ以外にもレベルに関係なく見える人っているのですか?」


 「ああ、いるぞ。

  昔はルーミエの聖女と同一視されたり、その一種と思われていたのだが、神子という特別な職業がある。

  聖女と同じように珍しい職業だが、その職業の者は見ることに関しては凄くて、レベルに関係なく、それこそ全て見える」


 そんな職業もあるのか、と僕は思った。


 「神子という職業は知らなかった様だな。

  [職業]には知られていない職業がたくさんある。

  どういう職業だか、よく分かっていない職業も多くてな、そういう職業の場合、7歳の時にそれを見た神父は、その何だか分かっていない職業の名前を教えず、無難な村人や農民と教えることが多いのだ。

  ナリートの場合はこれだな。

  ルーミエの聖女は知られている職業だが、特別な職業故、騒がれることを避けようとしたということか」


 「はい、私もそのように推察しました」


 シスターが答えた。


 「あの、質問させていただいてもいいですか?」


 「ん、なんだ?」


 「あの、領主様は自分の[職業]は村人だと仰られていましたが、僕の友達にも村人は何人もいますが、誰も見えるという話はしたことがありません。

  それなのに領主様はなんで見えるのですか?

  それとどのくらいというか、何が見えているのですか? [全体レベル]が見えているのは分かりましたけど」


 「そうだな、教えてあげよう。

  見える見えないというのは、一般的には[職業]によって決まっていると思われているのだが、確かにその傾向は強いのだが、それだけではない。

  それに見えるというか、一部が見える[職業]はかなり色々あることが分かっている。

  儂はナリートの罠師という[職業]が少なくともかなり色々と良く見えるということを今日初めて知ったしな。

  儂の場合は、そういったことではなく、立場から見ることが出来るようになったということだな。

  考えてみなさい、冒険者になる者は儂も含めてだが単なる村人や農民も多い。

  でも冒険者の中には、ヒールを上手に使える者はたくさんいるだろ。

  そもそも種火を付けたりの小さな魔法は、村人や農民にも使える者がたくさんいる。

  それと同じように、見ることもそれが必要で、常にそれを意識して過ごすことが多ければ、魔法のように覚えることもできるのだよ。

  ま、これは儂の実体験というだけの話だがな」


 僕はちょっと目から鱗だった。

 シスターやルーミエがヒールやイクストラクトを上手に使えるのは、[職業]を考えると絶対にそうなるはずだと思っていた。

 だから町の孤児院のシスターの1人がイクストラクトで寄生虫の除去が出来るようになったと聞いても、マーガレットがとても簡単にヒールが使えるようになっても、当然だと思っていた。

 でも考えてみたら、槍士のジャンも[魔力]の項目が出来て、ヒールが出来るようになっていたし、僕が初めてヒールをかけてもらったのは冒険者だった。

 そうか、職業で完全に決まっている訳ではないんだ。


 「儂の場合はな、考えてもいなかったのだが、単なる冒険者だったのに、その実績を認められて、男爵なんてモノになってしまい、この地方を治めることになってしまった。

  そうしたら、どうしてもたくさんの人を、こいつはどんな奴なんだと、冒険者時代よりも余程注意深く観察しなければならなくなったんだ。

  そういう日常を暮らしていて、暫くしたら、ふと見えることに気がついたのさ。

  ただし、ナリートの質問に答えれば、儂の見えることは多くはない。

  儂が見えるのは、たったの2項目だけだ。

  一つは分かっているとおり、[全体レベル]だな。

  そしてもう一つは、[称号]だ。

  [称号]を注意して見てみると、色々なことが推察できるという訳さ。

  ナリートがそれだけのレベルになった理由は、スライムのおかげだろうと考えたのも、それによる。

  何しろお前の[称号]にはスライムの天敵なんて変なのがあるからな。

  ルーミエの聖女に納得したのも、同じことだ」


 僕は自分のことだけでなく、ルーミエなど他人のことを見ても、[称号]はほとんど見ていなかった。

 見えることが分かって最初の頃は、称号が増えたり変わったりするのを興味深く見ていたのだけど、そのうち数が増えたり、称号を見ても何か変わることがある訳でもないので、注意を払わなくなってしまっていたのだ。

