二人が来ると
僕とキイロさんに代わって城下村に戻ったウォルフとウィリーは、翌々日には家作りの資材を積んで、新西の村開拓地に戻って来た。
普段だったら、僕らと交代して開拓地に残る訳ではない時は、馬車で運んで来た積み荷を下ろすと、すぐに城下村に2人は戻ってしまう。 ロベルトとエレナはずっとこっちに居るし、僕とキイロさんもこっちに居る方が多くなってしまっているので、城下村で上に立って指揮をして仕事をする最初からメンバーの数が足りなくて、マイアからすぐに戻って来るようにと厳命されているみたいだ。
ちなみに一番割りを食っているのはジャンだ。 今までも機織り機作りを急かされていたのに、その相棒のロベルトがこっちに来っぱなしになっているので、独りで「私たちの分の機織り機が早く欲しい」という女性陣の日々のプレッシャーに耐えることになっている。 薄い鉄の板を型で打ち抜いて、綺麗に整形して、変形しにくくするための焼き入れとか、錆びにくくする加工とか、木工だけでなくて、手間のかかる金工なんかもあって、他に出来る者をまだ養成していないのだから仕方ない。
「ウォルフ、ウィリー、普段ならすぐに帰るのを、俺も推奨しているのだが、ちょっと帰る前に手を貸していってくれ。
どうせ馬車での行き帰りになんて魔力なんて使わないだろ。 魔力が尽きる寸前まで、煉瓦を作っていってくれ」
俺たちの先輩3人の家を作るためだから、まさか「嫌」はないよな、というキイロさんの無言の圧迫に負けて、2人は目一杯使われている。 魔力量の多い2人が手伝えば、日干し煉瓦はどんどん出来ていく。 孤児院の子たちが取ってきてくれた枯れ草を混ぜた泥を、先輩3人が型に入れ、それをどんどん2人が泥から水分を抜いていく。 ま、水分抜きは城下村から町までの道作りの時から、僕たちは随分とやってきた作業だから、慣れたものだけど、結構魔力を使い疲れる作業なんだよな。 僕は泥にするための水は出したけど、基本はまだ魔力温存で、煉瓦作りの水抜きはしていない。 2人の魔力がほぼ尽きて、城下村に出発してからの、作った煉瓦を積んで固めたりの作業に魔力を使うためだ。
魔法で水分を抜いて作ったレンガだけど、それでもやっぱり日干し煉瓦と呼ぶのだろうか。 そんなことを考えてしまった。
新西の村開拓地で作っている建物は、城下村で初期に建てられた建物と変わらない。 基本は、強度を上げるために割った竹を中に挟んだ日干し煉瓦作りだ。 城下村では屋根はもう違っているが、ここではまだ一番簡単な竹屋根だ。 柱や梁の骨材として使っているのも、壁の中に挟んだ竹も、屋根の分も、今のところはまだ城下村から運んで来ている物だ。 将来的には竹林も近くに作って、竹もここでの現地調達が出来るようにする計画だが、まだ仕方ない。
家の設計は、先輩たち3人と僕とキイロさんで話して決めたのだけど、先輩たち3人の要求はあまりに慎ましやかで、結局僕とキイロさんで決めた。 それでも僕ら2人はとりあえずの家で、新西の村がしっかりと村として機能し始めたら建て替える前提で考えた家なのだが、3人は「俺たち3人には豪華過ぎないか」と言う。 まあ、東の村の孤児院の寮を、今までは使っていたのだから、それと比べればそう感じてしまうか。
家作りは、池作りから戻ってきたロベルトのグループにも手伝ってもらって、順調にどんどん進む。 池作りはソフテンを掛ける魔力が尽きると、その日はお終いだから、煉瓦を積んで、接着用に使った泥の水を抜いたりは出来ないけど、人手は多くなったので、スピードは上がる。 僕はほとんど水抜き係だ。 キイロさんは泥作りのための水を出す係。 途中で、抜いた水分を適当に捨てずに、泥作りに使えば良いことに気づいた。
家作りの主力はロベルトのグループになったので、ロベルトの指図でどんどん動いていく。 ま、ロベルトは僕やキイロさんよりも、こういう作業の指揮はし慣れているもんな。
そんなこんなで、先輩たち3人がやって来てから、正味3日かからずに、先輩たち用の家は完成した。 その素早さと、家の豪華さに、先輩たちは驚いていた。 豪華というのは、家の外側は土と日干し煉瓦のままではなく、漆喰が塗られて真っ白になっているからの感想だろう。
