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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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道の建設始まる

 僕たち測量班の最初の測量は、練習を兼ねて城下村から町までの道の地図作りだった。


 城下村から町までの道は、城下村を作り始めた時に、最初にやって来た文官さんに命じられて、当時の僕たち主要メンバーがヘロヘロになるまで働かされて、やっとの思いで作った道が元になっている。

 城下村から、最初は城下村で利用している川、そんなに水量の多い川ではないから沢と言う方が正しいかも知れないけど、とにかく川沿いを下っていく。 その部分はある程度直線に近くて分かりやすいのだけど、町はその川の反対側にあって、向こう側に渉る辺りから、クネクネと少し曲がりくねっている。

 というのは、向こう側に行くのに橋がある訳ではなくて、というかそれ以前に川が東西に流れる本流に辿り着く前に、傾斜が緩くなるためか、川ではなく沼地というか湿地帯になってしまうのだ。 僕たちの作った道は、その湿地帯の比較的高くなっていて乾いている部分を繋いで、反対側に渉る道を作っているのだ。 当然所々、小さな流れを横切るのだけど、最初はその小さな流れは跨いだり、飛び越えていたような道だ。

 さすがにそれでは荷物を運搬する台車を動かすのにも苦労するので、徐々に改良されて、日干し煉瓦ではなくちゃんとした煉瓦を作るようになってからは、小さな橋を作っていたりもする。 道自体も、城下村の者は町と往復する時は誰もが何らかの手入れ改修をすることを半ば義務付けていたから、今ではかなり良い道になっている。


 それでもまあ、測量の練習をするには、直線もあれば曲線もあるし、城下村に直接道で繋がっている唯一の場所が町だから、ちょうど良かったのだ。


 その練習の測量で出来上がった、城下村から町までの道の地図は、予想はしていたのだけど、僕の考えていた以上に曲がりくねった道だった。 単純に歩きやすい部分を繋いで作った道だから仕方ないのだけど、自分たちが歩いている印象以上に、クネクネとしていたのだ。


 「こんなにも道はクネクネと曲がっていたのか。 これではここと町を直線で結んだ距離と比べると倍以上の距離になるんじゃないか」


 出来上がった地図を見て、領主様はそう言った。


 「倍どころじゃ無いです。 最短の直線で結んだ距離と比べたら、3倍近いです」


 「うーん、今までは割と良い場所を選んで、短い距離で結んでいるような気がしていたが、こうして実際に地図にしてみると、とても遠回りをしている気がするな。

  この道を作った時には出来なかったが、今ならば、もっとちゃんと最短で結ぶ道を作れるんじゃないか」


 確かに今ならば、湿地帯で渡れる場所を見つけなくても、川に橋を架ければ、もっとずっと直線的に町とこの城下村をつなぐ道を作ることが出来る気がする。 土木工事に使う魔法が使える者も当時とは人数が全く違うし、使える技術や資材も違う。


 「そうですね。 今なら、もっとずっと真っ直ぐに繋げる道を作ることが出来ると思います。

  でもそれをやるとしても、先にここと関所を繋げる道を作った後ですよ。 今回の測量はそのための練習なんですから」


 「そうだったな。 当初の目的を忘れてはいかんな。

  それにしてもこうして地図にしてみると、この城下村の位置が、今となってはこんなに村作りに適していた場所に思えるのに、お前らが開拓するまでそのまま残っていた理由が良く解るな」


 そう、この城下村の場所を開拓するには、どうしても町との行き来が必要になると思うのだが、その間を繋ぐには湿地帯を通るしか方法がないのだ。 僕らはその当時でも全く問題にしていなかったが、湿地帯と川に沿った場所にはスライムが多く生息している。 そのスライムやそこを少し離れた草地に住む一角兎の脅威に対処できないと、この場所を開拓することは不可能だったのだ。

 スライムと一角兎を問題にしないで狩ることが出来るなら、普通は冒険者をしていた方が簡単に生活が成り立つから、わざわざ苦労したり、お金をかけて開拓なんてしない。 僕らは逆に、自分たちのしっかりとした居場所を作りたかったから、スライムや一角兎を狩ることが出来るようになったようなものだ。


 城下村から町までの測量で、技術習得は大体出来たから、僕らはまずは関所の場所を測量して、地図に場所を記す。 変に頭の中に知識のある僕には、かなり大まかな位置確定に思えるのだけど、道具の精度なんかを考えれば精一杯だ。 そもそも東西南北の方向をそれぞれの場所で確定することだって、太陽の位置頼りだし、きちんとした時計があって時間が判る訳ではないから、それを確定するのだって一日がかりの作業なのだ。

 関所の位置を測量すると、思っていた以上に城下村と直線的に繋ぐと距離が地図上では短縮出来ることが判った。 とは言ってもまだ単に地図上での位置関係だけで、直線的に繋ぐとしたら、その間の地形だとか、何らかの障害物があるかとか、何も分からない。


