ルーミエ、レベル3
僕は休みの日だというのに、朝ごはんのすぐ後に、シスターに呼ばれて神父様の部屋に行くことになってしまった。
それはそうだろうと自分でも覚悟していた、昨晩あれだけの騒ぎを起こせば。
昨晩はリーダーに反撃して、リーダーを気絶させてしまった。
その時はとても興奮していたので、周りの誰かに止められなかったら、それだけでは止まらずに、気絶したリーダーに馬乗りになって、もっと殴っていたかもしれない。
僕は騒ぎを聞きつけてやって来たシスターに、1人興奮が収まるまで小さな部屋に閉じ込められてしまった。
最初、開かない扉を叩いて、
「僕は悪くない、悪いのはリーダーだ。 さっきも先に殴ってきたのはリーダーだ」
と大声で騒いだのだけど、誰も応えてくれず、暗い部屋にいると段々冷静になって、自分のさっきの行動に問題があることも分かってきた。
「レベルが上がって、僕とリーダーでは力とかきっと大きな差があったよな。
相手が先に手を出してきたとはいっても、差があるのを知っていたのに、本気で殴り返してはダメだよな」
僕は、その点は反省した、リーダーを許す気にはならないけど。
僕が暗い部屋に1人でいると、静かにしていてちょっと時間が経ってから、シスターが部屋から出してくれて、夕食もちゃんと残してあって、食べるように言われたのだけど、何だか食べたい気が起こらなかった。
そして今朝も、確実に神父様からも怒られるだろうなぁ、と思っていたら、何だかほんの少ししか、食べれなかった。
僕はすぐに神父様のところに呼ばれるのかと思っていたのだけど、僕より前にみんなが神父さんの部屋に呼ばれて、僕は一番最後の方だった。
きっと昨日のことを、その場にいた全員に確認したのだろう。
ジャンともう何人か、今日まだ寝ている人がいるけど、それ以外は全員呼ばれるみたいだ。
僕はドキドキして自分が呼ばれるのを待っていたのだけど、神父様との話はどうということもなく終わってしまって、「手加減して反撃するように」と言われただけだった。
その神父様の言葉に、シスターはちょっと困ったような顔をしていたけど。
部屋を出る時に、シスターはルーミエを呼んで言った。
「あなたたち2人は、いつもなら休みの日は2人で林に行くことになっているのよね。
今日もこれから行って来なさい。
ナリートくんは昨日は色々あったから、今日はここを離れて林の中でゆっくり休みなさい。
ルーミエちゃんも、今日は薬になる草を採って来なくても良いから、ナリートくんが何もしでかさないように、ちゃんと見張っていて。
夕方まで、ゆっくりたまには遊んでいても良いわ」
シスターは、僕に気を使ってくれたのだと思うけど、なんとなく僕のことを信用していなくて、ルーミエに僕の監視をさせようとしているみたいだ。
ルーミエがシスターの言葉に、なんとなくやる気を見せていて、僕は少しムッとしてしまった。
でもルーミエは僕のそんな気分なんて全く気付きもしないで、とても上機嫌で林に向かって歩いて行く。
「今日はいつもと違って、全部の時間を好きに使って良いんだよ」
「ルーミエは林に行く時は、いつもちゃんとした仕事を命じられていないじゃないか」
「そんなことないよ。 いつだって、きちんと薬になる草は採って帰らなくちゃって思っていたもん。
それに今までは他のことが忙しかったからで、もっと色々採ることが出来る草とか実とかも覚えたもん」
僕はそんなルーミエの反論を無視して言った。
「僕は今日は柴刈りはしなくて良いけど、ダメにしちゃった竹の槍を2本とも作らなくちゃならない」
「でも、そんなのすぐ出来るでしょ」
そう簡単に応えてきたルーミエだけど、気分がウキウキしていて、足元が疎かで、転びそうになった。
僕は怪我をしたら大事になりかねないので、何をしているんだと怒ろうと思ったのだが、僕が声を出す前にルーミエは自分で反省の言葉を出した。
「おっと、危ない。 浮かれてて、転びそうになっちゃった。
今のあたしは、軽い怪我もしちゃだめだよね、もう少し体を丈夫にしないと」
あれっ、今までは僕が何度注意してもどこ吹く風で、ちっとも気をつけようとしなかったのに、やっと少し言うことを聞くようになったのかな、と思った。
さっきの僕がムッとした気分になったのには、全く気付かない感じだったのに、今、僕がルーミエのことを変わったのかなと考えてたのには、ルーミエはすぐに感づいたようで、僕の目をまともに見て言った。
「あたしのこと見てもらうの、一日遅れになっちゃったけど、もしかしたら昨日じゃなくて今日になって良かったかも。
ちょっとじゃなくて、今日はあたしのことをしっかりと見てもらいたいの。