城下村の最初期や、他の村なんかの多くの家との違いは、家が漆喰て白く塗られているかいないかの違いだ。 城下村では石灰が割と簡単に手に入るから、漆喰で周りを塗っておく方が、後での補修の頻度がずっと減って楽だからだ。
ま、こうして先輩たち3人の家が出来たところで、今回は僕たちは城下村に戻った。 僕とキイロさんの代わりに今回この開拓地に残るのは、ウィリーとジャンだ。 今回は僕らと共にエレナとその子分たちも、先輩3人が来たのでとりあえず一度城下村に戻ることになったので、ウォルフは来なかったためだ。
「僕もさ、もう前から新西の村開拓地には来て見たかったんだよ。 ま、今回はウォルフの代わりだけどね」
ジャンはそう言っていたけど、それも嘘じゃないとは思うけど、一番は女性陣の攻勢から逃げたかったんだと思う。
ここのところ僕とキイロさんは、ずっと忙しくしていたから、2日休みにして、次の交代をして、その次は、そろそろミランダさんとロベルトに任せて、たまに新西の村開拓地に行くことにしようと思っていたのだけど、その前に大きな片付けなければならないことがあった。 ルーミエとフランソワちゃんが、自分たちも行ってみたくて、ウズウズしているのだ。
「そろそろ確認して、2度目のイクストラクトと大きい子には薬の投与の時期だよね。 つまりは私の出番よ」
「私だけ城下村に残っていろ、なんて言わないわよね」
もう行く気満々で、抑えようがない。 仕方がない、2人も連れて行くことにする。
まあ現実的に考えれば、ルーミエが行かないと見れるのは僕だけになってしまうので、僕が全員の健康状態を見なければならなくなるし、僕には幼い子は見れないという問題があるから、ルーミエが行くことには大きなメリットもある。
池を作ることを優先しているけど、そろそろ葉物野菜や薬草の種や苗を植える時期が近づいているから、フランソワちゃんが行って、その辺の指揮を執るのも悪くはない。 まあ、新西の村開拓地は今のところ西の村の孤児と卒院生を除けば、みんな城下村関係者だから、フランソワちゃんの威光が役に立つという訳でもないけどね。
新西の村開拓地に着くと、2人はまず一番最初に、開拓地の宿舎の僕の部屋の改造に取り掛かった。 僕にしろ、キイロさんにしろ、泊まれれば良いや程度としか考えていないので、当然だけどベッドは狭い一人用だ。 それを最初から考慮していたのか、二人はベッドを大きくするための資材は馬車に積んできていたのだ。 しかし、部屋の大きさは変わる訳ではないので、僕の宿舎の部屋はほとんどがベッドが占めることになった。 ま、それでも城下村の僕らの部屋のベッドは完全に2台をつなげたもので、その大きさには及ばないから3人で寝るには狭いのだけど、ルーミエとフランソワちゃんの二人には別々の部屋にするという考えは最初からなかったようだ。
翌日から二人は仕事を始めた。
ルーミエは、ミランダさんとマーガレットと相談して、寄生虫駆除の第二期に取り掛かった。 ルーミエが孤児院の子たちをどんどん見て、鑑定して、寄生虫がまたいる子を次々と選別していく。 寄生虫がいた子は、ミランダさんの指揮で見習いシスターたちがどんどんイクストラクトを掛けていく。 ルーミエやミランダさん、そしてマーガレットはほとんどイクストラクトは使うことなく、他の見習いシスターたちに任せているのは、見習いシスターたちの修行の為だ。 それが終わると、また年上で苦い薬も我慢して飲める子たちには、虫下しの薬が渡されている。 こっちは予防的にいなかった子も含めて、飲むことが出来る年齢の子は全員だ。
ルーミエは、念の為に孤児院の子たち以外も、寄生虫がいないか確認したようだ。 僕たちは衛生には気をつけて、クリーンも常に使っているので、最近は寄生虫に冒されることがなくなったのだが、それでも油断は出来ない。
フランソワちゃんは、ミランダさんが陣頭指揮していて、自分はイクストラクトを掛けないで待機しているので、少し暇になっていたマーガレットとまず話をしていた。 きっと薬草畑をどこに作るかなんて話をしていたのだろう。
