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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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シスターのレベル

 シスターは少し考える仕草で黙ってしまった後、僕に言った。

 「もう一度確認するけど、その作った罠でスライムを討伐するということは、危ないことではないのね。

  ナリートくんはルーミエちゃんに、『危ないことはさせていない』と言っていたけど、罠は一緒に作って、その罠でスライムを討伐しているのよね。

  罠を作る時も、その罠を使う時も、危ないことはないのね」


 「はい、それは大丈夫です。

  罠作りも、それを使うのも危ないことはないです」


 「シスター、大丈夫。

  罠を作るのも、それに仕掛ける餌を作るのも、別に危なくはないよ。

  餌を罠に仕掛けるのはナリートがするし」


 「えーと、つまり餌を罠に仕掛ける時だけは、少し危ないってことかしら」


 僕は少し焦ってシスターに説明する。

 「餌にスライムは寄って来ますから、僕が罠に餌を仕掛けようとすると近づいては来ますけど、餌を罠に固定するのにそんなに時間はかかりませんし、固定してそこを離れれば、スライムは餌に向かうから安全です。

  完全にスライムが近づく前に、餌を固定する時間は十分ありますし、もしもの時は餌を放棄して逃げれば追って来ないですから、問題ないんです」


 「そうなの。 それなら、まあ良いのだけど、油断してまた怪我なんてしないのよ。

  2人とも自分でもヒールが使えるから、なんて軽く考えないのよ」


 「はい、ちゃんと気をつけます」


 僕だけでなく、ルーミエも神妙な顔をした。


 「あと、さっきのナリートくんとルーミエちゃんが話しているのを聞いていたら、何だかルーミエちゃんも自分のことを見ることが出来たかのように話していた気がしたのだけど」


 「そうなんです。

  今日、シスターに報告したいと思っていたもう一つのことがそれなんです」


 「あのね、シスター、あたしはナリートと違って、全部が見える訳ではなくて、[全体レベル]と[体力]と[健康]の3つだけ見えるようになったの。

  それで、なんでナリートがあたしのことをうるさく色々と言うのか、分かったの。

  あたしって、[健康]が本当にダメダメだったんですね」


 「すごいわね、ルーミエちゃんも自分のことが見えるようになったのね。

  やっぱり、ルーミエちゃんも特別な[職業]だからなのかしら」


 シスターはルーミエが見えるようになったことを話すと、少し羨ましそうな感じで応えた。


 「シスター、それだけじゃないんです。

  ルーミエは僕のことまで見えたんです」


 僕が勢いこんでそう言うと、シスターは僕がなんでそんなに興奮した感じで言っているのが解らないという顔で僕を見た。


 「ほら、シスターは、シスターの特殊技能である『真偽の耳』は自分より偉い人には効かないって言ったじゃないですか。

  同じように、僕にはシスターのことは見えないんです。

  でもルーミエは僕の方がレベルが上なのに、僕のことを見えるんです。

  凄いと思いませんか?」


 「ナリート、ナリートのことはきっと偶然見えただけだよ」


 シスターはまたちょっとだけ考える仕草をしたと思ったら言った。

 「それじゃあ、試しにルーミエちゃん、私のことも見てみてくれる?」


 ルーミエはシスターにそう言われて、急にちょっと怖気づいた感じでおずおずとシスターに言った。

 「あの、それじゃあ、ちょっと手に触っても良いですか?」


 「もちろん、構わないわよ。 はいっ」


 ルーミエは差し出されたシスターの手を取ると、すぐに言った。

 「うわぁ、やっぱりシスターは凄いなぁ。

  [全体レベル]はナリートと同じ 6 で、[体力]と[健康]も同じ 6 だけど、[体力]は少し鍛えた大人の人だし、[健康]も私たちとは違って寄生虫に侵されていなくて、きちんと良好状態になっている」


 そうルーミエに言われたシスターは微妙な顔をしている。

 「そうなの。

  私は自分のことが見えないから、ルーミエちゃんに言われたことが正しいかどうか、考えてみたら判らないのよね。

  ナリートくん、どうなの?」


 「『どうなの?』と言われても、僕にはシスターのことが見えませんから・・・」


 あれっ、さっきルーミエはシスターの[全体レベル]を僕と同じレベル6って言ったよな。

 もしかしたら、今だったら見えるのかな、それともやっぱり見えないのかな、僕は試してみたくなってしまった。


 「シスター、僕もシスターのことを見てみても良いですか?

