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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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スライムの罠は難しい

 ルーミエと一緒に川に行く前日は、ルーミエは一緒に行くために普通の日常に戻ろうとしていたみたいだけど、僕はまだシスターの部屋で静かに休んでいるのだと思っていたから、自分のことに集中していた。

 何をしていたかというとスライムの罠作りだ。


 僕が考えたスライムの罠は、単純に穴の中に突き刺さる棒が何本も立っているというだけのことで、穴の準備も棒というか突き刺すための竹の準備も終わっていた。

 その日ぼくはいつも通り、大急ぎで柴刈りを済ますと、棒を穴のそこに突き刺して立てるという罠作りの最後の工程を一番に行った。

 そうしてスライム用の罠を完成させてから、川に仕掛けた魚獲りの罠を見ると、都合よくその日は2匹の魚が掛かっていた。


 僕はいつも通り魚を捌くと、その内臓をスライムに向けて放り投げずに、その日は作ったスライム用の罠の中に投げ込んだ。

 そうしてから僕は魚を焼いて食べた。

 魚を焼いたり、食べたりしている間に、スライムたちは魚の内臓の臭いに誘われたのだろう、僕の作ったスライム用の罠にたくさんのスライムが集まった。

 僕はそれを見て、上手くいったと思って嬉しかったのだけど、スライムが集まっている中に入って行って、罠がどうなっているかを確かめる訳にもいかないし、小さい子が体を洗うのを手伝う時間が迫っているので、その場を離れた。


 僕は孤児院に戻りながら、自分に取って都合の良い想像をしていた。

 スライムは弱いスライムでも討伐すれば1の経験値になるのだから、僕の罠師としての特別で、罠でそれをすれば、もし1匹討伐できていれば1は確実に経験値が入るはず、もし2匹だったら、3の経験値が入るかも知れない。


 だから僕はその日は水場にもうルーミエが来ていたことに、ちょっと意外に思ったりしたけど、ちょっと上の空で、早く夜にならないかなと思っていた。

 早く寝床の中で[次のレベルに必要な残りの経験値]の数がいくつ減っているのかを確認したかったのだ。

 そんな風に思っていると、時間はなかなか過ぎて行ってくれない。


 夕食の前にルーミエが

 「シスターに、明日もナリートと一緒に行って良いという許しを、ちゃんともらったよ」

と言いに来た時もちょっと上の空で、ルーミエに文句を言われた。

 「ナリート、さっきからずっと他のことを考えているでしょ」


 夜になって、寝床の中でワクワクしながら自分を見てみる。

 [次のレベルに必要な残りの経験値]は1減っているだけだ。

 「1だけか」と僕はがっかりした。


 あれっ、考えてみれば僕は2匹の魚を獲った。

 少なくとも4匹魚を獲ると、1の経験値になったから、2匹の魚を獲ったということは最低でも0.5の経験値に魚はなっているはずだ。

 スライムは普通に討伐すると経験値は1だけど、罠師という職業の説明を読むと、罠で討伐すれば1.5の経験値になるはず。

 だとしたら、1匹でもスライムをやっつけられていたら、1.5+0.5で最低でも2は経験値が減るはずじゃないだろうか。


 「ということは、あんなに罠にスライムが集まったのに、スライムは1匹も罠で討伐されなかったんだ」

 僕は本当にがっかりした。

 竹を切ってくるのはそれ程じゃないけど、穴を掘るのは最初はとても苦労したのに、作った罠は全然役に立たなかったのだ。

 何が悪かったのだろう、穴に落ちたら、1匹くらいは竹が良いところに刺さって、討伐されたって良いだろうにと僕は思った。

 そのくらいスライムは一気に集まっていたりしたのだ。


 その次の日は、ルーミエの希望が通って、ルーミエと一緒だったのだけど、僕はルーミエに魚を食べさせないととは思っていたのだけど、川に向かって歩いて行く時なんかは、ついついなんで罠にスライムは1匹も掛からなかったのだろうと考えてしまっていた。


