町の学校に通ってみる
「えーとね、私はフランソワ様と同じクラスで授業を受けることになったのだけど、ほとんどの授業は簡単だった」
ルーミエは興味津々の友達たちの質問に丁寧に答えている。
孤児院の友達が、興味津々なのは当然のことだと僕も思う。
そもそもこの村から町の学校に通うのは、村長の子供とか、大きなお店の子供くらいで、孤児院の子供だけじゃなく、普通の家の子供も通ったりはしないのだ。
普段色々と働いているのは、何も孤児院の子供に限らない。
ほとんどの子供はやっぱり色々な仕事を小さいうちからしているのだ。
もちろんその一番最初からの重要な仕事は、村の周りの草を抜くことだ。
これをさぼってしまうと、村はスライムに乗っ取られてしまう。
そんなだから、孤児院から町の学校に通うなんてことは、そんなにあることではない。
余程何か特別な[職業]だったりする子が現れたりした時だけの、本当に稀なことなのだという。
それを言えばルーミエは[職業]聖女だから、十分にそれに値すると思うのだけど、ルーミエの公式な[職業]は村人ということになっているので、特別な[職業]だから、ということにはなっていない。
僕も本当は罠師なのだけど、公式には村人となっているので、まあ僕の場合は罠師は聖女とは違って特別な職業という訳ではないだろうけど、当然特別な[職業]だからという訳ではないのだけど、友達の間では、僕は特別だからと、なんとなく納得されてしまっている。
何だか良くわからない。
それで学校なんだけど、フランソワ様は僕たちより年上で、去年から学校に通っていたのだから、当然僕たちとは違うクラスになるのだと思っていたのだけど、全然話は違っていた。
町の学校とは言っても、誰でも一律に年齢によって入学して来る訳ではないので、実力をテストして、その実力に合わせたクラスに振り分けられることになっていたのだ。
その学力を測る一番の目安となる、読み書きと計算は、正直に言って簡単だった。
「あのね、町の学校で受けた試験は、読み書きと計算は本当に簡単だったの。
ナリートはともかく私でも簡単に解ける問題だったから、みんながその試験を受けてもきっと問題なく出来たと思うわ。
それだから私もフランソワ様とは違うクラスに入ることになりそうだったのだけど、元々フランソワ様の付き添いとして学校に通うことになったのだから、フランソワ様と同じクラスに決まったの。
さすがにナリートは別のクラスというか、ナリートは特待生になっちゃったの」
試験はとても簡単な読み書きと計算から始まって、徐々に難しい問題となっていく形になっていたのだけど、読み書きの一番難しい言葉も僕は理解出来たし、計算なんて高々二桁の掛け算が一番難しい問題だった。 出来ない訳が無い。
ルーミエは読み書きは、一番難しい方の問題でつまづいていたけど、計算は全て出来ていた。
ルーミエが計算が全部出来ていたのを褒められた時に、
「読み書きや計算は、ナリートに教わっていたから」
と言ったお陰で、僕は計算が一番得意な先生に目をつけられて、それからもう少し高度な計算を互いに出し合うことになってしまった。
そして解ったことは、僕はその先生より高度な計算が出来るということだった。
それで僕に関しては少なくとも、読み書きと計算は学校で教えられることはない、ということになり、クラスに入る必要性がないというか、入られても困るということになってしまった。
ところが全てがそう上手くいくはずもない。
学校で教えてくれるのは、主には読み書きと計算なのだけど、それ以外にも授業はある。
それは僕たちが住んでいるところの歴史だったり、地理だったり、教会の教えだったりするのだが、教会の教えはともかく、その他は僕もルーミエもからきしダメで全く知識がないことばかりだったからだ。
僕とルーミエの試験の結果を聞いて、僕だけでなくルーミエも自分よりずっと読み書きも計算も出来ることを聞いて、ちょっと意気消沈してしまったフランソワ様は、僕たち2人がそれ以外のことは全く無知に近いことを聞いて息を吹き返した。
「まあ、良いわ。
それらのことは私が教えてあげるから安心しなさい。
その代わり、読み書きと計算は、あなたたちの方が少し私より出来るみたいだから、そっちは私に教えなさい。
私が教えるだけになるかと思ったけど、そうじゃないことはたぶん良いことだわ」
そういった訳で、僕は読み書きと計算の授業は免除になったのだけど、それ以外の授業はフランソワ様と一緒に受けることになった。
