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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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シスターだから出来ること

 僕がルーミエをおんぶしたまま、シスターを探そうとしていたら、さすがにみんな何事かと思って、近付いて来た。

 僕は「ルーミエが熱を出して倒れてしまった」と言って、みんなにシスターの居場所を教えてもらおうとした。

 そんな感じで少しその場が騒ぎになったからだろうか、探すまでもなく、シスターの方で僕の方にやって来た。


 「ナリート君、どうしたの?」


 「シスター、ルーミエが気持ちが悪いと言って倒れちゃって、そうしたら凄い熱で」

 うん、僕は嘘は言っていない。


 シスターはルーミエの額を触ってみると、「これは大変」と言って、僕にルーミエを負ぶったまま一緒に来るようにと言った。

 シスターが向かったのは自分の部屋だった。


 自分の部屋に着くとシスターは、僕も前に寝たことがある補助の簡易ベッドを、畳んである状態から大急ぎで組み立てて、洗ってあるシーツを棚から取り出して掛けた。

 「そこに寝かせて、そしたら桶に水を汲んで来て」

と、僕に指示した。


 僕が水を汲んで来ると、シスターはその水に布を浸して絞ると、横向きに寝かされているルーミエの首筋に当てた。

 「本当に調子の悪い時は右向きに横向きで寝かせるのよ。

  上向きに寝かせると、苦しくなっちゃうことが多いのよ。

  それから熱が本当に高い時は、頭を冷やすのではなくて、首筋を冷やしてあげる方が良いのよ。

  ナリート君も覚えておくと良いわ」

 シスターは自分がしていることを、僕にそう解説してくれたが、すぐに

 「ナリート君は、もうみんなの所に戻りなさい」

と、僕を部屋から追い出した。


 僕はルーミエが倒れて、ちょっと慌てたけど、シスターに預けることが出来たので、落ち着きを取り戻した。

 思い出してみると、僕も一番最初の時は冒険者さんに負ぶってもらって、ここに戻って来たんだった。

 その時に冒険者さんから、初めてスライムなんかを倒した時は、子供だったりすると気持ちが悪くなって倒れてしまうことがよくあると聞いたのだった。

 僕は、ルーミエのレベルを上げることばかり考えていて、そんな問題があることは全く忘れていたのだ。


 「でもまあ、病気で調子が悪くなった訳じゃないし、シスターの部屋に寝かされているなら、目が覚めれば食事もしっかりと食べさせられるから、かえって好都合かもしれないな。