 「よし、これからが本番だ。 城下村から関所まで、どういうルートで道を作れば、最も最短になるかを調べるぞ」


 僕はエレナとその子分たち、いや、測量班の面々にそう言って気合を入れ直した。 測量して、それを記録したりの作業に慣れてきて、少し気分的に緩んでいたからね。 今までは道に沿って測量していたから危険は無かったけれど、今度は未開の土地を探りながら考えながら進まねばならないのだ。 モンスターだってスライムや一角兎とは限らない。 平原狼や大猪、それに大蟻なんかも潜んでいるかも知れない。 油断は禁物だ。


 僕らはなるべくは最短距離になるように直線的に道を作ろうと考えている。

 途中で川を渡らねばならないけど、基本的には草原に近い荒野に道を作るための調査をしながら進んで行く訳である。 一見では丈が高かったりする草もあるけど、平原に見える草原も実際に歩いてみれば、結構起伏はあるし、地面も変化する。

 なるべく真っ直ぐに進もうとすれば、水場からは離れているのでスライムは居ないだろうけど、灌木が生えていて歩きにくい所もあれば、窪地になっていて雨の後は水が溜まりそうな場所なんてのもあるだろう。 それにもしかしたらモンスターの巣になっている場所もあるかも知れない。

 町から城下村までの道を作った時には、そういう少しでも問題がありそうな場所は全て迂回して道を作った。 とにかく素早く道を作ることの方が重要だったこともあるけどね。 その結果が測量して地図を作ってみたら、曲がりくねった道という訳だ。

 今回は、現在の土木技術的に可能な限り、直線的に道を作ろうと考えている。 具体的には、起伏も可能な限りは土を盛ったり、削ったりして平に均したいと思っているし、邪魔な灌木も取り払う。 もし大蟻の巣なんてのが近くにあったら、当然潰す。

 そうは言っても、当然だけど状況次第だ。 盛り上がっている部分を削ると言っても、その場所がとても固かったら、やはり迂回して道を作ることになるだろう。 水が溜まりそうな窪地だって、その大きさ深さ形によっては、やはり迂回しなければならないかも知れない。

 登り降りが酷くなってしまうなら、直線にこだわらないで、そうならないように道を曲げた方が結果的には使いやすい道になるかも知れない。 歩きや乗馬しての移動ならそこまで気を使う必要はないのかも知れないけど、僕たちが前提にしているのは荷車や馬車の移動が楽に素早く出来る道だ。


 「で、ある程度の距離毎に、道にする場所の位置を測量して、後から追いかけて来る道作り本体のために目印の杭を打って行く訳ね」


 エレナがこれからの作業の確認のように言った。


 「それだけじゃないよ。

  杭を一日に何本打てるか、実際にやってみないと場所の状況によって判らないけど、例えば5本とか10本だとしても、持って行く杭の重さはかなりのモノになる。 それに加えて測量のための機材とかも常に持ち運ばなければならないのは当然でしょ。 結局、今までの練習の時と同じように、荷車を引いて行かなければならないのよ。

  そうなると、少なくとも荷車を引いて移動できるだけは、私たちが決めた道のコースを整地というか、簡単な道を作りながら行かないといけないのよ」


 「ルーミエの言う通りだな。 良かったな、前に練習した土の魔法が、今回も実践で役に立つ」


 僕はちょっとだけ挑発的に言うと、エレナの子分たちは苦笑いをしている。

 エレナの子分みたいになっているメンバーは、孤児院にいた時から狩りをすることが多くて、城下村に来てからもエレナの下になったから、城下村周辺の脅威になるモンスター、つまり平原狼や大猪狩りと、周辺の警戒調査ばかりしていて、全体レベルは上がっていたのだけど、城下村村民として一番の基本のソフテンとハーデンという土魔法のレベルが低かった。 それでエレナが別のことも担当になった時に、とても苦労したのを僕も覚えていて、それを揶揄ったからだ。

 簡単な道作りは、ソフテンで土を柔らかくして、草や灌木を排除して整地し、なるべく平にした上で、今度はその場に草が生えにくくするために表面にハーデンを掛けるという作業だ。 苦労して練習した土魔法と、土木作業の出番だ。


 「あ、そうか、そうすると整地に使う道具も、毎回荷車に積んで行かないといけないから、余計に荷物が重くなるわね。

  それに今度は当然だけど、狩りのための装備もきちんとして行かなければならない。 重量は増えるばかりね」


 エレナも思っていたよりも大変な作業になることを徐々に理解してきたみたいだ。


 とは言っても、エレナたちは狩りの装備は持ち慣れているだろうし、整地のための道具もスコップや鍬、それに鶴嘴なんてのも、そんなに重いと感じる物ではない。 やっぱり重いのは杭だ。


 杭は、僕らは木を使えないのと、今後の耐久性を考えて、竹筋コンクリートで作られている。 鉄筋にしたいところだけど、そこまでの鉄をまだ量的に作れないので、その代わりに竹を使ったコンクリート製ということだ。

 試してみたら、結構ちゃんとした強度の杭が出来たので、採用したのだ。 型枠を作るのに木材を使ったけど、それは何度も繰り返して使えるので可として、あとは材料のセメントも竹も砂に小石なんてのも簡単に手に入る材料で問題ない。

