フランソワちゃん覚醒?
フランソワちゃんは僕たちの孤児院に来た時に、ルーミエにイクストラクトをかけてもらって、体内の寄生虫を除去した。
その時に、除去された寄生虫を見たフランソワちゃんは、その気持ち悪さに大きなショックを受けていた。
「こんなモノが、私のお腹の中にいた訳。
2度とこんなモノがお腹にいない様にしなくちゃ」
「そのためには、少しの間定期的に駆虫薬を飲まないとダメなんだよ。
駆虫薬はシスターに言えば貰えると思うから、苦くて飲むのが大変だけど、フランソワちゃん、頑張って飲んでね。
でも、フランソワちゃんにもいたということは、フランソワちゃんが食べている物を作っている所も、以前のここと同じように、問題があるかも知れないよね」
ルーミエは、最初の方はショックを受けているフランソワちゃんに向かって話をしていたけど、最後の方は僕に質問してきた感じだ。
「うん、きっとフランソワちゃんが食べている野菜を作っている所でも、昔のここと同じように、排泄物をそのまま畑に撒いて、肥料にしているのだと思う。
それをやっていると、今現在の町の孤児院と同じように、寄生虫の撲滅は出来ないと思う」
「ナリート、つまりウチの小作の所でも、ここと同じような畑のやり方をしないと、また私のお腹の中にあの気持ちの悪い虫がいる様になってしまうということ?」
フランソワちゃんがとても真剣な表情で僕に聞いてきた。
「うん、そういうこと」
「ここの畑のやり方というか、つまりあの堆肥を作る方法よね。
大体のやり方しか、私は知らないから、詳しく教えて」
フランソワちゃんは、とても真剣に僕たちから堆肥作りの方法を教わって、一度で完全に覚えた。
まあ、そんなに難しいことをしている訳ではないから、真剣に覚えようと思えば誰でも一度で覚えられると思うけど。
村長さんの家では、村長さん自身や家族が畑で自分たちが働くことはなく、村長さんが雇っている小作の人が畑で働いていた。
村長さんの家の畑は、この村全体の1/3を占めるほどの広さだし、場所も良い所にあり、そこで働いている人の人数も多い。
そして畑のことは、働いている人たちに完全に任せてしまっていて、村長さん自身が何かを指示することはなかった。
そこにフランソワちゃんが乗り込んで、畑の運営の仕方を強制的に変えようとしたのだ。
最初はお嬢様の我儘というかお遊びだと思って、軽く相手していた小作の人たちだったが、フランソワちゃんが本気で改革するつもりであることが分かると、当然大きな反発が起こった。
雑草が朽ちると、そこは草が良く生えることは、多くの人に知られていた。
それは村の周りはスライムや一角兎が近づくことを避けるために、かなりの幅で完全に除草されるのだが、その抜いた草を少し離れた所に溜めておくと、後にその場は逆に雑草が威勢よく茂ることが分かっているからだ。
雑草が良く茂るのなら、そこの雑草が朽ちて出来た土を肥料にすれば良いという発想にならないのは、その雑草がたくさん芽を出してしまうからだ。
植えた作物の苗よりも、雑草の繁殖力が強くて、雑草相手の苦闘をしなければならないのでは、働き手としてはたまったものではないからだ。
僕たちがやっている堆肥作りの重要なところは、雨を避けたり、周りを覆ったりすることで、作っている堆肥が湯気が出るまで高温になるようにしていることである。
それによって、排泄物に含まれている寄生虫の卵を殺しているだけでなく、刈った草を完全に枯らしているだけでなく、その種子も高温に晒して、煮てしまったのと同じにして発芽しないようにしているのだ。
切り返しなんかもして全体がしっかりと同じ状態になる様にも気をつけ、そうして熱を持つ状態が終わって冷めたモノを、僕たちは畑に撒いているのだ。
そういう理屈を、僕はフランソワちゃんとマーガレットに、実際の作業の進め方を体験させるだけでなく、教えてもいるのだ。
フランソワちゃんの畑の運営改革は、働いている人たちの抵抗で最初はなかなか進まなかった。
でもフランソワちゃんは、ちゃんと強力な援軍を作って、それを見事に解決した。
何をしたかというと、父の村長さんと、その妻つまり母親をフランソワちゃんは僕らの孤児院に連れてきて、シスターに寄生虫の駆除をお願いしたのだ。
「私に寄生虫がいたのだから、お父様とお母様にもいる可能性が高いと思うのです。
ですから、シスターにぜひ確かめてもらってください」
