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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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スライムの罠の改良と

 僕はそれから常にスライムの罠のことを考えていた。

 どうしたら罠でスライムを討伐することができるだろうか。


 次の日、僕は穴の縁に石を置いて、穴の上に出っ張らせるような感じにした。

 そういう石を穴の周りに何箇所が置いて、それ以外の場所から穴に入れないように、他のところには灰を撒いた。

 これなら、穴の壁をつたって底に降りることができなくて、穴に落ちるのではないかと考えたのだ。

 結果はまたしても大失敗で意味がなかった。

 スライムは出っ張った石の裏に逆さにくっ付いて、難なく石の表面を裏表の差を感じさせない調子で移動して行ったのだ。


 その次の日は、ダメな時は何もかもダメなようで、魚の罠に魚もかかっていなかった。

 スライムを誘う餌もないから、その日はもうスライムの罠をどうにかするのは諦めようかと思ったのだけど、何だか悔しい。

 そしてたぶんダメだろうなと思ったのだけど、罠の穴の縁になるところ、その裏側に灰を少しの水で練って塗り付けた。

 餌にするための魚の内臓がないから、その日は魚の罠に使う、ミミズや土の中の何かの幼虫をスライムの罠の穴にも入れてみた。

 スライムはそういうのも食べるのだろうかと思ったけど、ダメで元々だ。

 そうして周りを灰で囲った、一応安全地帯から見ていると、どうやら魚の内臓でなくても食べるのか、それとも僕がここ何日か穴の中に餌を入れていたから、また何か入れたと思ったのか、スライムが集まって来た。

 スライムは中に入ろうとして、少し動きが止まった。 きっと穴の縁に灰が塗ってあることに気が付いたのだろう。

 しかし、動きが止まったのはほんの少しの間で、スライムたちは穴に入って行って、出て行った。

 集まったスライムがまた散って行った後、穴の中を良く見ると、入れておいたミミズや何かの幼虫はしっかりと無くなっていた。

 スライムはやはり、魚の内臓でなくても、ミミズや何かの幼虫も食べるのだろう。


 「動物や他のモンスターの死骸、それに人と戦って勝つと、その負かした人も食べちゃうというから、当然ミミズや何かの幼虫も食べるよね」

 僕は誰もいないのに、そう口に出して言ったのは、もう一つ気が付いたこと、スライムは灰を嫌うけど、嫌いなだけで、灰があるからといって、それで完全に防ぐことは出来ないことが分かってショックだったからだ。


 僕は灰で周りを区切った場所は、もう安全なんだと、ちょっと思い込んでいたから、それは絶対に安全ということではなかったのだと気が付いて、少し、いやかなり怖かったのだ。

 たくさんのスライムに囲まれて逃げ道がなかったら、絶対に殺られてしまうと思ったのだ。



 上手くいかない2日間を過ごした後、休みの日が来た。

 みんなは休みの日なのだけど、僕にとってはルーミエと一緒に川に行く日だ。

 本来は休みの日だから、柴刈りはしなくても良いので、いつもよりはずっと時間はあるのだけどね。


 ルーミエはなんだかとてもご機嫌だ。

 「えーと、今日はあの魚を獲る道具の作り方を教わるでしょ。

  それから、今日こそは傷薬になる草を採って戻らなくっちゃ。

  あ、ナリート、その草をちゃんと干すための道具も作るって言ってたよね。 それも教えてね。

  あとは、一番大事なことがあるよね。 ナリート、今日こそはヒールを教えてね、私も使えるようになるのでしょ」


 「ルーミエ、分かったから、そんなにはしゃぐなよ、転ぶぞ」


 僕はルーミエがご機嫌ではしゃいでいるので、ちょっと心配した。

 前は手をちょっと切っただけで、[体力]が、「危険な状態」から「とても危険な状態」

に戻ってしまったからだ。

 転んだりして怪我したら、大事になりそうな気がするからだ。


 僕はスライムの罠がこの2日上手くいかなくて、昨日は魚も獲れなくて、なんだか気分が落ち込んでいたのだけど、ルーミエがご機嫌で、すごく楽しそうなので、なんだかそれに釣られて、気分が良くなってきた。