  見えるかどうか判らないのですけど」


 「ルーミエちゃんと違って、ナリートくんはもし見えたら、全部見えるんだったよね。

  それはちょっと怖い気もするけど、まあ良いわ」


 シスターはちょっとだけ躊躇ってから、僕にも手を差し出してきた。

 僕は別にルーミエとは違って、もう触れていなくても見えるのだけどと思ったけど、それは言わないでおいて、シスターの手に触ってからシスターのことを見た。

 見えてしまった。


 [名前] カトリーヌ

 [家名] なし

 [種族] 人間

 [年齢] 17

 [性別] 女

 [職業] シスター


 [全体レベル] 6

 [次のレベルに必要な経験値] 31


 [体力] 6

 [健康] 6


 [信仰] 5

 [知力] 5

 [魔力] 5


 [採取] 4

 [索敵] 2

 [農業] 2

 [木工] 1


 [筋力] 3

 [敏捷] 2


 [説法] 2


 [治癒魔法] 4  (ヒール、イクストラクト)

 [火魔法] 1

 [製薬] 2


 [掃除] 2

 [料理] 2

 [杖術] 2


 [称号] 農家の娘、下級シスター、孤児の保護者


 色々と見えてしまって、ちょっと驚いたけど、今知りたいのはルーミエが見ることが出来た[全体レベル][体力][健康]の3つだ。

 その3つの項目に意識を集中してみると、確かにルーミエの言ってたとおりだ。


 僕が見えた瞬間、ちょっと驚いてしまったのが、どうやら態度に出てしまったみたいだ。 ルーミエに気づかれてしまった。


 「ナリートも見えたのね。

  ね、あたしの言ったとおりだったでしょ」


 「うん、確かにルーミエが言ったとおりだった」


 「ナリートくん、本当に私のことが見れたの」


 「はい、シスター。

  シスターって、カトリーヌって名前なんですね、それに僕たちとちょうど10歳違いなんですね」


 「名前のことは言わないで、農民の娘なのにその名前はないでしょ。

  それだから名付けた両親さえ、私のことはキャスとしか呼ばなかったのよ。

  年齢は、まああなたたちはともかく、周りの人にはバレていると思うから良いけど。

  でもナリートくんが、それを今、言ったということは、私のことも見れたと言うことね」

 名前を出して、シスターは僕がシスターのことを見れていることを確信して恥ずかしがったのだろうか、ちょっとだけ唐突な感じで、僕が触れていた手を引っ込めた。


 「はい、前は見れなかったんですけど、今は見れてしまいました。

  ルーミエが言うように、僕のレベルが上がって、シスターと同じになったからかも知れません」


 「ルーミエちゃんは、私の[名前]とか[年齢]とかは見えないの?」


 「はい、シスター。 私にはさっき言った3つ以外は見えません」


 「自分のことや、他人のことが見えると言っても、色々と違いがあるものなのね。

  初めて知ったわ。 私にも勉強になるわ」


 シスターはルーミエは3項目しか見えないのに、僕はもっと色々なことが見えることに注意が行ってしまっているようだ。

 でも僕としては、それよりもルーミエがレベルが上の人も見えてしまうことに注目してもらいたい。

 そこで僕は自分から言った。


 「本当に僕もびっくりしました。

  僕はシスターのことは今までは見れなかったから、レベルが上の人は見ることが出来ないのだと思っていたので、ルーミエが僕のことを見ることが出来て嘘だろうと思ったのですけど、ルーミエの言うことは当たっていて、それでルーミエがシスターも見えていたと言うことは、ルーミエがレベルに関係なく見えるのは確実なのですから」