読み書きと計算の授業が、授業時間の多くを占めていて、それ以外の授業は少なかったので、僕は学校での時間のほとんどを割と自由に過ごすことが出来た。
そこで何をしたかというと、学校の図書室を自由に使えたので、そこにあった本で今まで知らなかった、歴史や地理など興味のままに読むことが出来た。
中でも、魔法に関しての本を見つけた時には、ちょっと嬉しかった。
ちなみに授業にも魔法の授業もあるらしいのだけど、それは最上級生のための授業で、それさえ全く使えない人が、火を着けるためのプチファイヤーが使えるようになることが目標で、僕とルーミエにはもう意味のないモノだった。
僕にとって学校に行くことになったことで、得られた他のことに、馬車の御者さんに色々な話をしてもらえたことがある。
僕たちが同乗させてもらっている馬車は、僕が今までも普通に見たことのある荷馬車とは違って、高級ではないらしいけど、ちゃんと屋根の箱になっている、人が乗ることを優先した馬車だ。
僕たちはフランソワ様の付き添いだからと、その箱の中に最初は乗るように言われたのだけど、僕は女の子2人と狭い箱の中で一緒に過ごすのはすぐに嫌になって、僕は御者席の隣に座らせてもらうことになった。
そうして町の学校への行き帰り、ルーミエはフランソワ様とおしゃべりをしたり、フランソワ様に読み書きや計算を教えたり、他のことを教わったりして、僕は御者さんと話をしている。
御者さんは、村長さんがフランソワ様の安全を考えての護衛を兼ねているようで、引退した冒険者とのことで、今まで僕が知らなかったけど、村の外で必要となる色々な知識をその日その日の気分のままに話してくれた。
中でもやっぱり僕が一番聞きたい話は、スライム以外のモンスターのことで、あまり上位の冒険者ではなかったらしい御者さんだが、村や町の近辺に現れるモンスターのことは当然良く知っていて、僕に聞かれるまま、色々と話してくれた。
そんな中でまず僕が興味を引かれたのは、一角兎のことだった。
「最近、一角兎が村の周りでは増えているみたいなんだよ。
一角兎は冒険者にとっては簡単に狩れて、良い小遣い稼ぎになるし、多く獲れればより多くの人がたくさん肉が食えることになるから、悪いこととも言えないのだけどな」
「でもやっぱり一角兎が増えているのは、良い事ではなくて、悪い事なのですか?」
「それはやっぱり、ちょっと危険だからな。
この馬車だって、一角兎のことを考えて作られているんだぜ。
周りが囲まれていれば、一角兎に飛びかかられて、その角で怪我することはないからな」
「箱の中だと大丈夫という事ですか? でも窓があるから跳び込まれてしまったりするんじゃないかと思うのですけど」
「一角兎は、前には凄い勢いで跳ぶし、一跳びで結構な距離を跳ぶ。 だけど、あまり高くは跳べないんだ。
だから、この馬車の高さなら、馬車の中なら安心さ」
「でもそれじゃあ、この御者席は危ないんじゃないですか?」
「まあ、この座っている椅子の上に立てば、高さ的には大丈夫だと思うけどな。
お前は、一角兎がもし襲ってきたら、すぐに馬車の中に逃げ込めば大丈夫だ」
「御者さんはどうするんですか?」
「俺は一度にたくさんが襲ってこない限りは、良い小遣い稼ぎだな。
元冒険者だぞ、一角兎くらいは退治して小遣いにするさ」
僕はちょっと尊敬の眼差しで御者さんを見てしまった。
すると御者さんは照れたように言った。
「一角兎はレベル2の魔物で、スライムの次に弱い魔物だからな、そんなに大した事ではないさ。
それに俺はスライムの方が強いんじゃないかと思うこともあるしな。 一角兎はその角にだけ気をつければどうということないけど、スライムは酸を飛ばすからな」
「一角兎の攻撃はスライムより強くないのですか?」
「いや、角をまともに受けたら大怪我で、当たりどころが悪いと死んでしまうかもしれない。
だからスライムより強いことは強いんだ。
でも攻撃が単調なんだ。
一角兎の特徴である角で、ただ直線的に突っ込んでくるだけだから、襲われても簡単な盾があれば、それだけで攻撃を簡単に防ぐことが出来る。
襲われても、突っ込んできたところを盾で防ぎ、盾にぶつかって落ちたところを剣やナイフで刺せば、安全に倒すことが出来る。
数が多くなると、盾で防ぐことが出来なくなって危険だけど、そんな時は諦めて、馬車の屋根にでも登って、一角兎が諦めて立ち去るのを待つさ」
御者さんは軽い感じでそう言うと、「あはは」と笑った。
