表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/177

もう1人の新しい友達

 僕とルーミエは、以前の休みの日、今は休みというよりも自由に使える日という感じが強いのだけど、5日に1日のその日の4回に1回はシスターに付き合って、町の孤児院に行く。


 町の孤児院の寄生虫の問題は、1度や2度僕たちが行ったって解決するような問題では無いのは当然だ。 僕たちの孤児院だって、半年以上の時間が掛かったのだ。

 シスターは休みの日の2回に1回行っているけど、僕たちはその半分ということだ。


 「ナリートくん、ルーミエちゃん、やっぱり私が行く時は毎回一緒に行ってくれないかな」


 シスターが僕とルーミエにそう言ってきた気持ちは分からなくはない。

 町の孤児院の寄生虫撲滅は、全然進んでいないからだ。

 それはそうだ。 しっかり毎日目を光らせて対策していた僕たちの孤児院だって、半年以上掛かったのだから、シスターが10日に1度行く程度では高がしれていると思う。


 「町の孤児院に居るシスターはイクストラクトの魔法を使って、寄生虫の排除をすることができるんじゃないですか?

  シスターやルーミエが行った時だけ、イクストラクトで排除しても、すぐにまた寄生されてしまうんじゃないかな。

  それに町の孤児院でも畑をしているけど、そっちのやり方も変えないと無理だろうし」


 「ナリートくんの言う通りだと私も思うのだけど、町のシスターは私とはちょっと考え方が違うのよね。

  彼女は魔法を使うことに積極的ではなくて、後輩の私が先に中級シスターになったことにも反感があるみたいで、私の言うことは聞いてくれないのよ」


 最近のシスターは、僕と話している時は、こんなことを話しても良いのかなと思うような率直な事を言うようになっている。

 一角兎を狩るようになって、その処理をした時に出る廃棄物をスライムの餌にするようになって、以前よりもスライムの罠にかかるスライムの数が増えた。

 それに、女の子たちも罠を作ったりフランソワちゃんも作ったりして、罠の数も増えたからもあるのだろう。

 そのお陰で、毎日僕に入って来る経験値が以前よりも増えて、とうとうシスターよりも僕の方が[全体レベル]が上になってしまった。

 そんなこともあって、年齢に関係なく、シスターは僕のことを個人的には対等に近い感じに見てくれているのだと思う。

 ルーミエがいても同じ態度だから、単純に気を許してくれているだけかも。


 僕にしても、ルーミエにしても、5日に1度の自由に使える日を、シスターと一緒に町の孤児院に行くことに使うのは、2回に1回だとしても嬉しくはない。

 でも、自分たちと同じ境遇の町の孤児院の子たちが、以前の自分たちと同じような、痩せて小さくて弱々しい姿なのは、やはりどうにかしてやりたいとも思ってしまう。

 その原因も、どうすれば改善するかも、自分たちが経験してきて分かっているので尚更だ。

 僕とルーミエは、シスターのお願いを了承した。


 シスターが僕とルーミエを一緒に連れて行きたがるのは、僕たち2人が一緒に行けば、より多人数にイクストラクトをかけて寄生虫を排除できるからだ。

 年上の子を僕が見て、寄生虫がいる子といない子を分けることで、効率良くイクストラクトを使うことが出来る。

 年下の子も本当は僕が見て分けることが出来れば良いのだけど、まだ[職業]を見ることが出来ない年齢の子は僕には見えないので、そっちはルーミエが見る。

 本当はルーミエもイクストラクトをかけることに専念出来れば、より多い人数にかけることが出来るのだけど、そこは仕方ない。

 シスターとルーミエが疲れ切ってしまったら、そこで終了だ。


 僕もイクストラクトで寄生虫を排除出来れば、もっと多くの人にと思うのだけど、どうも僕には寄生虫の排除は難しくて出来ない。

 イクストラクトという魔法を僕が全く使えないという訳ではなくて、傷口の異物の除去とかは出来るのだけど、寄生虫の除去は上手くいかないのだ。

 [治癒魔法]の項目のレベルが6で、僕より上のシスターが出来るのは当然に思えるのだけど、レベルが4の僕より下のルーミエが出来るのに、僕が出来ないのは納得がいかない気がするのだけど、どうにもならない。