フランソワちゃんから、あらかじめ話を聞いていたシスターは、その場にルーミエを同席させて、村長さんと奥さんにも寄生虫がいることを確認すると、2人にイクストラクトの魔法をかけて、寄生虫を除去した。
自分の体内から除去された寄生虫を実際に見て、ショックを受けている2人に、シスターは孤児院での寄生虫退治の苦労を語った。
村長さんと奥さんはこの経験により、フランソワちゃんの畑の運営改革を熱心に後押しする様になった。
それだけでなく、シスターは小作として雇っている人たちも、きっと寄生虫に冒されていると注意したので、村長さんはそれらの人も順番にシスターのもとを訪れさせるようにした。
これによって、村長さんの雇う小作の人たちも寄生虫の問題をしっかり認識するようになり、フランソワちゃんは改革を進めることが出来る様になった。
それと共に、村長さん夫婦や、小作の人の寄生虫退治で、シスターはイクストラクトを掛けた時の謝礼と、駆除薬を渡すときの謝礼で、かなりの金銭的な恩恵も得られて、孤児院には金銭的な余裕が生まれもした。
どちらにとっても有益なことになったよね。
村では、僕たちが孤児院で新しいことを始めていても、それを誰も注目しないで、僕たちだけが刈った草と排泄物で堆肥を作るという作業をしていたのだけど、村長さんの畑でフランソワちゃんが主導して同じことを始めると、俄然その農法は注目を集めることになった。
注目を集める様になるとすぐに、今までよりも作物の収穫量も質も上がることが知られるようになった。
それから後は村中の農家が新しい農法に取り組むようになった。
そして、刈った草と排泄物で堆肥を作るという農法は、この孤児院で始めたことだから、ちょっと悔しい気もするのだけど、「フランソワ様の新農法」と呼ばれる様になり、フランソワちゃんは学校に行かない日は、そこら中から指導を願われる事態となった。
まあフランソワちゃん自身は「フランソワ様の新農法」という呼び方は凄く嫌がって、常に孤児院で始めた農法と言ってくれていたのだけど、広がってしまった呼び方は直ることはなかった。
でも、フランソワちゃんは、元々その農法を始めた理由ももちろん詳しく説明したので、村全体で寄生虫の駆除に取り組む形となり、シスターは大忙しになってしまったのだけど、おかげで孤児院はとても潤って、懸案だった建物の修理まで出来たのだから、呼び名が「フランソワ様の新農法」でも、ちっとも構わないと思ってしまった。
この新しい農法を村全体が行うようになって、今までの習慣が少し変化した。
村の周辺の草は今まではなるべく生えないように、根から抜くのが当たり前のことだったのだが、以前とは違い刈った草を堆肥に使うので、より大量に刈った草が必要になった。
そのため、根から抜いてしまうと、草を刈る場所がどんどん村から離れた場所になってしまう問題が出て、ある程度村から離れた所からは、草は根を抜かず葉を刈るだけになったのだった。
また草の多い場所に行けば、スライムは最近は減っているのだけど、逆に兎は増えていて、村人が一角兎と遭遇することが頻発するようになった。
そのため冒険者にはたくさんの一角兎の駆除依頼がなされるようになり、冒険者にとっては美味しい状況になった。
依頼がなくとも一角兎を狩れば、その肉・毛皮・角は売れるから、冒険者にとって一角兎狩は生活を支える基礎的な仕事なのだけど、それに今は依頼料がプラスされることになるからだ。
この状況は、あまりレベルの高くない冒険者にとっては、とても美味しい状況なので、村に他所からも冒険者が集まるようになり、一軒しかない村の宿屋は常に部屋が埋まっているという、棚ぼたの恩恵ももたらした。
でもまあ、これは長くは続かなかった。
何故かというと、兎の肉がダブつくようになり、肉の値段が値崩れを起こしてしまったからだ。
「ねえ、ナリート、ちょっとフランソワちゃんを見てみてよ」
フランソワちゃんの新農法による村の農法改善が一段落してきて、何だか久々に孤児院に遊びに来ていた時、ルーミエが僕にそう言ってきた。
「見てみてって、そんな勝手に他人を見る訳にはいかないよ」
「良いから見てみてよ。 良いよね、フランソワちゃん」
「まあ、別に良いわよ、見たって。
ナリートもルーミエと同じで他人のことを見ることが出来るんだってね」
「フランソワちゃん、さっきも説明したけど、同じじゃないよ。
ナリートは私よりもずっと詳しく見ることが出来るのよ。
