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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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大問題発生?

 僕とルーミエはいつもとは違って、ゆっくりとした時間を過ごしていたけど、それでも戻らないといけない時間は来る訳で、僕はちょっとだけ残念な気持ちになった。

 最後に罠をちゃんと仕掛けて、僕たちはちょっとゆっくり歩いて孤児院に戻った。


 迷ったのはルーミエと手を繋ぐかどうかだ。

 川の中洲から離れる時は、スライムが危険だから、いつも通りルーミエを背負ったのだけど、それは大丈夫だったのだけど、残りの帰り道は手を繋ごうか、どうしようか迷ってしまった。

 ルーミエが転んだりして怪我をしないように気をつけるには、その為には手を繋いだ方が良いのだけど、林の中のもう道になってしまっている所を歩くのに手を繋ぐのはなんとなく照れ臭さい。

 それに手を繋ぐと、ルーミエにも僕のことが見えてしまう。

 僕は離れていても見えるようになったけど、ルーミエはどこか触れていないとどうやら見えないらしい。

 見られるかも、と思うと、余計に照れ臭いというか恥ずかしい気持ちになってしまうのだ。


 結局僕は、ルーミエもレベルが上がって、少しは体力も上がったから、それにルーミエ自身が気をつければ良いのだから、と思って手は繋がなかった。

 そして僕はルーミエの少し前を黙って歩いていた。

 手を繋ごうかどうか迷ったら、しゃべると誤魔化しているような感じがして、話しかけられなかったからだ。

 でもそのうち、つい、寄生虫はどうしたら良いのだろうか、と考えてしまい、そのまま話さない時間が続いた。

 ルーミエも何か考えていたみたいで、ルーミエからも話しかけられず、僕たちは黙ったまま歩いていたのだけど、時々2人ともお互いに相手を見たりして、黙って歩いている時間は嫌な時間じゃなくて、ちょっと楽しい時間だった。



 「あ、戻って来たぞ」

 僕たちが孤児院に戻ると、孤児院はなんだか異様な雰囲気だった。

 僕はその時に、ハッとリーダーのことを思い出した。

 ルーミエと一緒に林に行って、ルーミエのレベルupと、それに付随する色々なことに注意が全て行ってしまって、僕は孤児院を出る前には頭の中を占めていたリーダーのことをすっかりと忘れていたのだ。

 僕は、まだリーダーのことで何かあるのかなと思って、逃げ出したいような気分になった。


 僕がそれで暗い顔をしていたと思うのだけど、僕に話しかけてきた友達たちは、そんな僕の顔色に気づかないのか、そんなことはどうでも良かったのか、全くお構いなしに、話を続けた。


 「お前とルーミエちゃんが、林に向かってから、大変だったんだぞ」


 「あの後、リーダーが神父様とシスターに呼ばれたんだけど、そこから大変だったんだ」


 「やっぱりリーダーは、俺たちをワザとスライムの群れの中に行かせたんだ」


 「でもそれをリーダーは認めないで、誤魔化そうとして、そうして神父様を本当に怒らしてしまったんだ」


 友達たちはここまでのことを僕に一気に教えてくれたのだけど、そこでちょっと話が止まって、違うことを言った。


 「リーダーと神父様とシスターが話しているときに、何だか怖そうな大人の男の人がやって来たんだ」


 「すぐにおばさんの1人が、その人たち、2人だったけど、その人たちのところに行くと、ちょっと話をして、そしたらその男の人2人は話をしている部屋の前に行ったんだ。

  神父様に用があって、話が終わるのを待っているのかな、と思った」


 そして、ここからが重要という感じで、ちょっとさっきまでより声をみんな潜めて言った。


 「そうしたら、リーダーが大声で怒る声が聞こえて、話をしていた部屋から飛び出して来たんだ」

 「その飛び出してきたリーダーを、部屋の前で待っていた大人の男の人が2人がかりで取り押さえたんだ」


 「それでもリーダーは逃げようと暴れて、大声で騒いだんだ」


 僕はその話された出来事に驚いて、リーダーが何を騒いだのだろうと思った。


 「リーダーは何て騒いだの?」


 「リーダーは、『俺は、石切場になんか行きたくない!!』って、泣いて逃げようとしたんだ」


 「だけど大人のがっちりした人2人だったから、敵う訳もなく、簡単に組み伏せられて、それでも暴れたから、最後はロープを持って来られて手足を縛られちゃった」


 「それでその男の人たちはリーダーに言ったのさ、『これ以上暴れたら、足枷をつけて石切場で働かせるぞ』って、そしたらやっとリーダーも諦めて、泣いてたけど静かになったんだ」