 そうか、注意深く[称号]を見ると、色々なことを推理することが出来るのか。


 「さて、今日お前たちをここに招いた目的の一つは大体達成した。

  次の目的に掛かろうか」


 どうやら領主様が僕たち3人を呼んだ理由の一つは、僕たちのことをゆっくりと観察というか、見定めることにあったらしい。

 フランソワちゃんとマーガレットも含めて、最近少し目立っていたのかもしれない。


 「次の目的というか、今まではおまけみたいなモノでこっちが本命だ。

  お前たちの知恵というか意見もじっくりと聞かせてくれ」


 領主様はシスターにならまだ分かるけど、僕とルーミエに対してまで、自由に思うこと、気づいたことを言ってくれと助言を求めてきた。

 何をかというと決まっている、孤児院だけでなく町の人からも寄生虫の害を取り除くにはどうしたら良いか、ということだった。


 話し合いの中で、イクストラクトで除去するのは、それを使える人数が少なくて無理だから、駆虫薬の使用を主に考えること。

 孤児院では、主にルーミエがだけど、見て寄生虫に冒されている人を選別して対処していたが、町の人にそれは出来ないこと。

 寄生虫に冒されている人は、その様子から見れなくても見当が付くので、そういう人に積極的に対処すれば良いこと。

 駆虫薬の効き目が広く知られるようになると、疑わしさを感じている人が自分から求めようとしてくれること。

 それだけでなく、今までの農法を孤児院で見せたように変えないと、駆除が続かず何度も再発を繰り返してしまうこと。

 そんなことを村の孤児院や、フランソワちゃんも加わっての村での経験を僕たちは領主様に伝えた。


 途中からは領主様は書記係を呼んで、僕たちの話すことを紙に記録していった。



 その日は、それからはそういった寄生虫をどうやって駆除するかの話が、領主様以外の人たちも加わって続いて行き、だんだん子どもの僕とルーミエは、それらの話がなされる部屋の隅に移動して、ただ聞いているだけになった。

 途中からはシスターも同じような感じだ。


 その日、領主様の元を去る時になって、領主様は僕とルーミエに言った。

 「今日は、少し領主としての仕事の部分もあって、寄生虫の話がメインになってしまったが、儂はまだまだお前たち2人には聞きたいことがある。

  それに儂はお前たち2人が気に入ったからな、これからは月に一度はこうやって儂と話をする機会を設けよう。

  そうだな、その時には2人に美味い昼飯を食わせてやろう。

  それならば、お前ら2人もここに来る意味があるだろ」


 僕もルーミエも領主様の言葉に感情を顔に出したつもりはない。

 いや、ルーミエはちょっと驚きの表情をしたかも知れない。

 でも領主様は僕らが消した表情の裏をしっかり読み取ったようだ。

 えっ、嫌だよ、領主様と話すのなんて緊張するだけで嬉しくない、という気持ちを。

 美味しいご飯という言葉に、僕もちょっと心が惹かれてしまったのだけど、ルーミエはもっと露骨に興味を示してしまった。


 「そうだぞ、ルーミエ、楽しみにしていて構わないからな」

 領主様は笑顔でそう言った。


 僕とルーミエは、月に一度領主様に会うことが決定したようだ。



 それから本当に休みの日に月に一度領主様と会うことになったのだが、領主様という地位はなかなか忙しいらしくて、会って話している時間はその時によってまちまちで、領主様も休みの日ということになっているらしいのだけど、短い時は一緒に昼食を取っている間だけのこともあれば、かなり長く時間を共にすることもあった。

 話す内容も、最初は僕たちがレベルが上がった理由だとかを詳しく聞かれたりしたのだけど、それが一段落すると、だんだん本当に単なるおしゃべりになっていった。

 僕たちにとって、元冒険者だという領主様の話は色々と面白くて、聞くのが楽しいし、色々と僕らに取ってはためになる話だったので、とても有益な時間だったのだけど、領主様にとっては僕らとの時間は有益だったのだろうか。


 領主様とのおしゃべりのお陰と言って良いのか分からないが、町でも僕はスライムの罠を作ることになった。

 町は僕らの住んでいる村とは違って、川からの距離があるからか、町の周りに一角兎は多いが、スライムは少ないらしい。

 スライムは水に入ることが出来なくて、まともに水の中に入るとその姿を維持出来ないようなのだが、それでいて水のあるところに多く生息する。

 そんな訳で町の周りはスライムは少ないのだが、それでも居ない訳ではなく、厄介なことに町の近くに残っている少ない林の中には生息している。

 林の中には小さいけど泉があり、それを水源とする池もあるということなので、それがきっと関係しているのだろう。


 そんな感じでスライムの数は村の周りからするととても少ないのだが、それでも何年かに一度はスライムの数が増え過ぎ、ギルドの特別なクエストとしてスライム狩りが行われるとのことだ。