 そもそも寄生虫がどんな物かをシスターに教えたのだって僕なのに、なんだか不条理だと思う。

 きっと[職業]の違いなんだろうけどさ。 シスターは当然だけど、ルーミエも聖女だからなぁ。



 町の孤児院に居る、学校の一つ先輩のマーガレットに、シスターの手伝いで僕とルーミエがしていることは、すぐにバレてしまった。

 当然だよね、マーガレットは自分と同じに学校に通っている孤児院の子である僕らに興味津々だし、知っている子ならばと僕らの町の孤児院での世話を任されてもいて、僕らが町の孤児院にいる時間のほとんどをすぐ側で過ごしているのだから。


 「ねえ、ナリートはどうやって人を分けているの?

  ルーミエは小さい子を分けるのも、シスターカトリーヌと同じように、魔法で寄生虫を除去することもしていたわよね。

  どうしてそんなことが出来るの?」


 「えーと、マーガレットさん、それはですね」


 「マーガレットでいいわよ。 さんなんて要らない。 2人とも私と一つしか違わないんだから、普通に対等に喋ってよ」


 ルーミエが何て答えて良いか、まともに答えて構わないのか迷った顔をしたので、僕が答えようとすると、呼び方をそう注意された。


 「うん、それじゃあ、マーガレット。

  えーとね、こういったことが出来るのは、一つには僕とルーミエの[職業]のせいだよ」


 「こんなことが出来る[職業]って何なの?

  あ、それって秘密なんだっけ」


 「うん、あたしもナリートも公式には村人っていうことになっていて、本当の[職業]が何だかは秘密なの。

  あたし自身もナリートに教えてもらうまでは、本当に村人だと思っていたし」


 「えっ、ということはナリートは他人の[職業]を見ることが出来るの?」


 ルーミエは「しまった」という顔をした。

 言ってしまったことは仕方ない、それに今は最初の質問を答えるのに都合が良いかもしれない。


 「うん、意識すれば僕もルーミエも他人のことを見ることが出来るんだ。

  それで僕はシスターから、寄生虫に冒されている子と冒されていない子を分けることを任されている。

  でも僕は小さい子は見えないから、そっちはルーミエの係なんだ」


 「あたしは、小さい子も寄生虫に冒されているかいないかは見えるけど、ナリートみたいに[職業]は見えないよ」


 「つまり、2人の[職業]は違っていて、それぞれに見え方が違うということなのかしら」


 「うん、たぶんそういうことなんだろうと、僕も思っている」


 「えーと、ナリートは魔法で寄生虫を除去することは出来ないの?

  ルーミエはやっているけど」


 「うん、僕には出来ないんだ」


 「あれっ? 他人を見るのは魔法じゃないの?