 「それで1人がリーダーを外に連れて行き、残った1人に神父様がお願いしてた。


  『あの子のしたことは、本来なら犯罪奴隷となって仕方のない事です。

   でもまだ本当に孤児院を卒業間近だった子供ですから、出来れば優しく接してあげてください』って。


  そしたら男の人は、

   『まあ、配慮はするが、あの態度ではどうにもならないですね。

    あの様子では、最後まで自分の罪を認めなかったのでしょうね』

  と答えて、それに神父様は暗い顔をして、


   『ええ、駄目でした。

    自分の罪を認めて、それを真摯に悔い改めたなら、普通に他の子と同じように寮の方に迎え入れてあげたいと思っていたのですが』


   『神父様のせいではありません。 自らが招いた事です。

    彼には、きっともっと厳しい環境が必要なのでしょう』


  て、そうして残っていた男の人は、おばさんが持ってきた荷物、たぶんリーダーの物をまとめた物だと思うけど、その包みを受け取ると、その人も立ち去って行ったんだ」


 そこまで話すと友達たちは、さすがに黙ってしまった。

 僕もそんな大事になっていたのかと声も出なかったけど、シスターが僕とルーミエを林に行かせたのは、きっと一方の当事者である僕をこの騒ぎから離そうとしてくれたのだろうと気がついた。


 「あいつが自分でしでかした結果なんだから、俺たちが気にすることはないさ。

  特にナリートは何も気にすることはない。

  お前があいつに目を付けられて、色々と意地悪をされていたのはみんな知っているし、今回だってお前がいなかったら、俺たちはみんなもっと大変な目に遭っていた」


 年上の人が僕にそう言ってくれたら、みんなも

 「確かにそうだ。 ナリートは気にすることないぞ」

と言ってくれた。

 でも、やっぱり気になってしまうのは仕方ない。


 気になってしまうのは僕だけでは当然なくて、その日はみんなが一日の中で一番楽しみにしていて、注意されてもお喋りが弾んでしまう夕食の時間も、小さな子たちまで声を立てず、静かに食べているようなことになってしまった。


 そんな時間を過ごしてたら、何だか知らないけど、孤児院に戻って来てから自分の寝床に入るまでをとても長く感じてしまった。

 自分の寝床に入ると、隣のジャンが小さな声で話しかけてきた。


 「話は聞いて、自業自得だと思ったけど、それでもやっぱり少し可哀想かなとは思っちゃうよ」


 「うん、僕もそんな感じ。

  もう、大丈夫?」


 ジャンはまだ夕食も、みんなが集まる食堂には来ないで、寝床に運んでもらっていた。


 「うん、本当はもう大丈夫なんだ。

  用心の為に、今日は寝床で寝てなさいって言われていただけだよ。

  もう本当に全然大丈夫。

  あ、そうだ忘れてた。 スライムに溶かされたところ治してくれたよね、ありがとう」


 「うん、僕は前にスライムにやられた経験があったからね」


 「でもさ、僕はナリートがヒールを使えるなんて知らなかったよ」


 「うん、僕は前に溶かされた時とかあって、何度もヒールをかけてもらったからかな、覚えることが出来たんだ」


 「そうなのか、すごいね。

  それから聞いたよ。 スライムの酸に耐性もあるんだって」


 「それは僕はスライムに溶かされたのは、一度だけじゃないからね」


 「スライムに溶かされると、耐性がつくの?」


 「どうなのかなぁ。 僕の場合はついたけど」


 僕はジャンはどうなのかなと思って、ついジャンのことを見てしまった。

 今の僕は手を繋いだりとかしなくても、少し離れていても、見ることが出来る。

 でもルーミエに自分のことを見られて恥ずかしかったから、ちゃんと当人に断らないで見ることはしないようにしようと思っていたのに、ジャンが自分はどうだろうと言うので、つい見てしまったのだ。