それが終わるとフランソワちゃんは、池作りの現場に行って、長々とロベルトと話していた。 何を話していたのかと思ったら、池を起点に張り巡らす水路をどうするかという相談だったらしい。 僕は池を作ることと、池を水で満たすための川からの水路は考えていたけど、その溜めた水を使う部分のことは忘れてしまっていた。 もちろん田んぼを作ることを考えて池を作ることを計画したのだが、具体的な田んぼの配置や、そこに水を流す水路だとかまでは考えていなかったのだ。
水がある所にはスライムも寄ってくるし、その辺も考慮して水路をどう引くかも考えないといけない。 水路が通る場所はあらかじめスライムが入り込まないように防御しておく必要もあったりするからだ。 ロベルトは最初から考えていたみたいだけど、フランソワちゃんに田んぼの場所はどこが都合が良さそうかとか、色々と相談していたみたいだ。
ま、そんなことも二日ほどで終わり、今度は代わりに誰かに居てもらわなくても良いだろうと、キイロさんと、荷物の運搬兼迎えのウォルフ・ウィリーと一緒に城下村に僕は戻ろうと思っていた。
「ナリート、何を言っているの。 まだまだ、やることは山積みよ」
「全くどうしてこんなことになっているのかしら。 まず一番最初はトイレの改造よ。 こんな臭いトイレは耐えられないわ」
「そうよね、フランソワちゃん。 こんなに臭くないトイレが作れることが分かっているのに、なんで昔のままの臭いトイレなのよ、ここは」
二人はもう城下村のほとんど臭わないトイレに慣れているので、開拓地の昔ながらの臭いトイレにとても閉口したようだ。
「そんなこと言っても、ここでは城下村のようにトイレに投入する資材がないからだよ」
城下村のトイレが臭くないのは、トイレの糞便を溜める場所に、木のノコギリクズや、木の皮を細かくした物から始まり、米や麦を脱穀して出た籾殻、豆殻を少し細かくした物などを、かなりの量先に投入しておき、後からも使用毎に少しづつそれらを足したりして、トイレの肥溜めの中で分解しているからだ。 そういった資材が今のこの開拓地には全くない。
「確かに、ここはまだ田んぼも畑も出来てないから、籾殻とかはダメだけど、木の皮だとか木屑だとかは、柴刈りを少し多めにして、その柴を細かくすれば可能だわ。
孤児院の子たちも、寄生虫の駆除をして、食べ物も前より良くなっているから、動けるようになっている。 やれば出来るわ」
「柴刈りはスライムが危ないけど、逆に考えれば、[索敵]のレベル上げにとても役立つだろうし、投石器での石投げも教えて、はぐれのスライムを狩らせたら、スライムの罠よりレベルも上がるんじゃない。
柴刈りする場所までの道の一角兎は、まだ無理だろうから、それは冒険者登録した子とか、先輩なんかに駆除しておいて貰えば、しっかり気をつけることを教えれば大丈夫だと思うな」
「それにあれよね。 まだ堆肥作りをしていなかったのは、集めた枯れ草とか落ち葉に加える糞尿が溜まってなかったからだよね。 もう大丈夫だろうから、大急ぎで堆肥作りも始める必要があるよ。
堆肥作りのために、順番に糞尿を汲み取る必要があるから、汲み取ったトイレを次々と臭くないトイレに改造していくことにすれば良いよ」
「あ、それから、孤児院の子たちが物を運ぶには、網の上に運ぶ物を載せて、それを棒で前後二人で担ぐようにした方が良いよね。 今は何だか草を編んだ、筵とも布とも呼べないような物で包んで運んでいるみたいだから、そこも変えたいわ。
二人で担ぐのなら、子どもたちだって、結構重くても運べるよ。 例えば石とかもさ」
「あ、分かった。 ルーミエ、石って、池を掘っていて出てきて、別に山積みになっているやつ」
「うん、あれを人海戦術で運ばせようと思って」
「石を運んでどうするの?」
「「お風呂を作るに決まっているじゃない」」