 「ナリート、私と一緒に行くのが嫌なの?」

 僕はルーミエにそう言われてしまった。


 「ごめんごめん、そうじゃないんだ。

  スライムを罠で仕留めたいって話をしたじゃん。 それが昨日全く上手くいかなかったんだ。

  それでどうしてダメだったんだろうと考えていたんだ」


 ルーミエは、「それなら良いけど」と簡単に許してくれた。


 とりあえず僕はルーミエを川の中洲に連れて行く。

 中洲へはまた負ぶって連れて行ったので、その時にルーミエを見てみる。

 ルーミエの[体力]は『とても』が取れていたけど、まだやっぱり『危険な状態』だった。

 レベルを上げたからといって、それだけではやっぱり変わらないんだ、と改めて知らされた感じだった。


 僕はルーミエに袋を作る作業を中洲でまずはさせて、僕自身は大急ぎでなるべく近くで柴刈りをした。

 僕が柴刈りを終えて戻ると、ルーミエの袋作りはちょうど終わるところだった。

 ルーミエが自分で身につける道具だから、そんなに大きな物ではない。

 今のルーミエでは、大きな物を作っても、それに見合うだけ物を入れて、身につけて動くなんて体力がないから出来ないからね。

 本当に石のナイフ1つと、地面に字を書いたりするのに都合が良い木の棒を入れておくのに都合が良い程度の小さな袋だ。 肩から下げられるように紐も付けた。


 「見て、ナリート、出来たよ」


 僕そのルーミエに「それじゃあ」と、僕の袋の中に入れておいたルーミエ用の木の柄を付けた石のナイフと、字を書くとき用の棒を差し出した。

 ルーミエはそれらを僕から受け取って、自分の袋に入れて身につけて、とても満足そうだ。


 まあ僕の袋の中だって、用途に合わせた石のナイフがいくつかと予備の石のナイフと、字を書く用の棒と、あとは紐というかロープが少し入っているだけで、ルーミエと大差はない。 袋はもっと大きいけどね。

 

 僕は川の中の罠に魚が掛かっているか見る前に、スライム用に作った罠を見に行った。

 本当は川に来て一番最初にどうなっているかを見てみたかったのだけど、それをするとルーミエに何だか揶揄われそうな気がして我慢していたのだ。

 見に行ってみると、昨日スライムの餌として魚の内臓を放り込む前に見た時と全く変わっていない。

 魚の内臓を中に落としたのにその痕跡も無いということは、スライムはしっかりとそれは食べたのだろう。

 中の竹も、幾らかはスライムを倒さないまでも、スライムに刺さって傷んでいるのではないかと予想していたのだけど、その形跡もない。

 作った時のまま、全く違いが無いように見える。

 これは一体どういうことなんだろう、と僕は思った。


 もし今日も昨日と同じことをしたら、きっと同じ結果になってしまうと思ったので、僕はどうしようかと考えた。

 昨日は、魚の内臓を投げ込んで、スライムが集まっていくのをちょっと見ただけで、大急ぎで魚を焼いて食べて、孤児院に戻ったのだけど、今日はルーミエも一緒だから、ほんの少しだけど時間があるかなぁと思った。

 僕はもっとちゃんと、集まったスライムが罠でどんなことになっているか見てみようと決心した。


 とはいえ、投げ込んだのでは、罠でスライムが何をしているのか見ることができない。

 もっと近づかないと、穴の中を覗き込めないからだ。

 だけど罠に近づくということはスライムに近づくことで危険が大きい。


 「スライムはこちらで何かしら攻撃的なことをしなければ、あまり向こうから攻撃して来ることはないし、動きも普通はそんなに速くないのだけど、穴の中を見るには集まったスライムの中に入っていかなければならなくなっちゃうからなぁ」


