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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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スライムの罠作りと

 ルーミエのことは心配だけど、林に一緒に入る日以外は僕に何かできることはない。

 僕は次の日はいつも通りに1人で林に向かった。

 川の魚の罠には、今日も魚が入っているかも知れない。


 僕はこれから何日かかけて、スライムを討伐するための罠を作ろうと考えていた。

 [職業]罠師 という表示の説明みたいなのを見た時から、僕は罠でスライムを討伐できないかと考えていた。


 魚の罠は、作ろうと思った時に頭の中に何種類かの罠の形が思い浮かんだのだけど、さすがにモンスターのスライムでは、そんなに簡単に頭の中に罠が思い浮かぶはずもない。

 僕が魚の罠を一番最初に作ったのは、本当に罠によって経験値を得られるのかを確かめたかったこともあるけれど、スライムにどんな罠を仕掛けたら、スライムを討伐できるか思い浮かばなかったことも大きい。

 もし、スライムの討伐用の罠をすぐに考えついていたら、きっと魚の罠なんて作らずに、即座に実験もスライムの罠でしようと思ってしまったのではないかと思う。


 「でも、そう出来なかったお陰で、こうして魚を食べることも出来るし、ルーミエに食べさせてやることも出来るのだから、むしろ思い浮かばなくて良かったのかな」


 僕はそんな風に考えた。

 柴刈りを急いで終えて、川の中洲に行くと、前の日置いて行った竹の槍もちゃんとあったし、この日も魚の罠には2匹の魚が掛かっていた。

 うん、なんというか、僕自身は好調だ。

 僕はもうちょっと慣れてきた感じで、素早く獲れた魚を焼いて食べると、スライムの罠作りの準備を始めた。


 準備といっても、初日の準備は少し細めの竹を何本も伐って来るだけのことだ。

 竹は今までも何回も槍にするために伐っているから、ある場所は分かっているし、槍にするよりも細い竹を伐るのだから、そんなに大変なことではない。

 それでも何本も伐らないといけないから、2日がかりの作業になってしまうだろうと僕は思った。


 「この作業に夢中になって、時間を忘れないようにしなくっちゃ」

 時間が過ぎてしまうと、またリーダーと鉢合わせしてしまうかも知れないし、今はそれ以上にルーミエと一緒にする、小さい子を洗ってやる手伝いに遅れてはいけないと思っている。


 それでもやっぱり、僕は罠で経験値が入った事が嬉しくて、スライムの罠を作るのにちょっと気持ちを強く持っていかれていたのか、孤児院に戻るのが少し遅れてしまったみたいだ。

 僕が水場に行った時には、もうルーミエが小さい子を洗うために、水を汲もうとしていた。

 体も小さく、力も体力もないルーミエは、その水汲みに苦戦している。

 僕は慌てて、自分の荷物だけ下ろして、ルーミエに駆け寄って、水汲みを交代した。

 ルーミエはちょっとホッとした顔をして、少し乱れていた息を整えてから言った。


 「ナリート、今日は戻ってくるのがちょっとだけ遅かったね」


 「ごめんごめん、そんな気はなかったのだけど、ちょっとやる事に集中しちゃって、少しだけ時間を忘れてしまったんだ」


 僕はルーミエが、僕が来るのが遅れたことをもっと怒るかと思ったのだけど、そこからはすぐに離れて、小さい子たちに聞こえないように小さな声で僕に言った。


 「今日も獲れてた?」


 「うん、2匹入っていた」


 「ちゃんと食べた?」


 「うん、食べたよ」


 「良かった、昨日は私が2匹食べちゃったから、ナリートが今日も食べれたと聞けて安心した」


 僕はちょっと、「僕のことより自分のことを考えろよ」と思ってしまって、つい言ってしまった。


 「僕のことより、ルーミエだよ。

  昨日の夜の食事の時、見てたぞ。

  ルーミエ、自分の分の食べ物を周りの子に分けていただろ。

  あんなことしたらダメだ」


 「そんなことしてないよ」


 「いや、してた。 僕はちゃんと見てたって言ったじゃん」


 「だって昨日は、あたしは昼に魚食べたから、あの時はあまりお腹減ってなかったんだもの。

  だから周りの子にあげたって良いじゃない」


 「いや、ダメに決まっているだろ。

  自分の分は自分で食べて、他にあげてはダメなんだ。

  そんなことだから、ルーミエ、力がでないんだぞ」


 「そんなことない。

  ナリートが手伝ってくれなくても、私だけでも大丈夫だもん」


 僕とルーミエの言い争いは、最初は小さい声だったのだけど、だんだん大きな声になってしまい、小さい子が何事かとキョトンとして僕たちを見ているような感じになった。

 その時に、シスターが小さい子の第二弾を連れてきた。


 「あら、珍しいわね。

  ナリートくんとルーミエちゃんとで、喧嘩しているの?」


 僕は、ルーミエに言ってもどうせダメだろうから、それについては触れないことにしようと前の晩には考えていたことを思い出して、ちょっと恥ずかしいような気持ちになって、シスターに言った。