  ナリートは私と同じで魔法は使えないの?」


 「ううん、そんなことないよ、ナリートも魔法は使えるよ。

  あたし一番最初のヒールはナリートに教わったのだもの」


 「うん、僕も魔法は使える。

  シスターやルーミエが寄生虫の除去に使っているイクストラクトという魔法は、僕も使えはするのだけど、どういう訳か、僕には寄生虫の除去は出来ないんだよ。

  やっぱり[職業]の違いなのかな」


 「でも、いいなぁ、ナリートもルーミエも魔法は使えるし、他人のことを見ることも出来て。

  私は何も出来ないから、羨ましいよ」


 「マーガレットもルーミエと同じように、イクストラクトで寄生虫を除去することは、そのうち出来るようになるはずだよ。

  マーガレットの[職業]はシスターなんだから、シスターのように、あ、シスターカトリーヌのことだけど、将来的には同じように出来るようになるはずだよ。

  見るのはシスターという[職業]は出来ないみたいだけど、シスターはそれ以外のことが出来るからね」


 「そうか、私は[職業]がシスターだから、シスターカトリーヌのように私にも使えるのね。

  それなら私にもそのイクストラクトという魔法を教えてよ」


 「えーとね、それはまだちょっと無理なんだ。

  さっき一つは[職業]のせい、と言ったけど、もう少し魔法を使うにも条件はあるんだ。

  [職業]以外の条件にレベルの問題があるんだ。

  マーガレットも[全体レベル]っていう言葉は聞いたことがあるだろ」


 「うん、大人になると数字が大きくなったりするのでしょ。

  それから偉い人とか、冒険者の強い人とかは大きい数字になると聞いたことがあるわ」


 「うん、まあ、そんな感じ。

  実際にはレベルというのは[全体レベル]だけじゃなくて、色々な項目があるのだけど、経験値を得ることによって、そのレベルの数字が上がったりする。

  そこにも色々あることが、僕たちの経験からも分かっている部分もあるのだけど、とりあえずレベルが上がらないと魔法は使えないみたいなんだ。

  マーガレットは[全体レベル]がまだ1だから、魔法は使えないよ。

  [魔力]という項目さえ、まだないんだよ」


 「ということは、シスターカトリーヌは当然だと思うけど、あなたたち2人も[全体レベル]は数字が大きくなっているの」


 「うん、ナリートは普通の大人より高レベルで、シスターと変わらない。

  あたしも普通の大人と同じくらいになっているよ」


 実際は大人になった時に、レベル5になっていればまあまあの方みたいで、そこから上になるのは必要な経験値がどんどん多くなっていくから、なかなか上がらない。

 だから今現在のルーミエのレベル6というのも、同じくらいと言って良いのかと思うけど、ルーミエはもうすぐレベル7になりそうだから、そうなれば確実に珍しい方になると思う。

 シスターは現在レベル8で、成人の18歳になったばかりとしては、すごくレベルが高く珍しいらしい。

 だから僕のレベル9なんて、当然例外だ。

 だけど[全体レベル]なんて、特別な見える人に見てもらわないと分からない訳で、普段の生活にはあまり関係ない。

 僕たちの周りでは、僕とルーミエが見ることが出来るから、何となくちょこちょこ話題に出てしまうけど。


 「何をしたらレベルが上がるの?

