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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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学校でも仲良く

 僕とルーミエがマーガレットと親しくなって、学校でも話をするようになると、それに伴って、フランソワちゃんもマーガレットと親しく話をするようになった。


 フランソワちゃんは学校では、僕たちに最初見せたような高飛車な態度は級友たちなどにはしないから、普通に学校の友達とは話したりするのだけど、なんて言うか人間関係の構築が下手らしくて、あまり親しくしゃべる友人はいなくて、ルーミエと一緒にいるのがほとんどで、それに僕が加わるくらいだ。

 そこにマーガレットが加わったから、フランソワちゃんにとっては大きな出来事だったらしい。

 最初はマーガレットにどう接して良いか分からなくて困っていたようだけど、ルーミエと僕が気軽に接するので、僕たちと同じように徐々に接するようになった。


 反対にマーガレットは僕たちがフランソワちゃんにマーガレットに接するのと変わらない態度で接するので、同じように接していたのだが、ある時フランソワちゃんが村長の娘だと知って、いや前から知っていたはずなのに忘れていたらしい、とても驚いて受け答えが変になったりもしたのだけど、それを乗り越えたらまた同じように接するようになった。

 2人の互いの態度の変化は、見ていた僕にとってはなかなか面白い見ものだった。

 マーガレットは、やはり孤児院から学校に通って来ているというのが引け目に感じる部分だったのか、今まで親しく話す者がいなかったようだ。


 ルーミエはというと、ルーミエは学校でもどこでも変わらずに誰とでも普通に接して、学校の女の子たちになかなか人気がある。

 男の子たちとも、気軽に話すのだが、男の子たちの場合、なんというか親密な感じには誰ともならなかった。

 誰とも同じように接しているという感じだ。

 ただそれが嫌な感じではなく、みんな平等に接している感じなので、男の子にも人気がある。


 僕はというと、僕は学校では人気がない。 特に男の子たちからはほとんど無視されている。

 まあ学校で主に教えられている読み書きと計算に関しては、僕は授業に出る必要がないと免除されていたりして、立場が特別だということが第一にある。

 その上、3人の女の子とは親密に話をする。

 特にルーミエが、僕だけは他の男の子たちと違い、べったりという感じで親密に接するので、それに対するやっかみも大きい。

 女の子たちは、僕に対しては興味津々という感じなのだけど、3人と話している中に加わって来るのはハードルが高いようだ。

 今まであまりフランソワちゃんとも、マーガレットとも親しく接してこなかったからというのも大きいのだろう。

 まあ、僕としては興味津々で近づかれるのも気が重いので、適度な距離感で丁度良いと思っている。

 負け惜しみじゃないからね。

 孤児院では男の子たちはみんな当然親しく接しているし、女の子たちだって普通だし、エレナは一緒に狩りをするから、ルーミエの次に親しくなったし。



 「シスターカトリーヌとルーミエが、うちの孤児院に来てくれた時に、毎回イクストラクトをかけて寄生虫を除去してくれるのだけど、何故かうちの孤児院では毎回しなければならなくなっちゃうのよね。

  ルーミエとナリートの村の孤児院では、もう寄生虫は退治できたのでしょ。

  なんで、うちは出来ないのかな」


 マーガレットの話す内容がよく理解できなかったらしいフランソワちゃんが、マーガレットに聞き返した。

 「なんの話? 寄生虫って何?」


 「フランソワちゃんは、そうか知らないかも。

  今はそうでもないけど、前はあたしもナリートも体が小さかったでしょ。 その原因の一つが体の中に寄生虫がいたからなの。

  それであたしたちの孤児院では、頑張って寄生虫を全員退治して、今では寄生虫に冒されている子はいなくなったんだけど、それと同じことを、この町のマーガレットの孤児院でもやっている真っ最中なの」


 「えっ、寄生虫って、体の中に虫がいるの?」


 「うん、お腹にいるんだよ。 それを退治するの」


 「まさか、そんなの私にはいないわよね」


 ルーミエの説明を聞いて、フランソワちゃんは自分が心配になったようだ。


 「フランソワちゃんは大丈夫なんじゃない。

  体もちゃんと成長しているし、痩せてもないから」


 マーガレットがそう言ったけど、何だか微妙な言葉じゃないかと思ったのは僕だけのようだ。

 フランソワちゃんは、そんなことは何も感じなかったのか、普通に会話を続けた。


 「そうかな、そうなら良いけど、何だかちょっと心配。

  体の中に虫がいるかもと思うと、何だか気持ち悪いわ」


 「あれっ、フランソワちゃんは、ルーミエやナリートに見てもらったことないの?

