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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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レベル5

 一気に[次のレベルに必要な残り経験値]が10減った翌日、スライムの罠を見てみると、竿の部分が倒れてしまっていた。

 きっとスライムが何匹も竿に取り付いた重みに耐えられなかったのだろう。

 だとすると、竿が倒れるまでの間に、スライムが罠に6匹も掛かったということになる。


 「もしかしたら、竿が倒れなければ、もっと経験値を得られたかもしれない」

 僕はそう思うと、尚更興奮した。


 いつも通りに柴刈りを急いで済ませると、僕は罠の補強をした。

 竿が倒れないように、穴に突き刺して固定するだけでなく、支える脚を竹4本を組んで取り付けた。

 もしかすると、その脚も伝わって竿にスライムが取り付いて、前よりも混雑して穴に落ちるかもしれない。

 僕はそんな都合の良い想像もした。


 スライムの罠の改良は、竹を組むだけだったので、そんなに時間を取られる作業では、今の僕にとってはない。

 この日僕が時間を取られたのは、ルーミエの魚の罠に掛かった魚を、とりあえず入れておく池というか生け簀作りだ。

 昨日は時間がなかったので、ルーミエの作った罠に掛かった魚をそのまま放置してしまったのだが、そのままにしておいて良いはずはなかったからだ。


 ルーミエは自分が作った罠に掛かった魚も、今までは自分が僕の獲った魚を食べていたのだから、「僕が食べて良い」と言ってくれたのだけど、僕の作った罠も魚は掛かるので、そんなにたくさんは食べない。

 もちろん僕の罠に魚が掛かってなくて、ルーミエの方にだけ掛かっていたのなら、スライムの罠に必要な餌を得る為もあるから、遠慮なく食べさせてもらうつもりではあるけどね。


僕は川の中洲の、幾らか川の水量が増えても影響しないくらいの高さがある位置に池を作ることにした。

 川がちょっと増水したら、獲った魚に全部逃げられたというのは嫌だからね。

 でもそうすることによって、その池を作るための深さを深くしなければならなくなってしまった。

 池に水を流し込んだり、排水する必要もあるので、普段の川の水の高さで水路を付けなければならない訳で、池はそれよりも深くしなければならないからだ。

 つまり掘らなければならない量が増える訳で、スライムの罠を作った時に川原を掘ることに慣れたとはいっても、かなり大変な重労働になってしまった。


 とても一生懸命に頑張ったつもりなのだけど、その日の時間内には池を完成させることは出来なくて、本当に小さな池と水を引き込むための細い水路しか作ることが出来なかった。

 でもとりあえず、その小さな池にルーミエの罠に掛かった魚を移し、自分の罠と一緒に罠を仕掛け直しておいた。


 そしてその日は、自分の罠に掛かっていた魚1匹を、スライムの罠の餌にする必要もあって、最後に焼いて食べて、大急ぎで孤児院に戻ることになった。

 またスライムの罠にスライムが掛かるのを観察する余裕がなかったのが、とても残念なのだけど仕方ない。


 僕はその日の小さい子を洗い場で手伝っている時に、ルーミエにスライムの罠が上手くいったことと、ルーミエの罠に掛かった魚のための池を作り始めたことを報告した。

 ルーミエは一応喜んでくれたのだけど、僕が期待していた程の関心を持ってはくれていないみたいだった。

 まあルーミエはヒールが使えるようになったばかりで、昨日初めて秘密で小さい子に使ってみたのだったから、そっちにばかり関心が向いていても仕方ない。


 そのルーミエは今日も秘密で小さい子にヒールをかけている。

 僕はルーミエがヒールをかけるだろうと思っているので、注意が向いているからルーミエがヒールを使ったことに気がつくのだけど、小さい子たちはまるで気がついていないようなので、ちょっと安心している。