 「喧嘩というほどのことじゃなくて、ちょっとルーミエと言い合いになっただけです。

  本当に喧嘩してたっていうほどのことじゃないんです」


 「そう、一体どんなことを言い争っていたの?」


 僕はシスターにそう問われて、ちょっと困ってしまった。

 でもシスターに誤魔化すのはダメだろうと思って、なんで言い争いになったかを話そうとした時にルーミエが僕を止めた。


 「ナリート、言わないで。

  シスター、本当にシスターに聞いてもらわなければならないようなことではないの。

  ちょっと声が大きくなっちゃったけど、喧嘩してたってほどの事でもないし、問題ないの。

  だからシスターは気にしないで」


 「本当に喧嘩してない?

  喧嘩しているなら、後で2人に昨日話した本を見せてあげようと思っていたのだけど、ちょっとやめておこうかなと思ったのだけど」


 僕も見せてもらえる本の方に気持ちがかなり行ったけど、ルーミエは今までのちょっと重い感じの声からその調子も変わってシスターに言った。


 「本当に全然喧嘩なんてしてません。

  だからその本見せて下さい」


 「本当ね。 それなら見せてあげるから、後で2人で私のところに来なさい」


 あれっ、ちょっと話が変わっている気がする。


 「シスター、その本貸してくれるんじゃなかったの?」


 「うん、私はそのつもりだったのだけど、神父様に少しその話をしたら、『貸すのはおやめなさい』と言われてしまったのよ。

  だから私のところで、2人で見てね。

  でもその代わり、その本を見て読んで、分からないところがあれば、その場ですぐ私に聞くことができるわよ」


 まあシスターも神父様にそう言われてしまったのだとしたら仕方ないか。

 僕はシスターの部屋に行くと、またそのことを揶揄われそうな気がするので、ちょっとだけがっかりしたのだけど、でも逆にルーミエと2人で本を見ているところをみんなに見られなくなるから、どっちもどっちだと思い直した。


 その日僕とルーミエは、晩の食事の前の時間少しだけど、シスターの部屋でその本を見せてもらった。

 初日だったから、中を読むというところまでいかなくて、ちょっとだけペラペラとページを開いてみただけだけど、どうやら本当の本という訳ではなくて、シスターが書き写したものらしい。

 でも色々な草とか、木だとかが、特徴を表す絵も描いてあったりして、とても覚えるのが楽しそうだった。

 僕はそう思って少し興奮したのだけど、ルーミエは僕よりもっとずっと興奮していた。


 「あたし、こんな風に絵も描いてある本て、初めて見た」


 「ルーミエちゃん、これは本て言ったけど、本当は違って、私が書き写したモノだから、その絵もなるべく正確に書き写したつもりだけど、私が描き加えた絵や、話を聞いて付け足した文章もあるから、そんなに一生懸命見られると、何だか恥ずかしいわ」


 ルーミエの本に興奮する様子を見て、シスターが何だか恥ずかしがっていた。



 その晩、いつものごとく寝床の中で自分のことを見てみると、[次のレベルに必要な残りの経験値]が、また1減っていて、25になっていた。

 今までに獲った魚は7匹で、昨日26になっていた時は5匹獲っていた。

 その前は一番最初に2匹獲ったけど、その時は数字は減らなかった。

 だとすると、3匹獲ると数字が減るのかな、とちょっと僕はワクワクした。

 この調子で、僕が何もしなくても、罠に魚が掛かって経験値が入ると、スライムを討伐しなくても、ちょっと大変だなと思っていた次のレベルに簡単に到達するのではないかと思った。