 レベルが2になって、ちゃんと食べれば、きっと死にそうな状態じゃなくなるんじゃないかな、そうなると良いな」

 僕は、ルーミエのレベル上げが、ちょっとだけ焦ったけど、上手くいったと思って、なんだがとても嬉しい気分になった。


 「ナリート、何だかとてもウキウキしているけど、ルーミエが心配じゃないの?」


 僕は寝る前に隣のジャンに、そんな風に言われてしまった。

 確かに、倒れたルーミエを背負って、僕は連れて来たのに、シスターに預けた後は上機嫌なのは、ちょっと不自然かもしれない。


 「うん、倒れてしまったのを背負ってきた時は焦っていたけど、シスターに預けたからもう大丈夫だと思ったら、何だかすごく安心しちゃって」


 「うん、そうだね。 シスターに任せとけば大丈夫だもんね」


 ジャンもなんとなく納得してくれたようだ。


 その晩は、その日はそれでも色々あったからだろうか、自分のことを見てみるという、最近では1日の最後の習慣になっていることを僕は忘れた。

 だけど、眠りに落ちる寸前に、僕は全ての荷物を置きっぱなしにして来たことを急に思い出した。


 その翌日、前日にルーミエにスライムを倒させた場所に行くと、槍は2本ともちゃんとその場に転がっていた。

 他の物は中洲に置いておいたのだが、そっちもちゃんと無事だった。

 でも僕は、前日は魚の罠を仕掛けるのを忘れたことにも気がついた。

 魚の罠を作ってから、ずっとちゃんと獲れていたので、僕は何だかとても損をした気持ちになってしまったけど、仕方ないので一番最初に魚の罠を仕掛けた。

 普段とは順番が違ってしまったけど、それから僕は柴刈りを急いでして、スライムの罠作りをした。


 スライムの罠は、どうしたら良いか分からなくて、一番簡単なことを考えた。

 穴を掘って、その中に竹を突き立てておいて、落ちて来たスライムがその竹に刺されば良いと思ったのだ。

 スライムは核に刺さらないとダメージを受けないだろうけど、穴の中に餌を入れて、それに誘われて何匹か落ちれば、中には核に刺さるスライムもいるのではないかと思うのだ。


 僕はそう思って、その日は残った時間を使って一生懸命に穴を掘った。

 穴を掘るのに使った道具は、もう使えなくなった槍の残骸だ。

 最初、河原に穴を掘るのは、石に突き当たるばかりだから、全然掘ることが出来なかった。

 少しして、僕は埋まっている石が、分かろうと思うと、どんな形の石だかわかることを思い出した。

 埋まっている石の形が分かると、どこをどうすれば効率良く穴を掘れるかが分かって、それからは良い調子で穴を掘ることが出来た。

 穴から取り出した石は、穴の深さというか、スライムが落ちる高さを得るために、後で穴の周りに積み上げることにした。

 僕は、1番の問題は、スライムが落ちる高さがないと、穴のそこに植えた竹に、スライムが刺さらないのではないかと思ったからだ。


 その日は穴を掘ってお終い、少し早めに孤児院に戻ることにした。

 ルーミエはシスターの部屋で寝ているはずだから、小さな子が体を洗う手伝いは僕1人でしなければならないだろうからだ。

 僕らよりも小さい子が水を汲むのは、なかなか大変な作業なんだよ。


 僕がいつもよりも1人だからちょっと忙しい思いをして、小さい子の世話をする。

 小さい子たちはルーミエがいなくても、僕にもう懐いているので、別に問題になることはないのだけど、僕1人だけだから、いつもより構われたくてまつわりついてくるのがちょっと大変だった。

