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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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フランソワちゃん入り浸る

 シスターから正式に許しが貰えたから、僕は早速一角兎の狩りを具体的にどうしようかと考えた。

 使えるのは町の学校に行かない日だから、1日おきだ。


 まず最初に、僕は道具の改良をしなければならないと思った。


 僕が町からの帰りに使った盾は、最初の一角兎の攻撃を受けた時は、突き刺さった角が僕の手を傷付けた。

 僕の作った竹の盾は、一角兎の角を完全には防ぐ事は出来なくて、そこを逆に刺さることで一角兎を動けなくしてしまうようになっている。

 だから盾の裏側、つまり持っている方に一角兎の角が突き出て来るのは、仕方のないことなのだけど、かといってそれによって手や腕が傷つくのは嫌だ。

 そこで、盾の持ち手の部分だけ、裏側に手を守るように保護の竹を付け加えた。

 それから常に腕を伸ばした状態で一角兎の攻撃を受けれるとは限らないので、腕が曲がった状態で攻撃を受けた場合、角で傷付けられる可能性がある手首から肘の部分を保護する肘当ても作った。


 武器も新しいものを用意した。

 今までの武器である竹槍は、一角兎にとどめを刺すのに使用すると、心臓を狙って突き刺すからもあると思うのだが、一度で先がささくれてしまって役に立たなくなってしまう。

 そこで竹槍はスライム専用の武器として、新たな武器を作った。

 もう一つの理由としては、盾に刺さった角が抜けなくて動けない一角兎にとどめを刺すには、竹槍は長さがあり過ぎて使いにくいという問題もあったからだ。

 僕は手に入れたばかりの一角兎の角と、石を使った極短い槍、手槍とでもいうような槍を作った。

 一角兎の角を利用して作る方が簡単だし、竹の先に取り付ける都合もあるので強度も高そうで実用的だと思ったのだけど、4人で一角兎を狩ることになるので、最低でも4本と思ったが今のところ角は2本しかないから石のも作ったけど、すぐに角のだけになると思う。

 本当は冒険者さんたちみたいに、剣があれば一番都合が良いのだろうけど、僕たちはお金がある訳がなく、剣を買うことは出来ないから仕方ない。


 僕は一緒に一角兎狩をするジャン、ウォルフ、ウィリーと、どうやって一角兎を狩るか、綿密に打ち合わせをした。

 作戦はこうだ。

 僕が狩る対象の一角兎を見つけたら、その兎に対して、まず遠目からウォルフが弓で狙って射る。

 そうすると、矢に当たって傷ついたり、傷つかなくても攻撃されて怒った一角兎が、僕たちに向かって来る。

 その向かってきた一角兎をジャン、ウィリー、僕、そして弓を捨てて盾に持ち替えてウォルフが迎撃するという訳だ。

 ちなみにウォルフは[職業]が弓士だったからだろうか、自分で折れにくい木を使って、道具が割って尖らせた石しかないので苦労したけど、弓と矢は自作していた。


 このやり方で、問題なく危なげなく一角兎を獲ることは出来た。

 盾が罠扱いになるので、僕にはそれだけで経験値が入るので、一角兎にとどめを刺す作業は僕以外の3人に行ってもらうことにした。

 3人ももうそれなりにレベルが上がっていたので、[全体レベル]がどんどん上がるということはなかったのだけど、自分の[職業]の技能は一角兎を何匹か狩っているうちにどんどん技量が上がった。


 特に目立ったのが、ウォルフの弓の技量で、最初のうちは単純に矢を放つことで一角兎を怒らせて、こちらに突進させるだけのことだったのだが、すぐに一角兎を矢で傷つけるようになり、そのキズがだんだん重くなり、矢で射止めるようになるまでがあっという間だった。