 「ま、今日は本来なら休みの日なんだから、スライムの罠のことは忘れて、ルーミエに付き合おう」

 僕はそんなことを考えていた。


 ルーミエを負ぶって中洲に連れていくと、下ろした途端にルーミエが言った。

 「ナリート、私がおんぶされている時、私のことを見ていたの?」


 僕はちょっと狼狽えて言った。

 「うん、分かっちゃった?」


 「分かるよ。 黙っちゃうし、何か考えているような顔したもの。

  で、どうだったの?」


 ルーミエはもう自分のことを、僕が見ることができることを知っているので、僕にそう聞いてきた。

 僕は隠すことなく、見えたルーミエのことをルーミエに教える。


 [全体レベル] 2

 [職業] 聖女

 [体力] 2

    幼児の体力+

    現在とても悪い状態。 少しの病気・怪我でも、死んでしまう状態。


 [健康] 2

    栄養失調。 極端に栄養が足りていません。

    警告・寄生虫に酷く犯されています。


 [知力] 1

 [採取] 1

 [槍術] 1

 [魔力] 1

 [癒しの力] 1


 「えーと、[全体レベル]はスライムを討伐したから当然だけど2になっている。

  [体力]と[健康]も、僕がそうなれば良いなと思っていたとおりに2になっている。

  [体力]の説明に、幼児の体力に+が付いたから、前よりは少しは良いのかな。 それに危険な状態ではなくて、とても悪い状態になったから、それも少しだけ改善している。

  だけど、[健康]は2になっているけど、説明は完全に前と同じだから、ちっとも改善していないということかな。

  [知力]があるのは、字を覚えたからかな。

  [採取]は薬草になる草を採ったりしたからだな」


 「[槍術]っていうのは?」


 「それはスライムを槍で討伐したから。

  そして、良かったな、ルーミエ、ちゃんと[魔力]の項目があるから、ルーミエもヒールが使えるようになるのは確定だと思う」


 「良かった。 [魔力]があればヒールは使えるということなのね」


 「たぶんそうだと思う。

  僕の場合は、それでヒールを使ってみたら、次のレベルアップの時に[治癒魔法]っていう項目が出来た」


 「使うと、新しい項目ができるの?」


 「うん、自分で努力して何かをすると、新しい項目が出来る気がする。

  そしてそれを努力して使うと、次の全体のレベルアップの時に、その項目のレベルも上がる気がする。

  だけど、レベルの数字が上がっても、努力しないと、数字が大きくなっているだけで、実際は下のレベルと同じだったりするみたい。

  今のルーミエの[健康]みたいな感じさ」

 ルーミエは僕の言葉にちょっと怒った顔を見せたが、すぐに次のことに移った。


 「それから[癒しの力]っていうのは何?」

 「それは僕には解らない。

  たぶんルーミエの[職業]が聖女だから、それの固有のモノなんじゃないかな。

  僕にはそんな項目はないから、どういったモノなのかまるで解らない」


 「そうなの?

  ナリートも罠師固有の何かの項目があるの?」


 「罠師固有なのかどうかは解らないけど、僕には[空間認識]っていうのがある。

  これは僕は最初からあったけど、ルーミエにはないから、そうなんじゃないかと思うけど、もしかしたら違うかもしれない。 解らない。

  それから、これも言っておくけど、もっとレベルが上がらないと見えない項目もあるみたいなんだ。

  少なくとも僕はレベルが上がったら、見えるようになったこともある。

  それがレベルが上がったから項目が出来たのか、あったのが見えるようになったのかも分からないんだ。

  でも、あったのに見えなかったんじゃないかと思う項目もあるんだ」


 「そうなの、それってどんなのなの?」

  「えーとね、僕には[次のレベルまでに必要な残り経験値]っていう項目があるのだけど、これは前には見えなかった」


 「ふーん」


 ルーミエはそれ以上は聞いて来なかったので、僕はちょっと助かった気がした。

 僕はこの流れで、ルーミエが僕の[全体レベル]を聞いてくるのではないかと思ったのだ。

 そうすると、僕が色々と言っていないことをしているのが分かってしまうからね。

 レベルを上げるのに、スライムの討伐をルーミエにもさせたから、きっとルーミエはその時の様子から考えても、もっと僕はやっているだろうと思っているに決まっている。


 「まあいいわ。

  今はそれよりも、魚の罠の作り方を教えて」


 僕はルーミエの気分が変わらないうちにと思って、罠の作り方を教えた。

 罠の作り方を教えるのに、実物を見せて教えた方が分かりやすいので、僕は仕掛けておいた罠を引き上げてきた。

 良かった。 昨日は1匹も入ってなくてがっかりしたけど、今日は2匹入っていた。

 2匹なら、ちょうど言い争うことがなくて良いや、と僕は思ったりもした。


 竹を細くしたり、それを罠の形に作ったりをルーミエに教えながら、僕も自分が使っている罠を少しだけ補修したり、次に作ろうと思っていた傷薬になる草を干す道具を作る下準備をしたりした。