二人はトイレだけじゃなくて、風呂が無いことも耐えられないらしい。 城下村の塀の中に住んでいる人たちは、風呂に毎日のように入るのだけど、それは特殊例だと僕は思う。 西の村の孤児院の子たちは、風呂に入ったこともないだろうから、毎日のように温水で身体を洗われるだけで、驚いている。 これはまあ当然だ。 ロベルトの配下たちから、風呂作りの要望が出ても、そう言えばおかしくないと思うのだが、今のところそういう要望は出ていない。 ミランダさん以下の見習いシスターたちが文句を言わないから、彼らは自分たちでは口にし辛いのかもしれない。
「あのねぇ、ナリート。 ミランダさんが、そんなこと口にする訳ないじゃん。
ミランダさんはシスターなんだよ。 シスターが贅沢に思えることを自分から望む訳がない。 その辺はちゃんとしてると言うか、厳しく自己を律する人だよ、ミランダさんは。 そのミランダさんが口にしないことを、マーガレット以下の人たちが口に出来る訳もない。
その辺はさ、ナリートが気を利かせてあげるべきなんだよ」
ルーミエにそう諭されてしまった。 確かに言われてみれば、その通りかも知れない。
ミランダさんが口にしないから、誰も風呂が欲しいという要望を口に出来なかったのか。 それを察して、僕かキイロさんが風呂を作ることを提案するべきだった、と。 うん、確かにそうだ。
ルーミエとフランソワちゃんは、ウォルフとウィリーに色々な物を運んで来てくれるように頼んでいた。
ウォルフとウィリーは、もう数日おきにここまで馬車で来れば用は済むと思っていたみたいだけど、二人に頼まれた物を運び終わるまでは、まだ毎日のように城下村とこの開拓地を往復しなければならなくなりそうだ。
二人は仕方ねぇなぁ、という顔をしている。 きっとマイアが「まだ毎日往復するの?」と渋い顔をするのを想像しちゃっているのだろう。
「キイロさん、あの良いですか?」
急にフランソワちゃんの矛先がキイロさんに向いた。 何だか改まった調子でフランソワちゃんに名指しされて、キイロさんが狼狽えている。
「えーと、フランソワちゃん、なんだい?」
「あのですね。 池作りのためのスコップや鍬なんかはかなりの数持って来ていて、田畑を作るのにも、それらは使えるから良いと思うのですけど、鎌が全くと言って良いほどないのはどうしてですか? それから私は一番汎用性が高いと思っているナイフの数も全然足りてないのですけど」
「あ、それはね、そういったまあ小物の鉄製品は、現地調達と言うか、西の村の鍛冶屋さんに作ってもらおうと思っていたんだよ。 だから持ってくる数には入れてなかったんだ」
「あ、そうですか。 それでは今、どんどん作っている最中なのですね」
「いや、それがちょっと誤算があって。
ほら西の村の鍛冶屋さん、西の村を追い出されるような形になってしまって、ここに住居を移したばかりじゃん。 それで実際のところ、まだ鍛冶屋の仕事を始められてないんだよ。
それは実は当然のことで、まだ鍛冶仕事をするための炉が設置出来ていないんだ」
「炉の設置って、そんなに時間が掛かるのですか?」
「まあ、普通は土で作ってゆっくり時間を掛けて焼き固めるとか、耐火煉瓦で作るとか、まあかなりの時間を要してしまうな」
「普通は、ということは、短縮する方法もあるのですね」
「うん、俺も驚いたのだけど、魔法を使うとかなりその時間は短縮出来る。
城下村の俺の鍛冶場の炉を作った時に分かったのだけどね。 魔法で無理やり作るって感じだったよな。 な、ナリート」
「とにかく短縮出来るんですね。 それなら早急に西の鍛冶屋さんの仕事場に炉を作って、鎌とナイフを量産してください。 もうすぐにでも必要です」
「ナリート! 俺が戻ってきたら、炉を作るの手伝えよ!」
フランソワちゃんの追及にタジタジだったキイロさんは、何だか必死な顔をして言うから、僕は頷くしかなかった。
ラミアの方にも書きましたが、「いいね」が数種類になりました。
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書いている方としては、どんな風に受け取ってもらえたかは、とても気になります。
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