 それにまだルーミエは、本当に極簡単な小さな傷を治せる程度のヒールしかかけることが出来ないみたいで、その回数も限られている。

 昨日は3回かけたら、ルーミエは体力が尽きてしまったようで、もう他のことをすることも出来ないくらい疲労困憊していた。

 今日も注意して見ていると、3回ヒールを使ったけど、昨日のように他のことも出来ない程疲労困憊はしていないみたいだ。

 もしかするともう一回使うかな、と僕はちょっと心配して見ていたのだけど、ルーミエは昨日で少し懲りたのか、4回目はかけなかったので、僕はちょっとほっとした。

 ルーミエは、僕の顔に心配してたけど安心したと書かれていたのか、僕の方を見て、イーッて顔をした。

 あたしだって考えている、と言いたかったのだろうと思う。


 僕は自分がルーミエと同じことをしていたのだけど、そんな疲労を感じたことがなかったので、ヒールをかけると体力を使うということを知らなかった。

 それに気がついたのは、ルーミエがあまりに体力がないので、その影響がもろに出るからだ。

 自分だけでは気がつかなかっただろうから、そこに気がついたのは良かったと思った。


 だけど、昨日の今日で、ルーミエが同じ回数ヒールを使っても、使った後の様子が違うのはどうしてなのかなと思った。

 昨日の今日で、ルーミエの体力が変わったというか成長したとも思えない。

 もしかすると、昨日よりもルーミエは同じくらいのヒールをかけるのに、ヒールをかけることに慣れてきて、昨日よりも体力を少しだけ使わなくなったのかもしれない。

 だとしたら、ルーミエのヒールの習熟スピードはとてつもなく速いのでないかと僕は思った。

 やっぱり [職業]聖女 の影響なのだろうか。


 あっ、ルーミエが小さい子にヒールをかけてしまうと、僕が練習できない。

 3回しかかけてないけど、小さい子は10人ほどしかいないから、ほとんどの必要をルーミエがかけちゃうことになっちゃう。

 僕が練習できないなのは問題だ。


 夜、寝床の中で自分を見てみると、案の定、僕は

 [全体レベル]5

になっていた。

 小さい子たちの手伝いをしていた時にはもう、僕はなんとなくレベルが上がったような気がしていたのだ。

 その他の項目で上がっていたのは、

 [体力] 5

 [健康] 5

 [空間認識] 4

 [魔力] 4

 この4つは今回も順当に上がっていた。 あとは

 [筋力] 3

 [石工] 3

 [木工] 3

 これらは罠をずっと作っていたからだと思う。

 でも秘密にだけど頑張って練習していた[治癒魔法]は 2 のままで残念だけど上がってはいなかった。


 あと[残ポイント]が 3 になっていて、2から3になっていたのは嬉しい。

 増えていたのは嬉しいけど、そのポイントをどこに割り振るかは眠りに入る直前に考えないとね。

 [残ポイント]を割り振ってしまうと、強制的に眠ってしまっている気がするから。


 そうして僕は[次のレベルに必要な残り経験値]を見た。

 [次のレベルに必要な残り経験値] 71


 昨晩見た時は 5 だったのが、今は 71 になっている。

 たぶん[全体レベル] 5 から 6 になるのに必要な経験値は81だ。 だとすると今日は罠で 15 の経験値が入ったことになる。

 スライムが10匹、罠にかかった計算になる。 うん、きっとそうだ。


 昨日10の経験値が入ったことに驚いたけど、今日は15の経験値が入った。

 罠は改良の効果もあって、より上手くスライムを討伐しているようだ。

 この調子でスライムを罠で討伐できるなら、次のレベル 6 や 7 にはすぐに到達できるだろう。 レベル 8 だって、そんなに長くかからないと思う。


 僕は経験値が大量に入ったことに、とても興奮していたのだけど、次の日はルーミエを連れて林に行く日だということを思い出した。

 ルーミエを連れて行くと、気をつけてないと何をするか分からないから、1人の時よりもずっと気を使わなければならない。


 「気をつけて、怪我とかしないようにしろって、いつも言うのに、ルーミエは他のことに気を取られて、ちっとも気をつけないからなぁ」


 こんな風になんとなく小さい子たちと同じようにルーミエのことも考えてしまうのは、もう同い年だと分かっているけど、ルーミエが僕よりずっと小柄だからだろう。

 そしてその小柄なのは、きっと僕以上に栄養状態が悪い為だ。

 だからこそ、林に一緒に行くのは、重要ではある。


 僕は寝不足で、自分も注意が散漫になってしまわないように、もう寝なければと思った。

 寝る前の最後は、ポイントをどこに割り振るかだ。

 知力に割り振るのは決まっているけど、残りは今までは 1 しかなかったけど、今度は 2 ある。

 増えていなかった項目で、どれを優先して増やすかだ。


 一つはすぐに決まった、治癒魔法だ。

 ルーミエもヒールを使えるようになって、たぶんだけど、どんどんヒールを上手に使えるようになっていくと思う。

 上手にと言うと、何が上手か良く分からないのだけど、シスターがかけるのも見て思ったりしたことも合わせると、強力になったり、かけるのに体力をあまり使わなくなって行くのではないかと思う。