  私もレベルを上げたい。 そうすれば魔法が使えるようになって、私もシスターカトリーヌやルーミエみたいに、魔法で寄生虫を除去出来るようになるのでしょ。

  ルーミエ、あなたはどうやってレベルを上げたの?」


 「えーとね、あたしの一番最初のレベル上げの方法は、出来ないかな。

  あ、その後の方法もマーガレットは使えないわ」


 「それって、どういうこと?」

 マーガレットはルーミエの返答を聞いて、がっかりするのではなく、ルーミエに掴みかかりそうな感じで、もっと詳しく教えろと迫った。


 「マーガレット、落ち着けよ。

  ルーミエだけじゃなくて僕もだけど、一番最初にレベルが上がったのは、スライムを討伐したことによるんだ。

  マーガレットも知っているだろ、冒険者はモンスターを倒していくと強くなるって話、それだよ。

  だけどこの方法は、危険が伴うから、シスターに禁止されている。

  前に僕はそれでシスターカトリーヌに凄く怒られた」


 「つまり、そのナリートが怒られる原因になったのが、あたしが最初にレベルが上がった時のことなの。

  あたしがナリートにスライムの倒し方を教わって、ナリートに援護してもらってスライム討伐をしたの」


 あ、そういう事か、とマーガレットはがっかりしながらも、ちょっと納得したようだった。

 「スライム討伐か。

  確かにそれは許可されないでしょうね。

  それにこの町の近くはスライムはあまり居ないわ」


 そう町の周りは水場がないからか、一角兎が多いからか、スライムがほとんど居ない。

 僕らの村の方では、最近は罠で大量にスライムを討伐していて、スライムの数が減ったからか一角兎が増えたけど、スライムの方が優勢なんだけどな。


 「それじゃあ、後の方というのは?」


 ルーミエは答えそうになったけど、それは僕の[職業]の特殊性に関わる事なので、口に出かかった言葉を飲み込んで、僕の方を見た。


 「ええとね、もう一つの方というか、後の方というのも、ちょっとスライムに関係する話なんだ。

  そっちは、僕とルーミエの本当の[職業]が秘密にされているのと同じように、ちょっと特殊だから、詳しくは説明できないんだ、ごめん」


 マーガレットは今度は本当にがっかりして、しょぼんとした声で言った。

 「それじゃあ、私は何かの拍子に自然とレベルが上がることを待つしかなくて、当分はルーミエみたいに魔法を使えるようにはならないってことね」


 ルーミエもマーガレットのその言葉に同情した感じだ。


 「いや、そんなことないよ。

  前だったら確かにそうだったけど、今は違う。

  マーガレットは[職業]がシスターだから、シスターカトリーヌに経験値が入ることを同じようにやれば、マーガレットにも経験値が入るはずなんだ。

  もちろんシスターカトリーヌとマーガレットでは、レベルも知識も経験も全く違うから、同じように出来ることはほとんどないと思うけど、魔法以外でルーミエが手伝っていることなら、マーガレットでも出来るから、きっと経験値が入るよ」


 「私が、シスターの手伝いをしていること?

  薬草の採取とかかな?」


 「それもあるけど、もっと直接に寄生虫の対策のためにしていることがあるだろ」


 「あ、分かった。 薬作りの手伝いね」


 「そう、それならマーガレットにも普通に出来る。

  シスターは、ここのシスターにも駆虫薬を作って使ってもらうって、材料の木の皮を持ってきていたじゃん。

  だからここでのその薬作りをマーガレットも手伝うって言って加われば、今はマーガレットには[製薬]の項目はないけど、経験値にはなるんじゃないかな」


 「そうだよね。 レベル2になるのは簡単だから、そうしたらすぐレベル2になるね。

  もしかしたら、レベル2になった時に、[製薬]の項目も増えているかもしれないよ。

  あっ、[魔力]の項目も増えてないと、魔法を教えられないよ。

  [魔力]の項目って、どうしたら増えるのかな、私がレベル2になった時は普通にあったんだよね」


 僕はルーミエに言われてみて考えてみたのだけど、僕もルーミエもレベルが上がる前に魔法を、具体的に言えばヒールをかけてもらって、魔法を自分で体験したことがあった。

 マーガレットもイクストラクトで寄生虫を除去したから、魔法を体験したことはあるから大丈夫だと思うけど。


 「ちょっと聞くけど、マーガレットって、イクストラクトをかけてもらう前に魔法をかけられた経験はある?」


 僕の考えていることがルーミエも分かったようで、ルーミエも聞いた。

 「ヒールをかけてもらったことってある?」


 「ここのシスターって、シスターカトリーヌとは違って、魔法を使うことに積極的ではないのよ。

  だから、私はヒールをかけてもらったことはないわ」


 「シスターカトリーヌも魔法を使うことに積極的な訳ではないよ。

  特にそれを見せびらかすようなことは絶対しない。 普段は使う時にも、周りに知られないように使っているんだ。

  今は、ここのみんなの寄生虫の問題を解決するのを優先して、どんどん使っているけど、これは特別なんだ」


 「そうだったの。 私、シスターカトリーヌは魔法を積極的に使う人なのかと思ってた」


 「ナリート、それはともかく、マーガレットもヒールを経験しておいた方が良いと思わない?

  レベル2になった時に、[魔力]の項目があるように、考えられることはしておいた方が良くない。

  マーガレット、どこか怪我しているところない?」


 「怪我 ? さっき肘を擦りむいちゃったけど、こんなのすぐ治るし」


 「ナリート、ヒールで治してあげて」


 「僕?」


 「ナリートは魔法使ってないじゃん。 私はイクストラクト使い続けて疲れている。

  マーガレット、今、ナリートがヒールでその肘治すから、それを注意深くどういう物か感じて」


 僕はマーガレットの擦りむいた肘にヒールをかけて治してあげた。


 マーガレットはその後すぐに、薬作りの手伝いをすると、一晩熱を出してレベル2に上がり、レベル3にもそんなにしないで上がった。

 このくらいだと必要な経験値は1とか3だからか、薬作りの手伝いでもすぐに溜まるみたいだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