 つまり町として、ということは町の公金がその報酬として使われる訳である。

 領主様にしてみると、スライムの罠を僕が作って、常時スライムを狩っていれば、スライム狩りの特別クエストを出さずに済んで、かなりの節約になるのだ。


 「でも、罠を作るには、村から竹を運んで来なければならないんですよ」


 「分かっている。 その手間賃くらいはちゃんとお前たちに払ってやろうじゃないか。それならやる気が出るだろ」


 町の冒険者にスライムはとても嫌われているし、特別クエストになった時の報酬は村より高いらしい。

 それはどうしてかというと、堆肥作り用の小屋を作る時にも村から竹を運んだことでも分かるかも知れないが、町の周りには太い竹の林がないからである。

 町の周りには、矢の軸にする細い竹はあるけど、スライム狩りに竹槍として使う太さの竹はなく、みんな他所から運んで来なければならない。

 それもあって、町の冒険者は決してスライムには普段は近づかず、レベル1のモンスターであっても、新米冒険者でさえ狩ろうとはしないのだ。


 僕が領主様からスライムの罠の設置を引き受けたのは、一つには報酬が出るからなのだけど、もう一つの理由としては、町の孤児院の子たちも少しレベルが上がれば良いなと思ったからだ。

 村の方の罠もだけど、孤児院の子たちに僕が罠を作らせれば、その子たちには少しづつだけど経験値が入るようになる。

 [全体レベル]が 1 から 2 になるのに必要な経験値はたったの 1 だし、3 になるのに必要な経験値も 3 でしかない。

 罠に掛かって狩ることによって得られる特別な経験値の半分だけで、それも作るのを手伝った人数で等分されるから、1匹のスライムが狩れただけでは大した経験値にはならないが、危険がほとんどなくて、毎日勝手に入ってくるのはとても美味しい。

 餌を仕掛ける時だけは、危険があるのだけど、それも気をつければ孤児院の子どもでもどうにかなる範囲だ。


 僕は竹を運ぶのはまたフランソワちゃんの御者さんにお願いして、スライムが出るという林の中の池の周りにいくつかの罠を、町の孤児院の子たちと一緒に作った。

 町では、周りに需要を賄えるだけの森や林がなくて、煮炊きなどに使う薪は周辺の村から手に入れているのだけど、孤児院では村と一緒で金銭的な問題もあって、孤児たちがこの林で柴刈りをしている。

 ここら辺の事情は村と変わらない。

 だから逆に餌を毎日仕掛けることも出来ることとなり、目論見通り、町の孤児院の子たちも次々とレベル3にまでは上がる子が出てきた。

 村の孤児院の時と一緒で、レベル2に上がる時に熱を出して寝込む子が続出して、ちょっとの間驚いたようだけど、すぐに落ち着いた。


 僕は町でもスライムの罠を設置したからだろうか、毎日得られる経験値が何だかまた増えた。

 そうそう、得られる経験値が増えた理由がまだ有った。

 獲った兎を冒険者組合で売ることが出来るようになったので、以前よりも狩る数を増やしたので、そのせいもあるのだが、もう一つの理由を僕は領主様と話していて気がついた。

 というか、領主様に馬鹿にされたんだけどね。


 「なんだナリート、お前は一角兎はみんなレベル2だと思っていたのか。

  一角兎でレベルが 2 なのは角の小さいやつだけだぞ。

  少し角の大きいのはレベル3、長い角で狩る時に注意しなければならないのはレベル4だぞ」


 一角兎の角の長さは個体によって差があり、長い角の一角兎を狩る時には、竹の盾を突き破ってこちら側に出てくる角が長いので気をつけているのだけど、その長さによってレベルに違いがあることに僕は気づいていなかった。

 前にレベル2のスライムを初めて討伐した時は、経験値の違いですぐに気が付いたのだけど、今はたくさんの経験値が毎日入ってくるから、それに紛れてしまってその違いに気がつかなかったのだ。

 角の長い兎は、肉を売るようになって、その角も売れることを知り、長い方がもちろん高値で売れるので、僕らは長いのがいると、ちょっと危険を感じながらも喜んでいたけど、レベルも違っていたんだ。


 それを知って、それを意識したら、僕が[空間認識]と[索敵]で一角兎を探した時に、そのレベルの違いもなんとなく認識できることに気がついた。


 もしかすると勝手にどんどん上がっていく[空間認識]とは違って、今のところ困っていないから残ポイントを使って上げることはしていない[索敵]だけど、次のレベルup時には上がっているような気がする。


 レベル9からレベル10に上がるのに必要な経験値は6561という大きな数字なので、当分先のことになるだろうなと思っていたのだけど、気が付けばもうすぐになっていた。

 それにしても領主様のレベル36って、とんでもない数字だな。


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― 新着の感想 ―
ここまでの法則ではレベルアップに必要な経験値が3^(x-2)のため、36レベルに上がるために必要な経験値は3^34=16,677,181,699,666,569≒1京6700兆くらいですね。領主様パネ…
[良い点] 面白いです! [気になる点] ナリート君の思考を地の文に落とし込むか、或いは、思考を()独り言を「」などで使い分けて頂けると、より見やすくなるかなぁと思いました。 初期のくらいのナリー…
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