だからナリートに、フランソワちゃんも見てみてもらって欲しいのよ。
私だと判らないこともあるから」
えーと、今の話だと、ルーミエは僕がルーミエと同じように他人のことを見ることが出来ることを、フランソワちゃんには話していて、なおかつ自分よりも僕の方が詳しく見ることが出来ることも話しちゃっているということだな。
でも、なんだかルーミエの口ぶりはかなり真剣だ。
「ルーミエ、何か僕がフランソワちゃんを見る必要があるの?」
「うん、とにかく見てみて。 ナリートもきっと驚くよ」
フランソワちゃんはちょっと恥ずかしげな表情を見せたが、僕と目が合うと、もう一度言った。
「良いわよ、見てみて。 その代わり見えたことはちゃんと教えてね」
僕はそれならと意識を集中してフランソワちゃんを見ようとして、最初の時点で驚いてしまった。
「えっ、フランソワちゃん、[全体レベル]が 6!!」
「そう、びっくりするでしょ。
フランソワちゃん、[全体レベル]が 6 なのよ。
どうしてそんなにレベルが上がったのか、私には理解出来ないから、それでナリートに見てもらいたかったのよ」
「[全体レベル]が 6 って、そんなに驚くようなことなの?」
「そりゃ驚くよ。
普通だったら、大人になった時、つまり18歳時点で 5 くらいで、そこまでいかない人も多いんだっていうから。
それに、フランソワちゃんも知っているだろ、レベルを上げるにはモンスターを狩るのが最も手っ取り早いって。
そのモンスターを今、狩ることをシスターに許されているジャンたちだって、まだレベル5だよ」
「そうなの、なんだか私も前より体力がついた気はするけど、それ以外別に何も感じないから分からないけど」
「ね、ナリート、驚くでしょ。
なんでフランソワちゃんがこんなにレベルが上がったのか、不思議だと思わない?
凄く早くレベルが上がったしさ」
確かにルーミエが不思議に思って、僕に見るように言う訳だと僕も思った。
「フランソワちゃんもレベルが上がるようにと、私と一緒にスライムの罠は作ったけど、スライムの罠だけでこんなに上がる訳はないし。
きっと何か、フランソワちゃんにとっての特別なことがあったんだと思うの。
それが何なのかなって」
ルーミエの疑問に答えるために、僕も興味を惹かれたんだけど、詳しくフランソワちゃんを見てみる。
[体力] 6
[健康] 6
この2項目は[全体レベル]そのままに変わるから当然の数字だ。
[知力] 2
[魔力] 1
[採取] 2
[筋力] 2
この辺は普通だ。 ていうか[知力]はルーミエが今現在 4 なのだから、3 であって欲しいところだよ。
フランソワちゃんは、僕やルーミエと比べると、お嬢様なのでしたことがないことが多いからか、項目自体が少ない。
でも、僕とルーミエ、そしてシスターにもない項目があった。
[農業] 5
[農業]という項目は、シスターとルーミエにもあるのだけど、フランソワちゃんには、その中にシスターとルーミエにはないことがあった。
[農業]の細目に[農業指導]という項目があるのだ。
僕はフランソワちゃんを見るのに、見たことをちゃんと教えることを約束させられていた。
でも、良いのかな、きちんと教えて。
「フランソワちゃん、本当に詳しく自分のことを聞きたい?」
「もちろんよ」
僕は[農業]の項目以外のことをまず教え、それから[農業]の項目がとても高レベルなのを教えた。
「それで、これは信じてもらわなくても良いのだけど、フランソワちゃんの[職業]は、本当は貴族ではなくて農民なんだ。
そして、これはフランソワちゃんを詳しく見て僕も初めて知ったのだけど、農民という[職業]の特別なところとして、有益なことを広めるという行為はとてもたくさんの経験値になるらしいんだ。
つまり、フランソワちゃんは新しい農法を村全体に広めたことが、凄くたくさんの経験値になったんだ。
それが[全体レベル]が 6 という結果になったみたい。
それからあまり知られていないのだけど[称号]という項目が誰にでもあって、フランソワちゃんには当然だけど、村長の娘というのもあるのだけど、新農法の指導者というのもあるよ」
フランソワちゃんは、自分のレベルが上がった訳が解ったり、[称号]に新農法の指導者があることは喜んだ。
だけど[職業]が貴族ではなく、一番ありふれた一つである農民であるということには複雑な表情を見せた。