 少しするとルーミエも作業に慣れたのか、おしゃべりをしながら作業することが出来るようになった。


 「ナリートは凄いね。

  どうしてこんなのの作り方を知っているの?

  あたしは、魚の獲り方なんて、全然知らなかったもの」


 「魚の獲り方なんて、色々あるじゃん。

  もっと大きな魚を獲るんだったら、スライムみたいに槍で刺してもいいし。

  針と糸があれば釣ったっていいだろ。

  魚釣りって言うじゃん」


 「うん、確かに聞いたことがある気がする」


 あれっ、ルーミエは魚釣りって知らないのかな、と思ったのだけど、僕は罠だってもっと色々あるよなと考えてしまい、ふと気が付いた。

 そうだ、スライムの罠だって、もっと全然違う感じに作っても良いじゃん、と。

 僕は穴の底に、餌を入れてという形ばかり考えていたけど、何も底に餌を入れなくても良いと、ふと思った。


 なんだかまた、俄然スライムの罠作りに燃えてきた。


 「よし、ルーミエ、魚焼いてくるけど、内臓を取ったりの下拵え、ルーミエもする?」


 「今日はいい。 今は魚の罠作っているから」


 僕は魚の下拵えをして、いつもの場所に小さな焚き火をして、そこに魚の串を刺して炙っているうちに、今度は餌にする内臓を少し長い竹の先に括り付けて、スライムの罠の真ん中に反対側を刺して、立てた。

 今までは下に置いていた餌を、逆に一番上の方に付けたのだ。


 僕は灰で作った、スライムが入ってこない場所は絶対でないことを知ったので、竹を刺すと大急ぎで中洲に戻った。

 こっちは川の水で隔たっているから、今のところ入ってくるスライムを見たことはないから、灰で遮ったところよりは安心だと思う。


 スライムは僕が離れると、すぐに集まって来た。

 スライムだって、怒らせなければ、少なくともそんなに人間に自分から近づいては来ない。

 集まってきたスライムは、次々と罠の穴の中に入って行き、見てると餌が先に付いている竹を次々と登り始めた。

 なんだか競争をしているみたいに何匹もが争って登っている。 ちょっと面白い。

 僕とルーミエは、そのスライムたちの動きを食い入るように見てしまった。


 「あ、落ちた」

 ルーミエがそう言った瞬間、2人で笑ってしまった。


 穴の下から登ったのでは、もう絶対に間に合わないと思ったのかどうだか、1匹のスライムが穴の縁から、突き出ている竹の棒にジャンプしたのだが、その竹を登っていたスライムに邪魔されて、竹に取り付けず、下に落ちたのだ。

 あれっ、これって初めて僕の作ったスライムの罠に、スライムが落ちた瞬間じゃないのかなと、頭の隅でチラッと思ったのだけど、それよりもスライムの競争が面白くて、それを見る方が優先されてしまった。

 それからも数匹飛びついたスライムがいたのだけど、飛びついて竹に取り付けたスライムの数は少なく、落ちるスライムが多かった。

 途中からは飛びつくスライムはいなくなり、体を細長く伸ばして、一部が竹にくっついてから、そっちに渡るスライムが出てきて、面白く無くなってしまった。

 それでも最初に登り始めたスライムがやはり一番早くて、餌はそのスライムがほぼ独占してしまったようだ。

 餌をそのスライムが取り込んでしまうと、匂わなくなったのだろうか、スライムは一斉に散って行ってしまった。


 僕はそのスライムたちを見るのに夢中で、またしても魚を少し焦がしてしまった。

 でもルーミエも僕と一緒にスライムを見るのに夢中だったからだろう。 前に焦がしてしまった時には僕に文句を言ったけど、今回はルーミエは文句を言わずに食べていた。


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