そうして、ナリートに聞いてもらいたいというか、相談したいの」
ルーミエの真剣な調子に、僕はちょっと何なんだろうとびっくりしたし、正面からしっかりと目を見て言われたので、ルーミエなのに少しドキドキしてしまった。
いつもと少し調子が違うのは、川の中洲に行く時もだった。
川の中洲にルーミエを連れて行く時は、スライムの側を通ることになるので、足場の悪い川原を急いで横切らないといけない。
ルーミエにそれを自分でやらせて、転んでしまってはとても困るので、毎回僕がおんぶして渡るのだけど、いつものルーミエは自分も大丈夫だと、僕に負ぶさるのを嫌がって一悶着あるのだけど、この日はそんなこともなく僕に負ぶさったのだ。
そんなルーミエのいつもとちょっと違う様子に、少し戸惑った僕は、中洲にルーミエを降ろして言った。
「ルーミエ、でもルーミエのことを見たりするのは、やらなければならないことをした後だからね。
僕は槍を作らないといけないし、罠は両方ともちゃんとしておきたいから」
「うん、あたしもその方がいい。
その方が安心してナリートと話せるから。
ナリートはまず槍を作って、魚は私がちゃんとやるから」
僕は中洲にルーミエを残して、槍にする竹を切りに林に戻った。
竹槍も作ったし、スライムの罠のダメになっている部分も直した。
ルーミエが下拵えした魚も、ちゃんと2匹づつ焼いて食べた。
スライムの罠と魚の罠と両方の今日の餌も用意した。
ルーミエがなんだかとても真剣なので、僕はなんとなくちょっと緊張して、ルーミエを見るのをなるべく後回しにしていたのだけど、やるべきことがみんな終わって、もう他には無くなった。
おんぶをした時には、意識的にルーミエのことを見なかったのだ。
さあ、よし、ルーミエを見るぞと、ちょっと気合を入れて。
「よし、じゃあ、ルーミエ、本当にレベルが上がっているかどうか、見てみよう」
「うん、お願い」
そう言ってルーミエは僕に手を差し出してきた。
僕はそのルーミエの差し出してきた手を反射的に取ったけど、それよりも先にびっくりして、それは本当に無意識だった。
何をびっくりしたかというと、僕はルーミエを見ようと思ったら、ルーミエの手に触れる前にルーミエのことが見えてしまったのだ。
今まではおんぶしていたりや、額に触ったりや、手を取ったりと、なんらかの身体的な接触がないとルーミエのことが見えなかった。
僕はそうしないと見えないとルーミエにも言っていたから、ルーミエは手を差し出してきたのだけど、僕はルーミエを見ようと思っただけで、手が触れる前にルーミエのことが見えてしまったのだ。
僕は、「もう手に触れなくても見える」と、ルーミエに言おうかと思ったのだけど、なんとなくそれはやめてしまった。
僕に見せるために、わざわざ手を差し出してきたことを、なんだか無駄なことをしている感じに言いたくはないと思ったからだ。
僕がちょっとびっくりして、黙ってしまったのをルーミエは自分なりに解釈したようだ。
「ね、本当にレベルが上がっているでしょ」
僕はそのルーミエの言葉に合わせるために、慌てて真剣にルーミエを見た。
僕はまだ触れずに見えたことに驚いて、ルーミエのことをちゃんと見てなかったのだ。
「うん、本当にどうしてだろう、ルーミエの言うとおり、レベルが3に上がっている」
僕はルーミエを見てみて、[全体レベル]が 3 に上がっていたのをまず確認して、それから[体力]と[健康]の数値も 3 に上がっているのを確認した。
あれっ、ルーミエって[体力]と[健康]の数値が 2 の時ってなかったんじゃないか。
僕はそんなことをちょっと思ってしまったのだけど、よく考えてみたら、一番最初にルーミエのことも見えてしまった時は、よく見たのだけど、ルーミエにスライムを討伐させてレベル 2 になった時は、シスターの部屋で少し見ただけだったので、レベルが 2 になっているのを確認しただけで、他をはまともに見ていなかったのを思い出した。
自分を見るのとは違って、ルーミエを見るのは、なんだかいけないことをしているような気がして、僕はあまり見ないようにしていたからだ。
ルーミエの[体力]と[健康]の状態が悪過ぎて、見るとちょっとイライラしてしまったり、考えてしまうのも嫌だったせいもある。
魚を食べさせて、少し読める部分の書いてあることが良くなったのに、またすぐにちょっとのことで元に戻っちゃったりしたのを見た時も、とても嫌な気分だったからだ。
だからレベル 2 になってからは、逆になるべく見ないようにしていた。
「ルーミエ、今日はルーミエのことをじっくり見てみようと思うのだけど、良いかな?」