 これがダメだった場合は、仕方ないから竹杭にしなければならないところだったのだが、耐久性には大きく難があるので問題になるところだった。

 杭の頭には1本づつ記号と番後を掘り込んであって、その記号と番号で測量結果を記録し、地図上にも位置が記される訳だ。

 


 僕たち測量班は、城下村からまずは川を目指して、関所の方向に向かって真っ直ぐに測量を進める。

 測量を進めるといっても、川までは僕らも良く解っている場所で、ほぼ草地の平原だ。 現実的にはある程度の間隔で測量して杭を打っていけば用が済むのだけど、僕たちは練習も兼ねて、簡単な道も作って行く。 それをして一日にどれ位の速度で進むことが出来るかも確かめないとならない。 ま、エレナの子分たちの実力を知るのが一番の目的でもある。


 やってみたら、僕が思っていたよりも測量班の土木能力は優れていて、距離を稼ぐことが出来た。 ま、実際は城下村近くは軽くソフテンをかけて草を抜くだけで簡単に整地出来るし、その草も視界が妨げられるほど背が高くもないので、測量もサクサク進むからだ。

 地形がもっと複雑になったり、草が視界を塞ぐほど丈があったり、灌木が邪魔になるようなことがあれば、時間はもっとずっと掛かることになるだろう。


 ジャン、ウォルフ、ウィリーの3人が担当している今回の工事の本体組、新人たちも僕らの直ぐ後を追って道作りの作業に入った。

 こっちが作る道は、僕ら測量班が作った道とは違って、もっと本格的というか、今までのこの男爵領には少なくとも無かった、豪華な幅広の道だ。

 幅広というのを強調しているのは、今までは一番重要度の高かった道である町と関所を結ぶ道でも、その道は元々は歩き主体で形作られた道が徐々に自然と広がって整備された道だから、馬車がすれ違うことが出きるかどうかという幅で、出来なくて一方が他方が通り過ぎるのを待たねばならない場所もかなりあるという程度だ。 今回作る道は、馬車3台が横に並ぶことが出来る幅というのを基準にしている。 それだけの幅があれば、逆方向に向かう馬車同士が楽にすれ違えるし、そのすれ違いを待つために歩いて移動しているものが避けなくても済むだろうからだ。 そしてもう一つ、それだけの幅があれば、もしもの時に急使の騎馬がその道を無理なく駆け抜けることが出来るだろうからだ。

 

 しっかりとした広い道が、領境の関所から城下村まで最短で続くというのは、防衛上の問題になるのだけど、どうせ商隊の行き来を考えて、馬車が楽にすれ違える幅にすることになったのだから、それならもう少し拡張して使い易さを上げても変わらないだろうと、そういう規格になった。

 道の両脇には、そんなに高さはないけど土壁と、その土を盛るため堀というか溝も作る。 これは主に一角兎避けだ。 町と関所の間の道は、壁などの遮蔽物がないからか、そんなに多くはないけど、常にモンスターに襲われる危険に晒されている。 その被害の最も多いのが一角兎なのだが、馬車や騎馬では襲われないけど、歩いて移動している人は油断しているとその被害を受けてしまうのだ。

 壁が作られていると、簡単な壁でも一角兎の被害は完全ではないけど、かなり減らすことが出来る。 その位の壁では、それ以上のモンスター、平原狼や大猪を防ぐことは出来ないけど、それでも道の部分に入り込んでいた時には発見しやすいだろうし、モンスターも壁に近付くことは危険と感じると思う。


 草や灌木を撤去して整地するだけでなく、壁や溝を作るという工事はなかなか大変だけど、本当の目的である関所付近に大きな壁と堀を作る練習には、十分過ぎる内容の工事になると思う。 もしかしたら、こっちの方が本来の工事より大変になるかも知れないな、なんて思っている。


 「だけどさ、川はどうするの?

  これだけ立派な道を作って行っても、川のところが狭い橋だったら、そこが混雑してしまうんじゃない。

  それとも川の底を整地して、楽に渡れる浅瀬にでもするの?」


 ジャンが先のことを心配して、僕に聞いてきた。


 「橋に関しては、僕に案があるんだけど、ここから川までの道がしっかりしてないと、とても出来ない工事なんだ。 だから今はジャンたちは道作りを頑張って欲しい。

  その時になったら教えるよ」


 「ま、どうするかの案があるのなら良いけどね」


 ジャンはあっさりと僕に任せてくれたけど、実は腹案がない訳じゃないけど、道が横切る形になる川の場所がまだはっきりしていないから、その腹案で上手くいくかも判断できないんだよね。 最悪、川の都合の良い場所に向けて、道の方向を変えなくてはならないなんてことも考えられる。

 本当はそれがはっきりしてから、本隊の道作りを僕は始めたかったのだけど、予定が上手く回らなくて、先に本隊の道作りも始まってしまったんだよね。 だから、実はジャンにどうするかを追求されても答えられなかったんだ。 簡単に引いてくれて助かった。


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測量って大事だな、、次の更新も楽しみにしてます!
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