 僕は最初頭の中に竹馬に乗ってという姿を思い浮かべたのだけど、それは絶対にスライムを踏んだり、蹴飛ばしてしまったりしそうだ。

 そうしたらいくら竹馬に乗っていても攻撃してくるだろうし、余計に動きが取れないと思って、その案はすぐに諦めた。


 良い案が思いつかないので、諦めてルーミエと川の中の罠を見てみようかと思った時に、ルーミエが「スライムは灰を撒いたところには近づかない」と言ったことを思い出した。

 それならと思って、僕は罠のところから両側に灰を撒いた道を作った。

 罠の中が見える位置で道を閉じて、その道の中にはスライムが入ってこないようにした、ルーミエが言うことが本当ならばだけど。


 これだけの準備をなるべく手早くやったつもりだったのだけど、ルーミエは僕の方を眺めているが、待ちくたびれたような感じだった。

 急いでルーミエと川の中の罠を見ると、今日もうまい具合に2匹魚が掛かっていた。

 良かった今日は1匹づつ食べられるから、ルーミエと言い争わなくても済む。

 そんなことを思っていたら、ルーミエが言った。


 「ナリート、今日は私に魚の捌き方を教えて。

  待たせたんだから、教えてくれても良いでしょ」


 「えっ、でもルーミエにあげた石のナイフは、竹を細く割ったり、木を削ったりに使うための大きさのだよ。

  魚を捌くには大きすぎるし、魚を捌くにはもっと刃を薄くしたやつでないと上手くできないよ。

  そういうのには、まだ柄を取り付けてないから、ルーミエが使うとまた怪我をするかも知れない」


 「魚を切って内臓を取り出したりするのは、竹を割ったり、木を削ったりみたいに力を入れてしなければならないことじゃないでしょ。

  手を切らないように気をつけてやるから、私にも教えてよ」


 待たせてしまっていたから、僕は渋々ルーミエの分の魚を捌くための小さなナイフを前に集めておいた石を割って作ってやり、1匹づつ魚を一緒に捌いて、魚の捌き方と、それからついでに串の打ち方をルーミエに教えた。

 ルーミエは危なげなく、それらの作業をして、ちょっと心配したけど、怪我はしなかった。


 さて、スライムの餌となる魚の内臓も出来たので、先に僕は焚き火をして、魚を火の近くに刺しておいてから、実験をすることにした。

 もしルーミエの言うように灰をスライムが嫌わなかったとしても、焚き火のところに逃げればスライムは絶対に追ってこないだろうからだ。

 水の中に逃げ込めば良いのだけど、ルーミエの方に逃げて行くのは何だかカッコ悪くて嫌だ。


 僕はちょっと大きい葉っぱの上に集めた内臓を持って、灰で区分けした道の部分を通ってスライムの罠に近づく。

 魚を焚き火まで運んだ時よりも、内臓の方が臭いが強いためか、スライムがより素早く多く集まってきている気がする。

 僕はドキドキしながら、内臓を持って道をスライムの罠に近づいて行く、ダメだと思ったら即座に投げて、逃げる気満々だ。

 ルーミエが見ているから、平然としていたいのだけど、僕は恐る恐るという感じで罠の方に近づいて行った。

 その僕の方にスライムが集まって来たのだけど、どうやら本当に、スライムは灰を嫌うみたいで、灰で区切られた道の中には入って来なかった。

 僕はちょっと安心して、今度は少し急いでスライムの罠に近づき、その中に魚の内臓を落とした。

 スライムの関心は、僕からは離れ、スライムは罠の中の餌に殺到して行った。


 この罠に殺到しているスライムを僕は間近と言って良い位置から見ていたのだけど、これはダメだとすぐに思った。

 穴の上から落ちて、穴の底面に突き立ててある竹にスライムが刺さることを想像していたのだけど、スライムは穴の中に落ちていないのだ。

 スライムは、穴の上から落ちないで、穴の側面を普通に移動して穴の底まで行き、穴の底に立ててある竹はすり抜けて、何の苦もないという感じで餌に到達してしまったのだ。

 これでは罠になっていない。

 そして、すぐに餌の内臓を食べ尽くして、スライムは穴から今度は側面を簡単に登って去って行った。


 昨日もちゃんと気をつけて見れば、すぐに罠の場所からスライムが去って行ったのに気が付いただろうな。

 僕はがっかりして、ちょっと呆然とそんなことを考えてしまった。

 それに気を取られて、魚を焦がしてしまって、僕はルーミエに文句を言われた。


 