 きっと[弓術]のレベルは[全体レベル]が上がるのに伴って上がっていたのだろうけど、実践が伴っていなかったので実際の技量は上がっていなかったのだろう。

 そこに実際の経験を積む機会が来たので、一気に技量がレベルに相応しいところまでどんどん上がってきたのだと思う。


 ウォルフの弓に比べると目立たないけど、ジャンの槍の腕も上がっていると思う。

 一角兎のとどめを刺す時には、角の盾への刺さりが浅くて少しジタバタと動きの大きい時でも簡単に刺している。

 それに比べると、ウィリーは槍の腕はあまり上がらない。 きっとウィリーの[職業]である剣士では当然だけど槍の技量にはあまり影響を与えないからなのだろう。

 僕もとどめを刺すのを3人に譲ることが多いからもあると思うけど、やっぱり以前よりも槍の扱いが上手くなったという気はしない。


 僕たちは最初は1匹だけ孤立している一角兎を狙っていたのだけど、ウォルフが矢で射殺してしまうことが多くなってからは、2匹でいる一角兎を狙うことが多くなり、そのうち3匹でも構わずに狙うようになった。

 僕たちは4人で狩りをするので、という訳ではなく、狩りの後の処理の時間も考えて、1人1匹ずつの4匹を1日に狩ることにしていたのだけど、初めの頃の一度に1匹だけを狙っていた時は、そんな風に孤立している一角兎を探すのにも手間取ったし、1匹ずつなので4度もしなければならないので時間がかかったが、2匹や3匹いるところを構わずに狙うようになってからは探すのも楽になったので、とても簡単に狩りを終えることが出来るようになっていった。


 狩りに行くのは、シスターに僕が一緒に行ける時しか許されていない。

 それはきっと僕がヒールが使えて、なおかつレベルもシスターと変わることがなく、かなり高いということを知っているので、僕が一緒ならば少しのことでは大丈夫だと考えたからだと思う。

 でもそれによって、僕が居ない時には狩りに行けなくなってしまったので、狩りに行くのは平均すると3日に1日くらいのペースだ。 ちょっと天気が悪くて雨など降れば、すぐに5日とか6日に一度になってしまう。

 それでも以前からは考えられないくらい、僕たちが獲ってくる一角兎のおかげで、孤児院の食事には肉が含まれるようになった。

 そうしたら、それまでとても不足していた栄養素が摂れるようになったからだろうか、寄生虫の問題が克服されていたからも勿論あるのだろうけど、みんなの体格が急激に良くなってどんどん大きくなった。

 それはそれで、服に困るという問題も起きてしまったのだけど。



 僕とルーミエが、村長の娘であるフランソワちゃんと、町の学校に行くようになってしばらくすると、学校に行かない日にはフランソワちゃんが孤児院に遊びに来ることが多くなった。

 そうそう、フランソワちゃんの呼び方なのだけど、最初は「フランソワ様と呼びなさい」と言われたので、僕もルーミエもちゃんと「フランソワ様」と呼んでいたのだけど、学校で他の友達にその呼び方を揶揄われてからは、「フランソワちゃん」に落ち着いた。

 フランソワちゃんは僕たちのことは呼び捨てなんだけど、それはフランソワちゃんの方が僕らより一つ年上だから普通のことだ。

 フランソワちゃん自身も、「様」で呼べと自分で最初は言ったのだけど、「ちゃん」で呼ばれる方がしっくりくるみたい。

 でも、とにかく、村長の娘が孤児院に頻繁に来るようになったのだ。


 最初は物珍しさから、僕ら2人の暮らしている孤児院という物を見てみようと、単純に好奇心から訪ねて来たのだと思う。

 フランソワちゃんは、村長の娘という立場が邪魔をするのか、それでもなければ僕たちにも最初は「様」で呼べと言ったような態度のせいか、友達と呼べるような存在が今まで町の学校以外ではいなかったからもあるかもしれない。


 フランソワちゃんが遊びに来ると言っても、僕たちの普段の予定を変更する訳にはいかない。

 僕たちは学校に行かない日は、2人ともそれなりに予定が立て込んでいるのだ。

 僕たちは学校に行かない日は、基本は村の外に出て何かをしている。 僕は勿論狩りだし、ルーミエは薬草採りなどが主だ。

 そこで、フランソワちゃんには僕たちが孤児院に戻って来る時間以降に、来てもらうことになった。

 最近は、孤児院の子たちみんなが以前よりも体力がついたからか、求められる1日の作業を以前より早く終えることが出来るようになったので、シスターの主導で僕たちが学校に行かない日の午後は、割と早い時間に作業を終えて、みんなで学習の時間になっている。