 その次の日は、僕はウキウキして川に向かった。

 ここのところ大体2匹魚が掛かっているから、その日も同じだけ掛かっていればと期待感で一杯だった。

 ちょっとだけドキドキしながら、川から罠を持ち上げてみると、期待していた通りの成果だった。


 「やったぁ、今日も2匹入っていた。

  これで全部で9匹獲ったことになるから、どうなるかな」


 僕は、また大急ぎでその魚を焼いて食べて、スライム用の罠の材料の竹をと伐ってきた。

 伐ってきた竹は、竹だから大丈夫だと思うけど、スライムにいたずらされたら嫌だから、全部川の中洲に置いておく。

 今はスライムを槍で刺しての討伐をするつもりはないので、予備の竹の槍も一緒に置いておいて、僕は1本しか持たないことにした。

 2本持ち歩くのは、やっぱり面倒臭い。


 「ナリート、上の空で見ているなら、本をもっと私に良く見えるようにして」

 シスターの部屋で本を見ている時、僕はちょっと上の空になってしまって、ルーミエにそう言われてしまった。


 「明日は私と一緒に行くんだよ。

  その時に、傷薬になる草だけじゃなくて、違うのも採って来たいでしょ。

  明日は新しいのは試しに採るだけなんだよ。

  そして試しに採って来たのを、シスターに見てもらって大丈夫だったら、次の時はちゃんと採って来る事ができるんだよ。

  どれにも採れる時期というのがあるのだから、早くちゃんと覚えないと、採れなくなっちゃうのがあるかも知れないでしょ。

  ナリートもちゃんと集中して覚えてよ」


 はい、ルーミエの言う通りです。

 ルーミエは確かに僕より真剣に本を見ていて、細かく読んだりしているようだ。

 僕が今日は、[次のレベルに必要な残りの経験値]は減っているだろうか、減ってるとしたら、大体何日で次のレベルになるかな、なんてことを考えてしまって、本の絵を眺めるだけになってしまっていた時、ルーミエはそこの解説だとかも全部しっかり読んだみたいだ。


 「ナリートくんが本を前にして、それに集中しないで上の空というのは、何だか珍しいわね、一体どうしたの」


 うーん、そうなのかな、確かにそうかも知れない。

 文字の表をもらった時も、物語の本を借りた時も、思い返してみれば他の事が何も目に入らないような感じで、それに集中していた気がする。


 「ええと、ちょっと気になっている事があって、つい、それを考えちゃってた。

  でも、今はこっちに集中する。 ルーミエ、怒るし」


 最後に「ルーミエ、怒るし」と、付け加えたから、ルーミエが少し頬を膨らましたりしたので、なんとなくシスターの追求を免れた。

 僕も本の内容に集中しようとした。

 ルーミエは傷薬になる草の特徴は良く分かっているようだけど、実は僕は前の時、それを沢山採ったけど、その草を自分で見分けられるかというと、よく分からなかった。

 あの時はルーミエの採った草と同じ草を見つけようと思ったら、自分の近く、両手を広げたくらいの範囲にあると、どこにあるかが分かったので採れただけだった。

 次の時にも採れるかというと、最初の一つが僕には分からないのではないかと思った。


 「ルーミエ、傷薬になる草のところを見てみようよ」


 「その草は私は分かるからいい。

  ナリートは私よりたくさん採っていたじゃない」


 「うん、でもさ、知らないこともあるかも知れないだろ」


 僕は本当は自分では見分けがつかないということを隠して、ちょっと強引に傷薬になる草のところを見ることにした。

 僕は真剣にその草の見分け方をよく頭に叩き込んで、その他の部分も読んだ。


 「シスター、傷薬になる草って、乾かして保存しておくの?」


 「うん、そうよ。

  綺麗に乾かした草は、よく売っているし、逆に乾かしたのを売ることも出来るわ。

  ただ、綺麗に平に乾かすのは、なかなか大変だけど」


 「そうなんだ。 どうやって乾かすの?」


 「丸まったり、くしゃくしゃにならないように、板の上に置いて、その上に重しになる棒を乗せたりして乾かすのよ。

  雨が降ったりしたら、濡れると売り物にならなくなっちゃうから、曇ってきて危ないと思ったら即座に雨がかからないように片付けなければならないのだけど、板ごと運ばなければならなかったりで、大変なのよ。 そうすると場所もいるしね」


 僕は何だか良いことを聞いた気がした。

 板の上に乗せて棒を重しにするよりも、僕にはもっと良い方法があると思った。


 「シスター、もし、綺麗に傷薬になる草を乾かしたら、僕でも売れるのかな?」


 「そうね、ナリートくんだとまだ小さ過ぎて、お店ではまともに取り合ってもらえないかも知れないわね。

  だけど、そんな風にする程採れて、乾かせたら、私が売ってきてあげるわよ」


 そこでシスターは声を小さくして言った。

 「ここでは私がいるから、傷薬はほとんど使わないから、採ってきて乾かせばそのほとんどを売る事が出来る。

  そうね、そうできたら兎の肉を買って、スープに肉を入れたいわね」


 夢の話をするという感じでシスターは言った。

 声を小さくしたのは、「私がいるから、傷薬はほとんどいらない」という一言の為だろう。

 シスターがヒールで傷を癒しているのは、ちょっと内緒らしいから。


 シスターは夢の話のように言っていたけど、僕はとても真剣に聞いていた。

 僕はこれならちょっと出来そうだと思ったのだ。


 夜、寝床の中でワクワクしながら自分を見てみたのだけど、[次のレベルに必要な残りの経験値]は25のままで、減ってなかった。

 魚を3匹獲ると、1の経験値になるという僕の予想は、残念ながら間違っていたみたいだ。


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