 「ナリート、今日は時間が無くてダメだったけど、次の時は柴刈りはしなくて良い日だから、今度は魚獲りの罠の作り方をちゃんと教えてね。

  それから今日は薬になる草を採らなかったけど、今度はちゃんと採ろうね」


 孤児院への帰り道、ルーミエは僕とは違いご機嫌で、そんなことを話しながら歩いている。

 ふと考えてみれば、川に行ってルーミエが普通に自分の足で歩いて帰って来るって、初めてのことかも知れない。

 ちょっとは体調が良くなったのかな、と思って嬉しかったのだけど、他のことが忙しかったり気になっていたりしたので、ルーミエのことをゆっくりと見てみていないのに気がついた。

 ルーミエは本当にご機嫌で、僕の真似をして竹の槍を一本持って歩いているし、水筒も自分の分が欲しいと言い出した。

 手を繋いで歩けば、ルーミエのことを見ることも出来ると思ったのだけど、何だかそんな感じではなくて、言い出せずにそのままになってしまった。


 孤児院に着いてもルーミエの上機嫌は変わらず、何だかウキウキした感じで、水場に急いだ。

 きっと出来上がった袋をシスターに見てもらうつもりなのだろう。

 僕も取って来た柴を、決められたところに持って行ってから、次の仕事の小さな子の体を洗う手伝いのために、水場に向かった。

 先に着いていたルーミエは、まだ小さい子が来てなかったので、自分の手足を洗っていたので、僕もそれに倣う。


 そうこうしていると、人が近づいてくる気配がした。

 ルーミエはシスターに見せようと、自分で作った袋を取りに行こうとしたのだけど、近づいて来る人の気配がいつもと違うので立ち止まった。

 小さな子が酷く痛がって、泣き喚く声と、それに伴っていつもより急いで近づいてくる音が聞こえて来たからだ。

 泣いている子は、シスターに抱かれてやって来た。


 「あら、ナリートくんとルーミエちゃんは、もう来てたのね。

  でも今は、この子のことが先ね」


 シスターはそう言って、抱いていた子を降ろして、自分で水を汲んで、その子の手当を始めた。

 その小さな子は、転んで主に膝を怪我したみたいなのだが、僕も覗き込むようにして見てみると、転んだ場所が悪かったのだろう、怪我の中に少し大きめの砂つぶがたくさん食い込んでしまっている。 これは確かに痛そうだ。

 水で傷口を洗い流したが、まだ傷にたくさんの砂つぶが食い込んでいて、このままではシスターでもヒールを掛けられない。


 砂粒が食い込んでしまっていて水で取れないとなると、細かいのを一つづつ細くて尖らせた串のような物で取らないとダメかな、と僕は思った。

 うっ、考えただけで痛そうだ。


 シスターはどうするのかと思っていたら、手の平を傷に向けて僕の知らない魔法名を唱えた

 「イクストラクト」

 小さな子の膝の傷に食い込んでいた砂粒は、全部取れて、すぐ近くにまとまって落ちた。

 シスターは、一応っていう感じで、傷をもう一度確かめると今度は

 「ヒール」

と同じように唱えた。 それから転んだ時に一緒に怪我したのだろう、その子の手にもヒールを掛けてやっていた。

 大泣きしていた子は、ケロッと泣き止んで、自分と仲の良い友達の方へと近づいて行ってしまった。


 「ふうっ、これで大丈夫ね」


 シスターはそう言うと、僕たちの方を見て、「またいつものようにお願いね」と次の小さい子を連れに行ってしまった。


 「やっぱりシスターは凄いね」


 ルーミエは小さい子を洗ってやりながら、僕にそう話し掛けて来た。

 僕ももちろん同じ風に思ったし、今まで見たことのない魔法を見たことに興奮していた。


 「うん、やっぱり本当にシスターは凄いや」


 「私もあんな風に、誰かを治せるようになれるかな」


 「ルーミエなら絶対なれるよ」


 「さっき言うの忘れちゃったけど、今度はヒールも教えてね、私も使えるようになれるのでしょ」


 そうだった、ルーミエはヒールが使えるようになりたくて、スライムの討伐をしたのだった。


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