 なんのことはない、僕たちが学校で教わったことを、僕たちがそのまま孤児院で教えれば良いということらしい。

 でも実際には、もう孤児院で僕がみんなに教えていることは、学校でフランソワちゃんと、それ付き合ってルーミエが教わっていることよりも、高度なことを教えていたりするのだけど。


 とはいっても、僕自身は学校では免除されてしまっている授業も多いし、そもそも孤児院は年齢がバラバラなので、あまり一律に何かを教えるということはできない。

 そこで、今現在はルーミエが読み書きを教えて、僕が計算を教えるという感じで、それもレベル差があるので分けて教える形になっている。

 それらのことは前から折々にやっていたことの延長だから、もう幾らかは年長の子が下の子に教えられるようにもなってきたので、いくらか僕たち2人が抜けて、フランソワちゃんの相手をしても大丈夫だろうと考えたのだ。


 ところが孤児院にやってきたフランソワちゃんは、僕ら以外の子の学んでいる姿を見てショックを受けていた。

 自分が学校で教わっていることや、それ以上のことを孤児院の子たちが学んでいるとは考えたこともなかったからだ。


 「私はあなたたち2人が特別なんだと思っていたのだけど、孤児院の子たちは全員があなたたちみたいに色々なことを知っていて、学んでいるの?」


 「ナリートは特別だと思うけど、私は違うよ。

  私もだけど、みんなもシスターの発案でナリートに前から教わっているんだよ」


 フランソワちゃんは、何だか落ち込んでしまった。 小さい子たちはともかく、自分と同じくらいや年上の子は、自分よりも読み書きや計算などが出来ると思ったみたいだ。

 自分は村長の娘として、町の学校にも行っているから特別なのだと思っていた自信が、僕たち2人だけでなく他の孤児院の子たちにも打ち砕かれてしまったのだろう。


 「あなたたちは、もしかしたら学校で教わる必要がないくらい、色々なことをもう知っているの?」


 「いや、そんなことはないよ。

  僕は読み書きや計算は、たぶん学校の誰にも負けないくらい出来ると思うから、こうやってみんなに教えることも出来るけど、歴史とか地理とか、そういうことは全然知らない。

  それだから学校のそういう授業には出ているし、出なくて良い授業の時には、そんなことを図書館の本で読んだりしている。

  僕たちより、フランソワちゃんの方がそっちは詳しいと思うな」


 フランソワちゃんは、僕のその言葉に食いついた。


 「それだったら、私がそういうことは教えるわ。

  ナリートが計算を教えて、ルーミエが読み書き、そして私が歴史や地理を教えるのよ。 良い考えでしょ」


 フランソワちゃんは、何だか自分も教える側の1人になることで、自尊心の回復をさせることにしたようで、強引にそれを決定事項にしてしまった。

 それでフランソワちゃんは、町の学校に行かない日には、ほとんど孤児院に来るようになったのだけど、最初は学習の時間にだけ来ていたのだけど、そのうち孤児院の別の子たちにも慣れてきたら、ほぼ一日朝からやって来て一緒に過ごすようになってしまった。

 つまり学習以外の作業にも、フランソワちゃんは一緒に参加するようになってしまったのだ。


 僕はそれは不味いのではないかと思った。

 最初のうちは、何だかお付きの人という感じの年上の女性が付いてきたのだけど、そのうちに1人でやって来るようにもなってしまったし、女の子たちの農作業に一緒に加わるからと、着てくる服もそれ用の服に変わったりもした。