 そんな風にしていると、小さい子たちを次々と連れて来ていたシスターが最後に言った。

 「ナリートくん、ここが終わったら後で私の部屋に来てね。

  ちょっと話を聞きたいわ」


 シスターに、話を聞きたいからと呼び出されるというのは、全く考えていなかった。

 何か怒られるのかな、と僕はドキドキしてしまった。

 シスターに怒られるようなことはしていないと思うのだけど、いや、やっぱりそんなことないな、勝手にルーミエにスライムを討伐させたりしているから、それが・・・。

 でも、ルーミエがそのことをシスターに話すとも思わないのだけど。

 あれっ、僕はルーミエに口止めしたっけ、いやしなかった気がする、というか、する前に倒れて焦ってしまって、そんなことを考えている余裕もなかった。

 だめだ、シスターに完全に怒られる、と僕は悟った。


 僕が暗い顔をして、シスターの部屋に行こうとすると、隣の寝床のジャンに声を掛けられた。

 「ナリート、どこ行くの? 何だか元気ない感じだけど」


 「うん、シスターに部屋に呼ばれた。

  たぶん、怒られる」


 「あっ、もしかしてだけど、ルーミエのこと、ナリート、シスターに怒られるようなことがあるんだろ」


 「そんなことないのだけど、そうとも言えないというか、いや、あるというか」


 「なんだ、はっきりしないな。

  怒られるときは、きちんと怒られた方がいいよ」


 「そうだね、ジャン、ありがとう、怒られて来る」


 シスターの部屋を訪ね、ちゃんとドアを叩いて「ナリートです」と言うと、即座に「入って来て」と答えがあった。

 中に入ると、ルーミエはもう起きていて、寝床に座っていて、その近くにシスターは居た。


 「ナリートくん、ナリートくんからもルーミエちゃんに言って、まだ寝てないとダメだと。

  ルーミエちゃんは、『もう大丈夫です』と起きて普通の生活に戻るつもりなのよ」


 僕はルーミエに近づいて行って、額に手を当てた。

 良かった、もう熱は引いている。

 ついでにほんのちょっとだけ、ルーミエのことを見た。

  [全体レベル] 2

 よしっ、予定通り、ルーミエのレベルは上がっていた。 僕は嬉しくて顔がニコニコしちゃっていた。


 「ナリートくん、ニコニコしてないで、ちゃんとルーミエちゃんに、まだ寝ているように注意して」

 シスターに僕はまたそう催促されてしまった。 シスターは自分が座る椅子を運んできた。


 「ルーミエ、まだちゃんと寝てないとダメだよ」


 「ナリートも触ってみて分かったでしょ、もう熱無いよ。

  だからもう大丈夫だって、シスターにナリートからも言って」


 「いや、まだ寝ていた方が良いよ。 シスターの言うことは、ちゃんと聞かないと」


 ルーミエが味方をしなかったら、ちょっと膨れっ面をした。

 シスターは持って来た椅子に自分で座ると、僕とルーミエに向かって行った。


 「ルーミエちゃんは、まだ横になっていなさい。

  ナリートくんも、そのベッド、ルーミエちゃんの足の方に腰掛けなさい」


 シスターのいつもとは違う命令調の声の感じに、僕だけでなく、ゴネていたルーミエも即座にその言葉に従った。


 「確かに、ルーミエちゃんの熱は引いたし、体調も連れて来られた時からみると、あっという間に良くなったように見えるわ。

  それはとても良かったのだけど、こういう症状は、私はつい最近も見た覚えがあるわ。

  ね、ナリートくんも心当たりがあるんじゃない?」


 僕はやっぱり雲行きが怪しいと思って、なんと無く背中がモゾモゾした。


 「えーと、僕がですか。

  ルーミエの熱が下がっていて、気持ちも悪くないようで、良かったな、と思ったのですけど」


 「こういう風に、一晩でケロッと良くなっちゃうのって、ナリートくんも経験したよね」


 「はい」


 「昨日、2人で何をして来たか、私にちゃんと説明しなさい。

  先に言っておくけど、嘘をつくと私には分かるから、正直に答えなさい」


 これは駄目だ、シスターは完全に僕のしたことに気づいていると僕は思った。

 ルーミエが、変なところに食いついた。


 「シスターって、誰かが嘘をついているのって分かるんですか、凄い」


 そんなところに食いつかれるとは思っていなかったらしいシスターは、ちょっとだけ気が抜けた感じで言った。

 「誰でも、という訳にはいかないけれど、少なくともあなたたちの嘘は確実に分かるわ。

  シスターにはね、あまり公にされていないけど『真偽の耳』という、シスターという職業特有の能力があるの。

  今はその能力を使って、あなたたちの話を聞くわ。

  だから、嘘はすぐに分かるわ」


 「そんなあまり公にされていない能力のことを僕たちに話してしまって良いのですか?」

 僕はちょっと心配になって聞いた。


 「別に秘密ではないのよ。 ただそんなに口にしないし、宣伝しないだけで、シスターにそういう能力があることは多くの人に知られているから。

  それに、もっと上のシスターは別だけど、私程度が使える能力では少し立場がある人なんかだと、もう能力が効かないから、問題にはならないのよ」


 僕はちょっと含みのある言い方だな、と思った。


 「とにかく今はそれはいいの。

  さ、早く昨日何をしたか白状しなさい」


 もう僕は観念して、シスターに言った。

 「ルーミエに、スライムを1匹討伐させました」


 「やっぱりね、そうだと思ったわ」

 シスターは自分の推測が合っていたことを、ちょっと呆れたという感じで言った。

 「なんで危ないことを、させたの?」


 「ルーミエのレベルを一つ上げて、強くしたいと思って」


 「あ、そうか。 ナリートくんはスライムを討伐すると強くなるのを知っていたものね。

  でも、スライムを討伐することは、とても危険を伴うことだってことも十分に知っていたわよね。

  それに、初めての討伐のあとは、気分が悪くなって倒れてしまって、それから熱も出るということも、自分で体験したんだからちゃんと知っていたよね」


 「危険はないように、十分に注意したし、もしも上手く出来なかったときは、僕がスライムと戦っている間に、ルーミエは逃げることになっていた。

  ちゃんと1匹だけ離れたところにいるスライムを狙ったし」


 「でも、危険なのだとは思ってもいたのよね。

  ルーミエちゃんに危険だとは教えなかったの?」


 「シスター、スライムが危険だという話は、ナリートからちゃんと聞いた」

 横になっているルーミエがちょっと口を出した。


 「ルーミエちゃん、なんで危険だと分かっていたのに、スライム討伐なんてしたの?」


 「だって、レベルが上がれば、私もシスターみたいにヒールが使えるかもしれないって思ったから。

  シスターみたいに凄いヒールが使えなくても、ナリートみたいに使えるだけでも凄いから、私も使えるようになりたいから」


 「ナリートくん、そんなことを言って、ルーミエちゃんにスライム討伐をさせたの?

  ルーミエちゃんが強くなったって、ヒールが使えるとは限らないでしょ。

  いえ、私と違って職業が村人のルーミエちゃんがヒールを使えるようになることは無いわ」


 そこまでシスターは一気に言ったかと思うと、急に言葉が止まった。

 あれ、何かおかしいと、シスターは考え込む顔をしてルーミエに向かって言った。


 「ルーミエちゃん、今、ナリートくんみたいにヒールを使いたいって言ったわよね」


 「シスター、私、ヒールが使えるようにならないの?

  私もナリートみたいにヒールが使えるようになりたいのに」


 ルーミエはちょっと泣きそうな声になってシスターにそう言った。

 僕は慌ててルーミエに言った。

 「ルーミエ、前に言ったけど、ルーミエは確実に僕より上手にヒールが使えるようになるはずだ。

  それは絶対だから、そんな泣きそうな顔をする必要はないぞ」


 「えーと、ちょっと待って、話を整理しよう。

  まず、ナリートくん、本当にヒールが使えるのね。

  ナリートくんも職業は村人だったわよね、それなのに何故ヒールが使えるの?」


 「シスター、前にも言ったけど、僕、自分のことは自分で見て分かるんです。

  それで、僕は職業は村人ではないんです」


 「嘘ではないわね。 本当に自分のことが見えていたのね。

  今はそれはとりあえず良いわ。

  それでどうして、ナリートくんはルーミエちゃんはヒールが使えるようになると言うの?」


 「シスター、何故か分からないけど、僕、ルーミエも見えるんです。

  そしたら、ルーミエの職業も見えて、ルーミエも村人じゃなかったんです」


 「それでヒールが使えるようになると確信したというのね。

  ナリートくんに見えたルーミエちゃんの職業って、ナリートくんがルーミエちゃんは絶対にヒールが使えるようになると確信した職業って、一体なんだったの?

  もしかしてルーミエちゃんもシスターだったの?」


 「いいえ、シスターじゃないです。

  ルーミエは、聖女です」


 「聖女!!?」

 シスターは驚いて椅子から立ち上がった。 立ち上がらないと椅子から転げ落ちそうだったのだ。


 「私が聖女?」

 横になっていたルーミエも体を起こして、そんな馬鹿なという顔をしていた。


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