 「確かにそれはそうね。

  今までナリートくんが私のことを見れなかったのに、レベルが同じになったら見えるようになったこと、それに私は見ることが出来ないからはっきりとしたことは言えないけど、『真偽の耳』が自分より偉い人には効果がないことを考えると、レベルが下の者は上の者のことが見えないというか、上の人には能力が効かないのが普通なのだと思うわ。

  でもルーミエちゃんの場合は、そんなことは関係なく、見えてしまうと言うことなのね。

 知っている具体例が少な過ぎて、それがどれだけ特別なことかは判らないけど。

 そもそもルーミエちゃんだけじゃなくて、ナリートくんの見ることが出来るということも特別すぎて、私にはどう考えれば良いのか判らないわ」


 シスターはちょっと困ったような、諦めたような調子でそう言うと、ふと気がついたように言った。


 「それにしても、ナリートくんはレベルがやっと見えるようになってから、今までのたったこれだけの期間で、もう私にレベルが追いついてしまったのね」


 僕は慌てて言った。

 「それは、僕が自分を見ることが出来て、それで自分の職業の罠師の特別なところというか、経験値を簡単に得られる方法を知ることが出来たからです。

  それに、シスターに追いついたと言っても、それはほとんど[全体レベル]の数字だけで、[体力]とか[健康]は数字は同じだけど、全然僕の方が実際は低いし、それにシスターの方がたくさんの項目があるし、その数字も大きいし」


 僕はなんとなくそんな言い訳をしながら、その言い訳をするためについシスターをことを見てしまっていた。

 「シスターは火魔法もあるし、薬作りも出来る。

  掃除と料理の次になぜ杖術なんてのがあるのだろう。

  杖術って何ですか、戦闘用の魔法用ですか、それとも戦闘用?」


 興味が引かれてしまって、ついそっちに意識が行ってしまった。


 「もしかしてナリートくん、また私を見ているの?

  ナリートくんて、ルーミエちゃんとは違って、触れていなくても他人を見ることが出来るの?」


 「うわっ、ごめんなさい。

  つい僕より色々な項目があるし、同じ項目があっても数字が大きいから、気になって夢中で見ちゃいました」


 「やっぱりナリートくんは触れていなくても見えるのね」


 「はい、ごめんなさい。 もう勝手に見ません」


 うん、確かに勝手に自分のことを見られたら嫌だよね。

 シスターは、また何か考えているみたいだ。


 「えーと、さっきナリートくんは、自分のことを見ることが出来て、罠師の特別なところが分かって、経験値を上手く得る方法が分かったから、経験値をたくさん得ることが出来るようになって、レベルがどんどん上がったって言ったわよね?」


 「えーと、はい、そんな感じです」


 シスターはもう一度、今度は時間をかけて考えてから言った。


 「ナリートくん、ナリートくんは私のことを見ることが出来るのよね。

  だとしたら、許すから私のことをよーく見て、シスターという職業の特別なところというか、シスターにもナリートくんの罠師みたいに、経験値を上手く得る方法というか、シスターが経験値を得る方法がないかどうか見てくれないかしら。

  そうして私もレベルが上げられれば、もしかしたらシスターとして出来ることも増えると思うの」


 あ、なるほど、僕は自分が罠師で、それ固有の特別に経験値を簡単に得る方法があることには気がついたけど、他の人にもそういう方法があるかどうかなんて考えていなかった。


 「そうか、そうですね。 シスターにも特有の経験値の得方というのがあるかも知れないですね。

  それじゃあ、しっかりと見させてもらいます」


 「うん、お願いね」


 そうして僕はシスターをしっかり見ようとしてみたら、簡単にシスターがその職業による特別な経験値の得方を見つけてしまった。

 なんのことはない。 僕と同じで、職業の項目に意識を集中して見てみると、そこの説明も見ることが出来て、罠師の場合と同じようにきちんと説明されていたのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 先生、彼の能力が大きく動き出す気配ですねとても次回が楽しみです。新たな世界観です。 [気になる点] 毎日更新ではないので、最初に前回のあらすじ的な文章を入れては如何でしょうか。これがあると…
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