 女の子たちは、特に小さい子はかなり簡単にフランソワちゃんを完全に受け入れてしまったのだけど、僕はそれはフランソワちゃんが家から持ってきた本の為じゃないかと思う。

 自分が小さい頃読んでもらったらしい物語の本を持ってきて、フランソワちゃんは小さい子に読んでやったので、とても人気のお姉ちゃんになったからだ。


 僕は学校に行く時に御者さんに、大丈夫なのか尋ねてみたのだけど、村長さんは構わないと黙認しているとのことだった。

 孤児院に通うようになって、フランソワちゃんは今までは決してしなかった勉強もちゃんと自分でするようになったし、好き嫌いなく物を食べるようにもなったらしい。

 まあ昼ご飯を、僕たちと一緒に孤児院の質素な食事をしているからね。

 自分が普段は贅沢な食事を無駄にしていたのだと気付いたりもしたのだろう。

 とにかく村長さんとしては、娘が孤児院に通うことは、娘にとって良い影響を与えていると、少なくとも今のところは判断しているようだ。


 ところで、僕は一角兎の狩りに他の3人と行くので、フランソワちゃんとは離れている時が多いのだけど、ある日いつもの川に狩った一角兎の処理に行くと、ルーミエとフランソワちゃんが何だか一仕事やり終えたという顔をして待っていた。


 「ナリート、フランソワちゃんの分のスライムの罠も作ったから、問題ないか見てみて」


 僕はルーミエに、そう言われた。

 どうやらルーミエは、フランソワちゃんにも勧めてスライムの罠を作らせたようだ。

 フランソワちゃんは、体格はまだ僕たちよりも良いのだけど、僕たちに比べるとずっと体力がない。

 僕やルーミエだけでなく、孤児院の年上というか、[職業]を見ることが出来るようになった子たちは、スライムの罠のおかげでレベルが上がっているのをルーミエは知っているので、フランソワちゃんが体力がないのはそのせいだと考えて、ルーミエはフランソワちゃんのレベルも上げたいと考えたかららしい。

 フランソワちゃんは、なんで自分がスライムの罠を作らなければならないのか分からないままに、「みんな作ったんだよ」というルーミエの言葉に、自分だけ作らないとは言えないで、ルーミエに手伝ってもらいながら、穴を掘るのにとても苦労して、スライムの罠を作ったらしい。

 ルーミエが僕に点検させたのは、僕と一緒に作った罠でないと、僕の[職業]の特別な効果が得られないからだろう。

 僕は作ってあった罠を少しだけ直して、その効果が得られることを確実にした。

 次の日、学校に行く時にルーミエがフランソワちゃんに聞いた話によると、案の定、フランソワちゃんはその日の晩に熱が出て騒ぎになったらしい。

 僕がフランソワちゃんを見てみると、当然だけど[全体レベル]が 2 になっていた。

 また明日には 3 、そしてすぐに 4 にはなるだろう。

 そうすればルーミエはともかく、元々の体格や栄養状態の良さという基礎はあるのだから、他の女の子たちに体力負けすることは、きっとなくなるだろうと思う。

 どうやら、作業で一番最初にへばってしまうことを、フランソワちゃんが気にしたからのルーミエの行動らしい。


 そうそう、全く別のことなのだけど、年上の女の子に1人、どうしても僕たちの一角兎の狩りに同行したいと言う子が出てきた。

 僕は理由がなければ、あまり他人のことを見ないように気をつけていて、見る時も最小限の必要な項目だけを見るようにしているのだけど、その子のことが気になったので見てみた。

 その子はエレナという名前だったのだけど、見てみたら[職業]が女の子なのに、いや性別は関係ないのかな、狩人だった。

 その[職業]なら、確かに僕たちの一角兎狩りに同行したいと思うだろうなと僕は思った。


 僕はその事をシスターに話して、僕たちとの同行を許してもらえるようにした。

 ただし、3人の男の子以上に安全に気を付けるように僕は言われてしまった。


 盾を構えて一角兎の突進を受けるのは受け損なうと危ないので、エレナにはウォルフと同じように弓を射てもらうことにした。

 弓を作ったり、射たりの指導はウォルフに任せた。

 エレナも弓で参加するようになり、ウォルフよりも矢が届く範囲が短いので、今までよりも一角兎に接近しなければならなくなったけど、狙う一角兎は一度に3匹までを通常にすることになり、一層簡単に狙う一角兎の群れを選ぶことが楽になった。

 エレナの弓の腕も、ウォルフ程ではないけど、すぐに上がり、だんだんと驚かすだけでなく仕留めるようにもなって、3匹どころか4匹の群れを狙っても大丈夫という感じになった。

 ちなみにエレナは、狩った獲物の処理なんかでもいくらか経験値が入るみたいだ。

 きっと狩人という職業の特別なところなんだろう。


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