僕はあらためて御者さんが腰のベルトに差している剣と、御者席の後ろに置いてある周りを少しだけ金属で補強してある木の盾を見た。
ふと気になって、御者さんのことを見ようとしたのだけど、当然だけど僕には見えなかった。 やっぱり大人だし冒険者をしていただけあって、きっと僕よりずっとレベルが上なんだろうと思った。
「冒険者が一角兎を狩る時って、どうやるんですか?」
「一角兎は1人でも狩れないことはないのだけど、取り囲まれる危険を避けるためにも、複数で狩りに行くのが基本だな。 3人ならなお良い。
一番良いのは、わざわざ近づいて危険を冒す必要がない弓使いだな。
弓使いと、矢が外れて突進して来た時に防御をする盾持ち、盾にぶつかった一角兎に止めを刺す剣士か槍士、という3人組で狩るのが一番だな。
もちろん盾持ちが自ら止めを刺しても良いし、弓使いが外したら即座に弓を置き、ナイフに持ち替えてでも構わないから、2人でも良い。 1人で狩るよりは2人でも、かなり安全になる。
でもまあ、3人だと余裕が生まれて、辺りをちゃんと警戒することも出来るから3人というのが一番良いな。
余裕があると、次々と狩ることが出来るから、結局は一番稼ぎも良くなることも多いんだ」
なるほど、冒険者はそうやって一角兎を狩るんだ。
一番基本の一角兎を狩るのでも、冒険者はきちんと考えて行うのだな、と僕は思った。
失敗して怪我をしてしまったら、その治療に経費はかかるし、治療している時間働けなくなる訳だから、安全が最優先なのは当然なのだろうけど。
「さっき、一角兎が増えていると言ってましたけど、それは本当なんですか?」
僕は御者さんの話を聞いていて、ちょっと自分たちでも用心して頑張れば、一角兎を狩ることが出来るのではないかと思って、何気なく尋ねてみた。
増えているのなら、群れから外れているのも、きっといる。
そういう1匹だけのを狙えば、僕たちでも狩ることが出来るのではないだろうか。
孤児院の食事は、やっぱり全体的に栄養が足りてないと思う。 その一番足りていないのがタンパク質だ。
最近は魚を獲っているけど、孤児院の子たち全部に食べさせるほど獲れる訳ではない。
一角兎なら、たとえ1匹でも、スープの具にすれば、みんなが食べれるじゃないか。
「村の周辺で、確かに一角兎は増えているみたいだな。 普通の兎も増えているらしい。
元の仲間の話では、最近スライムの数が以前のように増えてなくて、その分逆に一角兎や普通の兎が増えているのだろうということだ。
スライムはなんでも溶かして食べるけど、それでも主食はやっぱり草だからな。
スライムが増えると、その食べる草の量が増える。
そうすると、同様に草を食べる一角兎や普通の兎の食べれる量が減って、数が抑えられてしまうのさ。
スライムが増えていないと、それだから逆にそれらが増えるということさ」
僕は御者さんの話を聞いていて、ちょっと背中に冷や汗をかいてしまった。
スライムの数が増えていないっていうの、絶対に僕たちのせいだよね。
今では僕が罠に行けない、こうして学校に通っている日も、仲間たちがちゃんと毎日スライムの罠を仕掛けてくれている。
そうして毎日、何十匹ものスライムを僕たちは狩っている。
スライムは時々増えて困って、特別にスライム狩りが冒険者によって行われることがあるのだけど、普段はお金にならないので冒険者はスライムを無視しているんだよな。
でもスライム狩りの時はお金になるから、一斉にやるのだけど。
僕はちょっと恐る恐る聞いてみた。
「スライムが増えていないということは、スライム狩りっていうのはやらないんですか?」
「ああ、スライム狩りはないな。
あれはスライムが増えてしまって困った時だけだからな」
「そうだとしたら、冒険者さんたちはスライム狩りがなくて怒ったり困ったりしているんじゃないですか?」
「そんなことはないさ。
スライム狩りでの儲けなんて高が知れているし、それよりもたくさん一角兎や兎を狩れた方が武器や防具をダメにする可能性も低いし、余程良いと思っているさ」
僕はちょっとほっとした。
そうして、今乗っている馬車の周りに一角兎がいないかどうか、ちょっと集中して探してみた。
今のレベルが上がった僕の、空間認識と索敵の能力を使えば、かなりの広さにいる獲物の場所を知ることが出来る。 僕の[索敵]の項目も、レベル3になっているしね。
うん、本当だ。 結構な数がいる。
これなら僕たちが狩っても、きっと問題にならないのではないかと思った。