 ルーミエは[職業] 聖女 だから、きっとヒールはどんどん上手になって、シスターよりも凄くなるんじゃないかと思う。

 でも、まだ覚えたばかりなのだから、少しの間くらい教えた僕の方が上手で居たいと思うのだ。

 僕は今回、小さい子にヒールをかけるのをルーミエに譲ったからか、でもルーミエが覚えるまでは僕が練習の為にかけていたのだけど、[治癒魔法]の数字は増えていなかった。

 だから、治癒魔法を増やしておこうと思ったのだ。

 数字を増やしただけではダメなことも分かっているけど、数字を増やしておくと、その項目に該当することの能力が上がりやすくなるのも確かだとも感じているから。


 迷ったのは、残りの 1 だ。

 前の時は、スライムと槍で戦う必要があったから、スライムの攻撃を受けてしまうことも考えて[酸攻撃耐性]に割り振った。

 その時は、竹の槍で攻撃しなければならないから[槍術]に入れたい気持ちもあって、すごく迷った。

 今はスライムと竹の槍で戦うつもりはない。

 罠でスライムを討伐できるのに、戦う危険を冒すつもりは僕には全くない。

 スライムに溶かされる痛みを、また感じたいとは全く思わないからだ。

 でももしもの時の為に、林に行くときは、竹の槍を2本と水筒は必ず持って行くけどね。


 「[採取]と[索敵]は林に行った時には、いつでもやっていると思うのだけど、他と違って、数字が全く増えないんだよな」


 僕はその2項目も気になっていたのだけど、今回は[物理攻撃耐性]にポイントを加えることにした。

 [酸攻撃耐性]が 3 なのに、[物理攻撃耐性]が 1 なのは、なんとなくバランスが悪い感じがしたのだ。

 それに、[酸攻撃耐性]より[物理攻撃耐性]の方が、何だか汎用性が高いような気がする。

 ぶっちゃけ、[酸攻撃耐性]はスライムと以外は意味がないけど、[物理攻撃耐性]はスライム以外のモンスター、一番身近だと角ウサギにも有効だと思うからだ。

 角ウサギの肉は、僕ら孤児院の子どもの食事にはあまり出てこないけど、最も食べられている食肉であるのは僕でも知っている。


 使えるポイントをどこに割り振るかを決めた途端、いつものように僕は眠ったというか意識を失った。



 ルーミエと林に行くのはもう慣れてきた感じなのだが、今回もルーミエはウキウキとした足取りで、また怪我をしないかちょっと心配だ。

 自分で作った罠に魚がちゃんと掛かったということを知って、また今日も掛かっているかもしれないとウキウキしているらしい。

 僕はというと、スライムの罠が今度はどんな調子になっているのかが気になっているのだけど、今日一番しなければいけないのは、中途半端になってしまっている池作りだと考えていた。

 ある程度の大きさの魚が掛かっていたら、僕だって2匹食べればお腹は膨れるのだから、ルーミエだってそれ以上は無理だろう。

 だとすれば調子良く、どっちの川の罠にも魚が掛かっていて獲れたら、ルーミエが来ない時の掛かった魚を放しておく池は必須だと思うからだ。

 それにもしも罠に魚が掛かっていない時に、予備の魚があるということになれば、いつでもちゃんとスライムの罠を仕掛けられるということだから、その意味でも重要だ。


 自分がやることを考えてから、ルーミエには何をさせようかな、と考えた。

 魚が獲れているかを確認するだけでは、いくら何でもルーミエも一緒に来ている意味がない。 もちろん魚を食べるということの意味はあるけどね。

 本来は、傷薬が作れる草を採るのがルーミエの主目的なのだけど、僕は今日はそれは最低限にするつもりだ。

 池やスライムの罠のことをしていたら、林の中で周囲の警戒をしながらルーミエに草の採取をさせている余裕はないからだ。

 つまりは中洲で出来る作業を、ルーミエにはさせないといけない。


 「ルーミエ、今日、ルーミエは傷薬が作れる草を干すための道具を作ってよ。

  竹を編んで作れば良いと思うから、作り方は教えるから」


 「いいよ。 ナリートは何するの?」


 「僕は作りかけの、獲れた魚を入れておく池作りをする」


 川に着く前に、僕はしなければならない柴刈りをすまし、ルーミエはその間は草の採取をした。

 僕は今までは本当に見なくても感知できるのは、自分の周り、前後左右、腕を目一杯広げた範囲くらいだったのが、その距離が3倍くらいに広がっているのに気がついた。


 「これはきっと[空間認識]のレベルが上がったからだな」


 僕がつい嬉しくて声に出してしまったので、ルーミエがその言葉を聞いてしまった。


 「ナリート、レベルが上がったの?」


 ルーミエには、レベル2に上がる為にスライムを倒させた時に、レベルという知識を教えてしまっていたので、僕が言った「レベルが上がった」という言葉に、敏感に反応したようだ。


 「うん、僕の職業の罠師の特別なところだけど、罠で獲ると、槍なんかで討伐した時と同じように、ううん、それ以上に経験値が入って、今度作ったスライムの罠が上手くいったみたいで、昨日の夜、レベルが1上がったんだ」


 「いいなあ、私もレベル上げたいな。

  またスライムの討伐すれば上がるかな?」


 「ダメだよ。 この前は特別だよ。

  ルーミエがどうしても『ヒールが使えるようになりたい』って言うから、レベルを上げるために討伐したんだから。

  もうヒールを使えるんだから、危険を冒す意味がない。

  今のルーミエがスライムの酸攻撃を受けてしまったら、死んじゃうからね」


 ルーミエは不服そうだったけど、とりあえずは諦めたみたいだ。


 僕は範囲が広がったことで、柴刈りがもっと速くなり、ルーミエの草の採取も手伝って、やっておかなければならない仕事をとても手早く済ませた。

 自分のことながら、ちょっとそのスピードに感動した。


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