僕は一応ルーミエ本人に先に聞いておいた。
「うん、あたしもしっかりと見て欲しいと今日は思ってる。
よーく見て、見えたことをあたしに教えて。
確かナリートは[全体レベル]って言うのだけじゃなくて、[体力]と[健康]や、その他も見えるんだよね」
「うん、自分のは色々見えるのだけど、ルーミエのはまだ今の以外は見たことないけど、あ、うん、見えるみたい」
「何が見えているか早く教えて!!」
「ちょっと待って、落ち着いて、一つづつゆっくり見るから。
えーと、まずは
[体力] 3
幼児の体力+
現在危険な状態。 ちょっとした病気・怪我でも、すぐに死んでしまう状態。
えー、レベルが 3 なのに、幼児の体力+ ってなんなんだよ。
確かに一番最初の時は + はついてなかった気がするから、少しは上がったのだろうけど、それに、危険な状態のとてもが取れたけど、まだ危険な状態なのかよ」
僕はとてもがっかりした。
やっぱりレベルが上がるだけでは、だめということなのだろう。
レベルが上がって、数字が大きくなっても、それだけでは駄目で、ただ単にその項目の能力が上がりやすくなったということだけなのだろうと、改めて思った。
でもまあ、ルーミエには言ってないけど、「このままでは確実に死亡する」という文が説明に無くなっていることに僕は少し安心した。
「うん、やっぱりあたし、体力ないんだね、前にナリートに言われたとおり。
あたしも7歳なのに幼児の体力じゃダメだよね」
あれ、なんだか今日は素直に僕の言うことを聞いているな。
「それから次は
[健康] 3
栄養失調。 極端に栄養が足りていません。
警告・寄生虫に酷く犯されています。
うーん、[健康]はレベルの数字以外は変わってないよ」
「こっちも、すごく駄目だよね、あたし。
他には何が見えるの?」
「えーとね、結構色々見えるよ。
僕にもある項目と、僕にはない項目がある。
やっぱり人によってか、職業の違いからなのか、違いがあるんだな」
僕がちょっと考えていて、言葉が止まると、ルーミエがつついてきた。
「えーと、僕にもある項目からいくと、
[知力] 2
これはきっと、字を覚えたり、いろんな草を覚えたりしたからじゃないかな。 それから、
[筋力] 1
[槍術] 1
[木工] 1
[筋力]が 1 なのは、まあ予想どおりなのだけど、ルーミエってスライムを槍で1匹討伐しただけなのに[槍術]がついている。
僕なんて、すごく練習して、今それでも 2 なのに。
[木工]も、魚の罠とスライムの罠を少し作っただけだよね」
「池の魚を獲るのも作ったじゃん」
なんとなく、ルーミエは項目が簡単に出来ている気がしてしまう。
「それに、ルーミエは
[採取] 2
なんだよ。 僕なんて、これだけ柴刈りしていてもまだ 1 なのに」
ルーミエは僕に勝っている項目があったのが嬉しそうだ。
「だってあたしは、ナリートと林に来ない時は、畑でいろんな物を採っているんだよ。
それに、ナリートはあまり草とかを覚えてないじゃん」
ああ、そう言われてみると、確かに[採取]に関してはルーミエの方が頑張っているような気がする。
「ねぇ、魔力はどうなっているの。
あたしもヒールが使えるから、魔力はあるよね」
「うん、それはもちろんだよ。
[魔力] 2
[治癒魔法] 2
に、なっているよ」
「ナリートはそれらの数字はいくつなの?」
「僕は[魔力]が 4 で、[治癒魔法]が 3 かな」
「あれっ、あたしはどっちも 2 で同じだけど、ナリートは 4 と 3 で違うんだね」
「本当だ。 どうしてだろう。
でも次に行くよ。 今度は僕にはない項目
[救済] 2
[診断] 2
この2つの項目はルーミエだけで、僕にはない。
きっとこの2つは、ルーミエの職業が聖女だからなんじゃないかな」
「[診断]ていう項目があるのかぁ。
そのせいなのかなぁ」
なんだかルーミエが妙に考え込んでいる。
「[診断]て、病気とか、怪我の具合をみることだよね。
何か思い当たることでもあるの?
僕にはまだその項目が見えるだけで、どういうことが出来るのかとか、全く解らないのだけど。
きっと僕にはない項目だからだろうけど、何も補助的な説明も見えないから、全然どういうことか分からないよ」
「うん、たぶんそれのせいだと思うのだけど、あたしも自分の[全体レベル]と[体力]と[健康]の項目が見えるようになったの。
だから、ナリートがあたしのことを心配した理由が良く解った。
確かにナリートの言っていたとおり、あたしは体の調子が悪いのが普通になっていて、感覚がおかしくなっていたのだと分かった」