  2人とも寄生虫がいるかどうか見ることが出来るのに」


 マーガレットがそう言ったので、僕はちょっと言い訳をした。

 「マーガレット、僕もルーミエも、誰かを勝手に見たりはしないんだ。

  孤児院では、寄生虫を撲滅するために、見ても良いというか、寄生虫が誰のお腹にいるか見るように言われているから、見てるんだよ」


 「あ、そうなの、そうだよね、勝手に人のことを見ちゃダメだよね」


 「えーと、良くわからないけど、つまりルーミエとナリートは私に寄生虫がいるかどうか分かるということよね。

  それなら許すから、ルーミエ、私に寄生虫がいないかどうか見てみて。 もしいたら、気持ち悪いから」


 フランソワちゃんは流石に僕ではなく、ルーミエに依頼した。

 ルーミエは軽い感じでフランソワちゃんを見たのだが、急に眉を曇らせた。


 「フランソワちゃん、ちょっと言いにくいのだけど、意外だったけど、フランソワちゃんも寄生虫がいるわ」


 「ええっ、どうしたら良いの?」


 フランソワちゃんは顔を青くして言った。


 「そんな顔をするほどのことじゃないよ。

  ルーミエにイクストラクトの魔法をかけてもらって、寄生虫を除去して、そうして定期的に何度か駆虫薬を飲めば駆除できるわ。

  その筈なのだけど、なんで私の孤児院では退治出来ないのだろう」


 「うーん、やっぱり、畑の作物の作り方を変えないと、寄生虫の撲滅は出来ないのかな」


 僕は話が最初に戻ったところで、その時言い損なった自分が思ったことを言ったのだけど、フランソワはそれどころではないらしくてルーミエの腕を掴んで凄く真剣な顔で言った。


 「ルーミエ、その何とかという魔法を使えるのね、虫を体からいなくなるやつ。

  すぐにそれを私にかけて」


 「フランソワちゃん、落ち着いて、腕痛いから。

  そんなに慌てなくても大丈夫だから。

  それにここでイクストラクトをかける訳には行かないから」


 僕たちは魔法が使えることを学校では秘密にしていた。

 薪に火をつける為のスモールフレアは、学校でも最初に教える魔法だし、[職業]村人でも使える人はたくさんいるから、それは僕たちも使えることを隠してはいない。

 ちなみにフランソワちゃんもスモールフレアは使うことができる様になっている。

 フランソワちゃんは[職業]は貴族ということになっているけど、僕が見たところでは本当は農民だ。

 だから[職業]によって、魔法が使える使えないというのは、僕はないんじゃないかと思うのだけど、[職業]によって魔法の上達速度は違う気がする。

 僕もルーミエも同じ様に、ヒールとイクストラクトを使えるけど、僕とルーミエだと明らかにルーミエの方が上達速度が速いんだよな。

 ヒールはそれでも今でも同じくらいの感じで使えるけど、ほぼ一緒に覚えたイクストラクトは、僕は傷口の汚れや異物を除去したりはできるのだけど、寄生虫を除去するのは上手くいかない。

 そもそも寄生虫をシスターに教えて、イクストラクトで寄生虫の除去が出来るように誘導したのは僕なのに、その僕自身はイクストラクトで寄生虫を除去することにまだ成功していないのだ。

 ルーミエはすぐに成功して、今ではシスターと2人でイクストラクトで町の孤児院の子の寄生虫を除去しているから、何だかメキメキと上達して、イクストラクトでは大きく水を開けられてしまった。

 [治癒魔法]という項目のレベルは、[全体レベル]のレベルアップの時に、知力と共に必ず上げているから、その数字だけなら僕はシスターにも追いついたのだけど、実力はルーミエに敵わない状況だ。

 マーガレットも[全体レベル]が 2 になった時に、予想通り魔法が使える様になって、ヒールとスモールフレアはすぐに使える様になった。

 マーガレットがヒールを使えることは、孤児院ではもちろんだけど学校でも隠してはいない。

 マーガレットが孤児院から学校に通っているのは、マーガレットの[職業]がシスターだからなのは、学校の他の生徒にも知られているので、マーガレットがヒールを使えるようになるのは当然のことと考えられるからだ。