 僕の場合は、スライムに溶かされるという経験をしたら、[酸攻撃耐性]という項目が出来たのだけど、他の人はどうなのかなと思ってしまったからかも知れないとも思う。

 見えたジャンは、当然だけど[全体レベル]は 2 に上がっていて、やはりちゃんと[酸攻撃耐性]という項目も出来ていた。


 「きっとジャンもスライムの酸に耐性がついたと思うよ。

  でも僕は何度かスライムにやられていて、それで今やっと、スライムの酸で溶かされないで、赤くなるだけで済むようになったんだ。

  何度もスライムにやられるのは危ないから、あまり勧められないよ」


 「そうだよな、あの痛みをもう一度は嫌だ」


 「2度目は1度目ほどは痛くならないよ。

  それでも結構痛いとは思うけど」


 「うーん、やめとくよ。 スライムの酸攻撃はやっぱり受けたくない」


 「そりゃそうだよね」


 ここまでジャンとひそひそと話していたら、ジャンは急に寝てしまった。

 一日中寝床にいて、きっとたくさん寝たはずなのに、こんな風に寝るなんて、やっぱりまだジャンは本調子じゃないのかなと僕は思った。

 僕はジャンのことを、ほんのちょっとだけ見ただけだから、[体力]とか[健康]とかをしっかりとは見なかったから、ジャンの本当の今のことは判らない。

 寝ているジャンをもう一度見てみようかと思って、すごく迷ったけど、やっぱり本人の了解を得ないで見るのは良くないと思って、寝ているジャンを見るのはやめた。

 本当は、さっきチラッと見てしまった時に、気になることが見えてしまったので、ちゃんと見てみたいと思ってしまっていたのだけど。


 ジャンは寝てしまったのだけど、ジャンと話したお陰で僕はリーダーのことから離れて、自分に[残ポイント]が 3 あることを思い出した。

 その内の2はどこに使うかすぐに決められる。

 1はもちろん[知力]に入れる。 これは絶対だ。

 [知力]が上がると、頭の中の今では霧に閉ざされた感じになっているところが、少し狭くなって、頭の中が広がる感じがするのを、僕はもう知っている。

 もう1は[治癒魔法]だ。

 これは限界までヒールを使ったから、レベルの数字を大きくすれば、きっと今までより強力なヒールが使えるんじゃないかと思うからだ。


 さて、あと1はどの項目に使おうかと考えていて、僕はそれを決める前に眠ってしまった。

 やはりジャンだけでなくて、僕もきっと主に精神的に疲れていたのだと思う。



 翌朝になって、僕にとって一つ大きな問題が起こったことに気がついた。

 僕は年上の人に言われたのだ。


 「ナリート、あいつがいなくなったから、もう俺たちと一緒に林に行くのでも構わないのだぞ。

  どうする?」


 そうだった、僕が単独で林に行くことになったのは、リーダーが僕に目をつけて、何かと意地悪をしたり、暴力を振るって来るからだった。

 シスターがその状態を見かねたのと、僕のレベルが上がっていて、僕は単独でも危険がないだろうことから、単独で林に行くことが認められていたのだった。

 だから、リーダーがいなくなった今、僕が単独で林に行く理由が、みんなに分かる部分ではなくなってしまったのだ。

 僕はちょっと困ったことになってしまったと思った。


 「うーん、まだ次のリーダーが誰になるかとか決まっていないし、シスターが知らないうちに変えて良いのか分からないから、今日はやめとく」


 「ああ、そうだな、確かにそうかも知れない。

  今日、戻ってきたら、次のリーダーとかも決めないとな。

  それじゃ、お前もスライムに気をつけろよ」


 いつもは、僕はリーダーに絡まれるのが嫌で、みんなよりも早く出発していたし、みんなももっと嫌々という感じでのんびりと言うよりもたもたした感じで出発していたのだけど、今朝はリーダーがいないからかみんなは、陽気にキビキビと動いて、僕の方が置いていかれて先に出発されてしまった。

 やっぱりみんなも、本当にリーダーのことが今回のことがなくても、嫌だったんだなと、僕はあらためて思った。


 僕はその日は何か特別なことをしなければならないことはなかったし、2日続けていろんなことがあったから、なるべくのんびり過ごそうと思った。

 考えないといけないことも、色々あるしね。


 そう僕はこれからどうしたら良いか考えないといけないと思った。

 それから、最近レベルが上がった時に、項目が増えたり、その数値が上がっているか、またはどの項目の数値を上げようかばかりに注意が向いていて、もう一つのことを忘れていたのに急に気がついたのだ。


 もう一つのことというのは、[知力]の数字を上げると、どうやら頭の中の霧みたいなのが少しづつ晴れて減っていくということだ。

 一番最初は、頭の中がグルグルしていたのが収まったから、すごく意識したのだけど、それから後は、あまり意識していなかったのだけど、今朝になってまたすごく意識した。

 何故かというと、今朝になって、昨晩[残ポイント]をまだ 1 決めないうちに寝てしまったことを思い出して、入れようと思った[知力]と[治癒魔法]の数はどうなったか見てみたのだ。

 [知力]と[治癒魔法]の数字は、ちゃんと上がっていて、[残ポイント]の数字が 1 になっていたのだけど、[知力]を見ようと意識した時に、頭の中の霧の中の部分がまた少し減っていることに気がついた。

 そしてそこに意識が向くと、僕は、今までずっと問題だった寄生虫というモノがどういうモノなのか、理解しているというか知っているのにも気がついた。


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