 でも残念なことに、マーガレット自身が使える様になりたいと望んでいるイクストラクトは、まだマーガレットは初歩の傷口の異物を取り除くことも出来ない。

 つまりまだイクストラクトの魔法は使えるようになっていなくて、僕が頼まれてマーガレットを見てみても、マーガレットの[治癒魔法]の項目の中にイクストラクトは無い。


 「なるべく早く、その魔法で取ってね。 体の中に虫がいるなんて、気持ち悪いわ」


 「大丈夫、すぐにイクストラクトで除去してあげるし、シスターに言って駆虫薬ももらってあげるよ」


 ルーミエがフランソワちゃんにそう約束して、やっとフランソワちゃんはちょっと落ち着いた。 まだ何だか気持ち悪そうにしているけど。


 「それにしてもフランソワちゃんでも寄生虫に冒されるんだね。

  私、孤児院の子たちだけの話かと思っていたよ」


 「シスターによると、普通の人たちもたくさん寄生虫で困っているらしいよ。

  それだから駆虫薬は作る側から欲しがる人がいて、その駆虫薬を買っていく人、いや違った、駆虫薬をもらった人のお布施で、僕らのとこの孤児院は前よりは経営が楽になったって、シスターが言ってた。

  あ、これ秘密だけど」


 「シスターカトリーヌが言うなら、多くの人がやっぱり冒されているのね。

  私も絶対にイクストラクトが使えるようになって、それから薬作りももっと頑張らないと。

  でも、フランソワちゃんだって冒されるのに、どうして村の孤児院では撲滅することが出来たの」


 うん、やっと僕が話たい内容を求める質問が、マーガレットから出た。


 「それはね、畑の作物の作り方を、僕たちの村の孤児院では変えたからだよ。

  具体的には、肥料として排泄物を直接畑に撒くことをやめて、堆肥を作って、堆肥にしてから畑に入れるようにしたからだよ。

  寄生虫の卵は排泄物の中に含まれていて、それを直接畑に撒くと、作物に卵がついちゃうんだ。

  そうするとその作物を食べたりすることで、また体内に寄生虫が発生してしまうのさ」


 「えーと、良く解らないけど、私の孤児院でも畑の作物の作り方を変えなければならないということなのね」


 「うん、そうしないと撲滅は出来ないと思う。

  僕たちの孤児院でも、そういう努力を続けて数ヶ月がかりでやっと今、一応撲滅してるけど、気をつけないとすぐにまた出て来ると思う。

  寄生虫はそこいら中にいるのだから」


 「ねぇナリート、つまり私が寄生虫に冒されたのも、寄生虫の卵がついている作物を食べたからっていうこと」


 「うん、きっとそうだと思うよ。

  村の作物の作り方は、以前の孤児院とみんな一緒だから」


 「つまり、そこを変えないと、いつまで経っても、寄生虫の問題は終わらないってことなのかしら。

  それと、さっき話していた堆肥を作ってというの、もしかして草を刈ってきて、それに排泄物と土をかけてやっている、あれ?

  何だか湯気が出たりしているよね、あれ」


 フランソワちゃんは孤児院に遊びに来て、最近は僕たちの作業に混ざったりもするようになっていたので、堆肥と聞いて何のことか理解したようだ。


 「うん、フランソワちゃんの言う通りだと思うよ。

  村全体が作物の作り方を変えないと、寄生虫の問題はずっとこのままだと思う。

  堆肥はその通りだよ」


 「私は何を言っているのか、ちっとも分からないよ」


 「マーガレットも一度、村の孤児院を見にくれば良いよ。

  そうすればどういうことだか解ると思うよ。

  話を聞いているだけだと、きっとなかなか想像できないだろうから」


 ルーミエがそうマーガレットに助け舟を出すように軽く言ったのだが、マーガレットはその言葉をとても真剣に受け止めて、町のシスターとシスターカトリーヌと相談して、本当に村の孤児院を訪ねてくる段取りをつけた。

 何だか凄い実行力だなぁ、と僕は感心した。


 フランソワちゃんも、そのマーガレットが村に来ることについては協力してくれて、馬車に一緒に乗せてくれた。

 つまりマーガレットは、学校が終わって僕たちが帰る馬車に乗って村に来て、孤児院に泊まり、次の日は一日僕たちと同じ作業をして、その翌日僕たちが学校に行く時の馬車にまた同乗したのだ。


 マーガレットは、堆肥作りとそれを使う作物の栽培の仕方を実際に見て理解しただけでなく、村の孤児院で行っていることの多くにとても刺激を受けたようだ。

 特に村の孤児院では、子どもたちみんなが読み書きや計算が出来ることに凄く驚き、僕とルーミエ、そしてフランソワちゃんが、学校で得た知識などを孤児院で教えていることにショックを受けていた。

 マーガレットは、自分が学校に通うことを特別なことで、[職業]がシスターだったが故の優遇だと理解していたけど、自分がその優遇によって得られたモノを他の孤児院の子たちにも教えるなんて、全く考えたこともなかったようだ。


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